営業は覚えとき、安売りをするとこういう結果になるんやわ
あの「あと10%引いてくれたらハンコ押すわ」っちゅう案件があってな、今でもたまに鮮明に思い出すんやわ。
相手は、どうしても取りたかったデカい会社やった。
決裁権持っとる担当も出てきて、何回も打ち合わせ重ねて、
社内で提案書も作り込んで、「ここ通ったら一気に景色変わるな」って案件や。
最終の打ち合わせの日、空気は悪くなかった。
質問も具体的やし、導入後の話までしてくれる。
「これはいけるんちゃうか」と、こっちも手応えあったんよ。
そしたら最後にな、担当のオッサンがニヤッとして言いよった。
どエロいツラしとったわ。
「ここまでようやってくれたわ。あと“10%”引いてくれたら、今ここでハンコ押すで。他社はやる言うてるけど、あんたとこどうなん?」
(10%やと…)
その瞬間、喉から手が出るほど欲しかった。
社内の数字も頭をよぎるし、社長の顔も浮かぶし、
「ここで“はい”って言うたら、全部丸く収まるで」って悪魔が耳元でささやいてくる。
10%ぐらい…ええか、って一瞬思ったんやわ。
言うてしまうたら楽やからな。
でもな、その10%って、ただの数字ちゃうねん。
ウチがここまで積んできた「やれること」と「やらんこと」、
「この品質で出します」っていうラインを、
自分の口でへし折る行為でもある。
10%引いた瞬間に、
・外注単価を下げるか
・工数を削るか
・アフターを薄くするか
どこかを削らなあかん訳やん?
つまりあの場で「はい、引きますわ」って言うたら、
“将来どこを手抜きするか”を、その場で約束するのとほぼ一緒や。
それ分かってるから、
資料まとめてカバンに入れて、席立ってもうてた。
「すんません、引けませんわ。これ以上やってもうたら、約束した品質守れんようになります。安かろう悪かろうは、ウチの商売ちゃいますねん」
正直、足ガクガクやったで。
声もちょっと震えてた思う。
帰りのエレベーターの中なんか、心臓バクバクや。
社内戻ったら案の定、社長にボロカスや。
「お前、正気か? あの会社どれだけデカい思てんねん」
「まず取ってから考えろや。10%ぐらい何とかできるやろ」
こっちもカチンときて、
「じゃあ最初からその前提で原価組めや」とか、
心ん中で毒づきながら、
「いや、すんません」とか言うて頭下げてた。
しばいたろか思うたのは、あのときがマックスやな。笑
でもな、数日後よ。
あの会社から電話が鳴ったんや。
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