「 0 0 0 は ハズレの番号」 終 ⑩ 最終テスト
⑩「最終テスト」
24.宇宙の迷い子(まよいご)
25.(終)コードナンバー000
24.宇宙の迷い子
自身の涙でユーリは目覚めた。
身体は......? 普通に動かせる。
そしてすぐ脇には床に座っているユウ先生。
「お帰り、018」
半身を起こす。何か言おうとしても、唇は震え、出てくるのはうめき声と、自然にあふれる涙ばかり。膝を抱えてうずくまり、込み上げてくる何かを必死にこらえていたが、ユーリはやがて「わあっ」と泣き出した。
大宇宙を目の当たりにした感動と、生涯の夢が、目標が、憧れのガガーリンへの誓いが、これほどあっさり突然に叶えられたショックとが入り混じり、感情のコントロール不能に陥ってしまったのだ。
人前でこんな風に泣くなんて!
でも、泣かずにはいられなかった。ひとしきり泣いて、しゃくりあげ、やがて服の袖で顔をこすり、何とか冷静さを取り戻す。
しっかりしろ、018! お前はもはや「X」の一員なんだぞ。天ノ川 勇利 は自身に言い聞かせた。
トマスなんてつられて泣くどころか、いたって静かじゃないか。トマス......? え、眠ってる?
「あれ、まだ帰ってない?」
ユーリは飛び起きた。
「気はすんだかね」
ホフマンは涼しげな顔で窓際に立っている。では、トマスは?
「トムは? まだ起きてないの?」
ユーリがたずねると、2人の教官は緊張の面持ちで秘密の目配せを交わし合った。言い知れぬ不安と恐怖のどん底に、少年は突き落とされる。
「今頃は、銀河系の彼方を漂っていることだろう」
苦々しげにホフマンが言った。
宗谷 斗 は太陽系惑星の見学だけでは飽きたらず、ヴォイジャーを捜しに行くだの、オリオン大星雲が見たいだの、ブラックホールに突入してみたいだのと、連れを散々手こずらせたあげく、中性子星に近づいたところで......、
「こともあろうか、わたしの手を、意識下の手ではあるが、振り払ったのだ」
そこへ星からランダムに放たれる強烈なパルサーの一撃。
「澈しい閃光に、奴の意識は破壊されたか、あるいは気絶したか」
「彼を見捨てたの!」
ユーリはホフマンに食ってかかった。
「最初からムリだった。見込みがなかったのだ」
その言葉に、ユーリはハッと息をのんだ。
「まさか始めっからそのつもりで? 仲間に入れたくなかったから、トマスを宇宙に置き去りに!?」
ピアニッシモ=ホフマンは知らぬ存ぜぬを決め込み、トロイメライ=ユウ先生=森脇遊は腕組みをしてピアノに寄りかかり、ポーカーフェイス。
恐るべし秘密結社「X」の実態ここにアリか!?
「ユウ先生!?」
ユーリはユウ先生に振りすがった。
「宗谷斗はここの生徒でしょ!? かわいい教え子のはずでしょ!?」
「残念だが、どうすることもできないんだ」
ユーリは半狂乱になって、寝ているトマスを起こしにかかった。
「トマス目を覚ませ! 起きろ、トム! 起きろったら!」
「やめたまえ」
ホフマンが冷たく言い放つ。
「それはただの抜け殻にすぎない」
抜け殻は、このまま病院行きか? 家族には何も知らされず、ただ植物状態で生きてるだけ。
そしてトマスは、トマスの意識は永遠に宇宙の迷子。
「いや、そんなことさせない」
ユーリは相棒を揺さぶるのを止め、代わりにしっかりと片手をつなぎ合わせ、彼の脇に横たわった。
「ぼくが連れ戻す」
「きみにはできない!」
怒鳴るピアニッシモ。
「いけない。危険すぎる」
冷静に警告するトロイメライ。
ユーリは静かに目を閉じた。
ぼくは「銀河連邦」の技術を知らない。だけど、宇宙空間に居るトマスが呼び寄せてくれる。きっと! 意識は、瞬時にして銀河の果てまで飛んでいける。ぼくの思いだって、きっとトマスに届くはず。
「018、無駄なことだ!」
わめくホフマンの声が遠ざかってゆく。その時、ユーリは気づいた。
危険すぎると言ったユウ先生の言葉が、巧妙な暗号だったことに。「危険」ということは、ある意味、成功の可能性もあるってことだ。
その言葉を居じよう。限りない危険とやらは、自分の、このぼく自身の強運と信念が回避してくれる!
25.コードナンバー000
「トム! やっぱりここだったか」
「ユーリか!? おい、なつかしいじゃんかよ!」
トマスの意識に導かれてたどり着いた先には、銀河系を真上から見下ろす壮大な光景が広がっていた。あるいは下から見上げている? そもそも上も下もないはずだもの。光の大洪水ともいえる中心部のバルジから、銀河の腕が渦状に十万光年もの距離に広がりゆく。
ぼく達の銀河系!
「これは。こんなのってホントにすごいや!」
ユウ先生と一緒に斜め方向から眺めた銀河は、永遠に忘れられない美しく雄大な光景だった。
だけどこれは......、今、銀河の真上に居る、このド迫力といったら! 意識ごと吸い込まれてしまいそう。
「ずっと見てたいだろ?」
「そうだね。でも、多分もうタイムリミット」
「帰らないと、ダメ?」
意識が離れた肉体が、どのくらいの時間持ちこたえるのか、ユーリはわからなかった。
おそらく夢を見てる時と同じように、潜在意識では何時間もに感じても、実際の時間では、ほんの数分かそこらなんだろう。
「ぼく達には使命があるじゃないか。帰らなきゃ。この銀河系や地球を守る為に」
自分が、自分の意識が、もう以前とは違うのだと、天ノ川勇利は気づいていた。
それは宗谷斗も同じだった。
「また、来れるかな」
「うん。絶対」
2人はしっかり腕を組み、肩を寄せ合って同時に地球を思い描いた。あの古びた体育館に。ユーリは一瞬、憧れのヨーロッパ辺りにも想いを馳せかけたが、寄り道の誘惑はどうにか退けた。
「2人揃って無事にご帰還か!」
勇敢な少年達は、留守番役の大人達による大いなる抱擁で迎えられた。宗谷斗は興奮して飛びはね、奇声を上げながら宙返りまでやってのけるが、天ノ川勇利はひとことも口を聞かず、2人の上官を不審の目でにらみつけていた。
「そんな顔するな、018」
ピアニッシモ=ホフマンは、満面の笑みを浮かべている。
「晴れて合格したんだ。おめでとう!」
「おめでとう。きみ達を誇りに思うよ」
トロイメライ=ユウ先生に握手を求められ、ユーリは初めて事の真相を悟った。
「合格って、まさか......」
天ノ川勇利に課せられた「X組織」の最終試験は、
ーー 見捨てられた友の救出作戦 ーー。
上官の反対を押し切ってまで、危険な宇宙に己の意識を投じる勇気があるか。そして強靱な精神力で仲間を見つけ出し、元の時空に無事に連れ帰れるかどうか。
「その為にトムを人身御供に? 失敗したらどうするつもりだったのさ!?」
万が一のための救済処置はむろんあったのだが、2人の教官は「さあ......」と首を傾げてはぐらかす。命をかけたという信念があるからこそ、成し遂げたことの価値も高まるというものだから。
「ねえねえ、オレも合格なんだよね?」
くったくなく言ってから、トマスは少しばかり不安げにホフマンの袖を引っ張った。
「ああ、きみにもコードナンバーを用意した」
「え~? 番号なんて、つまんないじゃん」
「残念だが少年スパイは番号でないとダメだ。1から999までの数字からランダムで選ばれる、意味のない番号だ」
「カッコイイネーミングとか、ないわけ?」
「敵に捕まった際、脅迫されても仲間の名を吐いたりできないように。とのはいりょだ」
「なんだかおっかないね! 捕まるだの脅迫だの」
愉快な調子で言ってからトマスは首を傾げた。
「敵って、『銀河連邦』のことかいな?」
「『銀河連邦』は、実は敵じゃないんですよね?」
ユーリがユウ先生に確認する。
「連邦そのものは、敵ではないんだけどね」
ユウ先生=トロイメライが声を落として説明する。
「連邦の救済措置を極端に解釈し、洗脳を利用して人類を支配しようとする地球人の中には、殺人をもいとわない過激分子もいてね」
ピアニッシモも補足する。
「我々人類の中にこそ、敵は潜んでいるのだよ」
「連邦じゃなくて、地球人の中にこそ.....」
ユーリは真剣にその言葉を受け止めた。
「それに、『地球改造計画』とはまったく関係のないところでも、戦争やテロといった破壊行為や、極悪な犯罪も後を絶たない。『X組織』は連邦の特殊技術を巧みに利用し、国家や法の力で対処しきれない犯罪に対しても、秘密裏に活動しているのだ」
「悪の組織を叩きつぶすってわけね」
こぶしを振り上げて勢いづくトマスに、トロイメライ教官がやんわりと釘を刺す。
「あくまでも事前に防ぐ軌道修正が我々の方針で、裁くとか、こらしめるとかいった、正義を振りかざす活動ではないんだよ」
「ただし、身の危険を伴う命がけの行動であることには、違いない」
ピアニッシモが厳しく言い放った。
「研修は早速、今、この瞬間から始まる。一人前のエージェントを養成するための訓練だ」
一人前のエージェント! 話が本格的になってきたぞ。ユーリもトマスも胸を躍らせる。
「尾行の振り切り......に関しては、すんだも同然だな」
「合格ですね」
トロイメライが太鼓判を押す。
「潜入捜査、追跡、変装、暗号の作成に解読、盗聴、暗記術、護身術、あらゆる訓練を受けることになるぞ」
ピアニッシモ=ホフマンは姿勢を正して続けた。
「覚悟はできてるな」
「はい!」
2人の少年スパイは胸をはって応えた。
そして教官らは、「相棒のお目付け役を頼んだぞ」と、ユーリに目配せを送る。
ユーリはしっかりうなずいた。 「どうぞお任せ下さい」と。
ホフマンが威厳を持って2人に告げる。
「天ノ川勇利は、018。そして、宗谷斗は000だ」
一一 トリプルゼロ !? 一一
うっとユーリは思った。
これって正式な番号なの? 001から999までのランダムのはずじゃ?
笑いなのか、一種の感動なのか? こみ上げてくる何かを、ユーリは必死でこらえた。
上官らをちらりと見やる。
2人の表情は、「何も言うな!」と語っていた。
「トリプルゼロ!? やったーあ! カッコイイじゃん!」
偽のコードナンバーを与えられたとも知らず、トマスは有頂天で飛び跳ねている。
まあ、それでも共に訓練を受ける仲間にはなれたのだ。よしとしようではないか。
いよいよ冒険の始まりだ。命をかけた冒険の!
ユーリとその相棒の未来に、地球の、そして銀河系の未来に、小さけれど力強い希望の光が輝きだした。
少年スパイの冒険は続く......
10週に渡り、辛抱強くお付き合い下さいまして、誠にありがとうございました。
これであなたも「X組織」の一員ですね⭐︎
コードネーム、あるいはコードナンバーを考えて、任務のご準備を下さいませ。いつか近未来にでも、銀河系の何処かでお会いしましょう⭐︎
Precious Planner
森川 由紀子
※ 次週(4/25 土曜日深夜0時公開)は、「あとがき」をお届けします
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