シューマン 幻の歌劇 《黄金の壺》
『ツヴィッカウ幻想』でお馴染みの主人公3人組が、19世紀半ばのシューマンの時代にタイムスリップして、彼の妻クララの横暴により破棄される運命にあったシューマンの貴重な作品を救い出すという快挙を成し遂げてくれました。
E.T.A.ホフマンの幻想小説『黄金の壺』を原作とする、幻の歌劇。
『ツヴィッカウ幻想』のスピンオフとして、この度、全4幕の台本を、週ごとに、1ヵ月に渡って紹介致します。
原作が忠実に活かされた台本ですので、未読の方も既読の方もホフマンの魅力を充分に楽しめることでしょう。
尚、各曲のメロディー断片は、物語が終幕となった後、「楽曲紹介版」にて4回に渡り紹介されます♪♪♪♪
ロベルト・シューマン 台本 作曲(?)
E.T.A.ホフマン 原作
歌劇 《黄金の壺》 Der Goldne Topf

登場人物
T. テノール S. ソプラノ
Br. バリトン A. アルト
Bs. バス
大学生アンゼルムス T. 器量は良いのにドジな青年
火の精霊リントホルスト Bs. 謎の文書管理官
金色の小蛇ゼルペンティーナ S. リントホルストの娘
教頭パウルマン Br. 気のいい世話人
ヴェロニカ A. パウルマンのしっかり娘
書記役ヘールブラント Br. まともな青年
りんご売りの老婆ラウエリン A. リントホルストの宿敵
ゼルペンティーナの姉妹 S.&A.
フランチスカ S. ヴェロニカの妹
オウム T. リントホルストの側近
黒ネコ Br. ラウエリンの手下
アンゲリカ S. ヴェロニカの友人
瓶の中の学生5人 T. Br.
混声合唱(4部)
2管編成オーケストラ
& ハープ、グロッケン他各種 打楽器
歌劇 《黄金の壺》 全4幕 概要
19世紀初頭のドレスデン。
容姿端麗で芸術的才能に恵まれながらも、現実離れの詩人の魂のせいか、おっちょこちょいで不運に見舞われてばかりの人生を送る、大学生アンゼルムス。今日もりんご売りの老婆の売り物を台無しにして、祭りで楽しむ為の小遣いも消えてしまう。
そんな折、夕暮れ時にエルベ川のほとりで出会った緑がかった黄金の小蛇ゼルペンティーナに電撃的な恋をする。
現実世界から益々離れゆく青年の心であったが、何かと世話を焼いてくれる教頭パウルマンや、その娘でアンゼルムスに好意を抱くヴェロニカの存在との間で揺れ動く。
ゼルペンティーナの父親である謎の文書管理官リントホルストの邸宅で筆写の仕事にありつき、憧れの幻想世界へ誘われつつも、実はリントホルストと有史以前から敵対するりんご売りの老婆やヴェロニカのまじないによって、邪魔だてされ、ついにはクリスタルの中に閉じ込められてしまう。
輝かしいクリスタルの鈴の音や、世にも美しい黄金の小蛇3姉妹の歌声、素敵な音楽に彩られながらも、恐ろしき深夜の呪文、アトランティスの時代から続く永きに渡る因縁の闘いと、ホフマンならではの幻想怪奇の物語が、夢見るロマンティスト、シューマンの音楽が添えられて現代によみがえる。
果たしてアンゼルムスは、現実世界でヴェロニカと真っ当な人生を送るのか、幻想世界のゼルペンティーナと共に理想郷の住人となりゆくのか......?
歌劇 《黄金の壺》 Der Goldne Topf
序 曲
壮麗かつ不思議な〈憧れの主題〉が風に乗って聞こえてくる。やがて〈火の精とりんご売りの老婆の死闘〉を描く緊迫した曲調となり、音楽は勢いを増し、輝かしいクリスタルの3和音が高らかに鳴り渡るや、黄金の小蛇3姉妹の歌う〈愛の炎が灯されるなら〉が美しく奏でられる。
憧れに満ちた歌は、遥かな理想郷を思わせる雄大な情景へと発展するも、再びりんご売りの老婆が鋭い警告を発し、現実世界の小粋なヒロインのお気楽ハミング...♪♪♪
こうして劇中に含まれる様々なテーマが変幻自在に紹介されゆき、このオペラの全てが、この序曲に凝縮されている。
プロローグ
幕の前に、カゴいっぱいのりんごや菓子を売る年配女性が佇んでいる。
序曲の終盤、燕尾服の青年が走り込んで来て、ガラガラガッシャーン!
悪ガキらが歓声を上げて散らばった品々をかっさらい、攻め立てる女性売り子らに取り囲まれ、青年は平身低頭で、おずおずと自分の財布をりんご売りに差し出す。
「そうかい、逃げるか! 逃げるのか!」
慌てて逃げ去る青年に老婆が罵り歌い出す。
♪ 逃げるがいいさ (りんご売りの老婆=ラウエリン)
逃げるがいいさ。
悪魔の子めが。
お前は閉じ込められようぞ。
クリスタルの
瓶の中に
お前は閉じ込められようぞ。
第1幕 第1場 エルベ川のほとり
昼下がりのドレスデン、リンケ温泉の入口。
中からは楽隊の軽快な響きと、お祭り騒ぎのにぎやかな歓声が聞こえてくる。
昇天祭の晴れ着をまとった一行が、♪〈今日は素敵な昇天祭〉を楽しげに合唱しながら、次々と門を潜り抜けてゆく。
そんな彼らを尻目に、にわとこの茂みの傍に座り込んで嘆くアンゼルムス。
♪ 人並みの楽しみさえ (アンゼルムス)
ラム酒入り珈琲に、
ドッペルビールの1本くらいは、
味わいたかったな。
ささやかな小遣いは、だけど
リんご売りのばあさん行き。
着飾った可愛い娘たちに、
挨拶さえできぬとはね。
パンを落とせば必ずや、
バターの面が下向きに。
おニューの上着にゃ、
すぐさま呪われた
シミをつけるか、
釘を引っかけ台無しに。
素敵なマダムに挨拶すれど、
帽子がどこかのすっとぶか、
ふざまにひっくり返る始末なわけ。
うんと早くに家を出ても、
約束時刻にゃ間に合わない。
あらゆる問着にまき込まれるから。
悪魔に逆らい、やっとこさっとこ
大学生にはなれたけど、
いつまでたってもふがいない。
グラスを引っくり返したり、
椅子につまずくなんて、
もうコリゴリ!
人並みの 楽しみさえ
僕には叶うこともない?
思い描いた未来の夢よ、
いずこやら?
ささやかな 楽しみさえ、
僕には叶わぬ願いだと?
思い描いた未来の夢は、
ああ、いずこやら?
オーケストラによる不思議なざわめきが、さわさわと流れる風や落日の陽光を表し、序曲冒頭の〈憧れの主題〉が、そっと奏でられる。
クリスタルの小さな鈴の音がシャンシャンと輝かしく鳴り渡り、アンゼルムスはにわとこの茂みの中に注意を引かれる。
葉の陰に見え隠れする3姉妹の姿は、アンゼルムスには緑がかった金色の蛇の姿として認識され、彼女らは鈴のようなキラキラした声色で、たわいもないお喋りを続けていく。
♪ にわとこの茂みで (金色小蛇の三重唱)
可憐に咲く花、揺れる技、
その間を、くぐり抜けるの。
いそいで昇って、それから降りる。
煌めく中で、踊りましょう。
夕陽が射して、暖かな風。
風の間をくぐって、進んで、
絡んで、降りて。
花や葉っぱと、歌いましょう。
露がこぼれて、花が歌う。
昇って、降りて、
くぐって、進む。
そのうち星が、輝くでしょう。
昇って、降りて、
くぐって、進む......
アンゼルムスは、くらくらしながら呟く。
「いったいこれは、沈みゆく夕陽のしわざなのか? にわとこの茂みにたわむれる......」
♪♪♪ グロッケンが奏でるクリスタルの3和音が、啓示のように響き渡ると突然、アンゼルムスは雷に打たれたように強い衝撃を受け、にわとこの茂みに向かって拝むように両腕を差し伸ばす。
再び3姉妹が、今度は夢見るように美しく朗々と歌い出す。
♪ 愛の炎が灯されるなら (金色小蛇の三重唱)
1 にわとこの茂みは
葉っぱを揺らして言いました。
香りが周りを漂えど、
あなたは言葉が分からなかった。
愛の炎が灯されるなら、
香りは言葉になるのです。
愛の炎が灯されるなら、
香りは言葉になるのです。
2 夕暮れ時のそよ風は、
優雅にささやきました。
あなたの想いを包んだけれど、
あなたは言葉が分からなかった。
愛の炎が灯されるなら、
ささやく言葉になるのです。
愛の炎が灯されるなら、
ささやく言葉になるのです。
3 夕陽の投げる木漏れ日は、
輝く文字で伝えます。
金のヴェールで包んだけれど、
あなたは言葉が分からなかった。
愛の炎が灯されるなら、
輝く言葉になるのです。
愛の炎が灯されるなら、
輝く言葉になるのです。
♪♪♪ 再びの3和音がクリスタルの響きで高らかに鳴り渡り、
3匹の小蛇のうち、葉の陰から顔を覗かせアンゼルムスをうっとり見つめてきた1匹が、
「愛の炎が灯されるなら」のフレーズを繰り返す。
アンゼルムスも夢見心地で、「愛の炎が灯されるなら」と、彼女と声をそろえる。
♪♪♪クリスタルの3和音がいっそう高らかに鳴り響くと、どこか遠いところから、威厳に満ちた低い警告のような歌声が夢のような空気を一転させる。
♪ 戻っておいで (リントホルスト)
おーい、おーい。
何をペチャクチャやってるのかね?
おーい、おーい。
山の彼方に消えた光を、
いつまで探しているのかな?
日光浴は、もう充分。
歌もたっぷり歌ったのだ。
木の茂みや草地を抜けて、
戻っておいで。
草から川辺に、
降りておいで。
さあ、戻っておいで。
3匹の蛇はすうっと、エルベ川に通じる草むらに隠れてしまい、呆然と佇むアンゼルムスを残し、にわとこの木は静寂に包まれる。
蛇たちの進みゆく茂みはキラキラとほのかな光を放っていた。
♪ ああどうか、もう一度! (アンゼルムス)
ああどうか、もう一度!
あの瞬きを、輝きを!
愛らしい金色の蛇さんたち?
どうかもう一度、聞かせておくれ。
あの鈴のようなささやき声を。
祝福された青い瞳で、
もう一度、僕を見つめて。
一度でいいから!
でなきゃ僕は、
あまりの苦しみと、
あまりに激しい憧れで、
死んでしまいそうなんだから!
あの美しい青い瞳で、
もう一度、僕を見つめて。
一度でいいから、お願いだ!
にわとこの枝を激しく揺さぶり、必死で話しかける青年の様子を、通行人らが珍しそうに見つめている。
「あの人、何だか様子がおかしいみたいね!」
家族連れの女性のひと言で、はっとアンゼルムスは我に返る。
深い夢から覚めたよう。
「ジロジロ見ちゃいけません」と、子どもらに注意している婦人や、ヒソヒソと話しながら憐れみの目線を投げかける人々を目の当たりにして、アンゼルムスはすっかりうろたえ、どうしていいか分からない。
「きっとお祭り騒ぎで、飲み過ぎたんだろうね」
家族連れの父親が、落ちていたアンゼルムスの帽子を拾い上げ、落ち着いた口調で優しく諭す。
「誰にでも、よくあることですよ。こんなところでくよくよしてないで、お家にお帰りなさい」
すっかり恥いったアンゼルムスは、帽子を受け取り丁寧に一礼して、足早にその場から去り行く。
と、楽しそうなはしゃぎ声が、♪〈今日は素敵な昇天祭〉の歌声と共に前方から聞こえてくる。
「アンゼルムス君! アンゼルムス君!」
船頭が操るボートに乗った一行が手を振っている。
「そんなに急いでどうしたんだね?」
呼びかけているのは教頭のパウルマン。2人の娘と、書記のヘールブラントと舟遊びを楽しんでいる模様。
「どうかね? 一緒にエルベを下って今夜はうちで過ごそうじゃないか」
「そうしましょう♪ そうしましょう♪」
2人の娘も声をそろえ、アンゼルムスは喜んでボートに乗り込む。
♪ エルベの楽しい川下り (ボートでの合唱)
対岸の公園で花火が盛大に打ち上げられ、娘たちは歓声を上げる。水面には空で輝く閃光が反射し、アンゼルムスはその中を見つめるや、腕を伸ばして叫び出す。
「やあ、君たち! そんなところにいたんだね?」
アンゼルムスが〈ああどうか、もう一度!〉のフレーズを歌いながら身を乗り出したので、危うくボートがひっくり返りそうになる。
「だんな、気でも違ったかね?」
船頭は叫びながら彼の上着を押さえ、ボートはどうにか転覆を免れた。
「こんな発作など、これまで無かったはずだが......」
パウルマン教頭と書記役のヘールブラントが、衝撃を受けつつ、ひそひそと話している中、アンゼルムスは再び水面に惹きつけられる。
「アンゼルムスさん♪ アンゼルムスさん♪」
水の中から歌うような声が聞こえてくる。
「あなたは再び、私たちの妹にお会いできますよ」
それはアンゼルムスにしか聞こえていない、小さな、微かなささやき声。
「信じて下さい、私たちを。信じてね!」
アンゼルムスの関心が、再び水面に引き寄せられゆく様子に、パウルマン教頭は心配そうに隣に腰を下ろし、どうしたのかね? と、彼の手を取り、改まって尋ねてみる。
♪ 夢見心地は誰にでも
(アンゼルムス、ヴェロニカ、ヘールブラント)
(アンゼルムス)
にわとこの茂みで、
不思議な光景を
見たんです。
夢ではなく、はっきりと。
美しく青い瞳。
金色に輝く、
3匹の小さな蛇。
クリスタルの声の、
不思議な歌声を
聴いたんです。
夢ではなく、はっきりと。
(ヴェロニカ)
そうしたことは、
よくあること。
きっとそれは、
夢なのですわ。
にわとこの木の下で、
不思議な夢を
見たのでしょう。
眠っていたのに、
起きていたと、
思い違いをされてるの。
(ヘールブラント)
そうしたことは、
よくあること。
一杯の珈琲が、
無くした書類の在処を
教えてくれたり。
見たこともない
ラテン語の古い書物が、
目の前で踊り回ったり。
夢ではなく、
起きてる時に、
はっきりと。
(三重唱)
そうしたことは、
よくあること。
(ヴェロニカ)
きっとそれは、
夢なのですわ。
(アンゼルムス、ヘールブラント)
夢ではなく、
起きてる時に、
はっきりと。
ボートは岸辺に寄せられ、一行は舟から降りる。アンゼルムスはドジを踏むこともなくヴェロニカ嬢を上手にエスコートし、オーケストラが奏でる ♪〈エルベの楽しい川下り〉のメロディーに乗って、いったん幕は閉じられ、そのまま第2場へ。
第1幕 第2場 パウルマン家のサロン
♪ 幻想小曲集Op.12-1〈夕べに〉
アンゼルムスがグランドピアノを優しく奏で、側ではヴェロニカがピアノにもたれかかり、うっとりと耳を傾けている。
幼い妹のフランチスカは、ソファーで熱心に編み物をしている。
パウルマン教頭とヘールブラントが、満腹げに入ってくる。
「家内の手料理は、中々のものでしょう?」
「いや〜、ご馳走さまでした」
「さあ、いつものように音楽を楽しみましょう!」
「お父さま? 今夜はアンゼルムスさんがいらっしゃるから、伴奏も頼めるわね」
ヴェロニカがはしゃぐ。
「今の曲と同じく、シューマンの最新の曲ですよ。ヴェロニカさん、如何です?」
ヘールブラントがピアノの譜面台に〈胡桃の木〉の楽譜を広げ、アンゼルムスはさらりと弾き始める。ヴェロニカが澄み切った美しい声でしっとりと歌う。2人共に初見ながら、歌曲の雰囲気をきちんと掴んでいる。
アンゼルムスはそのまま伴奏を続け、パウルマンのリクエストで、モーツァルト〈春への憧れ〉をヴェロニカが軽やかに歌い、酔いも手伝ってパウルマンはフランチスカを誘って楽しげにステップを踏む。
ヘールブラントは、シューベルト〈君は我が憩い〉を物憂げに歌った後、学長グラウン氏の〈技巧的アリア〉を、素晴らしい歌声にて披露する。
そしてパウルマン自らが作曲した〈爆走デュエット〉で、一同は大いに陽気になって盛り上がる。
宴もたけなわといったところで、パウルマンがおもむろにヘールブラントを促し、アンゼルムスに、「良い知らせがあるのですよ」と、歌い出す。
♪ インクの染みにご用心 (ヘールブラント)
郊外の古い館で孤独に暮らす、
風変わりなご老人、
文書管理家リントホルスト。
古文書の研究家にして、
化学の実験もしている噂。
秘密の図書室にも、
秘密の実験室にも、
何人たりとも入れない。
沢山の珍しき書物は、
アラビア語やら、
古代エジプト語やら、
この世の言語に当てはまらない、
奇妙な文字で書かれたものも。
そんな原稿の筆写の仕事。
羊皮紙に黒インク。
必要なのは、精密さ。
寸分たがわず、あらゆる文字を、
正確に、筆写の仕事。
作業は昼から夕方まで。
3時の休憩には食事付き。
だけどインクの染みにはご用心。
苦心の筆写は台無しに。
それがまさかの原本だったら、
窓から放り出されてしまうでしょう。
これまで誰もが上手くいかず、
誰もがその場でお払い箱。
その点、あなたは達筆ですし、
実に丁寧な仕事ができる方。
だけどインクの染みにはご用心。
苦心の筆写は台無しに。
それがまさかの原本だったら、
窓から放り出されてしまうでしょう。
それでも魅力は、お礼の銀貨。
出来が良ければ、更なる褒美。
だけどインクの染みにはご用心。
大いに喜んだアンゼルムスは、ヘールブラントと握手を交わし、仕事を引き受ける姿勢と意欲を見せる。
ホフマンのピアノ・ソナタ、第2番の緩徐楽章ラルゲットの穏やかなメロディーに乗せて、感謝の想いを込めて、♪ 〈それは大変ありがたい〉を歌い、そのまま厳かな全員合唱で第1幕を閉じてゆく。
合唱が続く中、既に下りている幕の前、舞台上手でアンゼルムスが自宅で鏡に向かい身支度を整え、いそいそと出かけてゆく。
舞台の下手には、リントホルスト家の厳しいドア。
12時を告げる教会の鐘が鳴り、アンゼルムスは深呼吸をして、ブロンズの輪の大きなノッカーに手を伸ばすと ———、
いきなり閃光が走り、ノッカーがりんご売りの老婆の顔に変わり、悪態をつき始める。
「愚か者! 愚か者めが! あの時、なんで逃げたのさ!?」
♪ 逃げるがいいさ (りんご売り=ラウエリン)
そうかい、逃げるか。
逃げるがいいさ。
悪魔の子めが。
どのみちクリスタルに、
お前は閉じ込められようぞ。
クリスタルの中にね!
恐ろしい歌と共に大蛇が現れて、悲鳴を上げるアンゼルムスの身体に絡みつく。
「殺してくれ! いっそのこと殺してくれ!」
アンゼルムスは意識を失い、硝煙と共に舞台は暗くなる。
上手に再びアンゼルムスの自室。
ベッドから起き上がるアンゼルムス。傍に立つパウルマン教頭が、呆れ果てた口調で告げるのだった。
「いったい全体、何てことをしでかしてくれたんだろうね! アンゼルムス君!」
第2幕「リントホルストの不思議な館」(次週 7/12 公開)に続く...
