『ススキに招かれて』 #虹色創作部
結婚式まで1ヶ月。
秋から冬に変わる感じが好きという彼女の笑顔を見たくて、記念日となる一日をこの季節にした。
決める事やる事が多すぎて、少し息抜きしたかった。
止まることを知らない彼女は、一心不乱に準備に取りかかる。
息苦しい。
トイレに行くフリをして、コッソリ家を出てきてしまった。
安定した季節の、夕方早い時間の散歩だった。何かから逃げるようにビルや住宅の中を、ただ一点だけを見つめながら進む。
徐々に建物が少なくなってきたなと、ふと立ち止まると、タイムスリップしたような風景の中に薄暗い小径が現れていた。
帰るのが遅くなると厄介だが、怖いもの見たさに身体が自然と吸い込まれていった。
道の脇にはススキがズラッと整列している。
ブルっと身震いした瞬間、サーっと空気を変えるような風が吹いた。
こうべをたれたススキが秋の風に背中を押してもらいながら、おいでおいでと招いてきた。
なんだか奇妙だなと思いつつも、身体は勝手にススキが招く方へと進んでいく。
「やあ、こんにちわ。どうだね調子は?」
・・・ は?
いつ現れたか分からないが、道の真ん中にタヌキが一匹佇んでいて、のんびり話しかけてきた。
「ちょっとそこの指揮棒で合わせてくれるかい?」
この状況に頭の整理がつかないまま、言われた指揮棒とやらを探した。
足元には、細くてちょうどいい長さの小枝が落ちている。
これだろうか。
「いいかい?いくよ?」
「えっ?」
よーぉ、ハッ!
ポンポコポンッ
ポンポコポンッ
ポンポコポンポンポンッ
急に始まったリズム感のある始まりに慌てて、小枝、いや、指揮棒を拾い上げ必死に振り回した。
ポンポコポンのぉー ポンポコポンッ!
ピピッピ ピーピー ピッピッピー
鳥が歌い始めた。
サーサーサー サワサワサー
サーサーサー サワサワサー
ススキが揺れて、音を出す。
考える暇はない。
自分は今、指揮者だ。
この演奏をまとめなければならない。
夢中になって指揮者を演じる。
ポンポコポンッのピッピッピー
サワサワ サーサー サッサッサー
あ、最初はズレていた音が、少しずつ整っている。
指揮棒を振りながら、ひとつずつの音を拾い、感じていく。
吸って
吐いて
サワサワ ピーピー ポンポンポンッ
繰り返していると、いっぱしの指揮者のような気分になってきた。
家を出てきた時の胸の固さが取れ、呼吸がしやすくなった頃、ポンポコオーケストラの演奏は終わった。
「まぁ、いい音が出せたんじゃないかな」
落ち着いた口調でタヌキは言った。
「こうやって全体を感じ取りながら動くと、調和が生まれるんだ」
「このことは、必要な時にきっと思い出すだろうよ青年」
「はい・・・」
タヌキに挨拶をし、家へと向かった。
気づくと、家を出てきた時のクサクサした気持ちがどこかへ消えていた。
辺りはすっかり暗くなり、空に浮き出たまんまるの月がこちらを見ていた。
今日の月は、なんだかいつも以上に輝いている。
カチャ
どこ行ってたの!
まだやる事いっぱいあるのよ!
はぁ・・・、今からこんなじゃ結婚生活に自信がなくなると、なげやりな気持ちになりかけた時だった。
ピーッピッ
まるで合図のように、鳥が鳴いた。
サーサーサー サワサワサー
サーサーサー サワサワサー
どこからか、風にのってススキが揺れる音が聴こえてきた。
タヌキのポンポコだけが聴こえない。
分かっているの! ポンッ
ちょっと!
ちゃんと聞いてるの?! ポコポンッ
ピピッピ ピーピー ピッピッピー
サーサーサー サワサワサワ
サーサーサー サワサワサワ
プッ、プププッ
何笑っているのよ! ポコポコポンッ
プハッ グハハハ!
笑いが止まらなくなった。
もうっ! プップププッ
彼女もつられて笑い出す。
「あなたがいないから、急に寂しくなって一人で泣いてたんだからねっ!」
彼女の泣き笑いに、あぁ・・・この人を幸せにしていこう、と肩のチカラが抜けた。
「はい、はい、さっ、残りの作業終わらせようぜっ」
窓の外に目をやると、まんまるの月がこちらを見ている。
あぁ、やっぱり今日の月は一段と輝いている。
こちらの企画に参加させていただきました ♪
