シューマン 幻の歌劇 《黄金の壺》 第3幕 楽曲紹介
『ツヴィッカウ同盟』の3人組がシューマンの時代にタイムトリップして、シューマンの妻クララにより破棄される運命から救い出してきたシューマンの未公開作品、E.T.A.ホフマンの幻想小説『黄金の壺』を原作とする、幻の歌劇《黄金の壺》。
楽曲紹介版、第3幕では現実ヒロインのヴェロニカが主人公アンゼルムスへの想いを貫くべく、火の精の宿敵である、りんご売りの老婆と手を組みます。真夜中に展開する恐ろしげな儀式に、翌日のポンチ酒パーティーでの乱痴気騒ぎが繰り広げられ、アンゼルムスの恋の行方は如何に?
ロベルト・シューマン 作
E.T.A.ホフマン 原作 「黄金の壺」
歌劇 《黄金の壺》 Der Goldne Topf
第3幕
第1場 パウルマン家のサロン
アンゼルムスが出世して宮中顧問官となり、自分がその夫人になっている様子を思い描くヴェロニカ。
♪ 宮中顧問官アンゼルムス夫人 (通行人)
空想の通行人らが彼女を褒め称えながら通り過ぎていく、ヴェロニカの空想のワルツ。黄金の壺にまつわる幻想の世界とは対照的なほど、俗世間の浮かれる様子が描かれゆく、歌詞もメロディーも軽いパロディー調。
合唱団より、テノール、ソプラノ各々の短いフレーズに、途中、オーケストラがそのまま奏で続けるワルツに乗って、男女数人による噂話の台詞がささやかれる。

(テノール・ソロ)
本当に美しく気品のある方ですね。
(合唱)
宮中顧問官アンゼルムス夫人は。
(ソプラノ・ソロ)
殿方の憧れの的ですわね。
(合唱)
若い女性も憧れでしょう。
(ソプラノ・各々ソロ)
レースの可憐で素敵なボンネット。
ドレスも華麗に、着こなされて。
(女性台詞)
今日の午後はY枢密顧問官夫人と、
リンケ温泉にお出かけですって。
(男性台詞)
では我々もぜひリンケ温泉に繰り出さねば!
(女性台詞)
あら、今日はZ議長夫人が、
午後のお茶にお招きしたいと
言われてましたよ。
彼女、どちらを選ばれるかしら?
(男性台詞)
社交界では、引っ張りだこで、
さぞかしお忙しいことでしょう。

(合唱)
さぞかしお忙しいことでしょうよ。
宮中顧問官アンゼルムス夫人は。
(女性台詞)
X宮の夜会では、
ご主人の伴奏で
それは軽やかに
アリアを披露されたんですって。
(男性台詞)
おや? 当の旦那さまのお帰りですよ。
(女性台詞)
流行の粋なスタイルに身を包まれて。

(合唱)
なんて似合いのお2人ですわね
宮中顧問官アンゼルムス夫妻は!
歌は終わり、オーケストラのみで音楽は続いてゆく中、ヴェロニカは空想の夫からの空想の贈り物を喜ぶ歌を、うっとりと歌う。
途中、宝石の輝きを思わせる効果音の合いの手が、トライアングルとシンバルのトレモロでキラキラと華を添える。
♪ 何て素敵なイヤリング (ヴェロニカ)

まあ素敵。
何てきれいなの。
お洒落なデザインのイヤリング。
キラキラ揺れる
ダイヤの輝き。
まばゆいばかりに美しい。
見て下さいな。
似合うかしら?
流行りのデザインのイヤリング。
愛の証の贈り物。
大切にしますわ。
すっかり空想の世界に浸りゆく娘の様子に、パウルマン驚き呆れるばかり。
ヴェロニカが大鏡に向かい、架空のイヤリングの具合を確かめていると、鏡の中から老婆の顔がひょっこり飛び出し、
「あいつは夫にならないよ!」
しわがれ声で意地悪く叫ぶ。
ヴェロニカは悲鳴を上げるも、父親は「くだらない」と言い捨てて部屋を出ていく。
「奴はあんたの夫にゃならないさ!」
今度は本棚の影から老婆が現れ、物陰を素早く移動しながら怪しい歌でヴェロニカに警告する。
♪ お前の夫にゃ なるまいさ (ラウエリン)
アンゼルムスを脅した、りんご売りの老婆の呪いの歌♪〈逃げるがいいさ〉と同じメロディーが、凄みの効いた口調で鋭いアクセントを付けながら歌われる。

あいつはダメだ。
やめとくんだね。
役人なんて、なれっこないから。
奴はじじいと、
つるみやがった。
お前の夫にゃ なるまいさ。
娘の小蛇に
恋してるから、
お前の夫にゃ なるまいさ。
じじいと娘に
騙されてるから、
お前の夫にゃ なるまいさ。
あいつはお前を
愛しちゃいない。
お前の夫にゃ なるまいさ。
歌い終えるや老婆は姿をくらまし、ヴェロニカは、「彼は私を愛していないんだわ」と、ソファーに泣き崩れる。そこに友人のアンゲリカとその妹が遊びに来て、占い師の老女が吉報をもたらすと歌われる。明るく無邪気な喜びに満ちていながら、少し不思議な音調も現れる魅惑的なクプレ(軽めの歌)。
♪ 彼が無事に帰還するのよ (アンゲリカ)
ヴィクトールがね、
戻って来るの!
ずっと便りが
なかったでしょ?
戦争で、
行方不明か、
死んじゃったかと、
ずっと泣いてたんだけど。
明日には戻って
来られるの!
歌の途中、なぜ分かるのかと問い、魔法で作った手鏡に全てが映し出され恋占いにも有効と知ったヴェロニカは、「魔法の時間は夜がお決まりで、訪問も1人で」との助言に従い、占い師を訪ねて行く。
第2場 占い師ラウエリンの不気味な館
手下の黒い牡ネコが小バカにしたようにヴェロニカを出迎え、不気味な室内が現れる。様々な小動物が騒ぎ立てる中、黒ずくめの老婆ラウエリンが登場し、動物らを一喝して黙らせる。
老婆は何もかもお見通しの様子で、♪ 〈お前の夫にゃなるまいさ〉を再び歌い、「あいつはダメだ。諦めな」と説得しかけたところで、怒ったヴェロニカに遮られる。
「鏡の中から脅かしたのは、あなただったのね!」
♪ あなたが占えないのなら (ヴェロニカ)
私は彼を愛してます。
脅されようと、諦めません。
彼も愛してくれてるか、
あなたが教えて下さると、
魔法の鏡の占いで、
はっきり教えて下さると、
お友だちから聞いたから、
ここを訪ねて来たのです。
私は彼を愛してます。
それは絶対、変えられません。
彼も私を愛しているか、
教えてくれれば良いだけなのに、
あなたは占うこともせず、
彼を知りもしないのに、
彼はダメだと決めつけて、
ただただ非難するばかり。
私は彼を愛してるんです。
それは絶対、変えられません。
あなたが占えないのなら、
帰りますわね、さようなら。
何と言われようと想いを貫こうと、ヴェロニカが強い口調で毅然と歌い上げ、さっと出て行こうとするや、老婆ラウエリンは、
「ヴェロニカお嬢ちゃん!」
と叫んで足元に振りすがり、自分が幼いヴェロニカの世話をしていたリーゼばあやであると告白する。
ラウエリンが羽織っていた黒いマントを外すと、白い帽子と上品な花柄の装いとなり、オーケストラの弦楽器が ♪ 眠れ良い子よ〜と、モーツァルトの子守唄のさわりを奏で、優しく感動的な状況を演出する。
「リーゼばあやなの!?」
ヴェロニカはしゃがみ込んで老婆に抱きつき、アンゼルムスに劇薬を浴びせられ火傷を負わされたせいで酷い顔になってしまったと聞かされる。
「それでも、お嬢ちゃんの大切なお方なら力になりましょう」と、ラウエリンは、まじないを実行する為の指示を歌う。
♪ 真夜中の十字路で (ラウエリン、ヴェロニカ、ネコ、男声合唱)
本気で成し遂げねばならない儀式を表わすかの如く、暗めの短調ながら、節々に鋭いアクセントやスタッカートの付いたリズミカルな調子や、地獄の底から響いてくるような男声合唱が、オカルト的な気分を盛り上げる。反してヴェロニカのパートには、彼女の気丈な性格とは裏腹に、か細く不安定な音運びが垣間見え、内心の怯えや不安が計り知れる。
合いの手のネコの鳴き声が、ユーモラスでありながらも不気味さを引き立てる。
(ラウエリン)
野原を突っ切るあの十字路で、
秘密の儀式を致しましょう。
早速今夜、来れるかね?
夜中の零時ちょうどにね。
(ネコの合いの手) ♪ ニャーオ
(ヴェロニカ)
もちろんですとも。
リーゼばあや。
こっそり夜中に抜け出して、
あの十字路に行きますよ。
(ネコの合いの手) ♪ ニャーオ
(ラウエリン、ヴェロニカ)
真夜中の十字路で、
秘密の儀式。
今夜早速、
やり遂げましょう。
(ネコの合いの手) ♪ ニャーオ、ニャオ
(男声合唱)
真夜中の十字路で、
秘密の儀式。
今夜早速、
やり遂げましょう。
不気味な合唱が続く中、場面転換の幕がいったん閉じ、合唱からオーケストラによる嵐の音楽へと移り変わり、幕が開くと嵐の吹き荒ぶ野原が出現する。
第3場 真夜中、嵐の十字路
♪ 嵐(オーケストラ)

ヴァイオリンとヴィオラ、木管楽器の総動員により、果てしなく繰り返される下降音型の「吹き荒ぶ嵐」の忙しいパッセージ(上段の譜面)に、ふと、シューマン《幻想小曲集》Op.12第5曲〈夜に〉に現れる断片が、ピッコロにより警笛のように浮かび上がってくる(下段の譜面)。
そうした荒れ狂う天候の中で、ラウエリンが焚き火で釜を煮え立たせている。空を仰いで両腕を広げ、
「光よ! 燃えよ! 弾けよ! 稲妻よ!」
といった呪文を金切り声で唱え、周りを黒ネコが激しく鳴きながら、ぐるぐる這い回る。
身の毛もよだつ恐ろしげな光景が繰り広げられているところへ、マントに身を包んだヴェロニカがやって来て、声を限りに悲痛な心の叫びを力強く歌う。
♪ 何が何でも (ヴェロニカ)

何が何でも やり遂げないと
彼との愛など 得られまい。
何が何でも やり遂げないと
私の愛など 闇の中。
何としてでも やり遂げましょう
彼との絆を 守るため。
ラウエリンはヴェロニカに釜の液体を混ぜ続けさせ、花や草、蛇、蛙、銀食器など様々ながらくたを釜に放り込み、謎の呪文を叫び続ける。
ヴェロニカの髪をひと房ハサミで切り取り、釜の中に投げ入れるや、煙や火花が激しく立ち昇り、静まったところで釜の中にアンゼルムスの幻影が現れる。釜の中から金属の縁の手鏡が出現し、そこに写し出されるは、アンゼルムスの姿。
勝利の高笑いと共にラウエリンから手鏡を渡されたヴェロニカは、喜びの叫びをあげるも、黒ネコが鋭い警戒の声を発し、巨大な猛禽類の影と、羽ばたきの音。高いところから威厳に満ちた声が響いてくる。
「魔術は終わりだ! お開きだ! 帰れ! 消え去るのだ!」
激しい閃光の炸裂と共に舞台が闇に包まれる。同時に幕が引かれ、オーケストラによる間奏曲 ♪〈嵐は去りゆき〉が流れ、静けさと平穏がもたらされる。
第4場 パウルマン家のサロン
ガウン姿でソファーに横になったヴェロニカが、手鏡を見つめながら夢見心地で歌っている。呟くように、とりとめもないメロディー。
♪ あんなに素敵なのだから (ヴェロニカ)
彼は私を愛してくれる。
それははっきり分かること。
ただ、ちょっぴりドジなだけ。
ピアノを弾いている時は、
あんなに素敵なのだから。
楽しく歌っている時も、
あんなに素敵なのだから。
成績だって、
1番だって、
いうじゃない?
それが全ての
土台になると、
お父さまも言ってるし。
いつかは立派な仕事について、
流行りの服を着こなされて、
貴婦人方の憧れの的。
同じ世代の殿方も、
皆んなが彼に憧れる。
瞳は深く輝いて、
洗練された髪型で。
甘く落ち着く響きの声で、
洗練された、話しぶり。
すらりとしていて美しく、
洗練された、身のこなし。
もう踏んだりなさらない。
私の足を。ダンスの際に。
もう転んだりなさらない。
挨拶しようと、近づかれる度に。
私のドレスに
泥を跳ね飛ばすなんて、
もう決してなさらない。
魔法の鏡が
助けてくれる。
「1日中転がって鏡ばかり見て」と、妹のフランチスカに呆れられ、じきに医者が来るし、調子が良くないのなら自室のベッドに戻るよう促される。
入れ替わりにヘールブラントが訪れて、フランチスカにヴェロニカの様子を尋ねつつ、「これがあれば医者いらずですな」と、いたずらっぽい笑みを浮かべて調子の良い歌と共に特別な酒の材料を披露する。
♪ 上等のポンチ酒があれば (ヘールブラント)
ひと瓶のアラク酒に、
レモンに砂糖。
これを混ぜれば
魔法の飲物。
上等の、
魔法の薬が
たちまちできる。
上等の、
このポンチ酒が、
熱も悩みも吹き飛ばす。
これさえあれば、
医者いらず。
上等の、
このポンチ酒が、
熱も悩みも吹き飛ばす。
恋の悩みも吹き飛ばす。
「医者いらずとは、聞き捨てならんですな」
やがて医者を連れたパウルマン教頭と、偶然出会ったというアンゼルムスが入ってくる。
ヴェロニカもきちんとした身なりで現れ、医者の診断も心配なさそうだし、あるいは恋の病では? などと冗談を言われる。
アンゼルムスは、リントホルスト宅に仕事に向かう前に、娘が君の伴奏で歌いたがっていると教頭に誘われて顔を見せたのだった。
ヴェロニカは、「忙しい中、私に会う為に?」と、鏡のまじないが早速効いたように思い込む。
そして静かな歌くらいならと、♪モーツァルトの〈子守唄〉をアンゼルムスの伴奏で軽く歌う。
リーゼばあやを思い出しながら。
「まるでクリスタルの鈴のように響きますね」と、ヘールブラントがヴェロニカを褒めるや、アンゼルムスは、強い口調で異議を唱える。
「クリスタルの声は、にわとこの茂みで歌われるのです。それは、金色の小蛇たちが ———」
「アンゼルムスさん? ご覧になって」
すかさずヴェロニカが彼に手鏡を見せ、♪〈エルベの楽しい川下り〉の一節をちらりと口ずさむ。
「ヴェロニカ、君だったの? あのクリスタルの声は」
アンゼルムスは魔法をかけられたように鏡に魅入るも、やがて自分がリントホルストの仕事をすっぽかしてしまったと気づき、皆にも勧められてパウルマン家で親しい仲間らと楽しく過ごすことにする。ヴェロニカが歌いながら熱い瞳で見つめてきたり、手が触れ合ったり、一緒に踊ったりするうちに、否応なしにヴェロニカの魅力に引き込まれていくアンゼルムス。
♪ もしかして、彼女なのか? (アンゼルムス)

1.もしかして 彼女なのか?
鈴の声で歌うのは。
ゼルペンティーナ ではなくて
ヴェロニカなのか?
2. ふとした笑みに、隠れた想い。
目配せにすら、ときめいて。
手が触れるだけで、走る稲妻。
彼女こそが、恋人か?
3. 生涯を共にできる
恋人なのか、もしかして
ヴェロニカなのか最愛の
僕の恋人は。
アンゼルムスは手鏡のまじないにかけられていることもあり、この歌は、第1場で歌われたヴェロニカの ♪ 〈なんて素敵なイヤリング〉 と対のような、似た構成となっている。
すっかり恋に落ちたように手を取り合う2人の様子を、パウルマンとヘールブラントは少々複雑そうに眺めている。
フランチスカがこしらえたヘールブラントのポンチ酒で一同が乾杯するや、雲行きが怪しくなってくる。
皆は思い思いの人物にグラスを掲げる。
ヘールブラントはヴェロニカ嬢に、ヴェロニカはリーゼばあやに、アンゼルムスは仕事を紹介してくれたヘールブラントに。パウルマン教頭は、アンゼルムスに良い仕事を回してくれたリントホルスト氏に。そこでヘールブラントが、彼は全く奇妙な老人ですよなあと不思議そうに言い出し、アンゼルムスと噂話の歌を始める。
♪ 彼は全く不思議な人 (ヘールブラント、アンゼルムス)

(ヘールブラント)
彼は全く不思議なお方。
(アンゼルムス)
火の精ですからね。
(ヘールブラント)
私がタバコを取り出すと、
目の前でパチンと指を鳴らし、
火を点けてくれたりするのです。
「火ならここにありますよ」と。
(アンゼルムス)
彼は火の精ですからね。
( 〃 台詞)
かつては恋人の
みどり蛇を失い、やけになり、
フォスフォルス王の庭園を
焼き尽くしてしまったことも。
そんな事情で罰を受け、
人間界の暮らしを余儀なくされて、
文書管理なんて仕事を宮廷で、
渋々やらされているのです。
ですが彼の3人娘が、
それぞれの伴侶を見つけ、
黄金の壺に百合が咲いた暁には、
霊界を治める王となれるのです。
(パウルマンの台詞)
彼の発作がまた始まった!
何と嘆かわしいことだ。
(ヘールブラント)
これは発作というよりも、
あのりんご売りの、
ばあさんのせいでしょう。
ブロンズ像に化けたりと、
妖しい魔術でたぶらかす。
(アンゼルムス)
確かに彼女は
やり手です。
とはいえ生まれは
卑しい血すじ。
薄っぺらな羽根ぼうきと
卑しい砂糖大根ですからね。
(ヴェロニカの台詞)
それはひどい言いがかりだわ。
彼女はリーゼばあやなの。
幼い私にそれは優しく
子守唄を歌ってくれた方。
超能力をお持ちでね。
恋占いもできるのよ。
(アンゼルムス)
それこそ妖しい魔術です。
黄金の壺を手に入れようと、
奇怪な動物を手下にして、
魔術で人をたぶらかす。
りんご売りを装う彼女は、
火の精リントホルストの
長年に渡る宿敵なのです。
(ヘールブラント)
そのリントホルストさんに、
昨夜も例の喫茶店で、
出会いましたよ。
「良い方を紹介して下さった」と、
たいそう感謝されまして。
アンゼルムスさん?
それはあなたのことですよ。
『彼は、ものになりますな!』
そんな風に仰いましたよ。
(パウルマンの台詞)
確かに彼、リントホルスト氏は、
宮廷にも顔が利きますからな。
(ヘールブラント)
「いずれは枢密秘書官か、
宮中顧問官にだってなれますね」
そんな風に仰いましたよ。
(パウルマンとヴェロニカの台詞)
宮中顧問官!?
アンゼルムスは、ヘールブラントに心から礼を言い、一方のヴェロニカはアンゼルムスに注意を促す。
「だけど筆写のお仕事の時は気をつけて。蛇やオウムにたぶらかされないよう」
皆、かなり酔いが回っており、段々ろれつが回らず会話も意味不明となってくる。
「あの小蛇の3人娘、特に末娘のゼルペンティーナは、美しい青い瞳をお持ちなのです」
「そんな目はリーゼばあやのネコが、爪で引っ掻いてしまうかも」
「何て恐ろしいことを!」
「チビの蛇よりネコが強いはず」
「では、オウムとネコでは?」
ヘールブラントに問われ、
「鳥よりネコです!」と、ヴェロニカ。
「いや、灰色オウムでしょう」と、アンゼルムス。
「では、火の精とりんご売りでは?」
ヘールブラントの問いに、アンゼルムスとヴェロニカは、
「火の精!」
「りんご売り!」
「霊界の王!」
「砂糖大根!」
交互に答え、やがては男性陣による支離滅裂の狂乱の歌となっていく。
♪ そらきた! 火の精 (アンゼルムス、ヘールブラント、パウルマン)

(アンゼルムス)
そらきた、火の精!
バンザイ、バンザイ!
(ヘールブラント)
くたばれ、ばばあめ!
わっしょい、わっしょい!
それゆけ、オウム!
バンザイ、バンザイ!
(アンゼルムス)
逃げ去れ、黒ネコ!
わっしょい、わっしょい!
(アンゼルムス)
オウム返しにネコ撫で声なら
どっちが勝つかな?
やっほい、やっほい!
(パウルマンの台詞)
ああ、皆が狂い出した。
おしまいだ。
もしや私も狂ってる?
そうか、私も狂ってるんだ!
(三重唱)
そらきた、火の精!
バンザイ、バンザイ!
くたばれ、ばばあめ!
わっしょい、わっしょい!
(アンゼルムスの台詞)
おや、教頭さん?
あなたも鳥ではないですか!
さしずめ、みみずくさん、
といったところ?
(パウルマンの台詞)
わしがみみずく!?
何たる侮辱!
しかし、私は
みみずくなのかも?
そうか私は
みみずくなのだ!
(三重唱)
そらきた、火の精!
バンザイ、バンザイ!
くたばれ、ばばあめ!
わっしょい、わっしょい!
(リズムのみ)
それゆけ、オウム!
逃げ去れ、黒ネコ!
そらきた、火の精!
くたばれ、ばばあ!
3人は歌い狂いながら跳ね回り、色々な物を天井に向けて放り投げる。
パウルマンは「我はみみずくなりー!」と、奇声を上げ、カツラを外して振り回す。
フランチスカは泣き叫んで部屋から逃げ出し、ヴェロニカはソファーに泣き崩れる。
そこへ灰色のコートをまとった小柄な眼鏡の男が入って来て、その場がしいんと静まり返る。
「大学生のアンゼルムスさんは、こちらにおいでですね?」
それは自分です、と本人が申し出ると、男は言った。
「本日はお見えにならず、我が主人の文書管理官リントホルスト氏は、たいそう残念がっておられました。明日こそは定時にお越し下さいますように」
無表情、抑揚のない声で告げて彼は帰り、
「今のは執事の灰色オウムだ」
アンゼルムスが呟くと、パウルマンとヘールブラントは大笑い。
しかしアンゼルムスは、
「大変な過ちをしてしまったのではないか」と我に返る。
アンゼルムスは後悔の念に駆られ、不安そうに胸に手を当て、他の面々の時間は静止したまま、どこからか聞こえてくる哀しげな歌と共に幕が降りる。
♪ あなたは言葉が分からなかった〜〈愛の炎が灯されるなら〉より(小蛇の三重唱)
これまでは美しく心に残る愛の歌であったが、ここでは哀しい絶望感に満ちた想いが歌われる。
上段のメロディーが末娘のゼルペンティーナ S.
オブリガート的な中段のが次女 S.
弦楽器のピッツィカートを思わせる下段の低音で支えるのが長女 A.
※ 作者注
3段の3パートをひとつにまとめる記号を書きそびれました。後日修正しておきます。

香りが周りを漂えど、
あなたは言葉が分からなかった。
風が想いを運んだけれど、
あなたは言葉が分からなかった。
夕陽が優しく包めども、
あなたは言葉が分からなかった。
私たちの言葉が分からなかった。
想いが届くこともない!
最後の1小節に、弦楽器によるピッツィカートが静かに重なり、そのまま最終幕への間奏曲が奏でられる。
♪ 夢の終わり(オーケストラによる間奏曲)
添付はピアノ譜。左手の伴奏部分は始終ピッツィカートが続き、中に隠れている中声部は遠くから聞こえてくるようなホルンがそっと受け持つ。
9小節目からの上段の右手部分、ハミングのようなメロディー部分は、8小節ごとの「問いかけ」と「受け応え」として、クラリネットとフルートが交互に歌う穏やかな掛け合いに、オーボエが優しく、さり気なく添えられる。
終盤のラストから5小節目に乗ってくる遥かな風の声だけ、ソプラノのソロが幻聴のように重なりゆき、舞台はそのまま最終幕に引き継がれる。




第4幕「最後の闘い」楽曲紹介(8/23 公開)に続く...
※ コメント欄に、♪〈夢の終わり〉の曲についての説明と、音楽セミナー関連の近況報告がありますので、よろしかったらご覧下さいませ♪♪

