シューマン 幻の歌劇《黄金の壺》 楽曲紹介
『ツヴィッカウ同盟』の3人組がシューマンの時代にタイムトリップして、シューマンの妻クララにより破棄される運命から救い出したシューマンの未公開作品、E.T.A.ホフマンの幻想小説『黄金の壺』を原作とする、幻の歌劇《黄金の壺》。
全4幕の台本に引き続き、週にひと幕ごとに楽曲紹介を致します。
楽譜はごく一部ではありますが、さわりのメロディーや、曲によっては歌唱部分の譜面(日本語版)も少しだけ添えられます。
ファンタジー連作『ツヴィッカウ幻想』のスピンオフとして誕生した、シューマンとホフマンの幻想オペラの世界を、どうぞ存分に、ご堪能下さいませ。
ロベルト・シューマン 作(?)
E.T.A.ホフマン 原作
「黄金の壺」Der Goldne Topf
シューマン 歌劇《黄金の壺》
主な登場人物
大学生アンゼルムス(テノール)
器量は良いのにドジな青年。小蛇のゼルペンティーナに恋をして、益々現実世界に順応できなくなってしまう
火の精霊リントホルスト(バス)
現世では謎の文書管理官の職務についている
金色の小蛇ゼルペンティーナ(ソプラノ)
純粋無垢な、リントホルストの娘
教頭パウルマン(バリトン)
アンゼルムスを気にかけている、気の良い教師
ヴェロニカ(アルト)
パウルマンのしっかり娘。アンゼルムスに恋心を抱いている
書記役ヘールブラント(バリトン)
まともで親切な青年
りんご売りの老婆ラウエリン(アルト)
リントホルストの霊界時代からの宿敵
混声合唱
4部(ソプラノ、アルト、テノール、バス)
オーケストラ
標準2管編成
& ハープ、グロッケン他各種打楽器

♪ ♪ ♪ 全幕の曲目 ♪ ♪ ♪
(書き下ろしオリジナルは 全43曲)
♪ 序曲 Orch.
第1幕
プロローグ
♪ 逃げるがいいさ(ラウエリン)
第1場 エルベ川のほとり
♪ 今日は素敵な昇天祭(合唱)
♪ 人並みの楽しみさえ(アンゼルムス)
♪ にわとこの茂みで(小蛇の3姉妹)
♪ 愛の炎が灯されるなら( 〃 )
♪ 戻っておいで(リントホルスト)
♪ ああどうか、もう一度!(アンゼルムス)
♪ エルベの楽しい川下り(合唱)
♪ 夢見心地は誰にでも(ヴェロニカ、ヘールブラント)
第2場 パウルマン家のサロン
夜会の気楽な演奏
♪ シューマン タべに(アンゼルムスp.)
♪ シューマン 胡桃の木(ヴェロニカ)
♪ モーツァルト 春への憧れ( 〃 )
♪ シューベルト 君は我が憩い(ヘールブラント)
♪ グラウン 技巧的アリア( 〃 )
♪ パウルマン 爆走デュエット(ヴェロニカ、アンゼルムス)
♪ インクの染みにご用心(ヘールブラント)
♪ それは大変ありがたい(アンゼルムス)
エピローグ
♪ 逃げるかいいさ(ラウエリン)
第2幕
第1場 名の知れた喫茶店
♪ かつてみどり蛇に恋をして(リントホルスト)
♪ 婿3人が見つかるまでは( 〃 )
♪ 呪われたブロンズのノッカーが(アンゼルムス、パウルマン、ヴェロニカ、ヘールブラント)
♪ もしもノッカーが笑ったなら(リントホルスト)
第2場 リントホルストの不思議な館
♪ ようこそ学生さん(合唱)
♪ 上等の道具で筆写のお仕事(リントホルスト、アンゼルムス)
♪ 私がお手伝い致します(ゼルペンティーナ)
♪ まさしく あの歌声が(アンゼルムス)
♪ 私がお手伝い致します(ゼルペンティーナ)
♪ 黄金の壺より咲き出でるは(ゼルペンティーナ、アンゼルムス、全員合唱)
第3幕
第1場 パウルマン家のサロン
♪ 宮中顧問官アンゼルムス夫人(合唱)
♪ 何て素敵なイヤリング(ヴェロニカ)
♪ お前の夫にゃなるまいさ(ラウエリン)
♪ 彼が無事に帰還するのよ(アンゲリカ)
第2場 占い師ラウエリンの不気味な館
♪ お前の夫にゃなるまいさ(ラウエリン)
♪ あなたが占えないのなら(ヴェロニカ)
♪ 真夜中の十字路で(ラウエリン、ヴェロニカ、ネコ、男声合唱)
第3場 真夜中、嵐の十字路
♪ 嵐 Orch.
♪ 何が何でも(ヴェロニカ)
第4場 パウルマン家のサロン
♪ あんなに素敵なのだから(ヴェロニカ)
♪ 上等のポンチ酒があれば(ヘールブラント)
♪ モーツァルトの子守唄(ヴェロニカ、アンゼルムスp.)
♪ もしかして、彼女なのか?(アンゼルムス)
♪ 彼は全く不思議な人(ヘールブラント、アンゼルムス)
♪ そらきた! 火の精(アンゼルムス、ヘールブラント、パウルマン)
♪ あなたは言葉が分からなかった(小蛇の三重唱)
♪ 間奏曲〈夢の終わり〉Orch.
第4幕
プロローグ
♪ かつては四大元素と共に(リントホルスト)
第1場 リントホルスト家の図書室
♪ 愛の炎が灯されるなら(ゼルペンティーナ)
♪ 宮中顧問官アンゼルムス夫人(ヴェロニカ)
♪もしかして、彼女なのか?(アンゼルムス)
♪ 私がお手伝い致します(ゼルペンティーナ)
♪ 愛と憧れ、それだけを(アンゼルムス)
♪ 愛の炎が灯されるなら(ゼルペンティーナ)
♪ 夢見心地は誰にでも(ヴェロニカ)
〜 異なる歌による三重唱
♪ 現実を見つめて(ヘールブラント)
♪ インクの染みにご用心 Orch.
第2場 クリスタル瓶の中(二重幕の手前)
♪ 息するのさえ(アンゼルムス)
♪ お気楽で愉快な生活(男声合唱)
第3場 リントホルスト家の図書室
♪ 愛の炎が灯されるなら(小蛇の3姉妹)
♪ 逃げるがいいさ(ラウエリン)
♪ 言ったとおりさ!(ラウエリン)
♪ 勝手にほざけ! (アンゼルムス)
♪ 黄金の壺を持つべき者は(リントホルスト、ラウエリン)
♪ 命をかけた若者よ(リントホルスト)
第4場 パウルマン家のサロン
♪ こうなると、分かってたのです (ヴェロニカ、ヘールブラント)
♪ 何て素敵なイヤリング(ヴェロニカ)
♪ 宮中顧問官ヘールブラント夫人(合唱)
♪ シューマン〈明るい夏の朝〉〜後奏部分
エピローグ 遥かなアトランティス
♪ 憧れの主題 Orch.
♪ 愛の炎が灯されるなら(四大元素による合唱)
♪ クリスタルの三和音
♪ 黄金の壺より咲き出でるは(合唱、ゼルペンティーナ、アンゼルムス)
♪ ♪ 第1幕の 楽曲解説 ♪ ♪
♪ 序曲
全体のテーマとなる「憧れの主題」が、静かに聞こえてくる。

フルート、オーボエ、クラリネットの木管三重奏に、弦楽器のトレモロが3つ目の和音に急速なクレシェンドで添えられるも、すぐにさざなみのようにすっと引いていく。
この効果は、後に弦楽器と共にティンパニも加わって、テーマが現れる度に活用され、厳粛な響きと緊張感を高めてゆく。
序奏を終え、合唱で楽しげに歌われる和やかな街の音楽が、これから始まりゆく心躍る舞台への期待を高めゆくも、やがて不穏な空気に転じ、真夜中の恐ろしげな呪いの様子、繰り返される下降音型が特徴の♪〈嵐〉から、火の精とりんご売りの老婆の死闘を描く♪ 〈黄金の壺を持つべき者は〉の緊迫した曲調が続き、音楽の勢いが劇的に高まったところで、クリスタルの3和音が輝かしく鳴り渡る。

これは「アーメン終止」という教会音楽にて使われる旋法でもある。木管楽器の高音と、金属的な響きの打楽器による変ニ長調の神秘的で憧れに満ちた3つの和音に導かれ、冒頭の「憧れの主題」をテーマとする、主人公が切ない想いを訴える♪〈愛と憧れ、それだけを〉、小蛇の3姉妹の歌う♪〈愛の炎が灯されるなら〉、夢と現実の狭間を歌う♪〈夢見心地は誰にでも〉といったヘ長調の歌が3曲、ロマンティックに奏でられる。
憧れに満ちた愛の歌は、遥かな理想郷を思わせる雄大な情景へと発展するも、再びりんご売りの老婆が♪〈逃げるがいいさ〉と、妖しげな警告を発し、摩訶不思議なお喋り♪〈ようこそ! 学生さん〉、学生歌風の♪〈お気楽で愉快な生活〉、大暴走の♪〈そらきた! 火の精〉と、ユニークな楽曲で派手に盛り上がり、現実世界のヒロインによる夢見るハミングから、幻想世界のヒロインの献身的な想いへと受け継がれ、劇中に含まれる様々なテーマが変幻自在に現れる。このオペラの全てが序曲に凝縮され、火の精が厳かに告げる♪〈命をかけた若者よ〉にて、荘厳な雰囲気で曲を終える。
プロローグ
幕が上がる前、楽しげな音楽に乗って大学生アンゼルムスが踊るように登場するや、足を滑らし、りんご売りの老婆の台に飛び込んでゆく。平謝りしながら財布を渡して足早に逃げ去る青年に、低く鋭い早口で老婆が浴びせる不気味な短調の不吉な言葉。
「そうかい、逃げるか! 逃げるがいいさ!」
♪ 逃げるがいいさ(ラウエリン)

逃げるがいいさ。
悪魔の子めが。
お前は閉じ込められようぞ。
クリスタルの
瓶の中に
お前は閉じ込められようぞ!
第1場 エルベ川のほとり
女性合唱による和やかな♪ 〈今日は素敵な昇天祭〉と共に幕が上がり、川のほとりの光景と、奥にはリンケ温泉の入口の門が見え、昇天祭の晴れ着をまとった一行が、楽しげに歌いながら次々と門の中に入って行く。彼らの歌に重なるように、中からは楽隊の軽快な響きも聞こえてくる。
老婆から逃げて来たアンゼルムスは、にわとこの茂みの傍に腰を下ろして情けない我が身を呪う。レチタティーヴォ(叙述的独唱歌)風の独り言から、ラストは哀しげなメロディーで。
♪ 人並みの楽しみさえ(アンゼルムス)

人並みの 楽しみさえ
僕には叶わぬことなのか?
思い描いた未来の夢よ、
いずこやら?
ささやかな 楽しみさえ、
僕には叶わぬ願いだと?
思い描いた未来の夢は、
ああ、いずこやら?
アンゼルムスがぶつくさ歌っていると、
♪オーケストラによる不思議なざわめきが、さわさわと流れる風や落日の陽光を表し、「憧れの主題」が、そっと奏でられる。
クリスタルの鈴の音がグロッケンシュピールによって、キラキラと輝かしく鳴り渡り、アンゼルムスはにわとこの茂みの中に注意を引かれる。
葉の陰に見え隠れする金色の小さな3匹の蛇の姉妹(ソプラノ2人とアルト)。彼女らは鈴の音のような可愛らしい声色で、とりとめのないお喋りを歌うように続けていく。
♪ にわとこの茂みで (小蛇の3姉妹)
露がこぼれて、花が歌う。
昇って、降りて、
くぐって、進む。
そのうち星が、輝くでしょう。
アンゼルムスはくらくらしながら呟く。
「いったいこれは、沈みゆく夕陽のしわざなのか? にわとこのしげみにたわむれる......」
♪ グロッケン、トライアングルといった金属的な打楽器にフルートが加わった輝かしい音色で、クリスタルの3和音が啓示のように響き渡ると、再び3姉妹が、今度は夢見るように美しく朗々と歌い出す。
♪ 愛の炎が灯されるなら (小蛇の3姉妹)

1 にわとこの茂みは
葉を揺らしながら言いました。
香りがあなたを包んだけれど、
あなたは言葉が分からなかった。

愛の炎が灯されるなら、
香りは言葉となるのです。
愛の炎が灯されるなら、
あなたは言葉が分かるでしょう。
2 夕暮れ時のそよ風は、
優雅にささやきました。
あなたの想いを包んだけれど、
あなたは言葉が分からなかった。
愛の炎が灯されるなら、
ささやく言葉になるのです。
愛の炎が灯されるなら、
あなたは言葉が分かるでしょう。
3 夕陽の木漏れ日は、
輝く文字で伝えます。
金のヴェールで包んだけれど、
あなたは言葉が分からなかった。
愛の炎が灯されるなら、
輝く言葉になるのです。
愛の炎が灯されるなら、
あなたは言葉が分かるでしょう。
♪ 再びの3和音が、クリスタルの響きで鳴り渡る。
3匹の蛇のうち、木陰から顔を覗かせアンゼルムスをうっとり見つめてきた1匹が、
「愛の炎が灯されるなら」のフレーズを繰り返す。
アンゼルムスも夢見心地で、「愛の炎が灯されるなら」と、彼女と声をそろえる。
♪クリスタルの3和音が、シンバルも加わって、いっそう高らかに鳴り響くと、どこか遠いところから低い呼びかけが警告のように聞こえてきて、空気を一転させる。ぶつぶつ言う呼びかけは、やがて歌のようになっていく。
(呼びかけ)
おーい、おーい。
何をペチャクチャやってるのかね?
木の茂みや草地を抜けて、
戻っておいで。
草から川辺に、
降りておいで。
さあ、戻っておいで。
♪ 戻っておいで (リントホルスト)

3匹の蛇はエルベ川に通じる草むらに隠れてしまい、呆然と佇むアンゼルムスを残し、にわとこの木は静寂に包まれる。
♪ ああどうか、もう一度! (アンゼルムス)
ああどうか、もう一度!
あの瞬きを、輝きを!
あの美しい青い瞳で、
もう一度、僕を見つめて。
一度でいいから、お願いだ!
にわとこの枝を激しく揺さぶり、必死で話しかけるアンゼルムスは、通行人らから変人のように思われるも、通りがかった仲間から船遊びに誘われ、気を取り直してボートに乗り込む。
教頭のパウルマンと彼の2人娘、書記役ヘールブラントにアンゼルムスの一同は、ゆったりとした民謡風の♪〈エルベの楽しい川下り〉を合唱する。
エルベの流れ、清く澄み渡り、
エルベの流れ、強く絶え間なく、
エルベの楽しい川下り。
そのうち、川の中に小蛇の3姉妹の姿を見出したアンゼルムスが、「やあ、蛇さんたち」と叫んで身を乗り出し、危うくボートを転覆させそうになり、皆は幻でも見たのかと案ずる歌を、本人も交えて歌う。
アンゼルムス(レチタティーヴォ風に)
にわとこの茂みで、見たんです。
不思議で美しい光景を
夢ではなく、はっきりと。
♪ 夢見心地は誰にでも
(ヴェロニカ、ヘールブラント)

そもそも夢見る人だから。
そうしたことなら
よくあるの。
きっとそれは
夢なのですわ。
ふしぎな夢を
見たのでしょう。

夢見心地は誰にでも。
それは思い違いなの。
夢見ているのに
起きてると、
思い違いをされてるの。
ボートが岸辺に寄せられ、オーケストラが奏でる♪〈エルベの楽しい川下り〉のメロディーに乗って、いったん幕は閉じられ、そのまま第2場へ。
第2場 パウルマン家のサロン
夕食を終え、アンゼルムスがピアノに向かい、皆で歌や演奏を楽しむ流れとなる〈実際の舞台では、ピアニストが陰で奏する)。
☆ 夜会の演奏内容 ☆(省略可)
♪ シューマン タべに(アンゼルムスp.)
♪ シューマン 胡桃の木(ヴェロニカ)
♪ モーツァルト 春への憧れ( 〃 )
♪ シューベルト 君は我が憩い(ヘールブラント)
♪ グラウン 技巧的アリア( 〃 )
♪ パウルマン 爆走デュエット(ヴェロニカ、アンゼルムス)
宴もたけなわのタイミングで、ヘールブラントが、アンゼルムスに筆写の仕事を紹介すべく、
♪ インクの染みにご用心(ヘールブラント)
楽しげに歌いながら、「インクの染みだけは気をつける」ようにと、しっかり警告しておく。
アンゼルムスは感謝を込めて、
♪ それは大変ありがたい(アンゼルムス)
しみじみ歌うところで、幕は閉じゆく。
エピローグ
引き続きオーケストラが同じ曲を奏で続ける中、身支度を整えたアンゼルムスが紹介先の邸宅の玄関に向かいゆく。ドアのノッカーに手を伸ばしたところで、ノッカーがりんご売りの老婆に変身し、
♪ 逃げるかいいさ(ラウエリン)
プロローグと同じ歌を、今度はゆっくりと、更に凄みをきかせて歌い脅す。
アンゼルムスは悲鳴を上げて気絶し、そのまま舞台は暗くなり、オーケストラによる不気味なメロディーが続く中、その後、彼が自室で目覚めると、教頭のパウルマンが呆れ果てて付き添っているところで、音楽は少し滑稽調の目まぐるしい勢いに転じて、第1幕は終幕となる。
第2幕「名の知れた喫茶店とリントホルストの不思議な館」(次週 8/9 公開)に続く...
