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「今年はドット(水玉)が流行」:ファッションの中心地NYから、ドットの「流行」を大解剖!

はじめに:「今年はドット(水玉)が流行」

ファッション界にとって、あまりに有名な一節をもじって、今回のタイトルをつけてみました。理論家ロラン・バルトの「今年はブルーが流行」です。

簡単にいうと、バルトはこんなことを言っています。ファッション雑誌に書かれる「今年はブルーが流行」という言葉は、実際にブルーそのものが流行っているから重要なわけではないと。むしろ、バルトが注目したのは、雑誌が『今年はブルーが流行』と書くことで、「あ、今年はブルーが流行なんだな」とみんなが認識する仕組みのことです。

この「流行」をつくるファッション雑誌の絶対的権威はヴォーグ(Vogue )です。聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

そして、今年は「ポルカドット(水玉)」が、女性ファッションで世界的に大流行しています。もうすでにピークを過ぎた感じはありますが。

実は、今回のドット・リバイバルの重要な起点があります。2023年のMiuMiuコレクションです。

これはAIのイメージ図です。笑

では、今回は以下のことについて紹介します。

1. ドットの流行は、いつどこから?——2023年MiuMiuコレクションとVogue——

今回のドット柄の流行を考えるうえで、まず重要なのは、「ドットは2026年に突然流行り始めたわけではない」ということです。むしろ、しばらく主流だったミニマリズムから徐々に転換してきた流れといえそうです。そして、今回のドットの流行を遡ると、少なくとも2023年秋冬のランウェイまで戻ることができます。

2023年8月、Vogueは“Polka Dot Prints Are Having a Major Moment” という記事を出しています。そこで取り上げられていたのが、Miu Miu、Marni、Valentino, Saint Laurent, Valenciaga などのFall 2023コレクションです。

Miu MiuのFall 2023では、小さなドットを載せた透けるペンシルスカート、ブラウス、ドレスなどが登場しました。透ける素材。身体に沿うペンシルスカート。少し崩れたスタイリング。こうした要素と組み合わせ、ドットは1950年代風のレトロな女性らしさとは違うものとして提示されました。

同じく、2023年秋冬には、Marniも非常に大きなドットを展開しました。ニットやドレス、巨大なアウターなどにドットを使っています。また、Valentinoでもジャケットや透けるブラウスにドットが現れました。そうやって、Miu Miuではドットが出た。Marniでも出た。Valentinoでも出た。つまり、この時点ですでに複数のブランドが、同じシーズンにドットを使っていました。

参考:Vogue, “Polka Dot Prints Are Having a Major Moment”

そして、ここからがVogueの仕事です。それらをすべて集めて、ひとつの記事の中に並べて、こう紹介します。

「ドットが戻ってきた」
「MarniからMiuMiuまで、ドットは今秋の目玉」

つまり、別々のデザイナーが作った服を、ひとつの「流行」の現象にしてまとめる。Vogueは、複数の現象をひとつの「流行」として言葉にし、名前を与え、世界規模で可視化します。これがVogueの大きな力です。その意味で、Vogueはファッション業界最大の権威であるといえます。

参考:Vogue, “The Vogue Shopping Report: 11 Trends to Incorporate Into Your Fall Outfits”

そして2025年になると、この流れはさらに大きくなります。

2025年2月、Vogueはついに、“Polka Dots Are Trending”(ドットが流行っている)という、「流行」をタイトルにしました。この記事では、Spring/Summer 2025のJacquemusやAcne Studios、さらにFall/Winter 2025のAltuzarra、Brandon Maxwellなどが紹介されています。2023年に現れたドットが、複数のシーズンをまたいで誌面上で繰り返されています。

参考:Vogue, “Polka Dots Are Trending—18 Ways to Wear the Runway-Loved Print” 

さらに、2025年7月には、Vogueは “It’s the Summer of Subverted Polka Dots”という記事を掲載しました。ここではHailey Bieber、Olivia Rodrigo、Rihannaなどの超有名インフルエンサー・モデル/アーティストの着こなしが紹介されています。このフェーズまで来ると、ファッション業界は大衆化の段階に入っているといえるでしょう。

参考:Vogue, “It’s the Summer of Subverted Polka Dots”

そして、今年2026年春。Vogueは “Spotted! Everyone’s Dotting Their Dresses With Polka Dots for Spring 2026” という記事を掲載しました。ここでは、「ポルカドットの大流行」を取り上げています。Khaite、Dries Van Noten、Altuzarra、Tory BurchなどのSpring 2026コレクションが事例として挙げられています。Vogueは、今季のドットをより大きく、より強く、よりグラフィックな柄として説明しています。さらに重要なことに、このVogueの記事にはZARAの商品も掲載されています。あとで、ZARAが何者なのかについては説明します。

参考:Vogue, “Spotted! Everyone’s Dotting Their Dresses With Polka Dots for Spring 2026”

では、今回のドットの流行を簡単にまとめると、

2023年: Miu Miu、Marni、Valentinoのコレクションでドットが再登場。

Vogueが「ドットの復活」としてまとめる。

2025年:Jacquemus、Acne Studios、Altuzarra、Brandon Maxwellなどへ広がる。

Vogueが “Polka Dots Are Trending” と明言。SNSやインフルエンサーをつうじて大拡散

2026年:VogueがSpring 2026の代表的トレンドとしてまとめる。

ZARAなどの低価格商品まで同じページに並ぶ。という流れになります。

つまり、「2026年はドットが流行」といっても、ファッション業界には、少なくとも3年ほどの長い動きがあったのです。

2. ファッション界の絶対的権威 "Vogue"とは?——川久保玲とYohji Yamamotoの挑戦!

さきほどから話しているVogue 。それはいったい何者なのでしょうか。

Vogueは、1892年にニューヨークで創刊されたファッション雑誌です。Vogueはたんに「現在流行している服を紹介する雑誌」ではありません。何が重要なファッションなのかを選び、それを言葉と写真によって後世へ残している雑誌です。つまり、Vogueは、現在のファッションを報じる媒体であると同時に、後世の人々が「その時代のファッション」を知るための巨大な資料・史料にもなっています。

1892年創刊号の表紙

Vogueの権威は誌面だけにとどまりません。Met Gala、CFDA/Vogue Fashion Fund、Vogue Runway、Vogue Worldなどを通じて、美術館、デザイナー、ブランド、セレブリティ、SNSまでを結びつけています。そして、メリル・ストリープ演じる『プラダを着た悪魔』のモデルになっていることで有名な、アン・ウィンター(Anna Wintour)は、Vogue Global のトップです。1990年代からずっと、あのMet Galaの最高責任者でもあります。その意味で、Vogueは、ファッション界の制度そのものに近い存在です。

さて、そんなVogueを根本から揺さぶったのは、他の誰でもなく、実は日本のファッションデザイナーたちでした。
1981年、川久保玲のコムデ・ギャルソン(Comme des Garçons)と山本耀司のYohji Yamamoto がパリでコレクションを発表しました。
しばし「黒の衝撃」と世界的に呼ばれる出来事です(Issey Miyakeは、すでにヨーロッパデビューを果たしていました)。

具体的には、真っ黒やグレーを多用し、身体をぴったり美しく見せる代わりに身体を包み込む大きな形を使い、衣服の左右対称をわざと崩し、ほつれ、穴、不均衡、重ね着などを取り入れました。つまり、西洋の「美」を完全に脱構築/解体すること、葬式などを連想させる黒で勝負することで、ファッション業界に一石を投じました。

ふたりの作品は、強い戸惑いと論争を引き起こしましたが、Vogueは「日本からの挑戦状」にたいして非常に示唆的なポジションを取っています。1983年9月号のVogueでは、日本からきたそれらの服を、『一時的な現象なのか、影響なのか、進化なのか』といいながら、こうした服はいずれ主流へ溶け込むだろうと予測しています。これは大当たりでしたね。

時間が経つにつれてVogueは、「それまで見たことのない自由なレイヤリング」「ファッション史上もっとも反抗的だった瞬間」のひとつだったと、「黒の衝撃」を位置付け直しています。2017年には、非対称、切りっぱなし、全身黒、オーバーサイズが、いまや現代ファッションの一部になったことに、川久保玲の大きな影響があると評価しています。

つまり、Vogueは時間が経ったあとに「何が歴史的だったのか」を語りなおす。その意味でも、Vogueはファッション史を形づくる媒体です。そして、日本人ふたりが投じた石は、確固たる歴史として保存されています。

3. ファッションの「流行観測地点」:ZARAとは何か?

あるファッションが流行したとき、わたしはまずあるお店にいきます。
ZARAです。
なぜならば、ZARAは「いま世界ではなにが1番売れているのか」をみるためのわかりやすい観測地だからです。
どういうことでしょうか。

従来の企業は、来年の春はこれが売れる/今年の秋はこの色が売れる、と予測し、早い段階で大量に商品を作る方法が一般的でした。しかし、ファッションはなかなか予測通りになりません。

そこでZARAは、店舗の反応を非常に重視する革命的な仕組みを作りました。ZARAは、まず商品を比較的少ない量で作り、実際の売れ行きや店頭でのお客さんの反応を見ます。そして、その情報をすぐに商品づくりへ反映し、次々と新しい商品を店頭に出していく、非常に速く小スロットで生産を回す方法を確立しました。そのため、ZARAは「いま世界ではなにが売れているのか」を比較的見やすいのです。
参考:Inditex, “Innovation in Customer Services”

また、ZARAの強みは、ブランドのランウェイを基本的に参考にしながら、流行のデザインを大衆化させることにもあります。ZARAは、最新のトレンドを取り入れ、それをワンピースやブラウスなど、一般の消費者が買いやすい商品と価格に変えていきます。さらに、実際の売れ行きを見ながら、次の商品や品揃えを素早く変えていきます。そうやって、ハイブランドを購買可能で反復可能な別の商品にする。これがZARAです。

4. 流行を説明する理論的モデル:トリクルダウンとボトムアップ

じゃあ、「今年はドットが流行」はどのように広がっていくのでしょうか。

ファッションの流行を説明する古典的な考え方のひとつが、トリクルダウンです。1904年に社会学者ゲオルグ・ジンメル(Georg Simmel)は、ファッションには「模倣」と「差異化」が同時に働くと論じました。簡単にいうと、上流階級がファッションを着る→中流/下流がそれに憧れて真似する→上流階級が同じファッションを嫌がって、また新しいファッションを着る→また真似される...この繰り返しによってファッションは流行するという考えです。

しかし、現代のファッション研究では、このモデルだけではすべてを説明できません。なぜなら、流行は「上から下」へだけ流れるわけではありません。ストリート、若者文化、労働着、スポーツ、ヒップホップなど、もともと「ボトム」にルーツをもつファッションが、デザイナーによって取り入れられ、高級ブランドのランウェイへ上がることも多いです。こうした逆方向の動きは「ボトムアップ」と呼ばれています。

ちなみに、この本はおすすめです。亡き恩師に紹介してもらいました。

ただ、「トリクルダウンは古い」「今はすべてボトムアップ」と決めつけるのも違うと思います。今回のドット流行をもう一度確認しましょう。Miu Miu、Khaite、Tory Burchなどの有力ブランドがランウェイでドットを提示する。Vogueが複数のブランドをまとめて「今季はドット」と紹介する。そしてZARAのような大規模小売企業が、同じ傾向をより買いやすい価格の商品へ変える、というおおまかな流れでした。

つまり、ここから見えてくるのは、どこを見るかによって方向が変わるということです。アイデアの出どころを見ると、「下から上」へボトムアップも当然ある。ただ、ランウェイからVogue、ZARAなどの小売へ広がる過程を見ると、「上から下へ」トリクルダウンしているともみえる。

つまり、ファッションは「上→下、下→上」という単純な構図よりも、もっと螺旋的に円環しているものと考えてもいいかもしれません。ただ、それはきれいな円ではありません。一周するあいだに服はおどろくほど変わります。ストリートで生まれた服が高級ブランドに入れば、素材や形や価格が変わり、ZARAが商品にすれば、さらに別の価格と形になって消費者に届きます。その意味で螺旋的な円環です。しかし、ファッション業界では、誰が何を「流行」として認め、名前を付け、大規模に広げるかには、今でも強いトップダウン(トリクルダウン)の力があります。

AIに作らせました。うまく図式化できてるかはわかりません。笑

5. ファッションの中心地NYから——SoHoにおける「ドット」の現在

わたしはいまNYに暮らしています。いままでの文章は、わたしが世界のファッションの中心・NYで得たインスピレーションをもとに書いています。そして、NYのファッションの中心地・SoHoにも足を運び、実際にフィールドワークもしました。適当は言っていません。笑

わたしの通っているチェルシーからSoHo/NoHo一帯は、ファッションの縮図のような地です。地下鉄R線23番駅では、とてつもないレベルのファッション・モデルたちが駅から降ります。ケンダル・ジェンナー (Kendall Jenner) らが所属する世界的なモデル事務所がこのあたりに一堂に会しているからです。そして、ファッション業界の人間は、なぜかみなPradaのサングラス/メガネをしています(アン・ウィンターの影響な気がします)。笑

有名なフラットアイロン・ビルを中心に、NYのファッション業界は広がっています。

業務後に早速SoHoのZARAへ行ってきました。さきも述べたように、まずはZARAを見ます。ZARAのなかでもSoHoのZARAは、流行が色濃く反映されています。

実は、すでにZARAのウィメンズでもドットの商品は想像よりも少なかったです。流行のピークは過ぎた気がします。なくなってはいませんが、すでに売場の中心ではありませんでした。

つぎに、H&Mにも入ってみました。ウィメンズにはドット柄の商品がいくつかありました。ただ、Vogueの記事を読んだあとに想像していたほど多くはなく、もはや「今年はドット一色」という感じではありませんでした。

さらに、どちらの店舗にも、メンズのドット柄はひとつも見当たりませんでした。SoHoのZARAのメンズ売場は、H&Mよりも非常にカラフルでした。鮮やかな色や、少し大胆なデザインの商品も多く、いわゆる「男性服は黒・紺・グレーばかり」という感じだけではありません。それでも、ドットはひとつもありませんでした。水玉という模様自体がジェンダー化されていることもありますが、もっと深い理由がある気がしました。

高級ブランドが立ち並ぶNYのSOHO地区。ただここは、あくまで「消費者向け」の顔が立ち並ぶところでもある。


ファッションの流行とジェンダー差:それは誰にとっての流行なの?

ここで「今年はドットが流行」というとき、もうひとつ考えるべきことがあります。それは、その流行が男性服と女性服に同じではない、ということです。

18世紀末から19世紀のヨーロッパでは、スーツが誕生しました。これはメンズ・ファッション史上最大の革命です。その結果、メンズ・ファッションの変化は、より地味に小さくなりました。ファッションそのものの変化よりも、ラペルの幅、肩、丈、パンツの太さなどが変わることが主流になりました。メンズ・ファッションはいまでも「スーツという標準装備」を基本として、変化が少ない産業です。SOHOの店頭に、大流行中のドットが一切ない理由のひとつはここにある気がします。

いっぽう、女性服は歴史的にかなり変化しています。ソースタイン・ヴェヴレンという理論家がかつて述べたように、女性服は「衒示的消費」というシステムのなかで動いてきました。つまり、女性が「服の流行を追うこと」「流行の服を着ること」自体が、その人の社会的・経済的階級を示すものだったのです。これは、いまでも女性服の方が「今年の柄」「今年のシルエット」という変化を強く見られる構造が残っていることのひとつの説明になります。

「今年はドットが流行」と言うとき、それは誰にとっての流行なのか。今回のドットは、そのジェンダー差を分かりやすく見せてくれます。

鮮やかな色合いのタキシード・オーダー店がLower Manhattanにありました。

まとめ:ドットの次はなにがくる?

今回は、ドット(水玉)の流行を事例として、ファッション業界のもののみかたを紹介してみました。少しでも参考になれば幸いです。

では、ドットの次には何が来るのでしょうか。

2026年秋冬から2027年のVogueを少し先取りしてみると、すでに次の動きが提示されています。チェック、アニマル柄、鮮やかな色、Art Deco、ロマンティックな装飾、そして大きく遊んだシルエット。共通しているのは、ここ数年のミニマリズムからさらに離れ、ファッションが再び「見せること」に転換していること、だそうです。なかでも、Vogueが注目しているアニマル柄は、今後どのようにファッション業界に影響を与えるでしょうか。注目しましょう。


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