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お世話になっているピアニスト 安斎 航 さんの CD紹介② シューマン〈幻想曲〉



 色とりどりの この世の夢の中
 あらゆる音を つらぬいて
 ひとつの静かな音色が 響いてくる
 ひそやかに 耳をすます者のために


シューマン〈幻想曲〉ハ長調 OP. 17




安斎航さんのCD紹介2作目は、ローベルト・シューマン(1810ー1856)です。

「シューマン名曲集」と謳いながら、このCDでは〈幻想曲〉1曲だけが収録されています。というのは、安斎さんは世のシューマン好きの為に(プレシャスも当然の如く含まれます)、この先もシューマンの名曲集を出していきたいと考えて下さり、まずは第1弾。ということで。
 この先、何を録られるのかも楽しみですね♪

 安斎さんのピアノの素晴らしさについては、前回の「リスト名曲集」の記事でも触れていますが、この〈幻想曲〉においても、彼の最大の才能でもある「煌めくダイヤモンド」の美しく輝き渡る音色が存分に活かされて、シューマンの幻想世界が見事に描き出され、聴き手は遥かな世界へと自然に誘われゆきます。
 大地に根ざし、抑えているからこそ、肝心要のクライマックスがひときわ輝きを放つ。そんな演奏なのです。

 第1楽章のあふれる情熱と、切なくロマンティックな遥かな憧れ。第2楽章では豪快ながらも大変クリアな音質で、すっきりと胸をすく心地良さ、圧倒的迫力の中で一切の乱れのない冷静さ、技巧が確かであるが故に、シューマンのメッセージがストレートに伝わってきます。静けさに満ちた第3楽章は、ひたすら夢の世界、遠い星空の世界が、絶妙な詩情と共に美しく描かれる中、内に秘めた情熱が静かに静かに高まりゆき、やがてはそっと消えゆく…。

 この世の情景ではない究極の「幻想」の世界が、譜面からあふれ出て、こうして私たちに届けられる。なんと贅沢なことでしょう。


 そして実にありがたいことに、この記事の公開に合わせて、安斎さんが全曲の譜面付き動画を作成して下さいました! ぜひ聴きながら読み進めて頂けますと幸いです♪♪
 もちろん、読まずに演奏に没頭して頂く方が、私も幸せかも知れません。それほどまでに、シューマンも、演奏も、素晴らしいのですから。




CDに添えられた楽曲解説文

※この記事の最初に載っている詩から始まります。


 先の詩は、〈幻想曲〉のモットーとして楽譜の冒頭に掲げられている、ドイツ・ロマン派の創始者ともいわれる詩人、フリードリヒ・フォン・シュレーゲルの詩の一節である。

 1835年の暮れのこと。来たる1837年のベートーヴェンの没後10周年に、生地であるボンに記念碑を立てようという計画が、フランツ・リストや亡きフリードリヒの兄、文芸評論家にしてロマン主義芸術運動の指導者であるアウグスト・フォン・シュレーゲルらによって立ち上げられた。
 若きシューマンも自ら発行する音楽雑誌「新音楽時報」で発案に好意的に賛同した上で、恋人クララに捧げるべく書き始めていた新作のソナタで資金援助に一役買おうと試みる。
 結局、記念碑の話はお流れとなるものの、2年後に曲は完成し、3楽章形式の〈幻想曲〉としてリストに献呈された。

〈フロレスタンとオイゼビウスの大ソナタ、ベートーヴェン記念碑に捧げるオーボレン〉これは当初つけられる予定であったタイトルで、オーボレンとはギリシャ語で小さな貨幣の意味、ささやかな寄付金といったニュアンス。フロレスタンとオイゼビウスとは、シューマン自身の性格の二つの側面を表すペンネームである。

 フロレスタンは 明るく積極的な面を。
 オイゼビウスは 優しくロマン的な面を。

 さらに各楽章には「遺跡」や「古城」(第1楽章)、「戦勝記念品」や「凱旋門」(第2楽章)、「星の冠」に、「栄光」(第3楽章)といった副題が考えられていたものの、出版社と折り合いがつかなかった為、長いタイトルも含めて最終的にはすべて削除、ただ〈幻想曲〉とだけされた。

 各楽章ごとには、あえてドイツ語による指示が記載されている。それまでイタリア語による表記が主流であったことに対し、シューマンはドイツロマン派としての自然な形として、ドイツ語を取り入れるよう提唱していたのだった。

 当時、逢うことも文通すらも許されなかった恋人、クララに対する深い愛情と悲しみ。想いを断ち切らねばならないという絶望の淵において、作曲だけが恋人に気持ちを伝える唯一の表現手段であった。そうした想いと重ね合わせるように、ベートーヴェンの歌曲集《遙かな恋人に》第6曲〈どうか受け取って。この歌を〉の、憧れに満ちた旋律が効果的に引用される。

 第1楽章で使われていたこのテーマが、初稿では最終楽章の終わりで再び現れる。
 いったんは忘れられた懐かしい旋律が、何の前置きもなしによみがえり、そのまま曲を終えてゆく......。これはかなり劇的な感動の効果をもたらしたであろうが、最終的にはこの想いを削除したシューマンの冷静な判断は、おそらく正しかったと思いたい。

「〈幻想曲〉はロマン派音楽の大憲章」とも称されるほどに、この曲においてシューマンはそれまで誰も到達し得なかった新たなる境地を開拓した。 
 独自の幻想性と即興性、後の作曲家にも影響を与えゆく調性の曖昧さ、古典的様式にとらわれない自由な形式でありながら、各楽章は主題が密接に関連し、統一感が保たれている。

 数多くのピアノ曲を残したシューマンの最高傑作、ロマン派きっての名曲である。


第1楽章 ハ長調
「完全に幻想的に、そして情熱的に演奏すること」

 自由なソナタ形式。堂々たる左手の分散和音に、右手のオクターヴによる主題が高らかに歌い上げられる。とりわけこの第1楽章においては、シューマンがクララに宛てた手紙から、この曲をより深く思い知ることができよう。

「幻想曲を完成させました。その第1楽章は、私がこれまでに書いた中でも、最も情熱的なものと思っています」

 さらに1年後の手紙では、

「1836年の不幸せな夏に身をおくことで、初めてあなたは幻想曲を理解できることでしょう。当時、私はあなたを諦めたのです。今となってはもはや、これほどまでに不幸せで孤独なものを作曲すべき理由など、私にはないのです」

 別な手紙では楽譜を添えている。

「次の旋律は私がとても気に入っているものです。モットーの『音調』は、まったくあなたそのものでしょう?」

 曲の途中、「伝説の音調で」といった謎めいた指示などが幻想性を際立たせつつ、憧れに満ちた《遙かな恋人に》の〈どうぞ受け取って。この歌を〉のテーマによって、静かに結ばれる。

第2楽章 変ホ長調
「調和を保ちつつ、精力的に」

 祝典行進曲風の威風堂々とした第1主題に始まり、やがて現れるシューマンの際立った特徴でもある軽快な付点のリズムに、楽章全体が支配されてゆく。
 中間部はダヴィッド同盟員(シューマンの空想上の音楽仲間)らによる、粋な語らいといったところか。主要主題の再現から、徐々に高揚し、力と勢いを増した技巧的なクライマックスを迎える。

第3楽章 八長調
「ゆるやかに、きわめて静かに進めてゆくように」

 両手の分散和音によるゆったりした序奏から、第1楽章の主題にも関連した穏やかな主題が奏でられ、寄せては引く静かな波のように詩的な幻想の世界が展開されていく。
 遙かな憧れと、確かな愛に満ちあふれる感情が徐々に高まり、やがて静かな安らぎとともに曲は終わりを告げる。きらめきながら消えゆく、明け方の星のように。



解説:森川 由紀子



 下記の『名曲物語』の記事でも、ほぼ同じ内容ながら微妙に自由度を増した(特にラストの一文)、シューマン〈幻想曲〉の紹介がなされています。
 こちらにも、安斎さんの新たな YouTube動画を早速追記しました♪♪



 こちらは小説内での描写です。


 冒険ファンタジーの劇中、現実世界でのクライマックス。ウィーン楽友協会における、こだわりの演奏会シーンです。
 この章においては、それまでの長いストーリー展開を別にして単独で読むことができます。
 アルヴィン・シュヴァルツが奏でる〈幻想曲〉の説明は、今回のCD版や先の名曲物語とほぼ同じ。
 プレシャスは全ての解説を揺るぎない確信を持って書いておりますので、あらゆるシーンに永遠に使いまわされることになるのです(笑)。




おまけのふしぎ話
 少しだけ声を低くして秘密の話を致しましょう。

「アルヴィン・シュヴァルツは高度な技術を持ちながら、自然で味わい深い、整った演奏のできる数少ないピアニストの一人である。いわゆる超絶技巧や、鍵盤に叩き付けられる激しい情熱といった、外面的な華やかさにはいっさい捕われず、聴衆の反応も意識せず、あくまでも自分と音楽の対話のみ。その比類なき音色の美しさは、現実世界のレベルを遙かに超えていた」

『お菓子な絵本』㉝「アルヴィン風の幻想曲」より


 アルヴィン・シュヴァルツを安斎航の名に置き換えてみましょう。
 そのまま通じてしまいそうですね。
 物語の中ではアルヴィンの演奏について、更に深く掘り下げていて、安斎さんと出会う10年以上も前に描いた物語でありながら、アルヴィンの演奏は安斎さんの演奏スタイルと完全に一致しています。

 アルヴィンは、1982年に描いた短編マンガ「アルヴィン風の幻想曲」で初出の登場人物。未発表ですが、無謀にも少女マンガ誌に応募し、お情けで微かな賞金を頂きました(微笑)。

下手すぎる絵でアルヴィンのイメージが損なわれるといけないので、拡大に耐えられないようボヤかしてあります


 大笑いが少し落ち着かれたところで、アルヴィンの話をもう少し続けましょう。

 この春公開した『ツヴィッカウ幻想』短編4部作でも、とりわけ第2部の「風の声を探して」や、第4部「ツヴィッカウ狂想曲」で、頻繁に理想のピアニストとしてその名が登場してました。

 そんなアルヴィンに限りなく近い演奏をするピアニストが、音楽仲間の紹介で現実の目の前に現れたと思いきや、安斎航さんは偶然にも1982年生まれ。そして名前が......

  ANZAI WAtaRu

  ARWIN schWARZ

 大文字が互いに被っているアルファベット。限りなく似ている!?
 そして安斎航の名には ARWIN の文字が、アルヴィン・シュヴァルツの名には ANZAI の文字が完全に収まっているではありませんか。
 気づいた時はぞっとして、むしろ「この人とは距離を置こう」と肝に銘じた次第です。私が自分から連絡を取らないと徹底しているのは、そうした理由でもあります。

 余談ですが、これまでの人生で、プロアマ問わず10人くらいのピアノの達人と何故か関わる機会が多く(離れて暮らす夫もアマチュアながら学生時代に県大会優勝歴アリ)、似たような名前はないものの、面白いことに全員に Schwarz の頭文字「S」は共通しておりました。
 ちなみにコメント欄にしばしば名前が登場するピアニストの安達朋博さん辺りは、時折り演奏会の手伝いを頼まれる程度ですので「関わる」レベルには入りません。

 一方、アルヴィンと安斎氏ですが、
① 名前に潜む文字構成が似ていて、
② 生み出された年が一緒、
③ 同じ演奏をするピアニスト
 と、3拍子揃っていれど、2人は性格も容姿も全く異なります。
 現実的で活動的な体育会系(安斎さん)と、
 夢見るロマンティストな完全王子系(アルヴィン)。
 ですので、どうぞご安心あれ(何を安心するのか?)。


 シューマンのCD紹介のはずが段々怪しい話になって参りました。安斎さんが恐がりそうなので、この辺でやめておきましょう。



次回(9/20土)は......

 とても聴き応えのある厳選の名曲集に、安斎航ピアノ教室の話題などをお伝え致します。



♪ ♪ ♪  お  知  ら  せ  ♪ ♪ ♪ 

※ 紹介のCDが気軽に購入できるようになりました!
 今回のシューマンは ¥1000(+送料¥100)です♡


※ 恒例、コメント欄での近況報告は、本日お手伝いしてきます演奏会関連です♪♪


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