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紫がたり 令和源氏物語 第七十二話 賢木(一)

 賢木(一)

世間というものは当人の心裡を思いやることもなく、無情な噂ばかりたてるもので、世の人々の今の関心事はといえば、そろそろ喪が明ける源氏の大将の新しい北の方は誰になられるのであろう、などと下世話な話で盛り上がっているのです。
そんな話を耳にするたびに、胸を苦しくされている女人達のなんと多いことか。

右大臣の六の姫、朧月夜の姫もその一人です。
花の宴の宵に偶然出会った二人ですが、政敵ともいえるような間柄。
六の君はあろうことかその時まだ東宮でいらした帝の后として入内するはずの姫でした。
六の君はあの一夜の恋を忘れることができないでおりました。
そして約束を違えずに自分を見つけ出した源氏の君を想うと、他の男性の元に嫁ぐなど、どうしても考えられないのです。
六の君が入内することを頑迷に拒んでいらしたので、姉の弘徽殿大后(こきでんのおおきさき=皇太后)は不審に思いました。
こうした時に働く女の勘というものは鋭いもので、悪い予感というのは必ずと言って的中してしまうのです。
女房達に探りをいれたところ、藤の宴の夜におかしなことがあったと耳にしました。
まさかと思った大后は六の君を問いただし、源氏の君とのことを知ったのです。
怒りのあまりにこぶしを震わせ、六の君に扇を投げつけました。
「この痴れ者が、まんまと源氏なんかにたぶらかされて!!」
あまりの剣幕に姫は怯え、震え上がりました。

こうした事情が父親の右大臣にも知られ、
「さて、どうしたものか」
と右大臣は心を悩ませました。
しかし弘徽殿大后とは温度差があるのです。
弘徽殿大后は桐壺更衣との経緯もあって源氏を毛嫌いしておられますが、それは女の感情的な部分でのことで、右大臣はそもそも源氏をそれほど憎く思っていないのです。源氏が成人するにあたり、自分が後見として指名されていたならばこれほど光栄なことはなかったであろうに、とまで考えておられます。
ことあるごとに優れた資質を目の当りにしてきたこともあり、やはり当代きっての公達と認めざるを得ません。
しかも源氏は正妻・葵の上を亡くしたばかり。
右大臣は六の君を源氏に与えてもよいと考えておられました。
源氏以上に優れた者など見当たらず、婿として迎えられるならばこれほど嬉しいことはないでしょう。
その旨を大后にほのめかすと、大后は自分の父親にまで怒りの矛先を向けました。
「源氏を我が家の婿にだなんて、虫唾が走る。あんな好色な男を婿にしても六の君が不幸になるだけです。位は低くとも入内させれば、六の君ならば充分出世できるでしょう」
さすがの右大臣もそれ以上は言えなくなり、六の君はいずれ宮仕えに出される心積りで日々を送るしかないのでした。

次のお話はこちら・・・


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