春を抱いていた二次小説「京都・旅番組収録を終えて」
【春の京都で、桜より眩しい相方が隣にいた話(※仕事です)】
「京介さん、桜、本当に綺麗ですね。まるで絵みたいだ。」
京都の春は、毎年ちゃんと“反則”をしてくる。
どこを見ても淡いピンク、空気はふわっと甘く、観光客のテンションはだいたい上限突破。そんな中、僕らは旅番組の収録で京都に来ていた。
そして今、桜の下で隣に立つ男が、こちらを見て当然のように言う。
「ああ、綺麗だな。香藤、お前も桜に負けてないくらい綺麗だよ。」
……出た。
京都の風情を台無しにしないレベルで、しっかり心臓を撃ち抜いてくるやつ。
「え、急にどうしたんですか? まったく、相変わらず京介さんは口が上手いなあ。」
こういう時、ツッコミを入れたほうが安全だ。僕の心がもたないから。
「褒めてるんだよ。ほら、こっちに来いよ。肩を寄せて写真を撮ろう。良い記念になる。」
“肩を寄せて”って言い方がもう、ずるい。
仕事の撮影で肩寄せなんて当たり前のはずなのに、京介さんが言うと、途端に“人生のイベント”っぽくなるの、なんでだろう。
「はい、喜んで!」
返事が秒なのは仕方ない。春だし。桜だし。相手が岩城京介だし。
カメラに収まる僕らの後ろで、桜がこれでもかと咲き誇っている。
そして僕は気づく。今日いちばん“映えてる”のは桜じゃない。京介さんの余裕の笑みだ。
さて、今回の旅番組。京都は京都でも、いわゆる「映えるところを歩いて団子を食べる」だけじゃない。しっかり濃い。
「それにしても今回の旅番組、色々なところに行きましたね。祇園祭のお宝も見られたし…。」
「ああ、すごかったな。中でもあの屏風は圧巻だった。歴史の重みを感じたよ。」
そう、祇園祭。
“お祭り”って聞くと、正直、太鼓ドンドンわっしょいのイメージが強いけど、京都は違う。さらっと国宝級の空気を出してくる。屏風の前に立った瞬間、「ここは博物館ですか?それとも時間が止まってますか?」みたいな感覚になった。
そして、旅の話題は当然そこにも触れる。
「そうだ、『冬の蝉』のロケ地巡りもしましたね! あの時はまさか、京介さんとこんな関係になるなんて思ってもみませんでした。」
言った瞬間、僕は少しだけ笑ってしまった。
だって本当に、当時の僕は“こんな未来”を想像できていなかったから。
「あの頃はライバル意識むき出しだったもんな。お互い、若かったよな。」
若かった。
若いって、要するに不器用で、負けず嫌いで、格好つけで、相手を見ているようで自分しか見えてない時期のことだと思う。
でも、あの作品がなかったら、僕らの距離はここまで近づかなかったのかもしれない。
「でも、あの作品があったからこそ、今の僕らがあるんですよね。秋月景一朗と草加十馬…。役柄を通して、京介さんのこと、もっと深く知ることができた気がします。」
そう言うと、京介さんは少し目を細めた。
「俺もだ。香藤の熱い演技に、何度も心を揺さぶられた。お互い、役者として高め合えた良い作品だった。」
こういう真面目な話をする時の京介さんは、ずるいくらい誠実だ。
普段は軽口でサクサク距離を詰めてくるのに、核心のところは丁寧に言葉を選んでくる。だからこっちは、照れながらも真剣に受け止めてしまう。
……でも、ここでしんみりして終わる僕らじゃない。
僕はスマホを取り出した。
「あの時の写真、まだ僕のスマホに残ってるんですよ。見てください。」
画面には、『冬の蝉』撮影時、衣装のまま休憩している僕らの写真。
若々しくて、なんだかぎこちない笑顔。距離感が今よりちょっと遠いのに、目線だけ妙に近い。
京介さんが画面を覗き込み、ふっと笑った。
「若いな、俺たち。でも、良い顔してる。」
そして、さらっと爆弾を落とす。
「香藤、あの頃からお前のこと、気になってたんだと思う。」
……春の京都、二発目。
「え? そうだったんですか? 全然気が付きませんでした!」
本当に気づいてなかった。
いや、気づいてたら、たぶん当時の僕は動揺しすぎて現場でセリフを噛み倒していたと思う。
京介さんは、僕の反応を見て少し笑い、落ち着いた声で言った。
「隠してたんだよ。お前に意識されるのが怖かったからな。でも、今はもう隠す必要はない。こうしてお前は隣にいるんだから。」
僕はスマホを閉じて、そっと京介さんの手に触れた。
「京介さん…。僕も、京介さんの隣にいられて、本当に幸せです。これからも、ずっと一緒にいたい。」
言ってしまったあと、心臓がうるさい。
だけど京介さんは、当たり前みたいに頷く。
「ああ、もちろんだ。これからもずっと一緒だ。香藤、お前を離すつもりはない。」
桜が風に揺れる。
人の声も遠くなる。
僕らはしばらく、言葉少なに寄り添った。春の陽気って、たぶんこういう時間のためにある。
……と、いい感じにまとめたいところだけど、ここで終わると「いい話」で終わってしまう。僕はブログを書いている。旅番組の収録だ。つまり、次の段取りがある。とはいえ、ちょっとだけ“次の約束”の話をしたくなるのも、春のせい。
「ねえ、京介さん。今回の旅番組、本当に楽しかったけど、今度はプライベートで京都に来ませんか?」
提案した瞬間、京介さんの目が少しだけ柔らかくなる。
「良いな。今回の旅では行けなかった場所もあるし、もっとゆっくり時間をかけて、二人で京都の街を歩きたい。」
“二人で”って言葉に弱いのは、僕の方だと思ってたけど、京介さんも案外そうなのかもしれない。
「例えば、どこに行きたいですか? 僕は、京介さんと一緒に伏見稲荷大社に行きたいです。千本鳥居を二人でくぐって、願い事をしたい。」
「伏見稲荷か。良いな。あと、夜の鴨川も良いかもしれない。川沿いを二人で歩きながら、ゆっくりと語り合いたい。」
夜の鴨川。
川の音と、街の明かりと、少し冷えた空気。
想像しただけで、もう良い思い出の匂いがする。
「素敵ですね! そうしましょう。絶対に実現させましょうね。」
