【1泊3日モンゴル旅行記】なんだかクセになっちゃうウランバートル
まずは週末にひょいっと行ってみよう
私のスマホには「まだ行ってない国リスト」がある。「そろそろ旅に出なきゃ」と思うと、そのなかから行けそうな国を選ぶ。
モンゴルはもう何年も、そのリストに残っていた。

理由はわかっている。角田光代さんのエッセイで、「個人でモンゴルを旅するのは難しい」といった趣旨の話を読んだ記憶があるからだ。
でも、よくよく調べてみれば、それは砂漠に行ったり、草原でゲルに泊まったりする場合らしい。首都のウランバートルなら、個人手配でも行けるようだ。調べてみると、なかなか好きそうな街である。

こうして、ずっと後回しにしていたモンゴルに行ってみることにした。まずは味見だけ。気に入ったらまた行けばいい。
金曜日の夜に東京を出て、日曜日の夜に帰ってくる。そんな週末旅行のはじまりはじまり。

空港を出たら、いきなり草原
ウランバートルに着いたのは土曜日の深夜1時ころ。フライトはたった5時間ほどだし、時差も1時間しかない。モンゴルってこんなに近かったのか。それなのに目の前にはキリル文字が広がるものだから、なんだかお得な気さえしてくる。

入国審査を終えたあとは、朝まで空港で過ごす。横になれるベンチを確保し、フードをかぶって、ホットアイマスクとマスク、ノイズキャンセリングイヤホンを装着。完璧な空港泊体制を整えたとたん、あっさり爆睡した。

朝になって外が見えた。ここにもキリル文字!建物もソ連っぽくて、海外に来た実感が湧いてきた。

空港を出ると、もういきなり草原。市内の広場をめざし、バスに乗り込んだ。

ウランバートルは渋滞がすごいと聞いていたのだけど、今日はそこまで混んでいない。でも、バスの進みは不自然なほどのんびりしている。運動音痴の私でさえ、「走ったほうが早いのでは?」と思うくらいだ。
窓の外は草原が果てしなく広がっている。ぽつぽつと並ぶゲル。馬が走っている。遠くには羊らしき群れも見える。


中心部のスフバートル広場に到着。どの方向に顔を向けても「VIVANTで見た」と思ってしまう。この旅にあわせてVIVANTを全話見返したので、ますます興奮。



チェックインは14時からなので、荷物だけ置かせてもらおうとホテルへ向かった。

荷物預かりのタグを書いていると、フロントの方が藪から棒に「Your room is ready!」と言う。
予想外の展開に、思わず「え!?」と大声が出てしまい、しばらくふたりで爆笑する時間があった。まだ到着したばかりだけど、この街とはうまくやっていけそうな予感がする。

「私はラテアート初心者レベル。」
夕方から雨の予報なので、まずはいちばん遠い場所に行ってしまおう。空港泊明けの体に鞭打ち、1時間ほど歩いてザイサン・トルゴイ(眺めのいい高台にある戦勝記念碑)に向かう。



「モンゴルは世界一寒い首都。夏でも涼しい」と聞いていたのに、嘘のように暑い。高台につながる階段を、やたら重い足で一歩また一歩と上りながら、「こんなはずでは……」と思った。標高が約1,300mあるのも、体が重い理由かもしれない。

やっと着いた頂上からウランバートルを見渡すと、空港から見た草原とはまるで違う景色が広がっていた。ソ連っぽい四角いビルがどんどんと地面から生えていて、奥には山。そして、ダイナミックな絵柄。これこれ。こういうちぐはぐな景色が大好物なのだ。


ランチは「The Bull Hotpot Restaurant」へ。ひとり鍋でラムしゃぶができるお店だ。しいたけ出汁でラム肉をしゃぶしゃぶし、ポン酢につけて食べる。あまりにも「知ってる味」すぎて、かすかに動揺が走る。

このあたりの街並みは、旧ソ連圏らしさがあり、カザフスタンのアスタナやモルドバのキシナウに似ている気がする。「へんてこだなあ」と思うけど、世界的に見たら、東京のほうがよっぽどへんてこなんだろう。


モンゴルでは、キリル文字のほかに、縦書きの「伝統モンゴル文字」が使われているらしい。この文字にとんでもなくときめいた。キリル文字と組み合わされると、いっそう無骨さが際立ってかっこいい。


そろそろ休憩したい。チェックしていた「UBean Coffee House & Roasterie」は謎の建物のなかに入っていて、階段をのぼるのにちょっと勇気がいる。

ラテを注文すると、若いスタッフさんが、もじもじしながらこちらに何かを伝えようとしている。Google翻訳を差し出してみたら、戻ってきたスマホには「私のラテアートは初心者レベル。」と表示されていた。

予想もしていない申告に、思わず笑う。「ノープロブレム」と言うと、ほっとしたようにあちらも笑う。出てきたラテアートはじゅうぶん素敵で、「Goodやんか」と言うと照れていた。

乳製品を追いかけ、ウランバートルを駆け巡る
まだまだ食べるつもりだ。AIがおすすめしてくれた、チーズ専門店の「Fromagerie MACU」へ。お目当てはモンゴル産チーズを使ったケーキだ。
ところが、ショーケースを何度見ても、そこにチーズケーキらしきものは見当たらない。「今日はチーズケーキないですか?」と聞くと、「ごめんね、今日はないの」とのこと。
がっかりして、つい「ああん!」という声が出た。店員さんも「ああん」と言ってくれて、ふたりで「ああん」「ああん」と言い合う。
めげずに「Coffee Namu」へ。市内にいくつかお店があるようだけど、今回向かったのは、VIVANTで乃木さんが誤送金を返してもらいに行った、GFL社のビルの店舗だ。


このお店でもチーズケーキが人気だそうだ。とはいえ、「先ほどのお店で食べられなかったからここで妥協しようか」くらいのテンションだった。
しかし、ない。ケーキのラインナップを何度見ても、どこにもない。
もはや乳製品ならなんでもいいやと思い、プレーンヨーグルトスムージーを頼む。ソフトクリームのような濃厚さで、今回食べたもののなかでこれがいちばん好きだった。いつの間にか、旅の目的が「ウランバートルの街を見る」から「モンゴルの乳製品を食べる」に変わっている。

吉野家で限定マトン丼、BGMは「きらきら武士」
ぶらぶら歩いてスフバートル広場に戻ると、女性3人組が駆け寄ってきて、「Excuse me! Photo, please!」と声をかけられる。
「ほかにもたくさん人がいるのになぜ私に?」と思いながらよくよく見ると、成田からの飛行機で前の席に座っていた日本人ガールズではないか。安全面から、女性ひとりで歩いている人に頼みたかったのだろうか。
「写真、得意じゃないけどいいですか?」と聞くと、「こんなふうに撮りたいんです」と参考画像を見せてくれた。「その画像を見ながらでいいんで」と、参考画像用のスマホと、写真撮影用のスマホを渡され、彼女らは映える建物の前へきらきらと駆けていく。スマホ2台を持ったまま異国の広場に取り残されて、「ちょっと私のことを信用しすぎではない?」と思わずにいられない。
しかし、ミッションはちゃんとコンプリートしなければ。参考画像と見比べながら、「んー、もうちょっと右。いや、もうちょっとだけ左。はいしばらくそのまま!」と指示を出しながら、大量に写真を撮影した。「これでどうですか?」とスマホを渡すと、「かわいい!」と喜んでくれて、ひと安心。

そうこうしているうちに雨が降ってきて、ホテルへ急ぐ。

乃木さんが野崎さんを見下ろしていた場所
雨がやむまでホテルで休み、今度はスーパーを探検しに行く。雨のあとのウランバートルはがらっと雰囲気が変わって、美しい。

スーパーではもちろん、乳製品売り場へ直行だ。

といっても、ヨーグルトはどこの国でもたいてい試している。あとはポテチもだいたい買ってしまう。海外のホテルの部屋でひとり、ポテチを食べながらだらだら過ごす時間がたまらないのだ。東京でもできることを海外でするのが大好き。

夜は、モンゴル限定のマトン丼を試してみたくて、吉野家へ。お箸は置いておらず、れんげで食べる。BGMはレキシの「きらきら武士」。なんだろう、この変さ。ちょっとクセになる。


20時近くなっても外はまだ明るい。

首都だし、モンゴルの人口の半分はウランバートルに住んでいるらしいのに、歩いている人はそれほど多くない。建物や道路にはしっかり異国感があるのに、すれ違う人たちの顔立ちは、日本人といってもわからないくらいだ。じろじろ見てくる人もいない。ウランバートルで感じる不思議な居心地のよさは、そこに理由があるのかもしれない。

チーズケーキを諦めきれない
翌朝。ホテルの朝食会場を見て、いきなりテンションが上がった。豪華だからではない。「Mongolian」とついた乳製品がたくさんあるからだ。

「Mongolian yogurt」とやらを食べる。「ちょっとクセがあるな」と思う。もうひと口食べる。「うーん、やっぱりクセがあるな」と思う。そうこうしているうちに全部食べ終わっていた。これはきっと、おいしいということなんだろう。

ウランバートルで過ごせるのはあとすこし。私はまだ諦めていない。昨日の「Fromagerie MACU」と「Coffee Namu」へもう一度行き、チーズケーキがあるか確認する。どちらにもなくて、うなだれる。
さすがに諦めてスフバートル広場に戻り、空港行きのバスを待つことにした。
ぼーっと座っていると、日本人の親娘らしき2人組に、「ここが空港行きのバス停で合っていますよね?」と話しかけられ、そのまましばらく話す。
彼女たちは草原のゲルに泊まってきたらしい。とても良い体験だったらしく、「えっ、ウランバートルだけなんですか!えっ、週末だけ……?」とたいそう驚かれた。
なんだろ、また来たいかも
「まだ行っていない国だから」という理由だけでやってきたモンゴル。ゲルにも草原にも行かず、首都に1泊しただけだ。

金曜の夜に出発して、日曜の夜にはもう東京に戻っている。海外に行っていた実感がないくらい、短い旅だった。
「どこがよかった?」と言われたら、正直、ぱっと答えが出てこない。目にしたものを思い返しても、わざわざウランバートルまで来る理由にはならなさそうなものばかりだ。
だけど、なんだろう。ここにはまた来たいかもしれない。あれだけ後回しにしていた国なのに。
今回は味見だけのつもりだったけど、どうやら、もうひと口食べてみたくなっている。次はゲルにも泊まってみたいし、今度こそチーズケーキを試さなくては。


