ビリヤニは風のように
長かった夏。
なるべく火を使わない料理、冷たい料理を作ることが多かった。
ようやく肌寒くなってきた10月、朝晩の空気の冷たさに季節の変わり目を感じ、香りのある温かな料理が恋しくなった。
とある休日、料理家・植松良枝先生のビリヤニレッスンへ。
レッスンが始まると、先生がスパイスボックスの蓋をパカリと開ける。
その瞬間、ふわっと広がる香りに包まれて、台所の空気が一気にインドになる。

香ばしい玉ねぎが炒められ、トマトが加わり、スパイスの色がじわじわと鍋の中に溶けていく。
ビリヤニのもととなる“グレービー”ができあがっていく様子を、みんなで息をひそめて見守る時間。
これから始まる物語のようで、胸が少し高鳴る。

やがて炊き上がった米は、
まるでチンアナゴの群れみたいに直立していて、
思わずみんなで笑ってしまった。
可笑しさと美しさが同居していて、
その光景にしばらく見とれてしまう。

鍋底からワッフワッフとほぐしていくと、真っ白な米のあいだからスパイスとグレービーの香りが立ちのぼる。
その空気を胸いっぱいに吸い込むと、
ああ、ビリヤニって“風”なんだと思った。

その風の中に、季節の香りを少し。
副菜のカチュンバルには柿を。
冬にはリンゴや大根、柚子もいいのだとか。

ビリヤニはお店で食べるもの、と思っていたけれど、
工程を見ていたら、家でもできそうな気がしてくる。
グレービーさえ作っておけば、あとはバスマティ米と炊くだけ。
想像していたよりずっとシンプルだ。

スパイスを揃えるのは少し大変そうだけれど、
レッスンのあとに販売されていたキットを買った。
次は自分の台所で、あの風をもう一度感じてみたい。
風のように軽やかで、
気づけば夢中で食べ終えていて、皿の上は空っぽだった。
