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クラスの美少女を撮った件 【ショートショート】

年が明けて、教室に漂う空気が微妙に変わったころ。
冬休みの怠け気分もようやく抜けた一月の半ば、私はふと思い立った。

「ねえ、君って──同じクラスになってもうすぐ一年なのに、誰とも話さないで平気なの?」

席の隅で、いつも窓の外を見ている男の子に声をかけた。
神崎蓮。
鉄道オタク、撮り鉄。
カメラを首から下げているのがトレードマーク。
クラスでは“ちょっと変わってる人”として扱われていた。
でも近くで見ると、整った顔立ちをしてるし、背も高い。
ただ、表情が少なくて、少し不器用そうなだけだ。

「……え?」

蓮はびっくりしたように私を見た。
まあ、人気者の美少女・朝倉七海(じぶんで言うのもアレだけど)が急に話しかけたら、そりゃ驚くよね。

「そんなすごいカメラ持ってるんだからさー。撮り鉄やってないで、私を撮ってよ」

「え、ええっ?」

変な声が返ってきた。
クラスの何人かがこっちをちらっと見たけど、私は気にしない。

「今ここで! はいっ、壁際立ってるから撮りやすいでしょ。行くよ、はいポーズ!」

私は壁に背を預け、いくつかのポーズを決めた。
でも、シャッター音はしない。

「なにやってるのよ! ポーズ決めてるんだから、とっとと撮影しなさいよ!」

「あ、う、うん。はいっ!」

ようやく蓮が立ち上がり、構えた。
シャッターの音がぱちり、ぱちりと教室に響いた。
たったそれだけ。
でもなんだか楽しくて、笑ってしまった。


放課後。
「ね、撮った写真送ってよ。iPhoneに。自分でも見たいし」

「ど、どうやって、渡せばいいの? あの、その……」

その口ぶりが、あまりに初心すぎて、かわいいと思ってしまった。

「じゃ、私のLINE ID教えるよ。家からでも送って!」
「あ、うん……」

その夜、ベッドの上でiPhoneが振動した。
開くと、送られてきた写真の数々。でも言葉はなく写真だけ。
冬の日差しの中で笑う私、少し恥ずかしげに俯いたカット、横顔。
全部、びっくりするほど丁寧で、優しかった。
思わず「ありがとう♡」のスタンプを返したけど──既読はつくのに返信はなかった。

「友達いないからダメねぇ」
でも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
心のどこかが、温かくなっていた。


次の日。
「ね、今日、校庭で撮ってよ!」
「え? ま、また?」
「ダメ?」
「……い、いいけど」

それから、ほぼ毎日のように“撮影”が続いた。
校庭で、帰り道で、ファミレスで。
ある日は「マックでハンバーガー食べてる私を!」。
またある日は「冬の並木道で撮りたいの!」。

蓮は最初こそぎこちなかったけど、次第に自然に話せるようになっていった。
撮影場所で私がふざけて笑うと、いつの間にか彼の口元にも笑みが浮かぶ。
そんな瞬間を見つけるたび、胸がきゅっとなる。


春。
桜が咲いて、二年生のクラス替え。
奇跡的に、また同じクラスだった。
私は喜んで、蓮の後ろの席に座った。

「また同じクラスね!」
「……うん。あの、うれしい」

その一言が嬉しくて、しばらくそれを思い出してはニヤニヤしていた。


夏。
撮影はさらに本格的になった。
私は制服姿だけじゃなく、浴衣でも撮ってもらったし、蓮の一眼レフの扱いはどんどん上手くなっていった。
撮ったデータを見せてもらうと、やっぱりいつも“私”じゃなくて、“私を見ている蓮”の目がそこにあった。

ある日、夏祭りの帰り。
提灯の灯りの中、蓮が言った。

「最初は、電車ばかり撮ってたんだけど……いまは、七海を撮ってるときが一番楽しい」

心臓が跳ねた。
「それ、告白みたいなんだけど?」
「えっ!? あ、ち、違、いや……そうなのかも」
「ふふっ。なら、ちゃんと言いなよ」
「……七海が、好きだ」

夜風がやさしく吹いた。
線路の向こうで電車の音が響く。
私はその音にかき消されるように小さくつぶやいた。

「うん、私もだよ」


気づけば三年生。
蓮はいつのまにか、クラスでも普通に話し、写真部からスカウトされるほどに。
あのタドタドしさはすっかり消えていた。
でも、私に向ける笑顔だけは、あの日と同じだった。

「今年の卒業アルバム、蓮が撮るんでしょ?」

「うん、自分から頼んだんだ。七海が教えてくれたからかな。誰かを撮る楽しさって、こういうことなんだなって思って」

「……えらいじゃん」
「モデルは変わらず七海だけどね」
「もうっ、それアルバムにならないでしょ!」

二人して笑った。
嬉しかった。あの日の私の「ひとこと」が、ここまで来たんだと思うと。


卒業式の日。
校門の前で、蓮が私の方にカメラを向けた。

「最後に、一枚」

シャッターが切れる。
冬の日差しに、白い息が溶けていった。

「はい、笑って。……撮るよ」

カメラの奥の彼の瞳が、まっすぐに私を映していた。
私は笑った。全力で、幸せいっぱいに。

──それが、クラスの美少女を撮った件。



放課後、壁際、制服
この日、彼は初めて“電車じゃないもの”を撮った。

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