とある離島から感じる変化
昨年10月、スタートアップ等の非上場会社を支援する鎌倉投信の「創発の莟(つぼみ)」(不特定多数の方が購入できる投資信託とは違って私募型の特定投資家向けの投資事業組合です)から投資していた会社で、金山で有名な新潟県佐渡市に本社を置き、Webサイト制作・セキュリティ保守管理サービスを運営する「tane CREATIVE(タネクリエイティブ)」が東京プロマーケットに上場(IPO)しました。
IPOは、それを目指すスタートアップのうち、1000社に数社しか到達できないといわれるほどハードルが高く、狭き門です。IPOの当日、私も伝統的なセレモニーに参加して鐘を鳴らした時、IPOといえばどうしてもユニコーンとよばれる大型上場が注目されがちですが、tane CREATIVEのような地方に根を下ろした会社がIPOしたことは、佐渡にとっても地方にとっても大きな希望になると感じました。
1. 佐渡の奇跡
tane CREATIVEのIPOは、佐渡市に本社を置く企業としては初です。同社の榎木社長は、サイバーセキュリティ管理を含め、高度な人財が求められる中で、上場会社という信用基盤をもとに優れた人財を集めること、佐渡という地方の離島からでも上場することは夢ではないことを世の中に示したかった、とIPOを決断した想いを私に語ってくれました。
人口5万人に満たない佐渡に本社を構え、社員60人ほどの小さなtane CREATIVEが上場を果たしたことを奇跡と感じた人もいたのではないでしょうか。まさに快挙といってもいいでしょう。
2. 鎌倉投信と佐渡との縁
私は、毎年1月、この佐渡を訪れます。起業家を育成するために佐渡市が毎年この時期に主催する「ビジネスコンテスト佐渡」に参加するためです。
佐渡の観光シーズンは、海も穏やかな春~夏ですので、その季節にしてくれたらといつも思うのですが、冬の時期は島の幸に恵まれ、地元の酒蔵でつくられる日本酒も格別ですので、それも佐渡訪問の楽しみの一つです。
鎌倉投信が佐渡市主催のビジネスコンテストに関わるようになったのは、榎社長の声かけがきっかけでした。
6年ほど前、佐渡市の皆様が榎社長と鎌倉に尋ねてこられ、起業を通じて、佐渡への移住者・定住者、関係人口をふやすことで、様々な社会課題を解決し、佐渡を元気にしたい。佐渡を「起業の島」にしたい。そのためには「外の力」が必要で、ぜひ力を貸してほしい、という熱意に共感したものです。
コロナ禍に始まったビジネスコンテストは、今年で6回目を迎えました。回を重ねる度にレベルが高まり、今年の登壇企業は、既に事業モデルが構築され、佐渡においても成功する可能性の高さを感じさせる内容でした。それだけではなく、佐渡を超えて他地域にも展開できる再現性を持っているので、その分、事業成長も期待されました。
3. 佐渡から感じる変化
6年間、佐渡のビジネスコンテストを見続けるなかで、この企画から派生する大きな変化を感じています。
一つ目は、発表する事業そのものの質、経営者のプレゼン力が高くなっていることです。これは、新たな事業や雇用を生む力につながるでしょう。
二つ目に、過去に受賞した企業の視座も高まっていて、事業が成長していることです。例えば、初代の1位入賞企業、魚のフィッシングアプリ「FishRanker」を開発するスタートアップ「SIIG」は、創業期の苦しい時期を乗り越え、釣り具のシマノと提携できるまでに事業を成長させ、環境保全にもつながる魚類の生産高を管理するデータを農林水産省に提供し始めました。コンテストで受賞し、シード期に比較的手厚い助成金を得ることができたこと、経営者のネットワークに参加して、様々な事業に挑戦する経営者の助言が大きな力になっていると同社の谷川社長は言っていました。
三つ目に、高校生起業家が現れ始めたことです。地元の佐渡総合高校では、2024年にスタートアップ部が誕生し、地元の企業家やNPOと連携して未来を見据えた人財育成に挑戦しています。1月のコンテストでのピッチには、スタートアップ部の高校生も登壇し、近々株式会社化するという目標を語っていました。
最後に、こうした取り組みが重層的に広がってきたことで、外から佐渡で何かをやろうする若者もじわじわとふえていて、島の雰囲気が元気になってきているという点です。
こうした地域の取り組みを観ながら感じていることがあります。地域創生には、地元の人が真剣に地域課題に取り組むことはもちろん大切ですが、「地域の問題を地域で解決することに限界」もあるということです。それだけに、その地域にはない異なる発想や知識・経験を外から呼び込むことによって、地域の価値を再発見したり、新たな価値を共創する土壌を耕していくことが大切だと思うのです。
次に、地域で成功した事例があれば、それを応用して他地域にも横展開し、ひいては日本全体にも貢献するという視座が大事だと感じています。一方で、個人商店のような個性的なスモールビジネス、ゼブラ型の企業も大事で、その両者がそろう地域は面白いと感じます。
4. 共助型資本主義へのシフト
会社は、自分ひとりではなし得ないことを、多くの人の力が集まることによってなしとげるために存在します。そして、会社が成長するためには、一社ではなし得ないことを、さまざまな取引先や顧客と一緒に作り上げることが求められます。
地域や地域社会の中核を担う行政もまた同じではないでしょうか。地域の課題解決、地域の自治を自治体だけで成立させることは、予算も人口動態も大きく変化する中で、もはや不可能でしょう。社会的目線を持ったNPOを含む企業家たちと共に連携しながら、新たな自治のかたちを模索する必要性とその可能性を佐渡市から感じます。佐渡ビジネスコンテストは、正にその融合点になっていると感じるのです。
こうした動きは、単にお金をふやすことを目的とした資本主義の次のステージを示すヒントになると感じています。佐渡は、資本主義の仕組みも活用し、お互いが助け合って社会を形成する共助型経済の仕組みづくりに挑戦しているようにも映ります。
他の地域に目を向けると、私が尊敬する田坂広志さんは、山梨県で社会起業家と行政が連携したワイズガバメント構想、新たな地方自治のあり方として提言しています。お金をただふやすことだけを共通目的化させる市場資本主義から、豊かな社会を共創するという観点に立った共助型資本主義へのシフトチェンジの動きの一端です。
このように佐渡ビジネスコンテストから、私自身もいろんなことを学ばせていただいています。まだまださざ波ですが、大きなうねりになることを楽しみにしています。
【留意事項】
・「創発の莟(つぼみ)」は上場会社や機関投資家などの特定投資家向けの適格機関投資家専用私募ファンドです。組合持分出資の公募はおこなっておらず、この記事は出資の勧誘を目的としたものではありません。また、個人など、一般投資家の方がこの組合に持分出資することはできません。
・tane CREATIVE株式会社は、公募投資信託「結い 2101」の投資先ではありません。
写真出典:佐渡市フォトギャラリー
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