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レポート:『冒険する組織のつくりかた「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』出版記念イベント@関西大学梅田キャンパス

本記事は関西大学梅田キャンパスが主催した、『冒険する組織のつくりかた「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』(テオリア)出版記念イベントのレポートです。

本書の著者である安斎勇樹さん(株式会社MIMIGURI代表取締役 Co-CEO)が登壇され、松田佳織さん(関西大学梅田キャンパスがモデレーターを務められた今回の企画には80名近くの方が申し込みをされ、当日の会場にも多くの方が詰めかけられていました。

『冒険する組織のつくりかた「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』

会場となった関西大学梅田キャンパスにはTSUTAYA BOOK STOREも併設されており、書店では今回の出版記念企画に合わせて安斎さんのこれまでの書籍も並べた特設コーナーが設けられており、8Fの会場にも書籍コーナーが準備されていました。

イベント当日。会場1Fの書店にて

以下、今回の企画に参加しての気づき・学びをまとめていければと思います。


『冒険する組織のつくりかた』出版記念企画の背景

安斎さんがご自身の関わった書籍の出版記念企画に参加するため、関西大学梅田キャンパスに訪れるのは、今回が初めてではありません。

これまで、関西大学梅田キャンパスでは安斎さんが著者として携わった書籍の出版記念イベントが何度か開催されており、今回が3回目となります。

私自身、関西が拠点ということもあり、探究のテーマにも重なる部分があり、著者の安斎さんが関西にいらっしゃる機会はありがたく、これまでも参加させていただいていました。

初めて安斎さんとご一緒したのは、2023年11月。塩瀬隆之さん(京都大学総合博物館 准教授)と共に登壇された、『問いのデザイン』(学芸出版社)出版3年ちょっと記念企画です。

当日は、『なぜ今、「問いのデザイン」なのか?』といったテーマについて出版後の反響やコロナ禍、生成AIの台頭などの社会背景も踏まえたお話をいただき、その内容はグラフィッカーの皆さんにグラフィック・レコーディングとしてまとめていただきました。

当日のグラフィック(一部:詳細はこちら

次に安斎さんにお会いすることとなったのは、2024年6月。同じく関西大学梅田キャンパスにて開催され、『チームレジリエンス』(日本能率協会マネジメントセンター)著者の池田めぐみさん(筑波大学ビジネスサイエンス系 助教)と共に登壇された、超!出版記念イベントの場でした。

登壇中の安斎さんと池田さん

この企画では安斎さんの著書である『問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)とその中で扱っているテーマも交え、『チームレジリエンス』との関連や共通する課題意識などについても共有いただきました。

そして今回。2025年1月24日に『冒険する組織のつくりかた』が出版され、その3日後に安斎さんを招いての出版記念イベント実施、という驚きのスピード感で今回の企画は開催されました。

オープニング時の安斎さん

会の冒頭には、本書の編集に携わられた編集者の藤田悠さん(テオリア)との執筆プロセスにも言及されつつ、終盤には次回作以降の構想も語られる濃密な機会となりました。

以下、イベント当日に安斎さんが語られた内容を、背景情報も交えてまとめていければと思います。

安斎さんの探究の変遷

イベント冒頭、安斎さんは「自分は学習論の研究をしてきた人間です」とお話しされ、その探究と実践の末に『冒険する組織のつくりかた』を書くことになったと続けられました。

以下、安斎さんのお話をもとに周辺情報も拾いつつ、その探究の変遷を追っていければと思います。

ワークショップ

安斎さんは学びが促進される場の仕立て、デザイン、進行の技術という観点からワークショップの研究に取り組まれ、『創発的コラボレーションを促すワークショップデザインという博士論文にまとめられた他、2013年には『ワークショップデザイン論』(慶應義塾大学出版会)を共著で出版されています。(2021年に本書の第2版が出版されています)

そして、さまざまなワークショップの依頼を受ける中で来る日も来る日もワークショップを実践する日々が続く中で、ある自動車メーカーの「カーナビ」を開発する部署のプロジェクトでワークショップを行う機会がありました。

この時の気づきと体験から、ワークショップ以前に、組織やチームとしてめざすべき目標、扱うべきテーマ設定に影響する「問い」の設計の重要さにテーマがシフトしていくことになったそうです。

問いに関する探究

安斎さん自身、冗談めかして「古典落語」と称されていたこの「カーナビプロジェクト」の事例は、それだけ大きなインパクトと普遍的な教訓が含まれているように思います。

では、そのプロジェクトとはどのようなものだったのでしょうか?

その部署ではトップの指令によって「人工知能(AI)を活用した未来のカーナビ」のアイデアを考える企画会議を繰り返した後、安斎さんに相談が来たというのです。

安斎さんご自身は運転免許を持っておらず、車に搭載されるカーアクセサリーに関しても詳しくなかったため、その必要性や利便性についてもイマイチしっくりこなかった様子。

『そもそも、なぜカーナビを作りたいのですか?』と率直に問い直した時、『自分たちは、別にカーナビを作りたいわけじゃない。生活者に”快適な移動の時間”を提供したいのだ!』と返って来たというのです。

その瞬間、安斎さんもチームも「これだ!」と発想の転換が起こったと言います。

ワークショップの実施もプロジェクトの目標設定も、そこに適切な問いやテーマ設定がなければ奏功することはありません。

では、なぜそのような状況に陥ってしまうのか?今、私たちが必要としている問いの設計や問いかけることはどういったことで、どのような効果が考えられるのか?

そうしたテーマが『問いのデザイン』『問いかけの作法』で扱われています。

上記のような問いの探究を進められる中で安斎さんが紹介されたのが、現代に共通する2つの病。「認識の固定化」と「関係性の固定化」です。

認識の固定化:
当事者に暗黙のうちに形成された認識(前提となっているものの見方・固定観念)によって、物事の深い理解や、創造的な発想が阻害されている状態

関係性の固定化:
当事者同士の認識に断絶があるまま関係性が形成されてしまい、相互理解や、創造的なコミュニケーションが阻害されている状態

「問いのデザイン」が解決するもの:組織に蔓延する2つの病い

関係性の固定化は、組織内の上司と部下、営業と技術者などの関係性の中で、相手に対する一方的な思い込みによって分断が起こり、共通したコミュニケーションのパターンに陥っている状態です。

認識の固定化について、さらに一歩踏み込んで安斎さんはロナルド・ハイフェッツ(Ronald A. Heifetz)が提唱した、技術的課題(Technical Problems)適応課題(Adaptive Challenges)について言及されました。

物事にはやり方・解き方がわかっていれば解決できる技術的課題(Technical Problems)と、互いの認識や認知、関係性が変化しなければ解くことができない適応課題(Adaptive Challenges)があり、そもそも私たちが解決しようとしている課題に対して、その解決に即した適切なアプローチを取れていない場合もある、というのです。

技術的課題(Technical Problems)として直面するさまざまな問い、課題、テーマであれば『誰が早く辿り着いたか?』『誰が正確に辿り着いたか?』を重視し、解決のために必要な能力、スキルを整えることで対処することが可能です。

しかし、現在私たちの多くが直面しているのは適応課題(Adaptive Challenges)と呼ばれる、明確な答えがわからず、関係性や文脈も複雑で認識や捉え方の変化、相互作用の中からでしか解けないものが多く、そこに直面したときに問われるのは『なぜ、それに取り組むのか?』という問いです。

以上、安斎さんは企業、組織でのワークショップの実践から、現代の組織が陥っている病理と、それらを揺さぶる問いの探究へとその軸足を移して来られました。

また、『問いのデザイン』出版以降は、現代の組織づくりのそもそもの前提となっている世界観や構造にも目を向けられるようになりました。

そして、現代のビジネス環境には「軍事的世界観」とでも呼べそうな世界観・価値観の体系があるのではないか?現在の社会環境と従来の「軍事的世界観」に基づいた組織づくりに齟齬が生じつつあり、それが病理を生み出す一端になっているのではないか?とさらに探究を深められています。

軍事的世界観と冒険的世界観

現在の私たちの組織、社会の制度づくりは『軍事的世界観』に大きく依拠したものであり、それは戦略、戦術、ターゲットといった言葉に現れたり、かつては軍隊の兵士の育成に用いられ、現在は子どもたちに対して提供されている計画的かつ画一的な教育といったものに現れています。

一方、特にコロナ禍を経た2020年代以降、人々のキャリア観の変化が顕著に現れつつあります。

それは、「会社中心のキャリア観」というべきものから、「人生中心のキャリア観」というべきものへのシフトです。

コロナ禍以前にも人生100年時代という表現や、リスキリングといったトレンドはありましたが、コロナ禍はさらに人々のキャリア観に大きな影響を与えました。

安斎さんは、コロナ禍に見舞われた時期は歴史上、類を見ないほど人が会社を辞めた大退職時代(The Great Resignation)であったことに言及しつつ、社会の大きな変化により人々に働き方、生き方に関するディープリフレクション(深い内省)が起こったのではないか?とお話されていました。

そして、未曾有のコロナ禍に見舞われたことでオンラインコミュニケーションのツールやそれらを用いた働き方が発展、拡充され、ライフスタイルにも変化を与えたことも、一部の人々の離職の後押しになったようです。

このような社会背景を踏まえつつ、2023年の『問いのデザイン』出版3年ちょっとイベントの時点で安斎さんは、組織による「社会的価値の探究」と個人の「自己実現の探究」をいかに整合させていくか?が重要であり、『会社はこれから探究の場になっていく』とお話されていました。

そして、それらを探究する際は以下の問いのような形を取るとのことです。

・組織のパーパスと個人のパーパスをいかに整合させていくか?
・私は何者になっていきたいのか?
・なっていきたい私と、この組織の方向性は重なっているのか?

「問いのデザイン」出版3年ちょっと記念企画のお話より

ところで、近年では「パーパス経営」「人的資本経営」「健康経営」のほか、「IDGs(Inner Development Goals心理的安全性など、経営や組織づくりにおけるさまざまな施策やアプローチに注目が集まるようになりましたが、それらは世界観や組織のOS(オペレーション・システム)をアップデートすることなく、アプリケーションのように取り入れてもうまく取り扱うことができません。

では、軍事的世界観とそれに基づいた組織モデルに変わる新しいモデルとはどういったものとなるのでしょうか?

以上のような前提を踏まえ、本書『冒険する組織のつくりかた』は執筆されました。

『冒険する組織のつくりかた』

本書の読み進め方

安斎さんはこれまで、ワークショップの実践から問いのデザイン・問いかけること、そして、現代の組織を取り巻く世界観と、世界観に基づいて設計された組織づくりのシフトへと探究を進めて来られましたが、本書『冒険する組織のつくりかた』が初めて「組織」とタイトルの付いた書籍となります。

出版記念イベント当日は、先述のような前提共有および第Ⅰ部の理論編を中心に安斎さんに紹介いただき、「特に第2章を乗り越えてほしい」とお話しいただきました。

第2章は従来の組織モデルの検証と批判、また、冒険する組織の新しい組織モデルに関して記述されており、「最も脱落者が増えるであろう章」とのことです。

その第2章では、現在の組織づくりの源流となったモデルとして、デイビッド・A・ナドラー(David A Nadler)マイケル・L・タッシュマン(Michael L Tushman)整合性モデル(congruence model)および、本書が提案する新しい時代の整合性モデルであるCCM(Creative Cultivation Model)が紹介されています。

なお、今回の出版イベントでは本書を取り巻く裏話、本書に書かれていない内容を中心にお話しいただいたため、本書を読み進める上でのヒントは安斎さんご自身も執筆されている以下のnote記事もご覧ください。

第9章あるいは第0章として

今回の企画の最も熱く、面白いテーマはやはり、安斎さんが本書に書けなかったという「第9章あるいは第0章」と題したお話でした。

なお、この時扱われた講義スライド、お話の内容の詳細は以下の記事にて掲載されており、ここではあくまで印象的だった内容とその感想を簡潔に述べるにとどめたいと思います。(出版記念イベント翌日には以下の記事が公開されていました)

「第9章あるいは第0章として」と題した一連のお話の中で印象に残ったテーマは、以下の4点です。

そもそも、探究/冒険の定義とは?
人生中心のキャリア観とアイデンティティ
相互に影響しあう個人(のアイデンティティ)と共同体
いかに私と、私が参加している共同体(ひいては世界)との価値を整合させていくか?

当日のお話より

一連のお話の中で紹介された、「冒険/探究の定義」については特に印象に残っています。

『冒険する組織のつくりかた』の中では「冒険/探究」に関して明確な定義づけが行われておらず、この場で初めて紹介されるというのは衝撃的でした。

冒険/探究とは

不確実な外部環境において
「まだわかっていないこと」に「好奇心」を向けて
実験と熟慮を重ねることによって
私の動機と世界の価値の整合の仕方について
より良い仮説」を見つけようとする活動のこと

当日のお話より

「ヒートアップしすぎて、もしかしてスベった?と心配だった」とお話しされていた安斎さんでしたが、議論の展開と収束に向かうプロセス、ほとばしる熱量、そして、最後に現時点のものとして更新された冒険/探究の定義など、お話のどれもが刺激的でした。

貴重なお話を伺うことができたことに感謝いたします。

終わりに

以上、当日に語られた内容をもとに『冒険する組織のつくりかた』の出版記念イベントについてまとめてきました。

今回のイベントについてまとめるためには、『冒険する組織のつくりかた』の出版に至る安斎さんの探究の旅路を辿ることが必要となりました。

そして、安斎さんの探究の旅路を辿るプロセスからこそ、多くの学びや気づきを得られたように思います。

今回のまとめが、皆さんの探究の一助となれば幸いです。

冒険する組織のつくりかた「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法

さらなる探求のための関連リンク

2/27 (木)安斎勇樹さん出版記念イベント「冒険する組織のつくりかた」:特別ゲスト「問いのデザイン」共著者 塩瀬隆之氏

最新刊 #冒険する組織のつくりかた 最速レビュー!そしてミナベの出版構想とは|CULTIBASE Radio #35

チームの限界を超えた学習を生み出すには?:“二重編み構造“による実践共同体の活用

#274 新進気鋭の出版社「テオリア」とは!?(テオリア代表 藤田悠さん対談)―安斎勇樹の冒険のヒント


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