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舞台 「旧体」 観劇レビュー 2025/08/29


写真引用元:劇団papercraft 公式X(旧Twitter)


写真引用元:劇団papercraft 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「旧体」
劇場:KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ
劇団・企画:劇団papercraft
作・演出:海路
出演:土村芳、イトウハルヒ、佐久間麻由、村上航、櫻井健人、尾上寛之
期間:8/29〜9/3(神奈川)
上演時間:約2時間5分(途中休憩なし)
作品キーワード:SF、不条理劇、会話劇、サイコホラー、社会風刺、考えさせられる
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


アミューズに所属しており、劇作家・演出家・映像監督として活躍する海路さんが主宰する「劇団papercraft」の新作公演を観劇。
「劇団papercraft」は、2020年に旗揚げをして2022年2月に上演された『殻』で高い評価を受けると、2023年1月に上演された『檸檬』で第29回劇作家協会新人戯曲賞を受賞し、その後2025年1月には『昨日の月』でさいたま芸術劇場に進出、そして今回の上演ではKAAT神奈川芸術劇場に進出した勢いのある演劇団体である。
私自身、「劇団papercraft」の公演は『殻』『世界が朝を知ろうとも』(2022年10月)『空夢』(2024年5月)『昨日の月』(2025年1月)と観劇しており、今作で5作目の観劇となる。

物語は、人類が突然球体に変異してしまい、しばらく時間が経った後に全能となってしまう世界を描いた話である。
妻の岩井早紀(土村芳:つちむらかほ)と夫の岩井宗次郎(尾上寛之)の間には、岩井千明(櫻井健人)という幼い息子がいた。
しかし、宗次郎が千明に大きな飴玉を食べさせたことによって誤って千明を窒息死させた。
そこから二人の夫婦仲は険悪となった。
数年後、人類が突然球体に変異した後、姿形は元に戻るものの全能になってしまうという事象が至る所で起こる。
早紀は、塾長の関根淳一(村上航)に球体になってしまった息子の関根利久(櫻井健人)の家庭教師やってくれないかと依頼される。
早紀は引き受けるも、利久が歴史の教科書を一瞬で暗記してしまう全能ぶりに驚愕する。
早紀は最初はそんな利久の全能ぶりを変わった人間だと思いながら宗次郎に雑談する程度であったが、やがて宗次郎も球体に突然変異して全能になってしまい...というもの。

毎度「劇団papercraft」の公演は、令和の日常世界を不条理劇の世界に変えて、今の社会を鋭く批判するような難解な戯曲を創作する印象がある。
今作も例に漏れず摩訶不思議で独特な世界観は健在なのだが、不条理劇的な要素よりもSFにだいぶ寄った創作になったように思えた。
というのは、あまりにも突飛で脈絡のない出来事が出現する回数はだいぶ減ったように思い、物語としてはだいぶ見やすくなったからである。
人類が突然球体になって全能になって進化するという設定自体はSF的なものなので、その設定を終盤まで上手く活かしながら、次はどんな展開になるのかと観客を引き込むストーリー展開が非常に見事で、この辺りは直近の『空夢』『昨日の月』よりもだいぶ物語として面白く感じられた。
おそらく一番多くの観客に受け入れられやすい「劇団papercraft」の作品になったのではと思う。

その上、この物語のメタファーを通じてしっかりと現代の社会に対する皮肉が込められているように感じられる点は、不条理劇として完成されていて素晴らしかったと思う。
今まで常識だと感じていたことが常識では無くなってしまうという感覚は、「老害」などという言葉が物語るように誰しもが感じていることだと思う。
自分が生まれ育った環境で教えられたことが常識で無くなってくることによって、ずっと同じ世界にいたつもりなのに自分がずれてしまっているんじゃないかと感じて生きづらさを感じていく様は、今作の主人公である岩井早紀の視点で感じ取りながら共感出来るのではないだろうか。
そこが見事にメタファーとしてハマっているからこそ、今作の摩訶不思議な設定が活きてきて不条理劇として素晴らしく感じた。

また、早紀と宗次郎の夫婦関係の描写がリアルだったり、早紀と友人の数原史果(イトウハルヒ)の会話がリアルだったりするので、非常に私たちの日常の一部を切り取って観ている感じもあり、多くの人々に共感されやすい内容も今までの作品よりも数多くあるのもポイントかもしれない。
その点も、この演劇団体の過去の作品よりもだいぶ観やすくしていたように思った。

舞台セットも広々とした冷たい現代風のリビングがステージ上に広がっていて、そこに巨大な球体が出現するインパクトなどが良い意味で気味が悪くて良かった。
球体はもっと丁寧に作り込んでも良かったような気がするが。

出演者も素晴らしかった。特に、主人公の岩井早紀役を演じた土村芳さんは、自然体でリアルな普通の30代の女性を演じ切っていて、多くの人が共感出来るような人物像に仕上がっている点が、より今作の良さを引き出していたように思えて良かった。
また、関根淳一など様々な役を演じる「猫のホテル」所属の村上航さんがとても味のある演技をされていた。
史果のヒモになっている夫役や全能教室に通う会員の役がそれぞれ個性的で凄い役者だなと改めて思った。

「劇団papercraft」は、正直最近の作品はハマらない作品が多かったのだが、『殻』以来の傑作に出会えたような気持ちがして観劇出来て良かった。
加藤拓也さん主宰の「劇団た組」の芝居が好きな方などには広くお勧めしたいストレートプレイである。

劇団papercraft 第12回公演「旧体」より。(撮影:中川達也)




【鑑賞動機】

「劇団papercraft」は『殻』を観劇してからずっと注目している演劇団体で、最近自分の中で刺さった作品に出会えてなかったので、今作はどうしようか迷ってもいたのだが、そういう時に勢いのある演劇団体は傑作を生み出したりするので観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

岩井家のリビング、妻の岩井早紀(土村芳)と夫の岩井宗次郎(尾上寛之)、そして息子の岩井千明(櫻井健人)はこれから出かける予定のようである。しかし、宗次郎は全然支度をしてなかったらしく早紀になぜ昨日から支度をしておかなかったのかと怒っている。
そんな中、早紀がリビングにいない所に、宗次郎は千明に飴玉を与える。すると飴玉が大きかったらしく、千明は飴玉を喉に詰まらせてしまう。そこへ早紀が戻ってくると千明が苦しそうなので助けようとするが手遅れだった。早紀は宗次郎が千明に飴玉を与えたことを責めてパニックする。

2年ほどが経って、ここは塾長をやっている関根淳一(村上航)の自宅。そこに早紀は呼ばれる。淳一は、息子の家庭教師に早紀にお願いしたいと言う。しかし息子は、今話題になっている人類が突然球体になってしまう現象に陥ってしまい、巨大な球体になっていた。224時間後に目覚めるみたいだが、ぜひその後息子に家庭教師として勉強を教えて欲しいと言う。
早紀は家庭教師を引き受けるも、2年間教員としての仕事はブランクがあって不安だと答えていた。
早紀は自宅で、友人の数原史果(イトウハルヒ)と会う。史果とは学生時代の友人である早紀は、学生時代の若い頃が自分たちの全盛期だったよねと色々語る。そして同窓会とかしたいねなどと話す。史果の夫はヒモ状態で何も仕事をしていなくてただ家にいるだけのようである。早紀は最近家庭教師をすることになったが、その子供が今話題の球体になってしまったのだと語る。
そこへ宗次郎が帰ってくる。本当はバーベキューをやる予定だったが雨が降ってきたので中止になった。

早紀は関根家の自宅に行って、淳一の息子である関根利久(櫻井健人)に家庭教師を始める。利久はかなり生意気な口調で早紀と話す。それを様子を見ている淳一が叱る。
早紀は歴史の参考書を利久に渡す。しかし利久は一瞬で、その歴史の参考書に書かれている内容を暗記し、どのページに何が書かれているかを詳細に答えてしまう。早紀は、その利久の凄さに驚愕する。
早紀は自宅に帰り、宗次郎に家庭教師をしている利久が球体に突然変異して全能になったのだが、あまりにも記憶力が良すぎて凄いと語る。暗転すると、早紀は宗次郎が球体になっていることに気が付く。
テレビのニュースの時間になる。アナウンサーA(尾上寛之)とアナウンサーB(イトウハルヒ)が、人類が突然球体になるという現象が多発していることを取り上げる。球体になった人類は224時間球体の中で閉じ込められた後に、姿形は変わらないものの全能になって出てくるのだと言う。その全能は、現在人類の2%から8%と急激に増えてきており、今後も増える見通しだと言う。
宗次郎は、最近全能になったということでインタビューを受ける。宗次郎は、全能になってから辞書を3冊一瞬で読んで暗記したのだと言う。

岩井家に史果が遊びにやってくる。今日はアップルパイを作ろうと言う。しかし史果はめちゃくちゃ沢山のりんごを買ってきてテーブルに並べる。そして今からネットでググりながらアップルパイを作ろうとする。
そこへ宗次郎が帰ってくる。アップルパイを作ろうとしているのを見ると、りんごの皮をちゃんと始末するようにと、今までの宗次郎であったらあまり言わないことを言う。
早紀は、全能に関しての相談窓口で相談する。担当者は真木佳奈恵(佐久間麻由)という女性だった。早紀は、家庭教師として教えている学生が全能で、あまりにも一瞬で参考書の内容を暗記してしまうのでどう接したら良いか悩んでいると言う。すると真木は、今後全能の比率はどんどん増えていって50%にまで達すると言う。そうなると、この世界は突然変わってしまうのだと言う。全能であることが普通の時代になると。そして全能になれない人は無能と呼ばれるのだと言う。だから早く早紀も全能になれるようにトレーニングした方が良いと言われる。そしてそのまま全能教室に入会することになる。
岩井家、何やら宗次郎は家を隅々まで掃除しているらしい。そしてなんと宗次郎は、亡くなった息子千明の部屋も全て綺麗に何もなくなってしまうくらい掃除してしまった。それに対して早紀は非常に腹を立てる。どうしてそんな冷たいことが出来るのと。
早紀は全能教室に入会し、真木の指導の元、もう一人の女性会員(村上航)と共にトレーニングを始める。

関根家での家庭教師、早紀は利久に学校が全然楽しくないと相談される。先生の多くが無能で授業を受けていても楽しくないのだと言う。早紀も無能だと答えるが、早紀の家庭教師は非常に楽しいから良いのだと言う。
利久は、今度早紀をライブに一緒に行かないかと誘う。早紀は断る。そんな家庭教師と生徒がプライベートで遊びに行ってしまってはダメだと。
久しぶりに早紀は史果の家に行く。史果も全能になっていた。しかし以前と様子が違う。全能になると、記憶が鮮明になって色々な情報が常に入ってくるようになるので目障りで体調が悪そうだった。最近は、かつてヒモであった史果の夫が仕事を始めて、色々やってくれるようになったようである。史果の夫であるマサル(村上航)がやってくる。
早紀は自宅に帰ってソファーで休んでいる。そこへ宗次郎がやってくる。宗次郎は早紀を後ろから抱きしめたりなどして良いムードになる。しかし、宗次郎は良いムードになったところで急に流れを変えてしまうような発言をする。それは宗次郎が海外留学をしたいということであった。早紀は、アラフォーのおじさんが出来ることじゃないだろうと反対する。そこから子供をつくるかの話になり、宗次郎は早紀が全能になるまで子供づくりはしないと言う。早紀は傷つく。

アナウンサーAとアナウンサーBによるテレビニュースが始まる。最近は無能が犯罪を犯すニュースが相次いでいると言う。
早紀は、真木の全能教室に向かいいつも通りトレーニングを受けていたが、トレーニングが終わった後に真木に退会することを申し出る。なかなか全能になれないし、続けていても効果が現れないからと。
早紀は関根家で利久に家庭教師をしている。家庭教師が終わると、早紀は淳一に呼び出される。先日早紀と利久は2人でライブに行ったようだと言うことを淳一は知っていた上で、早紀の利久の家庭教師を取り止めると言う。早紀はショックを受けるし、利久もそれは嫌だと駄々をこねる。淳一は、そういう2人で出かけるようなことがあった上に、早紀は無能だと言うことで全能の人に家庭教師を任せたいと思うようになったと言う。早紀はこれにて利久の家庭教師を辞めることになる。
早紀は、史果の家に向かう。史果はいつもと様子が違う。あまりにも五感で感じられるものが多すぎて五感を切除したいと言っている。電気を流して神経を殺してしまえば楽になるし、それが全能のトレンドでもあると言う。早紀はそんなことしないほうが良いと止めるが、その考え方自体古いと言われてしまう。

早紀は、以前全能教室で同じトレーニングを受けていた、女性会員の家を訪ねる。すると、女性会員の姉(村上航)が出てくる。そして、以前全能教室に通っていた妹はめでたく球体に突然変異したのだと言う。
すると急に家のブレーカーが落ちて、銃で女性会員の姉が殺されてしまう。ブレーカーが元に戻ると、そこには真木が銃を持って現れ、女性会員の姉を殺していた。早紀は驚く、まさか以前全能会員でお世話になっていた真木が殺人を犯すなんて。そして真木は、見られてしまったのでは仕方がないとでも言うように、全能になれるかなれないかは先天的に決まっているもので、トレーニングをしても全能になることはないのだと言い、早紀を射殺しようとする。しかし早紀は、真木と取っ組み合って真木を射殺してしまう。
テレビニュースが流れる。自宅で女性二人が射殺されているのが発見され、犯人を捜索中とのこと。

岩井家の自宅、家に早紀がいるとそこへ利久がやってくる。早紀はここへ来てはダメでしょというが、利久はどうしても早紀に会いたかったし家庭教師をやって欲しいと言う。今の利久の家庭教師は全然面白くなくて早紀の方が良いのだと言う。
そこへ宗次郎がやってくる。宗次郎は早紀と利久が二人でいるのを見て、この二人で不倫していたのかと言う感じで言ってくる。早紀は違うと言う。宗次郎は、自分は全能の女性を探して子供をつくると言っている。だからすぐに離婚をしようと言うが、早紀は今すぐにの離婚は認めない。宗次郎は、そうやって自分の気持ちを全然考えてくれないのは早紀の方じゃないかと言う。千明が亡くなってから、ずっとこっちばかりにあたってきてと言う。
宗次郎は去る。早紀は利久に一つだけ頼みを聞いて欲しいと言う。
車椅子姿で何も意識のない史果がやってくる。車椅子を引いてきたマサルは、もう五感を全部取ってしまって反応はないですが、きっと早紀に会えて喜んでいると思うと言う。早紀は友達に会えて涙する。
早紀はこう言う。いつも自分の人生を壊すのは球体の存在だと。千明が飴玉を詰まらせた時も球体だったし、こうやって今の人生が狂ってしまったこともと。ここで上演は終了する。

「劇団papercraft」らしいSF的な不条理演劇だったが、今作は凄くSF要素の強い作品だった。いきなり解釈不能な描写が現れたりはせず、人類が突然球体になってしまうという設定を活かして上手く物語をまとめていたと思う。
また、今作は早紀と利久、早紀と史果という夫婦関係、友人関係の会話は絶妙にリアルで、だからこそ余計にこの物語で訴えたいメッセージがSF的でも刺さったのではないかと思った。
考察パートでも詳しく触れるが、人類が突然球体に変異して全能になってしまうという設定は、現実では絶対あり得ないようなSF的な設定でありながらも、常識がどんどん変わりゆく昨今において、自分がマジョリティだと思っていても、実は価値観の変化によって常識から外れた人間にいつの間にかなってしまうということがあり得なくもないので、そこに不気味さとリアリティを感じる点で怖い作品だとも思った。
徐々に全能が増えていくという設定が、多様性の価値観を受け入れていく人が増えていることを表しているようにも感じるし、外国人が増えているのでそこに応じた価値観の変化にも感じられたりと色々解釈が考えられる点も興味深い。また、一般的な人の人生においても、20歳〜40歳になるにつれて、周囲が仕事を始めて結婚して子供を産んでとライフステージを変えていくことによって、自分だけが取り残されていく感じとも捉えられるし、色々と解釈の幅が広げられる点も興味深かった。

劇団papercraft 第12回公演「旧体」より。(撮影:中川達也)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

いつもポップで摩訶不思議な世界観を舞台セットで表現する「劇団papercraft」の舞台セットと世界観だが、今作では密閉された現代的なリビングが広がっていて、パッと見はさほど変わった舞台セットではなかったのだが、そこから巨大な球体が出現するなどビジュアルで不気味で空恐ろしい感じを演出する腕は見事だった。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置について。
ステージにはだだっ広いリビングが広がっている。色々な家具が置かれているのかと思うと全くそうではなく、中央にテーブルとソファーと椅子が2つだけ置かれただけの非常にシンプルな舞台セットになっている。舞台空間は周囲に何も置かれていなくて空虚で、どこか「劇団た組」の加藤拓也さんが手がける、山本貴愛さんが創作する舞台演劇の美術のようなモダンで冷たい空間が広がっている。
床面とステージ後方に置かれている巨大な一枚の壁には正方形のパネルが敷き詰められたような作りになっていて、どこか可愛らしいような不気味なようなそんな印象を抱く。
ステージ後方の巨大な壁の中央には、巨大な正方形の穴が開けられている。窓のようにも見えるし、窓ではない何かのようにも見える。その巨大な穴が、劇の後半で急に音を立てて閉まってしまいステージ上の部屋は密閉空間のようになる。この音を立てて窓が閉まる感じの演出も不気味に感じられて面白かった。主人公の早紀の身の回りがどんどん不穏になってきたことを物語るかのような演出だった。
天井には下手側と上手側にそれぞれ一つずつ吊り下がった屋根付きのシーリングライトがあった。このデザインも可愛らしく西洋のモダンなリビングにありそうなものだった。屋根の部分の端が波のようにうねっていて、それがステージ後方の壁面に影を落としている感じが良かった。
そして一番ビジュアルとして印象に残ったのは、なんと言っても巨大な球体である。クリーム色の大人の背丈よりも大きいくらいの巨大な球体がステージ上にいきなり登場した時は驚いた。存在感あるしどこか空恐ろしい気持ちにもさせてくれる。物語のキーとなる存在なので、もうちょっとこの巨大な球体はクオリティ的に作り込んでも良かった気がする。私は最前列での観劇だったので球体を間近で観ていたのだが、作り物っぽさが丸わかりで髪をベタベタと球体に貼った感じが否めなくてもうちょっと工夫しても良かったのではと思う。最後は一枚貼られていた紙が剥がれるのだが、あれは毎公演貼り直しているのだろうか。途中で取れてしまったりしないのだろうか。気になった。

次に舞台照明について。
非常に暗転の多い舞台作品だったのだが、その暗転の多さは気にならないくらい物語に没入できた。舞台照明もかなり奇抜な演出もあってそれが不気味な感じを助長させていた気がした。
舞台セットが全体的に空虚で冷たい感じなので、そこに舞台照明が灯されると、黄色い感じの照明は暖かい印象を受け、ブルー系の照明は冷たい感じを受けた。その照明の色合いによってだいぶ舞台空間から受ける印象が違ってきた気がした。
あとは場面転換や暗転の前に、真っ赤にステージが照らされる照明と音響によって奇抜な舞台転換をする演出も「劇団papercraft」っぽくて好きだった。

次に舞台音響について。
「劇団papercraft」の舞台音響は、いつも不協和音が多い印象で、それによって気味悪さが助長されるのだが、今作でも場面転換でいきなり不協和音が鳴り響く感じがあって好みだった。こういう演出を体感出来ることを楽しみに観劇しにきている部分もあると思うので。
いきなりスマホのアラームが鳴り響いたり、銃の発砲音がしたりと観客を驚かせる効果音も多くて、それもまた良かった。
あとは、史果の立場になって、ずっと劇中で街中の環境音が効果音として鳴り響いている感じも演出として良かった。この辺りから、劇自体も無能から全能の立場での物語進行に切り替わった感じがあって興味深かった。

最後にその他の演出について。
「劇団papercraft」の公演は、いつも劇後半に殺人事件が起きるよなと思う。今作でも、真木が突然女性会員の姉を銃で殺害してしまったので、そういうシーンは必ずあるなと思う。それがこの演劇団体の良さというか醍醐味というか良い意味での恐ろしさがあって良いなと思う。
また、海路さんも大人になったからか、『殻』を観劇していた頃に比べると、Z世代の若者の話から結婚や子育てというライフスタイルを経た脚本になってきていて、脚本の登場人物の年齢も上がっていっているなと感じる。そしてそういった30歳くらいの人々が感じる日常のリアルが非常に上手く描かれていて良かった。早紀と宗次郎の夫婦の会話も絶妙にリアルだった。早紀が夫の宗次郎に苛立ちを感じる辺りや、早紀の感情の推移と宗次郎の不器用さが男女の噛み合わない感じの会話あるあるで良かった。また、早紀と史果の30歳くらいの女性同士の会話もリアルで、若い頃を回顧したり、現実に対して諦観したような言い方などがリアルで良かった。

劇団papercraft 第12回公演「旧体」より。(撮影:中川達也)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

出演者の方は、主人公役の土村芳さんは初めて知った方だったが、それ以外の方は他の舞台でも観たことがあって馴染みのあるキャストが多かったが、演技力が素晴らしかった。
特に印象に残った役者について触れる。

まずは主人公役の岩井早紀役を演じた土村芳さん。
土村さん演じる早紀は本当に、どこにでもいそうなくらいリアルな30歳の女性という感じがあって自然体の演技が素晴らしかった。夫の宗次郎と口論してしまう感じ、高校生の家庭教師の教え子である利久との接し方、友人の史果との会話が本当に自然体でリアリティあって素晴らしかった。だからこそ、自分たちは物語の前半は早紀を中心に物語を追ってしまうと思う。そしてそれがこの演劇のミソで、そうであるからこそ後半のカオスになっていくシーンの怖さが助長されるのである。非常に主人公でありながら、演じ方を間違えると作品を損ねかねない大事な役どころをしっかり演じ切っていて素晴らしかった。
あとは早紀役の土村さんを観ていて思ったが、「劇団papercraft」はいつも若者のカップルを描くことが多いので、結婚後の夫婦を描く会話劇は珍しいなとも思った。だからこそ、より「劇団た組」っぽさを感じたのかもしれない。
早紀が全能教室に通うシーンは個人的には好きだった。もう一人の女性会員と共に、まるでジムに通うみたいにトレーニングをする様が良かった。
早紀は主人公というのもあり、かなり登場シーンが多い印象だった。それなのに2時間5分、そして途中でトレーニングをするみたいなシーンもある中で演技をやり切っていたのも大変だったとは思うけれど素晴らしかった。

次に、岩井早紀の友人の数原史果役を演じていたイトウハルヒさん。イトウさんは、小御門優一郎さん脚本演出のToms collection『業界 〜恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます〜』(2025年3月)などで演技を拝見しているが、『檸檬』を観劇していないので「劇団papercraft」では演技を初めて拝見する。
自然体な感じで友人の早紀と話す感じがとてもリアルで良かった。また、アップルパイを作ろうとしてバッグから沢山のリンゴを取り出す感じがビジュアル的に面白かった。ちょっと天然?な感じを良い意味で出していて、それがまたキャラクターとしてハマっていた。
ヒモというかロープという表現は好きだった。ロープって言うと本当にペットを飼っているような感じがして面白いなと思う。そしてそんな何もしない夫でも、普通に不満なく暮らしていける能天気さが史果のキャラクターとしての個性を物語っていてイトウさんの演技ともハマっているなと思う。
だからこそ後半のシーンは恐ろしく感じる。そんな何にもないごく普通な女性に、球体に突然変異して全能に変わってしまうと五感が邪魔をし過ぎて今の世間一般的に見ると五感を除去したいみたいな恐ろしいことを言い始める点が衝撃だった。
ラスト、五感を全て除去してしまって車椅子にただ座っただけの史果と早紀が対面するシーンがとても素晴らしかった。五感がなくても彼女はきっと会えたことを喜んでいるというマサルの台詞が良かった。そしてあの無表情な感じのイトウさんの演技も良かった。

個人的に凄いなと感じたのは、関根淳一、マサル、コメンテーター、女性会員姉・妹役と数多くの役を演じた「猫ホテル」所属の村上航さん。村上さんの演技は、よく「劇団papercraft」の作品に出演しており、『昨日の月』(2025年1月)、『空夢』(2024年5月)、東京夜光『悪魔と永遠』(2022年2月)に続き4度目の演技拝見となる。
こんなに多岐に渡るキャラクターを一人で演じ切っていたことに驚きである。関根淳一は厳格な塾長という感じで威厳があり、マサルはヒモというよりむしろロープな史果の夫でナヨナヨとした男を演じていて個性強かったし、女性会員は物凄くオカマっぽい感じがあって、脚本上は女性なのだと思うがビジュアル的には男性が女性に扮している感じが半端なく笑いをとっている辺りが役者として素晴らしかった。
村上さんは細くて背が高いので、そのスタイルを上手く活かし切っている気がした。全能教室では、その華奢な体を活かしてそそくさと早紀の目の前を通り過ぎてぶつかってしまってすみませんみたいなのがとても細かい部分だったが良かった。
こういう幅広いバリエーションの役を演じ切ってしまうというのは、これもまた役者として凄いよなと思う。小劇場助演男優賞みたいなのがあったら真っ先に推薦したいくらい素晴らしかった。

最後に、真木佳奈恵役やアナウンサー役を演じた佐久間麻由さん。佐久間さんの演技は、爍綽と『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』(2025年1月)、ぱぷりか『柔らかく搖れる』(2023年9月)、画餅『ホリデイ』(2023年1月)で演技を拝見している。
佐久間さんのあの誰とでも仲良くなって親しく喋っちゃいそうな感じのキャラクターは本当にハマっているなと思った。あんな感じで感じよく話をされたら誰だって心地よく会話してしまうなと思った。
でもよくよく考えたら、全能教室って詐欺だろうなと中盤から気づき始めたが、やっぱりそうだったと真木の台詞で分かった。こういう時代の変化があると、そこに準じてビジネスを起こそうとする連中ってどの時代においてもいるよなと感じて、妙にリアリティを覚えた。
そして佐久間さんが演じるあの感じの良い真木がにこやかに殺人事件を起こすという描写になると、あまりのギャップにより恐怖が煽られる。そういうギャップも上手く演出されているから、今作はより素晴らしいよなと思える。

劇団papercraft 第12回公演「旧体」より。(撮影:中川達也)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは今作の戯曲について考察していこうと思う。

この作品を観劇された観客はどういう感想を抱いたのか気になる所だが、私は不条理劇ではあるものの、今までの既存の不条理演劇と比べるとストーリーの脈絡が分からなくなるほどのぶっ飛んだシナリオには感じられず、むしろSF要素が強くなったと思った。演劇というよりは、映像作品としても描けるような印象を抱いた。そういう意味では、演劇でやる必要ないではないかという批判もあるかもしれないが、やはり不条理劇というジャンルが世間一般的に受け入れられなくなってきている今の世の中において、不条理劇っぽさを踏襲しながら新たな形で、もっと今の観客にも馴染みやすい形で作品を創作していく姿勢は必要だと思っており、今作はまさにそのような方向性に感じられたので個人的には良い方向に創作が向かったのかなと感じた。

「劇団papercraft」の作品をいつも観劇していると、ぶっ飛んだ設定の中に、どこか今の現実世界への社会批判が含まれているような感じがしなくもなくて、今作も漏れなくそれを感じた。
今作で社会批判しようと感じたテーマは、常識が常識で無くなってしまうことへの恐怖と警鐘を描いていることかもしれないなと思った。多様性の時代と言われる昨今において、ひと昔前までは全く批判などされなかった事象が、いつの間にか突然批判対象に変わってきてしまっているということが後を立たないように感じ、それを今作の主人公である岩井早紀の視点でメタファーとして描いているように思えたからである。
今作、特に前半パートにおいては主人公の岩井早紀という主人公に対してかなり感情移入しやすい形で物語を進めている。この部分が非常にポイントであり、全能になってしまった人類がマイノリティで全能になっていない無能の人類がマジョリティの世界なので、当然私たちは、今持っている常識を持ってして全能に進化してしまった人類たちを変わった対象だと誘導する仕掛けになっているからである。
例えば、全能に進化した生徒の利久は、一瞬で歴史の参考書を丸暗記してしまって、その記憶力を駆使して書かれていた内容を読み上げるといった描写がある。これは多くの観客は、主人公の早紀の視点と同じ立場に立って利久のことを変な人間だと思うだろう。
しかし、全能に進化する人類がどんどん増えてしまって、むしろ全能に進化した人類がマジョリティになってしまった世界線においては、主人公の早紀や観客である私たちの方がマイノリティになってしまう訳で、その社会において批判対象や時代遅れの対象になってしまうのである。
劇中でも、無能の人類が犯罪を犯す事象が後を立たなくなったり、無能だから家庭教師から解雇される、無能だから子供つくりを断られると言った、いわば差別的な扱いを受けることになってしまう。しかし、もしかしたらこれは現実世界においてマジョリティ側の私たちが無意識にマイノリティ側の人にやってしまっていることなのかもしれないと思うと恐ろしいことに感じる。
私たち観客が、今作を通じてフィクションとして、マジョリティ側だった人間がマイノリティ側に回ってしまった感覚を追体験できるからこそ、今作は不条理劇として社会を批判していると思うし恐ろしい作品であるとも捉えられるだろう。

「老害」という言葉が存在する。誰もが知っているだろう言葉だが、実はそういう概念自体は新しいものではない。今から50年ほど前の1970年代においても、「老害」という言葉ではないにせよ、今の若者はといった感じの若者と年配層の価値観の違いを揶揄した言葉はあったそうである。
しかしそういう概念が生まれてしまうというのは、世間一般的な常識や価値観というのが絶えず変化しているからであり、自分が生まれ育った環境でずっと信じてきた常識が、自分が歳を取った時に常識ではなくなってしまって、むしろ非常識扱いされてしまうことがあるからだと思う。だからこそ「老害」という言葉が登場したりするのだと思う。
今までもそういう価値観の変化みたいなことはあったかもしれないが、「老害」とまでは呼ばれなかったと思う。むしろ年配層の人々は敬うべきという思想は今までは強かったと思う。しかし昨今の価値観の変遷を見ていると、むしろその敬老思想すらも古いものとみなされてしまい、昔の価値観を否定する風潮も強いように思われる。だからこそ年功序列の日系企業がその構造について批判されたり、パワハラという事象が明るみに出て始末されているのだと思う。

今の若者たちは、今の価値観で生きているので、自分たちの教えられた価値観が社会的な正義となって守ってくれることも多いかと思う。しかし、これが10年、20年時が経つと違ってくるかもしれない。
例えば、私たちはインターネットを毎日のように使って生活を送っているが、これからの世代は生成AIによって誤情報がネット上に溢れてしまってインターネットを使うこと自体が危険なことだという思想になる世の中になって、ネットに依存していた今の世代がマイノリティ扱いをされる時代が来るかもしれない。
例えば、私たちは動物の肉や魚を食べて生きているが、家畜を食用に飼育することが動物愛護の観点でタブーとされて、ヴィーガンの思想が主流になって動物の肉や魚を食べること自体がマイノリティ扱いされて罪とされる時代が来るかもしれない。
そのくらい今の時代における常識は、今の時代だからこそ常識であるだけで、時代の流れによって突然自分の生きている間に非常識に変わることもあり得るのかもしれない。そうなった時に、私たちはそんな社会に適応できるのだろうかと考えさせらえる。自分はきっと無理なんじゃないかと思ってしまう。

そういう視点をメタファーを通じて提供してくれる「劇団papercraft」の作品は素晴らしいと思うし、今後も新作が楽しみである。

劇団papercraft 第12回公演「旧体」より。(撮影:中川達也)


↓劇団papercraft過去作品


↓イトウハルヒさん過去出演作品


↓佐久間麻由さん過去出演作品


↓村上航さん過去出演作品


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↓尾上寛之さん過去出演作品


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