クロニクル・ウェイファー:星辰の旅人(1)
1-1:アストラリスの神殿跡
星の光に照らされて、夜闇の中に石造りの門と柱がぼんやりと浮かび上がる。かつてはさぞ豪華な神殿だったのだろうが、現在では天井も壁もほとんどが崩れ落ち、文明の跡が残るばかりだ。石柱や崩れかかった壁、石門など至る所に刻まれたルーン文字だけが、辛うじてこの場所の重要性を物語っている。
夜の静謐に包まれた神秘の遺跡――それにしては空気が重い。布と革を組み合わせたチュニックとロングパンツ、さらに外套まで着けているのにうすら寒いとさえ感じる。これが「星辰の歪み」の影響というやつか。
「ユウ、この歪み…クロノヴォイドの力が近い。星辰のオーブが反応しているわ」
長い銀髪が風になびく。何の因果か旅仲間となってしまったセリス・スターウィスパー(NPC)が、神殿の奥と手元のオーブとに交互に目をやりながら、静かに呟いた。このオーブは本来の姿を取り戻す前の欠片のようなものというが、不思議な力を宿す以外に詳しくは知らない。
神殿跡の奥の方にはどうやら今回の目的――クロノヴォイドとやらがあるということだが、しかし。
(首つっこんだのはいいが、思ったより面倒事かもしれないな)
ユウこと俺、ユウ・ムーンブライト(プレイヤー:@YuKanzuki)は愛用の剣を構え、戦いの体勢を整える。遠くから、獣のような低いうなり声が既に聞こえているからだ。
ついでに視界の端には、石柱の陰で震える魔術師らしい男の姿もある。このまま迎え撃つには少々不利な状況かもしれない。
集中し、感覚を研ぎ澄ませる。その意図に気付いたセリスが一歩下がり、手にした杖を構えた。彼女の纏う「星輝のローブ」揺れ動くたび、縫い込まれた金糸がきらめく。がやや幼いくらいの顔立ちでありながら妙に落ち着きがあるのは、彼女がエルフだからだろう。見た目以上に長く生きているに違いない。
「ユウ、何か感じる?」
囁きには応じない。無言のまま気配を探る、それ自体が答えだ。
(――東か、二匹いるな。まだ距離はあるが……片方は厄介そうだ)
まだこちらに気付かれてはいなさそうだ。ただ、獣と思しき二匹は魔術師へと近づきつつある。
気配のほうへ視線を向けると、やがてセリスも気付いたようだ。エルフの長い耳は、人間のより聴力が高いのかもしれない。
「魔獣……クロノヴォイドの影響で狂暴化しているわ」
あちこちで動物や植物、ある種の精霊までが狂暴化し、魔獣へと変貌している――そんな話を耳にすることが多くなった。その原因がクロノなんたら、ということらしい。
「魔術師を守らないと、欠片の手がかりが失われる」
使命感に満ち溢れているわりに、彼女も案外クールな面がある。そこは何というか、手がかりの話は抜きに助けてあげようぜ。
まあ一戦交えるつもりなのは間違いない。セリスの周囲に星屑のような光が舞う。彼女と心を通わせる光の精霊・ルミナの力の表れだ。天使と称されることもあるルミナだが、小さな体で自在に宙を舞う姿は妖精といった方がしっくりくる。
「魔術師を守るのが先決よ。私がルミナの光で魔獣を引きつけるわ」
セリスの言い分はもっともで、戦って勝てない相手でもないだろう。だが、抜き身の剣は一度鞘に収める。
「……消耗するにはまだ早い。一旦やり過ごそう」
目的は魔獣の討伐ではない。近づいてきているのは言わば野良、避けられそうな戦いなら避けておきたい。この後が控えていない、とは限らないのだし。
「分かったわ。ルミナの導きで道を照らしましょう」
セリスには戦いでなく、隠密行動のサポートを頼む。戦いを避けながら、魔術師に近づき安全を確保する――少々手間のかかる作戦も、精霊の力で危険の少ないルートが分かればずいぶん容易になる。さらに、身に纏っている「宵闇のマント」はこういう時に便利だ。足元には瓦礫やら石片やらが転がっていから、そのままではローブに身を包むセリスの方が動きづらいだろう。
魔術師が身を隠す石柱まで、音もなく近づく。こちらに気付いた魔術師が目を見開いた。魔獣と勘違いでもしていたか。
「お前たちは……ウェイファーか?」
ふるえる声に静かにうなずく。と、恐怖にひきつった表情が一瞬だけ和らいだ。
「クロノヴォイドの欠片が、神殿の奥、星の祭壇にある。だが、魔獣が……!」
何とか話せる程度には落ち着いたかと思ったが、その顔がまたも恐怖に歪む。明らかに実戦でドンパチやらかすタイプでもない、近くをうろつく魔獣の姿にパニック寸前の様子だ。
(まずいな、このままだと気付かれる)
野生の勘は馬鹿にできない。落ち着きを失った獲物の気配など、すぐに察知される――いや、魔獣は既に距離を詰めにかかっているように見える。
「……どうする? 最短距離で祭壇まで行くか、戦うか」
セリスが問うてくる。あまり考え込む時間はない。迎撃が妥当だろう。奥に進んだその先にまで敵がいれば、最悪の場合は挟み撃ちにされてしまう。
(だが、もう一手)
「――神殿のルーン文字、使えそうなら利用しよう。距離があるうちに」
ルーンの放つ微かな魔力をとらえ、その構造と効果を読み解く。セリスがルミナの力を行使してルーンの力を増幅すると、一瞬のうちに理解が進んだ。これはおそらく、侵入者を排除・排斥するためのもの。
「そのルーンは星辰の力を……古代の……守護魔法……!」
魔術師が息も絶え絶えに言う。どうやら当たりだ。戦いにも利用できるだろう。一部が崩壊しているにもかかわらず魔法自体の威力は強いまま――ちょっとばかり、強すぎるくらいに。
「ルーンの力で魔獣を一掃できるわ。私も援護する」
セリスの言う通り、魔獣を一掃するくらいの力は充分にある。しかし、あまりに強大な力を使いすぎれば「星辰の歪み」が増すかもしれない。
(迂闊に手は出せないな)
歪みを正しにやって来たというのに、自分たちでより酷くしてしまっては本末転倒である。結局首を横に振り、ルーンの利用は諦めた。ただ、破損していながらも力を保っているということは、近くに散らばる破片にだってそれなりの魔力は残っているはずだ。
身を低くして奇襲の準備をする。極光の剣が再び星空に煌めいた。同時に石片を拾い上げて呪文を唱えると、欠片に残されていた星辰の力が剣へと移っていく。石片が砂塵のように崩れ去る代わり、刃の輝きがわずかに強まった。セリスのほうをうかがうと、彼女も小さくうなずく。援護の用意も整ったようだ。仕掛けるなら、今。
極光の剣が流星のような軌跡を描き、巨大な狼にも似た大型魔獣の背をとらえる。咆哮が響き渡り、それが戦闘開始の合図となった。コウモリ型の小型魔獣が即座に身を翻し、鋭い牙が夜の闇に鈍く輝く。しかしわずかに遅い。セリスの放った「星炎」がその身を焦がし、コウモリ型の気勢を殺ぐ。どちらもかなり効いているが、まだだ。
「ユウ、小型魔獣を……!」
言われなくてもそのつもり、脇役はさっさと片付ける。セリスが精霊の力でさらに動きを封じたところに宵闇のマントを翻しつつ剣を一閃、難なく胴を切り裂く。刹那でもこちらの姿が消えたように映ったはずだ。何が起きたかはあの世でゆっくり理解してもらうか。
甲高い断末魔とともに、小型魔獣は黒い霧と化して消えていった。その叫びが奇襲での混乱を鎮めたか、狼型のデカいやつが俺たちを睨めつける。血の色をした眼が殺気に満ち、再び咆哮が響く。最初はただの驚き、今度のは明確な敵意――威嚇だ。次の瞬間、オオカミ型が矢のような突進とともに爪を振り下ろした。その爪が抉ったのはしかし石柱だけ、直線的な動きは引きつけて躱すに容易い。
砕かれた石柱の破片がそこらに散らばり、再び間合いが開く。見た目はちょっとばかり大きいオオカミでも、膂力はやはり動物の比ではない。長々とじゃれ合うのは不利だろう。
(警戒しているな)
続けざまに向かってこないのは、獣なりに考えてのことか。ただ飛び掛かるだけでは勝てないと。なかなか頭が良い――好都合だ。今度はこちらから仕掛ける!
一歩を踏み出すと同時に足下の石礫を蹴り飛ばす。一瞬でも注意を逸らせればラッキー、程度に目論んだ小細工は上手いこと魔獣の眼をとらえた。生まれる一瞬の隙、横薙ぎに閃く刃の一筋、そして三度の咆哮。
魔獣の体は黒い霧となって夜闇に溶けていく。先に片付けた、小型のやつと同じように。やがて空気の質が少しだけ軽くなる。近くに他の敵の気配もない。どうやら一段落ついたようだ。
身を隠していたままのセリスと魔術師に目で合図すると、二人ともようやく石柱の陰から姿を現した。魔術師に至ってはいつからそこにいたのかも分らない。目的のモノは奥の祭壇にあるということだが、情報はひとつでも多くほしいところ、休息がてら彼から話を聞くことにした。セリスが地面に文様を描き、簡易的な結界を張る。
「ありがとう、旅人たち。私はアストラリスの遺物を研究する者だ」
なるほど研究者――歴史学者とか考古学者とか、そういった職だろうか。道理で実戦向きでないわけだ。
「私は研究の過程で、ここにクロノヴォイドの欠片が存在している事実を突き止めた」
「俺たちの目的もそれだ。何処にあるか、見当はつくかい」
「神殿の最奥、今は崩壊している回廊を抜けた先にある、星の祭壇に封印されている。しかし……」
魔術師が言いよどむ。魔獣が霧と化してなお、何かに怯えている様子だ。
「話してくれないか」
間違いない。他に何か重要な事実を掴んでいる。怯え方からするとさっきの魔獣と同程度か、それ以上の危険をはらむ「何か」だ。ここでうっかり険しい顔などしてしまって「命の危険に晒すわけには」とか言われてしまっても困る。あえて笑みを崩さず、深刻な雰囲気を作らないことで魔術師は落ち着きを取り戻したようだった。彼がおずおずと口を開く。
「祭壇には、欠片を守る守護者が――星辰の力で動くゴーレムがいる」
ゴーレムというと、石や泥でできた、魔力で動くデカい人形……というのは説明されなくても分かるか。ただ、ひと言でゴーレムといっても作成者の力量で性能が大きく変わってくる。大きさなどは特にまちまちだ。魔術師はさらに続ける。
「石の身体をルーンでさらに強化していて、武器での攻撃はほとんど効果がないだろう。同じく星辰の力を用いた魔法なら、奴を動作させる星辰の力に干渉できるはず、それが奴の弱点になる。しかし強敵には変わりない。それに」
「それに?」
星辰の魔法が有効ならセリスにちゃっちゃと焼いてもらって、などと気楽に構えていたら、まださらに続きがあるようだ。やはり思ったより面倒事だった。
「祭壇の周囲には罠も仕掛けられている。迂闊には触れられず……離れた位置から罠の魔力を感知し、守りについたままのゴーレムを遠目に見るのがやっとだった」
で、帰る途中で魔獣に出くわして動くに動けず、というわけか。このご時世、フィールドワークも命懸けらしい。
「星辰の歪みを修復するには祭壇に封じられた欠片の浄化が必要、しかしゴーレムを倒さねばならず、罠も……これ以上の調査は私には不可能だ」
魔術師はローブのポケットから小さな薬瓶のようなものを取り出すと、疲れ果てた様子で項垂れた。
「このエキスは星の魔力を宿した霊薬……後は頼んだ、ウェイファー」
彼を連れていくことも考えたが、この状態ではどのみちお荷物だろう。結界の効力もしばらくは持つ。比較的安全なこの場所に魔術師を残し、神殿の奥、星の祭壇へと向かうことにした。
1-2 虚ろなる時
「次は私の出番かしら」
あちこち崩壊した神殿を道なりに進みながら、セリスが小さく呟いた。その周囲にルミナの発する光の粒が舞う。ゴーレムに剣が通じないのなら、攻撃は彼女らに任せきりになるはず。
「だろうな。さっき貰った薬、使っておきなよ」
「――ありがとう、いただくわ」
星の力が宿るというエキスを、セリスが体に振りかける。ルミナのものとは色合いの異なる青白い光が、一瞬だけ立ち上り、消えた。これで回復できたのだろう、たぶん。
セリスの魔法は強力なぶん魔力の消耗も大きい。エルフで実年齢不詳とはいえ彼女は旅人としては駆け出し、途中でガス欠なんてことになったら洒落では済まない。それに戦闘以外のところでも、セリスがいるのといないのとでは快適性が大きく違ってくる。
「かなり崩落が進んでるな、慎重に歩くにも限度があるぞ」
神殿の回廊は傷みが激しく、床石は剝がれてるわ天井は落ちてるわ、残った壁もわずかな衝撃で崩れそうだわと、一歩を踏み出した途端に転びそうな危うさがあった。普通に歩けば少しの距離を移動するにも時間を浪費してしまいそうだが。
「ルミナ、導きを――」
「ええ。行くべき道を照らしましょう」
セリスの願いにルミナが応え、光の道が浮かび上がる。先ほども使用した二人の得意技だ。より危険の少ないルートが照らし出され、難所も労せず切り抜ける。
「祭壇……あれか」
回廊は大きな部屋に繋がっていた。ついに視線の先に大きな祭壇が現れる。目指すものはもう目の前、だが。
(ゴーレムが……デカいな、想像より)
人間と比べると高さも幅も四倍から五倍くらいある。神殿がまだ健在だった頃は壁にでも偽装していたのかもしれない。建物が崩壊しているせいでゴーレムの姿だけが浮き彫りとなり、しかもまだ攻撃を仕掛けてもいないのに動作している様子がうかがえた。これもクロノヴォイドの引き起こす「歪み」か。そういえば、周囲の空気が纏わりつくように重い。
低いうなりとともに、ゴーレムが祭壇の前に立ちはだかる。先刻と違って身を隠せそうな場所も、利用できそうな小道具もない。正面突破しか、ない。
「星炎!!」
図体がデカいだけあって、ゴーレムの動きはそれほど速くない。先にセリスの放った星辰の炎がその巨躯を包み込むと、体に刻まれたルーンの輝きが弱まったのがわかった。
ゴーレムがバランスを崩してよろめき、地響きにも似た轟音とともに床石を踏み砕いていく。そもそも体が大きすぎるのだ。外部から同質の魔力で干渉されれば、機能の維持にさえ支障をきたす――。
効いている。星辰の魔法に弱いという話は事実だったようだ。しかし魔法は連発できないのが世の常、次の呪文を唱える間はどうしても無防備になる。
「――旅人よ、今こそ試練の時。乗り越えよ。時の流れは汝に味方する」
「クロノス」
セリスがルミナと共にいるように、俺にも精霊がついている。低く静かな口調で語りかけてくるのは時の精霊・クロノスだ。フード付きの黒いローブで顔を隠し、時の流れの象徴である歯車をバックに、さらに身の丈ほどある砂時計を抱えた老人の姿をしている。実は神殿に着いた時から助言だか小言だかをたびたび与えてくれていた。すべて受け答えするのは面倒なので流していたが。
「力を借りられないか……歪みを発生させずに」
剣が効かないとなれば精霊に頼るしかない。何か手立てはないか小声で相談する。しかし時を操るクロノスの力は強大だ。人の魔力を媒介にその一部を行使しただけでも、時の流れに影響が出てしまう。可能なら避けたいところだ。
「時の歪みを抑えるには――絆の力が必要だ」
(そう言われても)
聞こえていないふりをしていても聞いているし、クロノスもそれを承知で逐一助言を与えてくる。そこはお互いが理解してのこと、とはいえそれを「絆」と呼んでいいものかは自信がない。
ずしん、と重い音が響いた。こっちが逡巡している間にゴーレムが体勢を立て直し、敵を打ち砕かんと両腕を振り上げている。目標はセリス、呪文に集中していて回避は間に合わない!
「痛ってぇ!!」
セリスの前、ゴーレムのほぼ真下に飛びだして剣で攻撃を受ける、と同時に刀身を斜めにズラして地面に向けていなす。石柱が降ってきたのに等しい衝撃の全てを逸らせるわけもなく、数歩後退して膝をつく。すぐに立ち上がりこそすれ、ただの一撃であちこち痛い。
「ユウ!!」
ゴーレムの拳がそのまま地面を穿ち、砂煙が舞い上がる。好機だ。セリスの手を引いて素早く横手に回りこみ、死角となる位置で息をひそめた。一拍の間をおいて呪文が完成する。
「――星炎!!」
二発目の星炎が叩き込まれると、今度は弱まったルーンに亀裂が走る。ゴーレムの体はいよいよ崩壊寸前といったところ――しかし、まだだ。
「あと何回撃てる?」
「多分……次が最後」
セリスの額には汗がにじんでいる。もともと体力の乏しい種族、疲労の色が濃い。もう動き回るだけの余力はないだろう。こちらはこちらで、二度も同じ受け方ができるかは怪しい。もし得物が鈍らだったなら、既に生きちゃいないはずだ。
「守りは任せろ。最後の一撃、頼むぜ」
やせ我慢も使いようだ。他にいい方法もない。後ろで小さく頷くセリスと、肩越しに視線を交わす。
再び前方へ向き直る。ダメージの蓄積によってより緩慢になった動きで、しかし確実に、ゴーレムが両腕を高く掲げようとしている。相手の動きは鈍くても、こちらもまた、動けない。
数秒の睨み合い。やがて石像の腕がその頭上近くまで持ち上げられる。首筋を嫌な汗が伝う。ここまでか。だがやるしか――。
間に合わない。腹を括ったその刹那、ゴーレムが三度目の炎に包まれる!
「これで終わって……っ!!」
祈りにも似た叫び。それに呼応するかのように、巨大な石の身体が大きく割れ、裂けていく。硬い音が幾重にも響き、亀裂が瞬く間に体中に広がって砕け、人形だったモノはついに石塊になり果てた。
(どうやら……倒せたか)
ゴーレムを構成していた巨石の破片から黒い霧が立ち上り、消えていく。魔獣の時と同じだ。辺り一帯の重い空気がわずかに晴れる――と、祭壇にあるそれが放つ邪気が、より一層、際立って感じられる。
全ての元凶、その一端――クロノヴォイドの欠片は、目の前にある。
ゴーレムの途方もない大きさと、それを保有していた神殿自体のスケール感に対応するように、祭壇もまた大きなものだった。祭壇の中央には件の物体が浮かび、禍々しく脈動している。触れるだけなら容易そうだが。
戦いを終えて二人とも満身創痍、それでもまだ気は抜けないのは辛いところだ。執拗なまでに外敵を排除しようとするこの神殿、この祭壇の、おそらく最後の罠がまだ控えている。
「罠を……解除しないと……!」
持ち前の意志の強さで立ってはいるものの、息も絶え絶えのセリスに無理をさせたくはない。が、精霊たちの力を借りて手がかりのひとつも得なければ祭壇に近づくのもままならない。
「――情報が欲しい。クロノスとルミナ、二人の力を合わせよう」
ルミナには隠されたものを暴き出す力が、クロノスには過去を遡り現在へと繋がる「音」を伝える力がある。そこに賭けてみよう。
「祭壇の周辺……罠とクロノヴォイドについて調べたい。あと、こいつも」
そう言って腰のポーチから取り出したのは、星辰のオーブと同じ輝きを放つ、さらに小さな欠片だ。オオカミの魔獣を倒して黒い霧が消えた後に残されていて、何かに使えるだろうかと拾っておいたものだ。攻略の糸口になるならこの際なんでもいい。
「承知した。我等の力で歴史を解き明かそう」
「星辰の力を以て、真実を照らしましょう――」
クロノスが砂時計を逆さにして時を遡り、ルミナの光が過去を照らすと、祭壇に刻まれた過去の記憶が映像として蘇る。クロノヴォイドの影響によって狂乱する人々や、古代アストラリスの魔術師たちが祭壇でクロノヴォイドを封印する様子が映し出されると、セリスが魔術師の手元を見て呟く
「罠も……星辰のオーブの力を利用しているようね」
祭壇の手前には台座があり、映像の中には台座のくぼみに星辰のオーブらしき球体を嵌めて呪文を唱える者の姿もあった。呪文で動作させるなら解除も呪文で可能だろう。
次に映し出されたのは一匹のオオカミだった。地面に落ちていた黒い欠片に触れようとした瞬間、黒い霧に呑まれ――魔獣へと変貌する。奴が落としたのは星と同じ光を放つ欠片だったはずだが、映像の黒い欠片はまるで、祭壇に浮かぶ黒い物体……。
「まさか、二つは同質のものなのか」
星のエネルギーが何らかの原因で虚無へと変質したもの、それがクロノヴォイドだとするなら、確かに放っておくわけにもいくまい。星々を歪ませるほどの力があるなら尚更だ。
「私も手伝うわ。早く祭壇に――」
「今のでもう魔力を使い果たしてるだろ、無理するな。罠くらい何とかするさ」
逸るセリスを静止して、台座に「星辰のオーブ」を嵌めこむ。解除の呪文は映像から得た知識と想像、持ち前の言語能力で組み立てる。詠唱を終えると、青白い光が一瞬だけ迸り、やがて消えた。もはや邪魔するものはない。祭壇に歩み寄る。
「――最後の試練だ。虚無は時の歪みから幻影を呼び起こす。打ち勝つのだ、旅人よ」
「幻影……」
クロノスの低い呟きが、いやに重く圧し掛かる。おもむろに黒い結晶体に手を伸ばすと、クロノヴォイドの脈動が一瞬だけ強まった、気がした。
暗黒の力が意識に触れ、幻影が姿を現す――失意や恐怖に塗れた、過去の自分自身の姿――人の陰の部分そのもの、だ。
(ひどい面してやがる)
まるで死人のような顔をしたそいつを眺めていると、ある種の感慨さえ覚える。過去、確かに存在した自己。しかしどう上手く再現したところで、こいつは幻に過ぎない。
(越えた山に引き返すほど、ヒマじゃないんでね)
極光の剣をひと薙ぎする。光の刃が闇を切り裂いて、幻影は音もなく消えた。
ようやく手にしたクロノヴォイドの欠片は、今やその暗黒の力を失いかかっているようだった。不気味な脈動は続いているが、これまでと比べると弱弱しい。
「神殿周辺の歪みを正したことで、暗黒の力が弱まったようです」
「今なら完全に浄化できる。ユウ、オーブの光を」
ルミナとセリスに促されるまま「星辰のオーブ」をかざすと、クロノヴォイドに纏わりついた闇が徐々に払われていく。
「そうだ、こいつも」
途中で手に入れた輝く欠片、ひと足先に浄化されたこいつを祭壇に安置してやると、祭壇から淡い光が溢れた。小さな欠片でも力は本物だ。神殿全体を包んでいた重い空気――黒い霧が今度こそ晴れていく。星のエネルギーが満ちていくようだ。
「ひとまずこれで終幕、かな」
やがてクロノヴォイドの漆黒は星辰の輝きへと戻り、不気味な脈動は温かな鼓動のリズムへと変わった。
1-3 星辰の旅人
神殿の屋根が崩れた隙間から、満天の星空がのぞく。「星辰の歪み」は無事に修正され、アストラリスにいつぶりかの穏やかな夜がやってきた。俺とセリスはそれぞれ適当な石塊に腰かけて休息を取ることにした。椅子代わりの石片は言うまでもなくゴーレムの残骸である。
「ひとつの調和を取り戻しましたね」
「しかし時の流れは止まらぬ。新たな試練が待ち受けているぞ」
ひと仕事終えてのルミナとクロノスの台詞はずいぶん対照的だ。二人ともヘトヘトだし、もうちょっと休ませてもらいたい。特に爺さんの方。
「やったな、旅人たち!」
と、目的達成の余韻に浸っていたところに魔術師が駆けてくる。辺りの空気が一変したのに……気付くか、そりゃあな。
「これで私の研究も報われる……本当にありがとう」
魔術師が深々と頭を下げる。そういえばこの人は研究者だったか。
「なあ、星辰のオーブってのは一体何なんだ? そしてクロノヴォイドとは……皆、知っていることがあれば教えてくれないか」
「私も――もっと詳しく知りたい」
役者が揃ったところで、ここに辿り着いてからずっと気になったままだった疑問について尋ねてみる。セリスもまた同じ疑問を抱えていたようだ。クロノスの背にした歯車がカタカタと音を立てる。
「星辰のオーブとは、星の力を蓄えた結晶だ。欠片を持つ汝らがその力を引き出すことで、時の流れと星の調和を保つことができる」
「なら、クロノヴォイドとは?」
「クロノヴォイドは星辰の力が乱れた結果生まれた「時の歪み」。遥か昔、アストラリスの魔術師たちが星辰のオーブを乱用し、時の流れを無理やり操ろうとしたことで、クロノヴォイドが誕生した。それは、過剰な力の代償とも言える」
「かつてのアストラリスは星辰のオーブを使い、星の力を支配しようとしたのです。その結果、星辰の力は人の持つ負の感情によって汚染されてしまい……クロノヴォイドが生まれました」
クロノスのあとに、ルミナがさらに言葉を継ぐ。
「あなたたちが手にしたクロノヴォイドの欠片は、その一部。すべての欠片を集め、星辰のオーブに還元すれば、クロノヴォイドを完全に封じることができるでしょう」
「星の力が……汚染? そんな――」
ルミナの発言は、セリスにとってかなりショックが大きいもののようだった。感情そのものは人と大差なくても、エルフはより自然に寄り添って生活する種だ。強欲の果てに調和を乱すなどと、考えたこともないのだろう。
「アストラリスは星辰の力で繁栄した古代文明だった。だが、クロノスとルミナが言った通りだ。彼らは星辰のオーブを乱用し、時の流れを歪ませ……クロノヴォイドはその結果生まれた闇だ。私の師は言っていた。クロノヴォイドの欠片が世界各地に散らばっていると。そしてそのうちの一つは「星霜の森」にある、とも」
今度は魔術師が口を開いた。三者の話をまとめるとだ。
星の力の結晶である星辰のオーブを使えば時の流れまでも操ることができ、しかし強すぎる力はクロノヴォイド、「時の歪み」という闇を生み出し、そのクロノヴォイドの欠片は世界中に散らばっている……そのうちの一つが、星霜の森と。
つまり、世界をあるべき姿に戻すためには世界中を飛び回らないとならない、というわけで。
(面倒だな、思ったより……遥かに)
できれば気ままな旅を続けさせてもらいたいのだが、そういうわけにいかないものだろうか。
「時の歪みをそのままにしておくと、どうなるんだ?」
「時の歪み――クロノヴォイドは、星辰の調和を乱す闇だ。それを修復せぬまま放置すれば、世界の時間が崩壊し、過去と未来が混濁する。汝が見た魔獣やゴーレムのように、クロノヴォイドに侵された存在が増え、星辰の力が暴走するだろう。やがて時の流れが断たれ、この世界も闇に飲まれる……アストラリスが滅びたように」
ほっといた方が面倒なことに……まあ、それもそうか。静観して事態が好転することも、あまりない。
「時の歪みが広がれば、いずれ私たちの旅も続けられなくなってしまう」
セリスの言う通りだ。いくら風来人を気取ってみても、旅する世界が滅びてしまったんじゃあ形無しというもの。
「仕方がない、世界平和に一役買っておくか」
「大きく出たな、旅人よ――だが、星と時の調和を取り戻すための一歩となろう」
「旅人の決意に、星辰の加護がありますように」
精霊たちの口調が心なしか明るくなる。そして、セリスも。
「どんな試練があっても……ともに乗り越えていきましょう」
本当の旅は、ここから始まる。
出典の明示と非営利目的の明確化
本小説は、xAIのGrok 3とのTRPG『クロニクル・ウェイファー:星辰の旅人』のプレイ履歴を基に創作されたフィクションです。Grokの生成した世界観やキャラクター対話に、著者の再構成を加えています。
本小説は非営利目的で公開しています。サポートは任意であり、コンテンツの対価ではありません。感謝表明や創作の励みとして受け取ります。
実際のログ
https://x.com/i/grok/share/mGXv4xLMyTvFjUP23SEG29bXV
いいなと思ったら応援しよう!
読んでいただきありがとうございました。よろしければサポートお願いいたします。よりよい作品づくりと情報発信にむけてがんばります。