ことばの器が空になるとき
空音(そらね)のソラより。
雨粒が
ぽつり、ぽつりと
静かな岩に降りそそぐ。
何度も、何度も。
やがて、岩はくぼみ
その中に、
透明な水がたまっていく。
ことばも、そう。
人の心にふれる無数の言葉は
そっと傷をつけ
いつかそのくぼみに
新しいことばが流れこんでくる。
自分のことばが溜まっていなければ
書こうとしても
手が止まる。
たとえ、頭で何かを思っても
内から出てこなければ
それは
ほんとうの「わたし」ではない。
書くことはできる。
けれどそれは、
風のように通りすぎるだけのもの。
中身のない言葉は
ときに、
綴った人の心を削ってしまう。
だけど──
それでも、書かずにはいられない夜がある。
伝わらなくてもいい。
伝える形になっていなくてもいい。
なにかを吐き出さなければ
立っていられない時がある。
それは、祈りのようで
ときに、呪いのようでもあって。
からん、からんと
音をたてながら
ことばの器を持ち歩き
誰かは今日も
その空っぽの器に
ことばを注ごうとしている。
借り物のようでも
空っぽのようでも
その中に
ほんとうの「自分」が宿る瞬間を
いつか、見つけるために。
