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紫がたり 令和源氏物語 第二百四十一話 常夏(一)

 常夏(一)

内大臣が生き別れの姫を探しているという噂は密かに広がり、どうも近頃そうした姫を引き取ったということです。
源氏は玉鬘姫を見出した自分に張り合おうとする内大臣の意地っ張り加減が愉快でなりません。
「姫、内大臣はまた一人あなたの姉妹を見出したようですよ。まったくいつまでたってもライバル心の強いお人だなぁ」
「そうですか・・・」
玉鬘はいつまでたっても父に会わせてもらえないことが不満でなりません。それどころか自分の姉妹が何の障害なく父に引き取られたことが羨ましくて、このまま自分はどうなってしまうのかと不安でならないのです。
「やはりあなたはしっかりとした夫を持ってから再会されたほうがよさそうですね。物の数にも数えられぬでは不憫ですから」
そう源氏は言い含めようとしますが、それは言い訳に過ぎないのだと玉鬘には感じられるのでした。

 ある夏の日、うだるような暑さに源氏は夕霧やその友人たちと夏の御殿の庭の釣殿で涼を取っておりました。桂川からの鮎や賀茂川の石伏といった魚を目に前で調理させ、酒を飲みながらの夕涼みです。
「それにしてもこう暑いと管弦の遊びをする気も失せるね。君たちも楽にしたまえよ。こんな日に内裏ではみな真面目に襟元をきっちりと詰めて公務にあたっているんだろう。気の毒に」
源氏は直衣の紐を弛めて柱にもたれかかりながらくつろいでいます。
そこへ内大臣の子息の弁の少将と藤侍従が夕霧を訪れました。
「これはちょうどよい。お二方も加わって退屈をまぎらわしておくれ」
源氏は内大臣が新しく引き取ったという姫の話を聞きたくて仕方がありません。
「ときに内大臣が御子を見つけ出して引き取ったというのは本当かね?」
弁の少将は辛いことを聞かれる、と顔を歪めました。
「いかにも兄の柏木がそのように名乗る女の元で姫を見つけ出したようでございます。しかし私などは何も存じませぬもので」
藤侍従も歯切れが悪く、居心地が悪そうです。

 新しく引き取られた姫は近江の君と呼ばれておりますが、外見はなるほど内大臣によく似ていてそこそこに美しいのですが、生まれが下賤の為か貴族の姫として相応しくない言動をとられるのです。
それまでろくな教育も受けておられぬもので、弁の少将は恥ずかしい妹と顔から火が出るほどに感じています。
「内大臣は若い時分にはそれはお盛んでね。最下層と言われるような女も相手しておられた。そうした腹から高貴な姫が生まれるとも思われないが、内大臣の子に対する愛情は見上げたものだ。夕霧よ、いっそその落ち葉(=落胤)の姫でも妻にすれば雲居雁を得られなかった慰めになろうよ」
源氏は内大臣の夕霧への仕打ちを根に持っているので、このような嫌味たっぷりに弁の少将や藤侍従を目の隅でちらりと眺めました。
二人の息子は父親の過去のことなどを聞くのも恥ずかしく俯きましたが、夕霧は二人を友人と慕っているので口を挟まずにはいられませんでした。
「父上、そのあたりで勘弁してあげてください。可哀そうではありませんか」
「そうさな、年寄りは退散するとしよう。あとはお若い方々で楽しまれよ」
源氏はそのまま庭を抜けて玉鬘の住む西の対へと赴きました。

次のお話はこちら・・・


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