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舞台 「養生」 観劇レビュー 2025/12/26


写真引用元:ゆうめい 公式X(旧Twitter)


写真引用元:ゆうめい 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「養生」
劇場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
劇団・企画:ゆうめい
作・演出・美術:池田亮
出演:本橋龍、黒澤多生、丙次
期間:11/1〜11/3(京都)、11/8〜11/9(三重)、11/29〜11/30(福島)、12/6〜12/7(北海道)、12/12〜12/13(高知)、12/19〜12/28(神奈川)
上演時間:約1時間50分(途中休憩なし)
作品キーワード:美大生、舞台美術、芸術、元気を貰える
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


2024年には『ハートランド』で第68回岸田國士戯曲賞を受賞し、2025年には『養生』で第32回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞した、池田亮さんが作演出を務める「ゆうめい」の公演を観劇。
本作は、2024年2月に下北沢ザ・スズナリで初演された作品の再演で、今回の上演では「ゆうめい」結成10周年ということで全国ツアーが組まれた。
私自身、「ゆうめい」の作品は『姿』(2021年5月)『娘』(2021年12月)『ハートランド』(2023年4月)を、池田さんが創作に携わった作品は『テラヤマキャバレー』(2024年2月)『球体の球体』(2024年9月)を観劇したことがあるが、本作は初見である。

物語は、美大生であった池田さん自身をモデルにしながら、美大に通いながらショッピングモールの内装の夜勤アルバイトを描いたものとなっている。
美大の絵画科油絵専攻の橋本養(本橋龍)が登場する。
橋本は、ステージ上にある脚立と養生テープのみを使ってできた芸術作品を卒業制作として披露する。
脚立を普段使わないような形で脚立と脚立を組み合わせて「地獄の門」という制作物を作っていた。
しかし教授からはチープであると酷評を喰らっていた。
橋本は学生時代にタイムスリップする。
当時橋本は、ショッピングモールの内装の夜勤アルバイトをしており、そこで阿部一郎(丙次)という一般大学のアルバイトとも出会う。
橋本は大学でも上手くいかなくて恋人もいなかったが、阿部にはどうやら好きな女性がいるようである。
橋本と阿部は内装の夜勤アルバイトに指示出しをする正社員の川口貴司(黒澤多生)から、脚立の運び方やエレベーターの鍵の扱い方などで散々怒鳴られる。
やがて橋本と阿部は就活も上手く行かなくて、アルバイトから正社員になって雇われることになり、アルバイトに後輩の清水唯我(黒澤多生)が加わるが...というもの。

本作を見終わっての率直な感想は戯曲として、そして舞台美術としては非常に優れていて、読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞するのも納得な演劇作品であったが、個人的にはなかなか好きになれない演劇でもあった。
まず素晴らしいのは、ステージ上にある脚立の使い方。
冒頭で橋本が脚立を普段の使い方でない形で使用して可能性を引き出すといったことを言い、脚立の門を電車の架線に見立てたり、ショッピングモールの内装に見立てたり、エレベーターに見立てたり、クリスマスツリーに見立てたりと、脚立が様々なものに見えてくる仕掛けが面白かった。
こういう舞台美術を使った演出の創意工夫を思いつくのは凄いなと感心した。
そしてステージ後方に養生テープが無数にカーテンのように垂れ下がっている舞台美術がある。
こちらもそこに照明や映像を当てることによって、イルミネーションやネオンのように見えるのが凄く面白かった。

一方で、美大生の友人である佐伯が芸術方面で成功していくのに対して、橋本自身は成功せず彼女もいないでずっと夜勤アルバイトからの正社員をしているという、社会的な成功への憎しみや嫉妬みたいなものが赤裸々に戯曲や演出に露骨に反映されていて、個人的にはちょっとキツく感じられるものがあった。
マネキンを使った少し下品にも見えてしまう演出や、終盤の阿部と橋本の二人で怒鳴り散らしながら渇望する様は、個人的には醜く感じられて肌に合わなかった。
『球体の球体』の舞台美術でも同様の感情があったと記憶していて、この男性の性的な欲望を露骨に出す演出はあまり受け付けられなかった。
ただ、クリスマスの時期に仕事でもプライベートでも報われていない孤独な男性が、本作を観劇したら心の叫びを代弁してくれる感じがあって響くのだろうなと感じた。

出演者の熱演も素晴らしかった。
主人公の橋本養役を演じた「ウンゲツィーファ」の本橋龍さんは、あの滲み出るような優しさが好きだった。
きっと橋本はずっと佐伯に嫉妬したり、家庭を持つ阿部に嫉妬したり、そしてなかなか才能がなくて報われずにいる自分に苛立ちを感じていたと思うが、そういう感情をあまり出さずににこやかに優しい態度でいるところがとても好きだったしハマっていた。
阿部一郎役を演じた「ゆうめい」所属の丙次さんは、終盤の『アヴェ・マリア』を「阿部ムリだ」で熱唱するシーンに引き込まれた。
私は最前列で観劇していて、目の前で丙次さんが汗ダラダラの状態で熱唱している姿に圧倒された。
川口貴司と清水唯我の二役を演じた黒澤多生さんの、川口役を演じた鬼のように叱る正社員に迫力を感じた。
今のご時世の演劇でここまで檄を飛ばす演劇はなかなかないだろうと思いつつ、私も大学時代にイベントスタッフのバイトで怒鳴られた経験などを思い出して胸が痛くなった。

個人的な好みでいくとあまり好きになれない創作だったのだが、戯曲や舞台美術の使い方の上手さ、そして強度は非常にあって見応えのある唯一無二な演劇であることは間違いないと思う。
特に色々現実うまく行っておらず渇望している方には響くのかもしれない。

写真引用元:ステージナタリー ゆうめい 10周年全国ツアー公演「養生」より。(撮影:佐々木啓太)


↓予告動画




【鑑賞動機】

「ゆうめい」の作演出を務める池田亮さんの演劇作品は、『姿』(2021年5月)で感銘を受けてから数多く観劇しており、特に『ハートランド』は私も大好きな演劇作品の一つである。2024年2月の初演版の『養生』は予定が合わず見送ってしまったが、こうやって再演されることになったので観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

ステージ上に橋本養(本橋龍)が登場する。彼は自己紹介をステージの前にいる観客に対して行い、自分が美大の絵画科油画専攻であることを述べる。そしてステージ上にあるのが卒業制作で自身が制作したものだと語る。ステージには、脚立が複数組み合わせられて門のようになった形のものが複数あり、その背後には養生テープで出来た暖簾のようなものが垂れ下がっている。橋本は、普段脚立が脚立としてしか使われないので、別の使い方をすることで違った見方が出来るのではと考えて作ったと語る。そしてこの卒業制作は「地獄の門」と呼んでいるのだと言う。
しかしこの卒業制作は、教授からはチープ過ぎると酷評を喰らった。一方で、橋本の同期の佐伯からは褒めてもらえて、今でもその時の彼のポストは大事にしていると言う。橋本は佐伯からの絶賛されたポストを読み上げる。1リポストは自分で、20くらいファボがある。
橋本は、無性に自分が誰と話しているか分からなくなり、そしてまるで夢の中にいるのではないかという感覚に陥る。そして、過去に戻りたくなって過去に戻ろうとジャンプをする。

10年前に遡る。電車が走る音がする。橋本は電車の中にいて、まるで脚立で出来た門が電車の架線のような役割をしている。電車の中には、阿部一郎(丙次)がイヤホンをつけて音楽を聴きながら立っている。橋本は話しかける。阿部は最初びっくりしたような感じで橋本を見て、その後は笑顔で二人は話す。
橋本と阿部は同じショッピングモールの内装の夜勤アルバイトをしていた。橋本は美大生だが阿部は一般大学の学生である。クリスマスの時期なので、阿部はカップルに向かって爆発してしまえなどと言っている。しかし、阿部は夜勤アルバイトがこの後あるのにどうして5万円もするインナーを着ているのかと橋本が尋ねると、阿部は詩織という女性と先ほどまで海を見ていて、夜勤明けの後もまた会うのだと言う。橋本は、そういう気になる女性がいるんだと言う。

橋本も阿部もショッピングモールの内装の夜勤アルバイトに到着する。正社員で指示出しを行う川口貴司(黒澤多生)がやってくる。社員証を二人に配って胸元につけるよう指示するが、5万円するインナーを着てきた阿部は胸元につけたくなくて手で持ってようとする。しかし川口に社員証は胸元にしっかりつけるようにと怒られる。
その後、橋本と阿部で脚立を移動させる仕事をするが、脚立を移動させるときにぶつけてしまったり、いきなりおろして床を傷つけてしまったりして川口に何度も怒鳴られる。
川口は別の仕事をしにその場を立ち去ると、橋本と阿部の二人が残る。橋本と同じ美大に通っていて同期の佐伯という友人も、このアルバイトをやっているがバックれたらしい。佐伯は非常に油絵のセンスが自分よりもあって腹立たしいと橋本は言う。橋本は自分なんてずっと学生時代いじめられていて、下の名前が「養」であるから「用無し」なんて呼ばれていたと話す。

川口が戻ってくる。川口の元に電話がかかってくる。どうやら川口に子供が産まれたと言う連絡だったらしい。川口は電話越しにありがとうと言っている。橋本と阿部は、影で川口の電話の内容を聞きながら喜ぶ。
川口は戻ってくると、色々橋本と阿部が仕事を頑張ってくれたことを褒める。お前らよくやったと。
今度は川口は、阿部だけを連れてエレベーターの方に向かう。川口は阿部に鍵を渡す。これがエレベーターの鍵で、もう一つ付いている鍵はエスカレーターだから間違えて鍵穴に入れるなと抜け出せなくなると言う。そして、鍵を放置したままその場を離れるなと忠告する。阿部はエレベーターでの仕事をし、その間川口は別の場所で違う仕事をする。終わったら川口の元へ来いと。
阿部はエレベーター箇所で仕事をしていたが、間違えてエスカレーターの鍵を入れてしまって抜けなくなり、そのまま川口を呼びに行く。川口は急いでやってきて、鍵を放置するなと阿部に怒鳴る。
阿部は鼻血を出してしまう。大変だと橋本はティッシュを取ってきて止血をしようと阿部を助ける。阿部は川口の口の悪さを陰で愚痴る。
その時、川口はまた電話がかかってきてきて電話に出ていた。そして電話越しの妻と口論する。このタイミングで産みたくなかったってどういうことだと、そのまま口論しているらしい。

暗転する。

時間は現在に戻る。橋本と阿部はショッピングモールの内装で夜勤をしていると、清水唯我(黒澤多生)という新人のアルバイトが入ってくる。メールでccに入っていた奴だと、二人とも思い出す。
橋本と阿部は、清水が以前いた川口に似ているなと言う。川口は1年前にこの職場を離れていた。子供が配膳ロボットに乗っているのを写真撮られてSNSで炎上してしまい、その責任で辞めることになってしまったと。
清水は、橋本と同じ美大の後輩にあたり、橋本も丁度10年前に同じ専攻を卒業したと語る。清水はそのまま佐伯というクリエイターの話をする、最近売れてきているクリエイターで、年齢的に橋本の同期なんじゃないかという話をする。橋本は、佐伯のことは勿論知っているけれど、特にテンション上げて話すでもなく平然と普通のことのように話している。
その頃、阿部は電話がかかってきて妻と口論をしているようであった。
清水は阿部からエレベーターの鍵を渡される。エスカレーターの鍵を間違えて差し込むと抜けなくなること、放置しないことを忠告する。
しかし、清水はエレベーターの鍵とエスカレーターの鍵の差し込みを間違える。阿部はふざけるなと清水を叱りつけるが、そのまま清水はその場で気を失って倒れてしまう、誰か救急車をと叫んでいると、橋本の方でもアルバイト(マネキン)が倒れてしまって誰か!と叫んでいる。同時に気絶した人が現れたのである。

10年前に遡る。橋本の卒業制作の発表の後だった。橋本と阿部は二人で話している。橋本は卒業制作は教授には散々酷評を受けたが、佐伯だけは褒めてくれたと言う。佐伯は、自分よりも才能があるのに妙に自分には優しくフレンドリーに接してくるから逆に腹が立つと言う。橋本と佐伯は今でもお互い友達で一緒に遊びに行くこともあると言う。佐伯はいつも手をあげて「よう!」と橋本の下の名前が「養」でもあるからそうやって声をかけてくれるのだと言う。
橋本も阿部も就職先が見つからず、結局この夜勤アルバイトをしていたバイト先に正社員として就職することになっていた。お互いよろしくと言い合う。
川口がやってくる。4月からは橋本も阿部も正社員ということでよろしくと、ここからは責任が伴うからSNSなどに勝手に写真をアップしたりするなと言う。佐伯にも声をかけたが、佐伯はここではない別の場所にいた方が良いから声をかけなかったと言う。
川口、橋本、阿部は3人でタバコを吸う。マネキンの手首をタバコがわりに使って、マネキンの胴体を灰皿として使っている。川口は、今度の懇親会の出し物の企画をお願いしたいと橋本と阿部に言う。川口の時は、入隊式と言ってその場で丸坊主にしたらしい。

現在に戻る。橋本と阿部がいる。阿部はペットの愛犬のココアが死んでしまったと悲しんでいた。
クリスマスの夜になる。清水は以前倒れたが今日のアルバイトには復活していた。しかし、何やらネットで炎上している件に付いて激しく感情が昂っているようで、清水を落ち着かせるのに橋本も阿部も苦戦している。内容は佐伯のことと関係があるようである。
そんな中、阿部は電話があり、妻の父から妻と離婚して欲しいと連絡があった。阿部は焦って妻に電話しようとするが繋がらない。
一方で清水はネットのことで暴れている、橋本が宥めようとするが落ち着かない。阿部は、何度も妻に電話してようやく繋がり、今どこにいるかと尋ねる。そして死んで欲しいと思うくらい阿部を憎んでいたことを打ち明けて、毒を入れて殺そうと思ったほどだったと妻は言ったようである。ペットの愛犬のココアが死んだのも、妻がペットフードに毒を混ぜたからであった。阿部は泣き叫ぶ。
清水はパニックになって、突然防犯ブザーを引く。防犯ブザーが終始鳴り響いている。阿部はひたすらに泣き叫んでいる。そんな中、橋本は佐伯が飛び降り自殺をしたことをネットで知る。右腕を負傷してしまい、そのまま彼はビルから飛び降り自殺したのだと言う。
清水は発狂している。泣き叫ぶ阿部を、今度はハラスメントで訴えると叫んでいる。橋本、阿部、清水の3人で叫んでいる。散々怒鳴り散らした後で、清水はひっそりと帰ってその場を後にする。
その後は、橋本と阿部でお互いに叫び合う。そして、橋本は自分のことを9月生まれだから、両親がクリスマスに勢いでセックスして出来てしまった子だと言う。阿部の子供もどうやらそうで、妻とのクリスマスのセックスで勢いで子供を作ったのだと言う。
阿部は『アヴェ・マリア』を「阿部無理だ」にして替え歌を熱唱する。

ブラックアウトする。辺りは静かになる。橋本と阿部はいる。阿部の妻は家に帰ったらしい。橋本は、ディズニーのパロディでクリスマスにキスするカップルを一人二役で演じる。阿部は妻の不倫の原因を作ったのは自分のせいだと言い、そして離婚することは正解だと決意する。
橋本はクリスマスツリーの飾り付けを撤去し、佐伯の広告の設置の準備に取り掛かる。今ステージ上にクリスマスツリーのようになっている脚立たちを移動させて、そして全てを片す。
養生テープの向こうに、人影が浮かび上がり橋本に向かって手を振る。橋本も手を振りかえす。ここで上演は終了する。

非常に男感が強いというか、人間の決して綺麗ではないけれど正直な感情をしっかりぶつけてくる演劇だなと感じた。素晴らしい演劇作品ではあったが、個人的には苦手な部類の演劇でもあったが。
私自身もイベントスタッフのアルバイトをしたことがあったので、川口がめちゃくちゃ怒鳴ってアルバイトたちをこき使うシーンを見た時は、当時の自分の経験も思い出したりして共感部分も多く、かなり刺さる内容だった。あれは辛いよなとシンプルに思った。
そして美大生としての友人が先に活躍してしまうことに対する感情は、自分は美大生ではないけれど分かる感情だなと思う。友人だからこそ、凄く複雑な感情を持ってしまって嫉妬なども含めて追いつかない感情が非常にうまく表現されているなと思った。
後半パートは、3人の役者の感情の爆発はよく分かったが、上演として観ていると何が起きたのか追いつかなくて混乱した。もうそこはストーリー追うのを諦めて感じるパートだったのかもしれないが、感情爆発したなりにもう少し戯曲として整理して欲しかった気もした。理解して没入できた部分もあるかもしれないので。
女性は引いてしまうんじゃないかというくらいの男感強い戯曲だったが、特にクリスマスに上演したと言うのは良かったと思うし、男性の渇望をよく描けていると思った。

写真引用元:ステージナタリー ゆうめい 10周年全国ツアー公演「養生」より。(撮影:佐々木啓太)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

もちろん、初演は下北沢ザ・スズナリで上演を行っているので初演と今回の上演を同列にするのは違うかもしれないが、流石は第32回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞した作品だなと思うくらい、舞台美術、世界観、演出が素晴らしかった。
舞台美術、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていくことにする。

まずは舞台美術について。ステージ上には脚立を精一杯広げて脚と脚をくっつけて一つの大きな門のようなオブジェになったものが複数置かれていた。この脚立のオブジェが橋本が卒業制作で制作したもので、しかもこちらが劇中の舞台装置にもなっていく。序盤で橋本から、脚立が普段の使い方でない使われ方をすることで新しいポテンシャルを引き出したいみたいなことを言っていて、実際演劇で電車の架線やエレベーター、クリスマスツリーなどに脚立が見立てられていて、こんなにも脚立だけで色々なものが表現出来るのだということに驚かされたし、それを謳った卒業制作物になっていて引き込まれた。ここには、池田さん自身が投影されていて、自分自身が脚立を卒業制作の時に使って教授に酷評されて世の中に出ないで終わっていたからこそ、こうやって今演劇として登場して評価されているのも非常に面白いなと感じた。一度ポシャったアイデアも別の創作で登場するとウケるといいうのも証明していて、クリエイターに希望を与えているなとも感じた。
ステージ後方には、養生テープをカーテンのように無数に垂れ下げた舞台美術となっていた。そこに照明が色とりどりに当たることによって、こんなにも養生テープが美しく見えるものなのかと驚いた。ここにも普段使われているものが全く別の使われ方をして新しい発見があったなと思う。
また、ステージ上にはプリセット時には下手側と上手側に一台ずつマネキンが置かれていた。ショッピングモールを舞台にした物語なので、ショッピングモールらしさを感じる舞台セットである。個人的には、このマネキンを裸にしたり分解して他のものに見立てたり、場合によってはセックスのように見立てる演出もあり、男性としての欲望などを表しているのだろうなと感じたが、個人的にはあまり好きになれない演出だった。男性の性器部分に棒のようなものが立っているようにマネキンを見せたりと、少し下品に感じられた。また、タバコのシーンでマネキンの手首をタバコとして、胴体を灰皿として使う演出には笑ったが悪趣味にも思えた。
観客は、ステージに入る際に、『球体の球体』の時と同じように、一度ステージの後方に回って養生テープのカーテンの裏側を通ってバックステージツアーをした後に客席につく順路になっている。池田さんの演出は最近このようなものが多いのだが、何かこだわりがあるのだろうか。客席とステージの第4の壁を打ち破るような良い演出だなと思った。

次に舞台照明について。
舞台照明は様々に工夫されていて、とても良かった。
なんと言ってもステージ後方の養生テープのカーテンを活かして、そこに紫色の照明や白い照明など様々な照明を当てることで、イルミネーションに見えたり、ちょっと幻想的なシチュエーションに出来るのは凄く良い発想だなと思った。
また、これは照明というよりは映像なのだと思うが、養生テープのカーテンをスクリーンにして、そこにクリスマスの夜空のような映像を投影するのも好きだった。確かに、養生テープをスクリーンにするとこんな美しく見えるのかと驚いた。
ラストシーンで、養生テープのカーテンの後ろから黒澤さんが手を挙げるシルエットがあり、橋本も手を挙げるシーンがある。私はこのシルエットの男性は佐伯だと思った。たしか劇中で、橋本が佐伯はよく手を挙げて「よう!」と話しかけると言っていたので、最後に佐伯の広告の設置後というのもあり佐伯だと思っていたが、池田さんのアフタートーク曰く、別の人間という解釈もあるようである。そうは思わなかった。
一番最初の橋本のモノローグのシーンで、客あかり全開なのも良かった。あまり開演と終演の境のない演出が功を奏していた。

次に舞台音響について。
客入れ・客出しのショッピングモールらしいアナウンスが良かった。ピンポンパンポンで始まり、前説のようなものが流れ始める。開演する前から舞台空間に入ったかのような感覚で好きだった。
電車の音などの効果音も良かったが、個人的には『アヴェ・マリア』がずっと流れているBGMが好きだった。阿部が『アヴェ・マリア』を歌っていたのもあって耳に残りやすかった。
防犯ブザーが高らかに鳴り出す生音も印象に残った。防犯ブザーとか久しぶりに音を聞いたなと思った。

最後にその他の演出について。
川口がステージだけでなく、ステージ裏や客席まで使って移動して、マネキンを運んだりする演出が良いなと思った。川口があくせく働いている感じを演出する上で非常に効果的だし、本作はステージだけでなくステージ以外の部分も含めて、全部舞台空間として上演しているという一貫性も感じられて良かった。
客席もステージという点でいくと、ゴムで出来たスマホケースを投げ捨てて客席に飛んでいくというハプニングがあった。これは想定していたのかしていないのか分からないが、ちょっとゴムで出来ているとはいえ客席に飛んできたので危ないのではと感じた。
佐伯という存在を敢えて登場させずに描く点も好きだった。登場させないことで、佐伯という人物がどういう人物なのか観客の想像に委ねられることになる。そこに余白ができて、映像作品では味わえない良さがあったと感じた。
また、10年前と現在の時間軸を行ったりきたりしながら進むが、一番初めの橋本が過去にジャンプして切り替わる感じは印象的で良かったが、それ以外のシーンがいつの時間軸なのか多少混乱した。
川口と清水は、同じ黒澤多生さんが演じていたが、そこに意味はあったのかなどと考えた。劇中では、川口と清水は顔つきが似ているなという台詞があったが、似ている必要はあったのだろうか。何か意味はありそうだが、その意味は見出せなかった。

写真引用元:ステージナタリー ゆうめい 10周年全国ツアー公演「養生」より。(撮影:佐々木啓太)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

出演者は3人だが、皆素晴らしい演技力を発揮していた。
3人それぞれについて見ていく。

まずは、主人公の美大の絵画科油絵専攻の橋本養役を演じた「ウンゲツィーファ」」主宰の本橋龍さん。本橋さんの演技は初めて拝見する。
非常に優しそうで接しやすそうな男性感があって、最初のモノローグを聞いた感じで一気に聞き入ってしまった。もの柔らかくて、友達にしたくなりそうな感じの個性でそれがまた味があって良かった。
そうであるが故に、佐伯には先を越されてしまって友人ではあるのだがずっと嫉妬心を抱えていた。それを表に出すことは橋本のあの性格からするとないだろう。
橋本のずっと男性同士でつるんでそうな感じがまた個性として好きだった。他の男性に気に入られそうな性格良い感じがした。だから佐伯もきっと、橋本のことを好いていたのだと思う。
でも優しく見えるが故に、ずっと心の中では悔しさや嫉妬を抱えて生きていたんだなと分かる。ずっと孤独で恋人もいなくて、学生時代にいじめられて、美大目指すも教授に酷評され佐伯に先を越される。自分だったらなかなか辛く感じるし、その結果ショッピングモールの夜勤アルバイトからの正社員でブラックな環境で仕事をしていないといけないのかと思うと、この世を恨みたくなるよなと思う。
佐伯がまた優しく接してくるから腹が立つ、というのも分かる気がした。凄く人間として正直な感情を持って生きていて、人間らしさを感じて良かった。

次に、阿部一郎役を演じた「ゆうめい」所属の丙次さん。丙次さんの演技は、「ゆうめい」の公演で何度も観ており、『ハートランド』(2023年4月)、『娘』(2021年12月)、『姿』(2021年5月)で演技を拝見している。
一般大学に入学して、就職して結婚して子供を産むという普通の人生を歩んでいこうとするが、家族の中が上手くいかなくて妻とも最後には離婚することになる。妻は不倫していたが、その原因は阿部にあると言われている。それは、毎度毎度ブラックな夜勤仕事をしているからであろう。
きっと阿部ももっとホワイトな企業に就職して幸せな家族を作りたかったに違いない。しかし、就活が上手くいかなくて結局このブラックな環境の仕事を続けざるを得なくなり、それによって家庭をも失った。
それだけでない。仕事で追い詰められて清水に対して強くあたりパワハラまでしてしまった。どんどん人生が追い詰められて詰んでいった姿を見てこちらも辛い気持ちになる。
ラストの『アヴェ・マリア』の替え歌で、「阿部ムリだ」には阿部の感情がダイレクトに反映されている。そしてその熱唱ぶりがとても心に沁みた。
私は最前列で拝見させて頂いたので、もろ阿部の熱唱を喰らった。汗をダラダラ流しながら必死で歌う丙次さんにグッときた。

川口貴司役と清水唯我役の2役を演じた黒澤多生さんも素晴らしかった。黒澤さんの演技は、ゆうめい『姿』(2021年5月)で一度拝見したことがある。
とにかく川口の叱りっぷりが非常に迫力があって良かった。私自身もイベントスタッフのバイトをしたことがあって、アルバイトを上の人が犬猫同様に扱って怒鳴り散らしているのをみたり経験したりしていたので、その時の記憶がフラッシュバックするくらいリアルに感じた。
川口も阿部と同様で、家族を犠牲にして仕事をしていて、子供の出産するタイミングでも仕事を休めずにいて、その後口論をするくらいだったので、色々なストレスを溜め込んでいたのだと思う。その辺りの描き方が上手かった。そして、橋本と阿部が社員になってからの接し方とか味方になってくれる感じがまた良かった。
清水のキャラは、個人的にはちょっと掴みにくかった。佐伯に対してなんらかの感情を抱いているのと、ネットに触れすぎて狂っていて思想がおかしくなっているのは分かるのだが、意味不明でちょっとよく分からなかった。多分そういう設定なのだと思うが、そういうやばい奴感を出すのも上手かったと思う。

写真引用元:ステージナタリー ゆうめい 10周年全国ツアー公演「養生」より。(撮影:佐々木啓太)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、この戯曲について自分なりの感想をつらつらと書こうと思う。

この作品は、池田さん自身の過去の悔しさや嫉妬心のようなものを上手く演劇に落とし込んだ作品だったのかなと思う。
本作の主人公は、報われない美大に通っていた橋本養という男性である。学生時代はいじめられ、実家も太くなく才能もなかった。だから実家が太くて才能もあった佐伯のことが非常に目障りだったと思う。芸術というのは、社会に対して感じた負や不条理さのようなものを芸術に落とし込んでこそ評価されるものだと思うのに、実家が太いという理由で親の力もあって評価されてしまう。そんなことが腹立たしかったに違いなかった。
クリエイティブディレクターの萩原幸也さんのアフタートークを聞いていると、実際にそうらしくて実家が太いことが芸術を続けられる一つの条件でもある。親が顔が広いからその肩を借りて評価されやすいし、芸術の世界は儲かる仕事ではないので、結果的に実家が太い方が続けやすい。
あまりにも理不尽だよなと思う。

池田さん自身、美大で墓石職人を目指していた時に大学の卒業制作で、本作に使われているように脚立を脚立以外の用途で組み合わせてアートにして制作したものがあったと言う。まさに、本作で橋本が卒業制作と謳っている脚立の作品だと思う。しかし、教授からはチープだと酷評されてお蔵入りになったのだそう。
それを池田さんは10年の月日を経て、こういう演劇の舞台装置という形で復活させたのである。
その当時は教授に酷評しかされなかったものが、今こうやって舞台美術として立ち上がることによって、まるで脚立は本当に脚立以外の用途で使われることによって、その卒業制作で伝えようとしていることが物凄く伝わってくる。電車の架線、エレベーター、クリスマスツリーなど、脚立がそんな風に見えたことなかったので驚きと発見の連続だった。

おそらく橋本は池田さん自身である。自分がかつて酷評された卒業制作をこのように演劇にすることによって、上演を通じて様々な意味が生まれてくる。
まず一つ目は、決して他人に酷評された作品を作ったとしても、後でそれが別の形で評価してもらえるのかもしれないという希望を与えていることである。脚立を使った卒業制作はボツだったが、時間が経って演劇の舞台美術として使われることで再評価されることがあることを、本作の成功によって証明している。
もう一つは、芸術作品を生み出すというのは、その人の人生そのものだということである。橋本が卒業制作で作った脚立から、彼自身が経験したショッピングモールの内装の夜勤アルバイトが展開されたりと、彼の人生の記憶が展開される。それを観客にありのままに見てもらうのだということを見せつけられている感じがして、改めて芸術作品とはこういうものなのだと感じられた気がした。
演劇という芸術体系を通じて、芸術品からその創作者そのものが伝わるというのはこういうことなのかと、改めて芸術というものの深みを教えてくれた、そんな演劇作品に感じた。

下北沢ザ・スズナリで上演していたのも観たかったが、来年はリーディング公演、再来年は新作公演ということで、「ゆうめい」の今後をますます楽しみにしたい。

写真引用元:ステージナタリー ゆうめい 10周年全国ツアー公演「養生」より。(撮影:佐々木啓太)


↓ゆうめい過去作品


↓池田亮さん創作作品


↓黒澤多生さん過去出演作品


↓丙次さん(田中祐希さん)過去出演作品


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