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舞台 「ケレン・ヘラー」 観劇レビュー 2024/12/21


写真引用元:くによし組 公式X(旧Twitter)


写真引用元:くによし組 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「ケレン・ヘラー」
劇場:シアタートラム
劇団・企画:くによし組
作・演出:國吉咲貴
出演:中井千聖、名村辰、大場みなみ、花戸祐介、佐藤有里子、てっぺい右利き、柿原寛子、谷川清夏、永井一信
公演期間:12/19〜12/22(東京)
上演時間:約1時間45分(途中休憩なし)
作品キーワード:コメディ、お笑い芸人、ヒューマンドラマ、劇中劇、笑える
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


世田谷パブリックシアターが新しい才能の発掘と育成を目指し、1年に1度、公募により選ばれた団体にシアタートラムでの上演機会を提供するシリーズである「シアタートラム・ネクストジェネレーション」での公演を観劇。
「シアタートラム・ネクストジェネレーション」では、隔年で演劇とフィジカルの2ジャンルに分けて実施されるが、今年(2024年)は演劇の年ということで、國吉咲貴さんが作・演出を務める「くによし組」が選出された。
「くによし組」は公式HPによると『異常で、日常で、シュール』をコンセプトとした表現チームである。
2018年度には佐藤佐吉祭で最優秀作品賞を、2020年には関西演劇祭で脚本賞・演出賞を受賞している。
今回の上演では、2018年に佐藤佐吉祭で最優秀作品賞に輝いた『ケレン・ヘラー』を改訂して上演した。
尚、私は「くによし組」の演劇作品自体初めて観劇した。

物語は、お笑いコンビ"ポジティ boo"のアフロ子(中井千聖)とケイト(大場みなみ)を中心としたコメディである。
アフロ子とケイトは、ヘレン・ケラーを題材としたネタを披露したことで炎上してしまい、"ポジティ boo"は解散してしまう。
アフロ子の元に神様さん(佐藤有里子)が現れる。
神様さんはアフロ子に、お喋りロボットのサリバンちゃん(柿原寛子)を相方にすると良いと助言を受ける。
アフロ子はサリバンちゃんを家に住まわせることになると共に、アフロ子のSNSの投稿は変わった自分を見せようとするがあまり、どんどん過激な内容になっていき...というもの。

お笑いコンビの解散のその後を日常と共に描いていて、一見脚本自体はそこまで新規性のあるものではないように感じるが、びっくりするくらいに物語に引き込まれて飽きずに観ることが出来た。
その理由の一つ目は、日常で起きる数々の些細なことに笑いの要素があって楽しめたことである。
桂(てっぺい右利き)が古本屋店員の新人として入ったものの、他の店員からヤバい奴扱いされる件や、サリバンちゃんというお喋りロボットの登場によって、まるで家に面白いペットを飼い始めたかのような和める感情と愉快さがあって作品全体に要素が沢山ある上に、それぞれに私たちの日常を投影することができて楽しめた。

二つ目は、アフロ子という主人公を中心に、エンターテイナーだからこその悩みが反映されていて、劇作家自身が色々苦悩していたからこそ描ける作品のようにも感じられた所に作品の強度もあって楽しめた。
当日パンフレットにも記載されていたが、何が面白くて何が面白くないのか分からなくなってくる感情は、エンターテイナーだからこそ悩めるものだと思うし、それが観客にも上手く伝わってきてグッと来た。

また、この作品は物語後半になればなるほど、物語の展開がそのまま進んでいくような単純なものでないことが分かっていく。
今作は演劇であるということを十分に活かして劇中劇が披露されることで、良い意味で観客を混乱させる仕掛けと、そこから生まれる解釈によって作品全体から伝わってくるメッセージ性も響いてきて効果的に思えた。
また、ヘレン・ケラーを題材にしたネタが炎上するということはどういうことなのかも考えさせる箇所もあり、昨今はコンプラが厳しくなったりLGBTQといった多様性を尊重する時代だからこそ響く物語という点でも素晴らしかった。

そして私がなんといっても観ていて興奮させられたのが今作の座組である。
ウーマンリブ『もうがまんできない』(2023年4月)で好演だった中井千聖さんと、モダンスイマーズ『雨とベンツと国道と私』(2024年6月)で好演だった名村辰さんという若手実力俳優を中心に、今まで小劇場演劇で活躍していたてっぺい右利きさん、柿原寛子さん、谷川清夏さんなどのキャスティングが素敵だった。
若手団体が比較的大きな劇場で上演することで、それに伴って小劇場演劇界の若手俳優にも大きな劇場で出演出来るきっかけを作っているのは素晴らしいことだと感じた。
さらに、若手実力俳優と共演も出来て、面白い作品を作り上げることだけを目的とせずに、小劇場演劇界の躍進も含めて上演の意義がある作品だったと思った。
もちろん役者陣の演技も素晴らしくて、特に神様さんを演じた佐藤有里子さんの佐藤さんでしか出せない尖ったキャラクター性、桂を演じたてっぺい右利きさんのモテないけれど真っ直ぐな性格のキャラクター性、サリバンちゃんを演じる柿原寛子さんの柿原さんだからこそ出来る清々しいほどよく通る声のキャラに引き込まれた。

また一つ素敵な演劇団体を見つけられて感無量である。
M-1グランプリが話題になるシーズンでもあり、今作は演劇を初めて観る人にも、演劇を観慣れている人にも幅広い方にお勧めできる作品だと思う。
特に前知識も要らず入り込めるので多くの人に届いて欲しい。配信もやって欲しい。

写真引用元:ステージナタリー シアタートラム・ネクストジェネレーション vol.16 -演劇- くによし組「ケレン・ヘラー」より。(撮影:月館森)




【鑑賞動機】

「くによし組」は以前から名前を耳にしていていつかは観たい演劇団体だった。そんな中、「シアタートラム・ネクストジェネレーション」に選出されたので観劇することにした。また、キャスティングが非常に良くて、中井千聖さん、名村辰さんという勢いに乗る若手実力俳優と、てっぺい右利きさん、柿原寛子さん、谷川清夏さんという小劇場界の実力派俳優が揃っていたのも嬉しかった。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

客席が暗くなると同時に、ステージには悪アフロ子(名村辰)が登場する。悪アフロ子は自己紹介し自分がこの物語の主人公であると伝える。悪アフロ子が一人語りしている最中に、アパートの一室ではアフロ子(中井千聖)がやってくる。また、ケイト(大場みなみ)も一緒にやってくる。
ケイトとアフロ子はどうやら喧嘩をしているようだった。その理由は、コントで披露したヘレン・ケラーを題材としたネタが不謹慎だと炎上してしまい活動休止に追い込まれたからである。ヘレン・ケラーの「ウォーター」のネタは母親には非常に好評だったとアフロ子は言う。それなのに世間では、あそこまで叩かれて苛立っているようである。その後、いつもネタを考えていたのはケイトだったではないかなど色々口論して、ケレンはアフロ子の元を立ち去る。そしてお笑いコンビ"ポジティ boo"を解散しようと。
マネージャーの飛田トオル(永井一信)が、アフロ子の自宅にやってくる。飛田は片足を怪我しているようで包帯を巻いて歩きにくそうである。結局"ポジティ boo"は解散してしまったが、飛田はアフロ子のSNSは更新し続けようとするようである。アフロ子の普段の写真を撮ってインスタにアップしようとする、アフロ子が普段SNSを更新しないので代わりにマネージャーがやっているようである。
飛田が去ると、アフロ子の元に神様さん(佐藤有里子)が現れる。アフロ子は、いきなり現れた神様さんの存在に驚くが、神様さんがお喋りロボットを買って相方にすると良いとアドバイスを受ける。

「ナイチンゲール」という古本屋、ここはケイトがアルバイトとして勤めている場所である。今日から「ナイチンゲール」には桂(てっぺい右利き)という新人のアルバイトが入る。桂はどうやら、お笑いコンビ"ポジティ boo"のケイトがこの古本屋に勤めていると聞いてアルバイトとして入ったらしい。桂は歓迎会とかやらないのかとケイトに聞くが、歓迎会は歓迎される人にのみ歓迎会をやるのだと言われ、歓迎会を断られる。
「ナイチンゲール」には、香田(花戸祐介)やタナカ(谷川清夏)も勤めていた。二人は、お笑いコンビ"ポジティ boo"の解散について噂している。コンビ解散してからも、二人は一緒に同じアパートに住むなんて気まずくないのかと。しかし、もはやこれからはただの友達だから丁度良いのではないのかとも話する。
アフロ子が「ナイチンゲール」にやってくる。そして星新一の本を取り出して、どうしてこの本が「は行」に並んでいるのかと店員にクレームを言う。店員たちは、それは「星新一」で「ほ」から始まるので「は行」に置いていますと言うと、星新一のこの本は面白いのに「は行」は勿体無い、「あ行」に置くべきとアフロ子言う。店員は困惑する。

アフロ子は、神様さんの助言通りお喋りロボットを購入することにする。そのお喋りロボットをサリバンちゃん(柿原寛子)と名付けることにする。サリバンちゃんは、見聞きしたことを一度でインプットして覚えるので、周囲の人々が言ったことをすぐ真似して話したりする。
アフロ子はモノローグを語る。自分にはお笑い芸人として活動することを応援してくれる母親がいると。母親は、やりたいことがあるならやった方が良いと言ってくれた。そして先日のヘレン・ケラーを題材にしたネタも母親が一番褒めてくれたと言う。姉からは不評だったけれど。

「ナイチンゲール」の店員みんなでケイトとアフロ子の住むアパートに遊びに行く。そしてみんなでお酒を飲む。
ケイトと桂が二人で部屋にいる。桂がマジックをケイトに見せる。桂はティッシュペーパーを手に握ってはみ出した部分をちぎり、握っていた手を開くとティッシュペーパーが無くなっているマジックをする。ケイトは凄いと興奮したタイミングで、桂は僕と付き合ってくださいと言う。ケイトは桂に呆れてしらけてしまう。
そのままケイトは桂の元を離れようとするが、桂は必死でケイトのことが好きだと真剣に告白する。その様子を見たケイトは戻ってきて、桂に目を瞑ってと言う。桂は恐る恐る目を瞑る。ケイトが徐々に桂の唇に近づこうとする。
その時サリバンちゃんがやってきて、二人の様子を後ろから観察し、徐々に近づいてくる。サリバンちゃんが気になってしまってケイトは桂にキスをすることは出来なかった。しかし桂はずっとケイトに対して本気で好きだと連呼するのだった。

一方アフロ子は、お笑いコンビを解散してからはSNSを自分で運用するようになったが、過激な発言が増えてフォロワー数やリアクションは増えるものの、炎上目的になってしまっていてアンチは増えるばかりだった。しかし、アフロ子は普通の投稿をしていても面白くないからと、敢えて過激な内容を投稿してリアクションを稼ぐことを目指していたのであった。
ケイトはアフロ子に失望する。以前のケレン・ヘラーのネタは炎上したけれどまだ良かったと。そこにはまだ誠実さがあった。しかし、今のSNSの投稿を見ていると、そこには誠実さも何も無くなっていると言う。しかしアフロ子は聞き入れず、過激な投稿を続けた。
アフロ子の母親が亡くなったという連絡が入る。アフロ子は実家へ戻ることにする。しかし、実際に自分の母親が亡くなっていることとネタを組み合わせたら面白いと、自分の母親の葬式をネタとしてネット上で配信する。仮装と火葬を掛け合わせたりと。流石に大ブーイングとなる。
アフロ子は、悪アフロ子になっていた。ケイトからもアフロ子はいつの間にそんなに男っぽくなってしまったのかと言われる。
そこから悪アフロ子は、「ナイチンゲール」でもサリバンちゃんとの会話でも、ことごとく放送禁止用語と思われる過激で酷い発言を連発する。悪アフロ子は、サリバンちゃんに対して酷い言葉をかけてしまったせいで、サリバンちゃんもそれを学習してしまう。

悪アフロ子はそんなこんなで有名になってしまい、テレビの取材を受けることになったりする。悪アフロ子は自分の人生を綴った自叙伝を出版し、それを舞台化したいという話も持ち上がってくる。
いよいよアフロ子の人生が舞台化されることになる。スタッフたちが集まってくる。色々と舞台設営の準備をしたりリハーサルを行ったりしている。アフロ子役をやるのはなんとサリバンちゃんだった。悪アフロ子は驚く。
サリバンちゃん演じるアフロ子が、最初にモノローグを語る。これは私が主人公の物語であると。そこからいきなりケイトと桂のキスシーンになるが、まるで事実と異なる描写が舞台では描かれていた。悪アフロ子は外から、それは違うだろとツッコミを入れている。また、香田がアフロ子の家でシャワーを浴びるシーンで裸の状態で登場するシーンも違うだろと悪アフロ子はツッコミを入れる。
さらにサリバンちゃんが演じるアフロ子は、アフロ子自身が全く言っていないような内容を発言していて、さらにアフロ子はツッコミを入れるのだった。
悪アフロ子は非常に不快な思いをして、この場を後にするのだった。

サリバンちゃんはあまりにも舞台中にアフロ子役として過激な発言をしてしまい、アフロ子の自宅に戻って充電に入ってしまう。
アフロ子もケイトもドラッグを乱用し過ぎてしまい、アフロ子は耳が聞こえなくなってしまい、ケイトは目が見えなくなってしまってサングラスをするようになる。
一方、古本屋「ナイチンゲール」には石が投げ込まれて窓ガラスが割れていた。店員に新人さんが入ったが、アフロ子の自叙伝の舞台を見て、唐揚げもやっていると勘違いされてしまう。
香田は、yzというSNSの話をする。かつてはXという名前だったが、欧米の富豪に買収されて名前が変わったのだと言う。そして、yzはさらに名前を変える予定だそうである。

アフロ子の自宅、悪アフロ子はアフロ子に戻っていた。リセットされたサリバンちゃんと会話する。リセットされたサリバンちゃんはどこか冷たい、サリバンちゃんに自分のことを大好きだと言わせるが、それもわざわざ言わせている感じになっている。
ケイトがやってくる。ケイトは盲目になってしまったのでアフロ子のことが見えていない。アフロ子も耳が聞こえていないからケイトのことをよく認知できていない。

アフロ子とケイトは漫才をする。目の見えないケイトと耳の聞こえないアフロ子。二人とも「ケレン・ヘラー」をやろうとするが認知出来ていないので漫才にすらなっていなかった。ここで上演は終了する。

凄く難しい脚本を描いている訳でもないし、確かに脚本の構造的に巧みなのかというとそうでもなく、小劇場演劇らしい粗さの残った脚本ではあると思うが、非常に引き込まれるストーリーで素晴らしかった。それは、作演出の國吉さんが非常に真摯に創作を務めた結果が物語に反映されているからだと思う。
売れたいとか、評価されたいとか思うと、どうしても注目されようとして尖ってしまったりとか、世間や周囲の人間を傷つけてでものし上がってやろうと思いがちである。特に売れないお笑い芸人もそうだと思うし、売れない演劇団体の主宰とか俳優もそうかもしれない。そういった感情を真摯にまずは受け入れて脚本を創作し、それが客観的に見てどういうことなのかというのを、演劇が持つメタ構造によって上手く落としているのが今作の凄みなのではないかと思った。
あとはちょっと変わった世界を描いているようで、実は私たち観客の日常にしっかりと紐づいた描写があるからこそ共感も呼びやすいし、みんなに好かれる脚本なのだろうなと感じた。桂のケイトに対する思いはグッと来るものがあるし、サリバンちゃんのお喋りロボットは、外見はロボットであるけれど、ペットにも見えてくるし子供にも見えてくるし、世間にも見えてくる。自分が何か酷いことした、サリバンちゃんに酷いことを教えてしまったら、必ずそれは自分にも返ってくる、自業自得である。そんな普遍性も描かれているように感じられて、様々な要素に日常や普遍性を感じるからこそ良いのだろうなと思った。

写真引用元:ステージナタリー シアタートラム・ネクストジェネレーション vol.16 -演劇- くによし組「ケレン・ヘラー」より。(撮影:月館森)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

比較的大きな劇場という構造を活かした舞台美術になっていて、とても遊び心のある舞台演出に思えた。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。
舞台装置は2段舞台になっていて、下段は古本屋「ナイチンゲール」の店内になっていた。左側には本棚があってずらりと並べられていて、その右側にはそこまで本は沢山置かれていないけれど、本棚と思われるセットがあった。その手前には机と椅子がある。基本的にはここで、「ナイチンゲール」で巻き起こるシーンが展開された。桂がアルバイトとして働き始めるに当たってケイトに冷たく接されたり、タナカや香田の出演シーンも下段で起こることが多かった。
その上段は、アフロ子とケイトが住むアパートの一室になっている。ソファーが置かれている。そして上段の舞台の下手側にはベランダと思しきスペースもある。ベランダらしく柵を思わせるセットもある。アフロ子とケイトのシーンはもちろん、神様さんやサリバンちゃんが登場したりするシーンは上段で展開された。ケイトと桂のキスしようとするシーンも上段で行われた。
下段と上段を行き来出来るように下手側と上手側の両方に階段が設置されていた。「ナイチンゲール」の店員たちは、上手側にかかる階段を伝って下段から上段に登っていった。まるでそれが、アパートの建物の端についている階段にも見立てられて上手いと思った。
劇中舞台セットが動いて、劇中劇のシーンではステージが若干変わる仕掛けになっているのが面白かった。天井部にあった屋根のような天井から吊り下げられた装置は、少し下まで降りてきて舞台セットの雰囲気が変わったりした。それによって、ステージの背後まで客席から見渡せるのも良かった。
ラストでは2段目が漫才のステージになるのも面白かった。こんなにお笑いコンビの話をしているのに漫才やらないのかな...と思っていたらラストにあって大満足だった。

次に舞台照明について。
凝った舞台照明や格好良い舞台照明演出はパッとは思い浮かばないが、全体的にカラフルでポップな舞台照明であった印象である。あとは、割とステージの色々な箇所を使うので、そこにスポットを当てられるようにかなりの灯体を仕込んでいるんじゃないかと思った。
あとは、劇中劇のシーンで舞台装置が移動した時に背後から差し込む舞台照明たちが格好良かった。

舞台音響について。
BGMは、明るめな楽曲が一部使われていたくらいで、メインとなるようなテーマソングなどはなかった。
あとは効果音だが、個人的に一番印象に残ったのは「ピー」という放送禁止用語が放送されてしまわないように使われる効果音。この音が、アフロ子が悪アフロ子になって暴走し始めると共に増えていく感じが凄く良かった。どんどん悪アフロ子が悪の方向へ向かってしまっている感じがして、それを効果的に表す演出になっていたと思った。

最後にその他の演出について。
なんといっても今作で注目の演出は劇中劇だと思う。大きな劇場で上演するからこその、舞台の設営中から劇の中に落とし込んでいて面白かった。そして劇中劇では、私たちが劇として観てきた今までのストーリーとはちょっと違った展開が劇中劇で披露されることで、事実を作品として消化しようとすると、どうしても事実無根な描写も含まれてしまい人を傷つけてしまうものなのだということを体験させられる構造にしていて効果的だった。こういう劇中劇の使い方もあるよなと思いつつ、それが見事に効果的に作品にハマっていて見事だった。
あとは直接的な物語とは関係のない部分でコミカルな小ネタがふんだんに使われているのが素晴らしかった。そのどれもが面白いし共感を生んで印象に残るものばかりだった。例えば、ケイトが桂にキスを迫ろうとするときにサリバンちゃんが近づいてくる描写はとても良かったし、タナカがセックスと言い間違えちゃったり、歓迎される人しか歓迎会は開催されないとか、星新一は面白いからあ行に置いてくれとか、ちょくちょく印象に残る面白い小ネタが多くて、こういうのを思いつける國吉さんは素晴らしいなと思った。
ラストの漫才については考えさせられた。あの漫才にはどういった意味があるのだろうか。アフロ子も耳が聞こえず、ケイトも目が見えない。そんな中で、ヘレン・ケラーのネタをやる。ヘレン・ケラーをネタにするのは不謹慎だと炎上したことがあったが、今では二人とも身体に不自由がある状態で他人事ではなくなっている。そこに笑いは起きないが、何か感じるものがある。今まで自分たちがそれをネタにしてやってきてどうだったのか、ということを突きつけられている感じがある。そういう余白を残して終わる感じも好きだった。

写真引用元:ステージナタリー シアタートラム・ネクストジェネレーション vol.16 -演劇- くによし組「ケレン・ヘラー」より。(撮影:月館森)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

先述した通り、中井千聖さん、名村辰さんという今大注目の若手実力俳優を中心に、小劇場演劇界隈で有名な役者が脇役を飾っていて、小劇場演劇好きな私にとっては大満足のキャスティングだった。その上、小劇場演劇界隈の躍進も込められたキャスティングで色々と私も嬉しかった。
特に印象に残った俳優の方について言及する。

まずは、アフロ子役を演じた中井千聖さん。中井さんは宮藤官九郎さんが作・演出を務めたウーマンリブ『もうがまんできない』(2023年4月)に出演されていたのを一度観たことがあった。
確か『もうがまんできない』で出演されていた時も中井さんは、知的障がいの役で今回もそれに関連する役だったのが興味深い。ギャグとセンシティブな役柄というその境界線をどう演じるのかという点で色々苦労されたのではないかと思う。
アフロ子みたいな存在っているよなと世間を見ていても思う。私はどうしてそうなっちゃうのかよく分からなかったが、承認欲求が強いとそうなりがちなのかなと思う。お笑い芸人として売れたいという気持ちばかりが強くて、売れればそれで良いという気持ちになるとそうなってしまうのかなと思う。世間にどう思われようと関係ない。みんなから注目を集められれば良い、そんな自分しか見えていない視野の狭い生き方が、SNS上で過激な内容ばかり投稿するという行動に繋がるのかなと思った。
SNSではよくそういう人を目にするが、どうしてそうなってしまうのかが理解できなかった。SNSで炎上すれば、容赦ない言葉も向けられるし、それに傷ついてしまうこともあるし社会的に死んでしまうこともあるので良いことなんてないではないかと。しかし、アフロ子の台詞を聞いていると、少し炎上商法をやってしまうような人の気持ちが分かったような気がした。世間から注目されればそれで良いという承認欲求の強い人の行き着くあり方な気がしてきた。
そんなパンチの効いた役を中井さんはとても良い形で演技にしていたと思った。

次に、悪アフロ子役を演じた名村辰さん。名村さんの演技は、モダンスイマーズ『雨とベンツと国道と私』(2024年6月)、タカハ劇団『ヒトラーを画家にする話』(2023年9月)で演技を拝見している。
過去に観た作品では名村さんは割と好青年といった感じの役だったので、今回の悪アフロ子の役は割とクレイジーな感じでいつもと違う名村さんを観られた感じがして良かった。
母親の葬式をネタにしてしまう辺りから、アフロ子が悪アフロ子になって役者が変わってしまうという設定も良かった。確かに人って変わっていくものかもしれないと思う。どんどんSNSでの発言が過激になって、人が変わってしまう感じはあると思う。自分をよく見せようと躍起になるあまり我を忘れる。普通の人だったら絶対しないことをしてしまうこともある。だからこそ、悪アフロ子になってしまったのだろうなと思う。
また、劇中劇でアフロ子の自伝が舞台化された時に、これは事実でないとモヤモヤする悪アフロ子も良かった。なんというか、悪者が成敗されているような感じがあった。そういう光景も見られたからこそ、観客はちょっとスッキリする部分もあるのかもしれない。

神様さんを演じた佐藤有里子さんの演技も素晴らしかった。佐藤さんは、画餅『ホリデイ』(2023年1月)で演技を一度拝見している。
『ホリデイ』で佐藤さんの演技を拝見した時も、非常に甲高い声の持ち主で凄く印象に残っていたが、今回の神様さんの役でもその甲高い声は健在で、しかしどこかベテランの俳優としての安定感も感じた。登場シーンなどは、特にその安定感を感じる演技だった。
神様さんは結果的にはアフロ子に教えを説くために現れた存在、凄く異質なような存在なのだが今作に馴染んでいて違和感なかった。

桂役を演じたてっぺい右利きさんの演技も素晴らしかった。てっぺい右利きさんの演技は、配信公演では観たことがあったが劇場観劇では初めて。
不器用で童貞っぽくて熱い感じの男性役が非常に似合っていた。特に、ケイトに対して告白するシーンは何度も見返したいくらい大好きだった。マジックをやって成功して「好きです、付き合ってください」ってストレートに言うのが凄く良かった。確かにああやって言われてしまうとケイトの気持ちが動くのもよく分かるなと思った。謎に引き込まれるオーラがあるよなと思う。
そこからしつこくケイトに大好きなんですと真っ直ぐ言ってくる辺りも、てっぺいさんだからこそ似合っているというか、とてもハマり役だったなと思った。

そして今作で一番素晴らしかった俳優だと思ったのが、サリバンちゃん役を演じた柿原寛子さん。柿原さんの演技は、かるがも団地『三ノ輪の三姉妹』(2024年8月)で演技を拝見している。
『三ノ輪の三姉妹』での演技を観ていても思ったが、柿原さんの綺麗な透き通った声が素晴らしかった。凄く聞き取りやすくて確かにロボットと言われればそのように感じる。純粋でとても良い子、優等生な感じの声が本当に素晴らしかった。
だからこそサリバンちゃんには愛おしさを感じる。真面目に言葉を学習して吸収していく感じがほっこりするし、だからこそ悪アフロ子によって汚い言葉を学習させられてしまう時は、胸が痛くなった。
柿原さんお喋りロボットはまた観てみたいなと思う。サリバンちゃんを主人公にした物語があっても良いくらいハマり役だし素晴らしかった。

写真引用元:ステージナタリー シアタートラム・ネクストジェネレーション vol.16 -演劇- くによし組「ケレン・ヘラー」より。(撮影:月館森)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、ヘレン・ケラーの人生に言及しながら今作を紐解いていこうと思う。

ヘレン・ケラーという人物は、おそらく多くの人が知っていることだろうと思う。ヘレン・ケラーは、アメリカの作家、障害者権利の擁護者、政治活動家である。
ヘレン・ケラーは生まれてまもなく病気によって視力と聴力を失った。7歳の時にアン・サリバンという教師と出会い、ヘレン・ケラーに言葉と読み書きを教えた。そしてハーバード大学で盲ろう者として初めての学位を手にした。
その後、ヘレン・ケラーはアメリカ盲人財団(AFP)に勤めながら、世界中の35の国を旅して視覚聴覚障害者を支持し、講演を行った。

ケイト、アフロ子、サリバンちゃんという今作の登場人物は、それぞれヘレン・ケラーの人生に登場する人物とも対応していると考えられる。ケイトはヘレン・ケラーの母親の名前であり、ヘレン・ケラーの母のケイトは、彼女が病気で視力・聴力を失ってもずっと彼女のことを支え続けた存在である。この辺りは、少し今作のアフロ子とケイトとの関係とは異なりそうである。
アフロ子をヘレン・ケラーと見立てると、アン・サリバン先生とサリバンちゃんは対応している気がする。アン・サリバン先生はずっとヘレン・ケラーが7歳の時から2人三脚で支えてきた。彼女のおかげでヘレン・ケラーは学位を取ることができた。
今作でもアフロ子は、サリバンちゃんの過激な発言やアフロ子が実際には言っていなかった発言によって、改めて自分がやってきたことを振り返り学んだ。サリバンという存在は史実も今作でもどちらもヘレン・ケラー、アフロ子という存在に対して、良い方向へ導く先生的な役割を担ったのである。

『奇跡の人』という舞台がある。舞台好きの方なら知っていると思うが、ヘレン・ケラーの人生を描いた舞台であり、映画化もされているし日本でも度々上演されている。
この『奇跡の人』という作品の中で「water」の件があって、というよりも「water」という逸話自体この戯曲で創作された内容でもある。
『奇跡の人』はヘレン・ケラーのことをアン・サリバン先生の視点で描いた物語である。主人公はアン・サリバンで奇跡の人というのは奇跡を起こした人ということでアン・サリバンのことを指している。
これを今作にも当てはめてみると、神様さんという存在の助言によってお喋りロボットのサリバンちゃんがやってきたので、ここでもその奇跡の要素が窺える。
また、『奇跡の人』ではアン・サリバン先生がヘレン・ケラーにとって敵役でもあり奇跡へと導いた功績者でもある。それが、今作でもサリバンちゃんがしっかりとアフロ子を良い方向に導いて、悪アフロ子からアフロ子へと導いている。

そんな具合で、『奇跡の人』という作品をベースにしながら今作はSNSやLGBTQといった現代的なテーマも取り入れて今上演されるべき作品として創作されている点に素晴らしさを見出せた。
2018年初演の作品なので、初演時と今回の上演とでどのくらい改訂がなされているのか私は知らないが、本当に改めて脚本としてよく練られているなと感じた。

写真引用元:ステージナタリー シアタートラム・ネクストジェネレーション vol.16 -演劇- くによし組「ケレン・ヘラー」より。(撮影:月館森)


↓中井千聖さん過去出演作品


↓名村辰さん過去出演作品


↓大場みなみさん過去出演作品


↓花戸祐介さん過去出演作品


↓佐藤有里子さん過去出演作品


↓柿原寛子さん過去出演作品


↓谷川清夏さん過去出演作品


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