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音楽劇 「金鶏 二番花」 観劇レビュー 2025/07/12


写真引用元:あやめ十八番 公式X(旧Twitter)


写真引用元:あやめ十八番 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「金鶏 二番花」
劇場:座・高円寺1
劇団・企画:あやめ十八番
脚本・演出:堀越涼
音楽監督・作曲:吉田能
出演:丸川敬之、金子侑加、浜端ヨウヘイ、谷戸亮太、井上裕朗、蓮見のりこ、田久保柚香、武市佳久、中野亜美、内田靖子、織詠、鈴木真之介、桂憲一、吉田能、高岡由季、池田海人、吉田悠、石川真世、池田直広、河西美季、高村颯志、長乃稔、藤江花、古川和佳奈、璃音
期間:7/7〜7/13(東京)
上演時間:約2時間45分(途中休憩10分を含む)
作品キーワード:音楽劇、和製ミュージカル、群像劇、昭和レトロ、泣ける
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


昨今では、プロデュース公演の作演出なども数多く手がける堀越涼さんが代表を務める演劇ユニットである「あやめ十八番」の新作公演を観劇。
一昨年(2023年)は『六英花 朽葉』(2023年8月)でCoRich舞台芸術アワード!2023において1位を受賞している。
今作は、今年(2025年)9月に東京芸術劇場シアターイーストで上演が予定されている『草創記 金鶏 一番花』との関連作品で、どちらも日本のテレビジョンの黎明期を描いており、それぞれ別の登場人物の視点で創作されている。
私自身、「あやめ十八番」の公演は『六英花 朽葉』以来2度目の観劇であり、堀越さんの作演出作品はCCCreation『白蟻』(2024年6月)に続き3度目である。

物語は、戦前、戦時中、戦後と時代が移り変わる中で、テレビジョンがどのように生まれ変遷していったのかを描いた群像劇である。
2025年、テレビ番組『繭の時間』が始まる。年老いたNHK放送劇団・第一期生だった出雲喜代子(金子侑加)がゲストに呼ばれて黒柏繭(中野亜美)と対談する。
喜代子はNHKを代表する出雲幹と宮義勝という二人のNHKアナウンサーの話をし始める。
出雲幹は喜代子の夫である。
喜代子は過去について語りながらどんどん若返っていき、時は1950年へとタイムスリップする。
当時NHK技術研究所で働いていた喜代子は、NHKアナウンサーの九鬼薫子(蓮見のりこ)と対談している日本のテレビジョン開発第一人者の金原賢三(桂憲一)と出会う。
金原は、自分の幼少期に見た人形劇について語りながら、初めて日本でブラウン管テレビで「イロハ」の「イ」の文字を投影することに成功した、大正から昭和へと元号が変わる頃について話し始めるが...というもの。

以前観劇した『六英花 朽葉』の時にも感じたが、本当に「あやめ十八番」という団体の照明や音響を含めた舞台美術の作り込みや世界観の完成度に今作も驚かされるばかりだった。
音楽劇をうたっているが、もはや和製ミュージカルなのではと思うくらい、劇中に歌がふんだんに盛り込まれていた。
劇場では劇中歌の歌詞を当日パンフレットとして配っているくらい楽曲も豊富にあって作り込まれていて、これを一から作ったのかと驚くほどのクオリティだった。
音楽監督・作曲を担当する「あやめ十八番」の吉田能さんという逸材が団体内にいるからこそ実現できる作品なのだろうと思う。
音源も非常にこだわり抜かれているのが伝わってきて、まるで昔のラジオを聴いているかのような少しノイズの混ざった感じの音声などを堪能でき、劇場ごと戦時中・戦後の日本にタイムスリップしてしまったかのような感覚で、これぞ演劇の醍醐味だと感じた。
さらに、出演者たちも劇中で照明器具を移動させたりとスタッフ的な役割も担いながら演じていた。
「あやめ十八番」の作品を観ていて度々感じるのは、スタッフも一人の役者であるということ。
奏者もステージ上で演奏している光景を観客は目にすることが出来るし、役者もスタッフも一丸となって作品を作っているのだというのを感じることが出来てスタッフ愛を感じた。

一方で、今作の脚本に関しては少々散漫になっているとも感じた。
群像劇ということもあって多くの出演者にフォーカスされているので、描きたいことが多くて発散してしまっているようにも思い、一体この物語はどこに収束するのだろうかと思いやや長く感じた。
ラストのシーンで描きたいことは分かったのだが、そこに行くまでの過程と描写で直接的に関係のない描写もあり、もっとシンプルにした方が個人的な満足度は高かったと思う。
また、今のシーンがいつの時代を描いているのかをあえて分かりにくくしているのかもしれないが、故に今のシーンがいつの時代で何を描いているかを知るのに少し時間がかかって混乱した点もやや勿体なく思えた。

出演者陣は皆素晴らしかった。
特に、NHKの二人のアナウンサーである出雲幹を演じた丸川敬之さんの、喜代子に対する想いが真っ直ぐで熱い感じが好きだった。
そして、宮義勝役を演じた浜端ヨウヘイさんの、大きな体つきで力強さも感じつつ、サナトリウムで大蔵ハナ(内田靖子)と過ごすシーンが非常に素敵で良い演技だなと思った。
その他にも、出雲喜代子役を演じた金子侑加さん、そして黒柏繭役を演じた中野亜美さんという二人の「あやめ十八番」のメンバーによるしわがれた声と若々しい声の二つを演じ分ける演技なども素晴らしかった。

他の方がSNSで感想を言っているように、この価格でこんなハイクオリティな音楽劇を観て良いのかと正直思ってしまうくらいの演劇作品であった。
ライブ配信とそのアーカイブ視聴は7月8日〜22日まで、アーカイブ配信は7月25日〜31日まで視聴できるので、ぜひこの機会に観て欲しい作品だった。

写真引用元:ステージナタリー あやめ十八番 第17回公演 夏の劇場09 日本劇作家協会プログラム 音楽劇「金鶏 二番花」より。(撮影:富田一也)




【鑑賞動機】

堀越涼さんの作品は、あやめ十八番『六英花 朽葉』(2023年8月)、CCCreation『白蟻』(2024年6月)と観ていて、劇場観劇は2度ほどしたことがあり、配信視聴でもOffice8次元『​春鶯囀』(2024年7月)を拝見している。音楽劇として堀越さんの作品は観たことがなかったのと、テレビジョンの黎明期には興味があったので観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

2025年、テレビ番組『繭の時間』が始まる。進行役は黒柏繭(中野亜美)である。そこへゲストとして、NHK放送劇団・第一期生だった出雲喜代子(金子侑加)がやってくる。喜代子は非常に年老いていてしわがれ声で話す。二人はシルエットで白いカーテン越しで対談をする。喜代子は、NHKにはかつて二人の男性アナウンサーがいたことを話す。それは、出雲幹と宮義勝。出雲幹は喜代子の夫である。喜代子が二人のNHKアナウンサーについて語っているうちにどんどん若返っていって、1950年にタイムスリップしている。
オープニング楽曲『1950』が披露される。

1950年の東京・砧のNHK技術研究所、ここでは日本のテレビジョンの黎明期について詳しい、日本のテレビジョンの開発第一人者である金原賢三(桂憲一)を招いて、NHKのアナウンサーである九鬼薫子(蓮見のりこ)がインタビューをしていた。機関車のシルエットが白い巨大な反射板に映し出されている。
金原は語り始める。金原が子供の頃の1910年は、ちょうどハレー彗星が地球に接近していて地球が滅亡するのではないかと言われていたと。今ではハレー彗星という言葉自体聞き馴染みがなく、知らない人も多いかもしれないが当時は本当に地球が滅亡するのではと恐れられていたのだと。楽曲『ハレー彗星から生き残れ』が披露される。
金原は幼い頃の母とのエピソードを語る。それを人形劇(といっても役者が人形劇風に演じる)として上演される。浜松に暮らす母と子供(賢三)、母は本当は歌舞伎を観ることが好きだったけれど、子供が出来たためにずっと歌舞伎を観に行くことが出来なかったと。子供は、そんなに歌舞伎が好きなら東京へ行って歌舞伎を観たら良いと言う。もしも歌舞伎が家にいながらでも観ることが出来たらどんなに良いのだろうと思ったのが、テレビジョン開発に金原が至ったきっかけだったと言う。楽曲『美しき通りすがり』が披露される。

そこから金原は大正時代、日本初のテレビジョンによる研究に没頭した。金原はこのように続ける「金鶏伝説」という言葉があると。夜明けのタイミングで最初に鳴き始める二羽の鶏がいるが、その鶏は天から降りてきた鶏で、この鶏が鳴き始めると地上の鶏も鳴き始めて夜明けになるのだという。
まさに日本のテレビジョンが、ブラウン管に文字を初めて映し出すことに成功した時が、この「金鶏」だったと言う。大正時代の終わりに、初めてブラウン管テレビで「いろは」の「い」が映し出されて、そんな中で天皇が崩御されて昭和になったと言う。
その時、人形劇をやっていた現場ではボヤが起きてしまい放送は失敗してしまう。九鬼は金原に謝罪して放送は終了。戦時中の話はまた今度ということに。
楽曲『素敵な商売 アナウンサー』が流れる。裏方スタッフとして働いていた出雲と宮、出雲は同じくNHK放送劇団・第一期生の喜代子からお握りをもらって喜んでいる。

1941年12月8日、日本軍が真珠湾を攻撃して太平洋戦争が始まったことを告げるラジオが流れる。出雲と宮も太平洋戦争の兵隊として南方へ向かうことになり、スマトラ沖へと向かう。
しかし、出雲と宮は除隊処分となって戦争から帰ってくることになる。喜代子は嬉しそうに二人の帰りを歓迎する。
戦時中、NHKの放送会館のスタジオでは男性がおらず女性たちだけで放送をしていた。男性がほとんど放送会館にいない中で戦争から帰って来ていた出雲は原稿を書いていた。男性がほとんどいないのだから頑張れと周囲から言われる出雲。戦時中で完全にやる気を失ってしまった出雲を見て、先輩アナウンサーの河内秀雄(井上裕朗)は、自分だって何人もの人を殺してしまったという。学徒出陣の壮行会で実況を担当したからと。
出雲はラジオで楽曲『愛おしいもの』の喜代子の歌声を聞いて感銘を受け、そしてその後出雲は喜代子に告白して付き合うことになり、結婚に至る。

太平洋戦争が終わり、CIE職員の南木智和(鈴木真之介)がNHKにやってくる。戦争が終わりNHKも民主化をして欲しいと求められる。これはGHQからの要望でもあると。楽曲『ピストルと大砲』、『待ち人便り』、『半分半分』が流れる。
出雲と宮は話す。今はまだラジオが主流だが、NHKにも民主化が求められてテレビジョンとしてこれからどんどん発展を進めようと意気込んでいるうちに、宮は突然血を吐いてしまう。出雲は宮を助けて病院へと連れて行く。

ここで幕間に入る。

出演者たちがぞろぞろと登場し、合図と共に番組をスタートさせる。
NHK音楽部のプロデューサーである徳地達平(谷戸亮太)は、素人に歌を歌ってもらう番組を作ってはどうかと河内に提案する。河内はうまく行くかと首を傾げるがやってみたらと言う。楽曲『お歌自慢節』が流れて、『お歌自慢素人音楽会』がラジオで放送される。
由比ヶ浜のサナトリウムでは、宮は結核に倒れて療養していた。サナトリウムの看護師である鶉佳子(織詠)が宮を含めて様々な患者の看病をしている。宮はラジオで『お歌自慢素人音楽会』を聴いていると、大蔵ハナ(内田靖子)がやってくる。ラジオからは、楽曲『僕の可愛い妹よ』が流れる。この楽曲をきっかけに、宮と大蔵は仲良くなって行く。レントゲン写真には、宮の肺に大きな影が映っているのを医師から示される。
黒柏の家では、NHK放送劇団の公募があったので、それに申し込みたいと黒柏繭は躍起になっている。しかし応募期間が間近に迫っているので家中で慌てふためいている。楽曲『繭の素敵な応募用紙』が披露される。

再び『お歌自慢素人音楽会』が開かれる。そこには喜代子の姿もあった。そして今回歌を歌いにやってきたのは黒柏繭だった。黒柏は、喜代子に憧れて『お歌自慢素人音楽会』にやってきたと言い、そしてNHKにスカウトされに来たのだと言う。楽曲『愛おしいもの』を披露する。やり方は特殊だけれど、歌はうまかったのでNHK放送劇団に黒柏を入れても良いという判断になる。
しかし、NHK放送劇団の稽古場で黒柏は嫌だ嫌だと駄々をこねてばかりだった。黒柏は歌が歌いたくてNHK放送劇団に入ったのに演技ばかりさせられて、こういうことをしたくて入ったのではないと言う。しかし、ここは劇団なのだから演技もしなければならないと指導される。黒柏はただの通行人の役なのに、非常に目立った演技ばかりしてしまって監督に怒られてばかりだった。喜代子に黒柏は泣いてすがるが、それは監督が大変だったと呟く。黒柏は自分は変な人間なのだと言うが、それが素晴らしいのだと喜代子は励ます。楽曲『あなたってアプレゲール』が披露される。
NHKアナウンサーの美濃明美(田久保柚香)がNHKのアナウンサーを退職するというので、出雲幹や喜代子、徳地などは集まる。花束を彼女に渡し、明美は今後は一視聴者としてNHKを見守ると言う。楽曲『恋は日光網膜症』が披露される。

由比ヶ浜のサナトリウムでは、宮と大蔵が恋に落ちて愛を深め合っている。しかし、お互い結核患者でキスをすると症状を悪化させてしまうんじゃないかと躊躇っている。そこへ看護師が結核に効く「ストレプトマイシン」という特効薬の話をする。楽曲『特攻野郎!ストレプトマイシン』が披露される。
喜代子と黒柏が企画したとある番組の番組名が、徳地によって却下されていた。その理由は、番組名に「合戦」という文字が入っていたからだった。敗戦国であるにも関わらず「合戦」という言葉を番組名に使うことは許されないとCIE本部からも通達があった。
出雲幹は、久しぶりにCIE本部職員の南木に会う。南木の話によると、CIE本部は撤退するそうである。そして、この前黒柏が歌っていた『愛おしいもの』について触れ、あの歌は私が番組に投稿した楽曲なのだと言う。当時、戦時中で今まで翻訳をしてきた中で一緒に仕事仲間として働いていた者が敵になってしまって、その時の気持ちを歌にしたものなのだと言う。
河内はヘルシンキオリンピックの実況に向かうために飛行機に乗った。しかし、それまで元気だった河内は渡航先で倒れてそのまま帰らぬ人になった。

由比ヶ浜のサナトリウム、鶉には宮は特効薬のおかげで結核は完治して退院すべきだと言われる。しかし、退院してしまうと大蔵とは高頻度で会えなくなってしまうと。大蔵はあとどのくらい持つか分からない。宮は大蔵に会いに行く。大蔵はラジオを聞いている。宮は、いずれこのラジオというものがテレビジョン変わっていって映像が映るようになると大蔵に説く。小さな画面に米粒のような小さな人間が映って放送されると。
その頃、NHK放送会館では『紅白歌謡合戦』という番組名はどうかと、徳地、喜代子、黒柏、出雲の間で議論されていた。今までラジオでやっていた番組をテレビジョンで放送しようと。CIE本部が撤退した今なら「合戦」という言葉が使えると。徳地は、『紅白歌謡合戦』がラジオではなくテレビで、しかも大晦日でとなるとどんな反響が起こるか分からないが、ひとまずやってみようと言う。
由比ヶ浜のサナトリウムでは、宮と大蔵で結婚式が行われる。そこには放送関係者も集まっていた。

そしてそこから場面が変わって、『第一回紅白歌謡合戦』の本番がスタートする。白組の司会を務めるのが宮義勝、紅組の司会を務めるのが出雲幹である。そこから盛り上がって、様々な楽曲がメドレーで送られる。そして最後は、楽曲『LIFE IS LIVE』をみんなで歌って上演は終了する。

2025年の『繭の時間』というテレビ番組で、NHK放送劇団・第五期生の黒柏繭のインタビューによって、NHK放送劇団・第一期生の出雲喜代子が自分が経験してきた激動のテレビジョンの歴史について、戦前、戦時中、戦後と長いスパンで回想しながら進んでいくという構成で、二人のNHKアナウンサーである宮義勝と出雲幹を中心とした物語のように見せながら、かなり群像劇的に物語を進めていて、何かをストレートに描くという訳ではなく、その時代に起きたありとあらゆることを満遍なく描いているような感じだった。
もちろん史実というのは、決して一つの物語として綺麗に繋がっていく訳ではなく、色々な事象が複雑に関係しあってぼんやりと一つの大河のような歴史になっていく。だからこそ、色々物語に直接的に関係してこない描写が沢山描かれる意図としては分かるのだが、ちょっと散漫した感が否めなくて、だからこそ今は何を描いているのかが分かりにくい瞬間が何度もあった。
描きたいことが沢山あったのだろうなという印象は受けたのだが、もう少し個人的には絞って欲しかったかなと思ったのが所感である。
しかし、テレビジョンの歴史を通じて、改めて先人たちからこうやって受け継がれてきた歴史というものの重みを感じられたし、そこには今にも通じる普遍的なドラマが沢山あって心動かされるシーンも沢山あった。金原の母親に大好きな歌舞伎を見せたかったという強い思いがテレビジョンの開発の熱に向けられ、戦争に突入する中で除隊処分で日本に戻ってきた出雲幹の苦悩と喜代子という希望、宮と大蔵のサナトリウムで余命の決まっている相手との恋、大先輩の喜代子に憧れてテレビ業界を夢見た黒柏繭など、それぞれの人としての人生を垣間見ることで、どの人生にも普遍的に共感できてとても心は洗われた。

写真引用元:ステージナタリー あやめ十八番 第17回公演 夏の劇場09 日本劇作家協会プログラム 音楽劇「金鶏 二番花」より。(撮影:富田一也)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

本当に舞台美術のクオリティが非常に高くて驚かされてばかりだった。「あやめ十八番」に音楽監督が出来る吉田能さんという逸材がいるからこそ実現できる世界観・演出だと思った。まるで戦後の昭和のテレビ番組制作現場にタイムスリップしたかのような感覚を味わうことができた。
舞台装置、映像、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていくことにする。

まずは舞台装置から。
ステージ上には巨大な白いカーテンが下手側から上手側までかかっていた。このカーテンを上手く使って、劇序盤では出雲喜代子と黒柏繭のシルエットを作ったりなどして、テレビ番組『繭の時間』を演出していた。この白いカーテン自体も、どこか戦後の昭和のテレビ番組創作現場を想起させられる感じがあって良かった。
そして上手側には天井から巨大な白い反射板が吊り下げられていた。全体を和紙のようなもので貼って白い反射板としたように客席から観察できる限りでは思った。その反射板はスクリーンとしても使われた他、非常にインパクトがあってどこか月のようにも感じられた。はたまた、この白い反射板は明るくも感じられたので太陽のようにも見えるかもしれない。今作のタイトルが『金鶏 二番花』なので、この白い反射板は天から降りてきた金鶏をイメージしているのかもしれない。
下手側奥には、帝国放送効果団の奏者たちが陣取っていて、そこで演奏をしていたのがまた良かった。スタッフたちも皆役者であるということを、「あやめ十八番」の作品を観ると度々感じることが出来るのは、このように奏者たちをステージ上に配置しているからというのもある。
上手側には天井から、「火の用心」という文字が書かれた赤い看板が吊り下げられていた。この看板も非常に昭和を感じさせる看板で、こういう所に舞台美術の良さを感じられる。
また、ステージには至る所に「NHK」と書かれた箱馬のようなものが置かれていた。劇場入ってすぐに目に止まったので、この会場はNHKのスタジオなのだなとすぐに分かったのだが、ややNHKの主張が激しくてリアリティを欠いていたような気もした。
あと印象に残ったのは、第一幕終盤で宮がバケツの中に血を吐くシーンがあるが、血を赤い大量のマーカーみたいなペンで再現していたのは表現力としてユニークだった。液体をそのまま使う訳にはいかないが、血を吐くというのをインパクト強く残すために赤いペンを大量に用意するのはなるほどと思った。

次に映像について。
上手の天井付近に吊り下げられていた巨大な白い反射板に、様々なシルエットを映し出すことによってスクリーン代わりにしていた。第一幕序盤では、そこに蒸気機関車を影絵として映し出していて印象に残った。テレビジョンが登場する前は、影絵などがエンタメとして広く親しまれていたと思うが、その影絵の素晴らしさみたいなものを演劇を通じて伝えているように思えて素敵だった。
大正から昭和に元号が変わるタイミングで、日本で初めてブラウン管テレビで「イロハ」の「イ」が映し出された演出もあって良かった。これこそ、金鶏が鳴いたタイミングだと思う。それが、金鶏を模している巨大な白い反射板に投影されたことによって、テレビジョンの歴史は夜明けを迎えたのだなと感じられて良かった。
宮が由比ヶ浜のサナトリウムで結核で入院していた時に、肺のレントゲンの結果を医師から提示された時もこの白い反射板が使われていた。肺に異常があるのをシルエットで映し出していた。
そう考えると、スクリーンとして活用されていた白い巨大な反射板は、テレビジョンという映像を映し出す装置にも通じる技術であるので、このように象徴的に表現されているのかなとも思った。

次に衣装について。
衣装の昭和っぽさの完成度も抜群に高かった。出雲幹のあの昔ながらのスーツの感じが良かったし、河内やプロデューサーの徳地のスーツの感じも昔っぽさがあって素敵だった。
特に印象に残るのは、黒柏繭の水玉模様のドレス。昭和のレディーといった感じが色濃く出ていて似合っていたし、時代にも合った衣装で素敵だった。
看護師たちの衣装も昔ながらの白衣という感じがあって素敵だった。なぜだろうか、ただの昔ながらの衣装というだけなのにこんなにも魅力的に感じてしまうのは、この世界観が作り上げる魔法のような力があるからなのかもしれない。

次に舞台照明について。
NHKのスタジオをイメージした舞台空間ということで、NHKホールのようなそんな感じの舞台照明に感じられた。天井からは白い光量の強い照明が降り注いでいた。
特に照明が暗くなるようなシーンはあまりなかった記憶で、強いてあげるなら由比ヶ浜のサナトリムで宮や大蔵といった結核患者たちが入院しているシーンの照明が暗かったように記憶しているくらいである。
割と全体的に明るめの照明が多かったように思えた。
あとは、これはその他演出部分でも書こうと思うが、照明の吊り込み自体を劇中に出演者たちが照明の灯体を動かしながらセッティングしていて良かった。まさにステージを作り上げる部分も劇として見せて、出演者たちもまるでスタッフのように準備に追われている感じを演出するのが、出演者もスタッフもみんな役者なんだと思わせてくれる良い演出だった。

次に舞台音響について。この舞台音響が本当に素晴らしすぎた。音楽監督である「あやめ十八番」の吉田能さんの才能が炸裂しているように感じられた。
まずは、なんといっても劇中歌。音楽劇の範疇を超えて和製ミュージカルといっても良いくらいに楽曲の多さがまずは目立つ。そして一曲一曲もかなりクオリティが高くて、どの楽曲もまるでミュージカルを聴いているがごとくサントラを購入して聞き込みたいほどのものばかりだった。これを吉田能さんと堀越涼さんで手がけたというのは本当に才能の塊でしかない。
特に好きだった楽曲は、オープニングの『1950』。この楽曲で始まった感じがあって一気に作品に引き込まれていった。間違えて楽曲が終わったあと拍手をしてしまった(割と拍手をしている観客も多かった)。そして『ピストルと大砲』も「GHQ」の掛け声が印象的で、ノリの良いテンポである点が好きだった。そして、ラストの「紅白歌謡合戦」で歌われていた『LIFE IS LIVE』の締めくくりがとても良かった。みんなで手拍子をして盛り上がって終われるのがとても観客参加型の音楽劇という感じがして素晴らしかった。
素晴らしいのは楽曲だけではなく、それ以外の音響効果。例えば、出演者がマイクを使って台詞を話して、それがそのままラジオとして流れるみたいなシーンがいくつもあるのだが、その時に音声にエフェクトがかかっていて、昔のラジオの音声を聴いているかのようになるのが本当にクオリティ高くて驚いた。そういう演出もあるからこそ、私たち観客は当時の昭和の世界にタイムスリップしたかのような錯覚を受ける。
そして鶏の鳴き声など、それ以外の効果音に関しても全て生音で奏者たちが奏でていて驚く。たしかCCCreation『白蟻』(2024年6月)でも効果音が全て生音だったと記憶しているが、吉田能さんの決し録音した音は使わず生音で勝負するのだという意気込みの強さと素晴らしさを感じた。

最後にその他の演出について。
先述したように、役者もスタッフに、スタッフも役者になって作品を作り上げていくというのを作品全体を通じて感じられたのが凄く良かった。下手側には奏者たちもステージにいて役者であるかのように演奏をしていたし、役者たちが照明のセッティングをしたり、舞台装置を移動させたりなど現場のセッティングをしていて、みんなで作品を作り上げている感じを観られたのがとても良かった。そもそも劇自体が、番組を撮影している最中と日常という劇中劇的な構造にもなっているので、番組を撮影するための準備として役者たちがスタッフとしてあくせく働いているのが観られて、劇自体が二重構造に見えるからの良さと、これこそ演劇でないと出来ないという魅力がふんだんに盛り込まれているなと感じた。
人形劇を人間が演じるというのは新しくて面白いなと思った。劇序盤で金原の子供時代を人形劇で再現するというシーンがあって、金原少年とその母親が人形劇のように、人間が演じるというのがあった。まず人形のように演じた役者の二人に拍手喝采なのだが、あのシーンを見ていると、自分は昔のテレビで放送されていた人形劇を観ているのではないかという錯覚も生まれてきて不思議だった。昔の『ひょっこりひょうたん島』みたいなのをテレビで白黒で観ているような感覚に陥って凄く不思議な観劇体験だった。
劇場の天井部分に、通路のような場所があって、そこもステージとして使っていたのも面白かった。シーンによって観客が上を見上げたりと同じ場所をずっと観ている訳ではなく、様々な方向に視線を向けられるのも演劇ならではだと思った。
劇中で、番組の本番中に火災が起きるというシーンがあった。その時にスモークが立ち込める演出も良かったが、昔のテレビ放送はこうやって火の手が上がってしまうといったトラブルが良く起こっていたのだろうか、気になった。
2025年に黒柏繭によって出雲喜代子がインタビューされるという設定だが、出雲喜代子は長生き過ぎないかとは思った。戦時中にラジオで歌を披露するくらいの年齢なので、1945年の段階で20歳いかないくらいだと思う。1930年よりも前に生まれていることになるので100歳近いくらいだろうか。まあ不可能ではないから凄く長生きしている方という設定ならいけるのか。劇を観ている最中はこの人何歳なんだ...と思っていた。

写真引用元:ステージナタリー あやめ十八番 第17回公演 夏の劇場09 日本劇作家協会プログラム 音楽劇「金鶏 二番花」より。(撮影:富田一也)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

「あやめ十八番」ではよく目にする出演者と、初めましての出演者がどちらもいたが皆熱量が凄くて素晴らしかった。
特に印象に残った役者について見ていく。

まずは、出雲喜代子役を演じた「あやめ十八番」所属の金子侑加さん。金子さんの演技は、あやめ十八番『六英花 朽葉』(2023年8月)で一度だけ演技を拝見したことがある。
まず、2025年のテレビ番組『繭の時間』では100歳くらいのしわがれた老婆の役を演じながら、1950年にタイムスリップすると若々しいNHK放送劇団の第一期生を演じていて、そのギャップが素晴らしかった。あそこまでしわがれた声で長い時間演技をするのも大変だと思うが、年老いたお婆さんが昔のことを語っている感じがあって良かった(こんなに年老いた女性を番組に呼ぶだろうかという疑問は置いておいて)。
出雲幹との二人のシーンは、仲の良い夫婦という感じがあって良かった。また『愛おしいもの』などで披露される歌声も素敵だった。

次に、出雲幹役を演じた「花組芝居」所属の丸川敬之さん。丸川さんの演技は初めて拝見する。
あの誠実で真っ直ぐでドジな感じの青年役が良かった。同期でライバルである宮のことを嫌っていて、そして戦時中は除隊処分を受けて日本に帰ってきたものの、NHKではあまり最初は役に立っていなかったが、喜代子と結婚してからは変わっていって活躍していったように思えた(実際の設定は違うかもしれないが、そのように見えた)。
『紅白歌謡合戦』の文化を根付かせたいという強い気持ちで、プロデューサーの徳地に企画を提案する姿は非常に格好良くも思えた。

宮義勝役を演じた浜端ヨウヘイさんも素晴らしかった。浜端さんの演技も初めて拝見する。
非常に体格が良くて力持ちな感じであるにも関わらず、NHKのアナウンサーというギャップが非常に良かった。力任せでなんでもやってしまうのかと思いきや、あまりそういったシーンは出てこなかった。
特に引き込まれたのは、由比ヶ浜のサナトリウムで結核患者として入院し、大蔵ハナに出会って恋をするシーン。結核という死の病を抱えながらも恋をする姿と、病気が移ってしまうのではとお互いの身を気にしてキスをしない描写も泣けてきた。
そしてなんといっても、最後に二人で結婚して宮は完治するが大蔵は治らず他界してしまう(のではないか)ということ。これに関しても涙をそそられた。

そういう意味で、大蔵ハナ役を演じた内田靖子さんも素晴らしかった。内田さんの演技を拝見するのは、あやめ十八番『六英花 朽葉』、CCCreation『白蟻』に続き3度目である。
結核を患って、ずっと宮と一緒にサナトリムで過ごすシーンが本当に印象的だった。そして、最後に宮と結婚式を挙げるシーンも良かった。
あとは、宮にテレビのことについて聞くシーンも印象的である。今はラジオだけれど、これがテレビジョンになっていくんだというのを聞く感じも良かった。

黒柏繭役を演じた「あやめ十八番」所属の中野亜美さんも素晴らしかった。中野さんの演技は、あやめ十八番『六英花 朽葉』、コクーンアクターズスタジオ1期生卒業公演『アンサンブルデイズ-彼らにも名前はある-』(2025年3月)、ムシラセ『なんかの味』(2025年4月)で演技を拝見しており、今作で4度目の拝見となる。
黒柏繭のモデルは、言わずもがな黒柳徹子さんだが、非常に黒柳さんの声に似せて演じられていたのが印象的でびっくりだった。あの音声ってエフェクトかかっているのだろうか、そのくらい黒柳さんに似ていて驚いた。
黒柏の役は本当にずるいなと思うくらい素晴らしかった。テレビ業界に憧れる田舎の若き娘という設定がとても心を揺さぶられる。きっとアイドルを目指していたり、若い役者の多くが黒柏に感情移入するのではなかろうか。
喜代子に憧れて『お歌自慢素人音楽会』にやってきたのだと言ってしまう黒柏の怖いもの知らずの度胸、そして演技はやりたくないと駄々を捏ねながら、どうしても目立とうとしてしまう黒柏の役は本当に良かった。
黒柏のステージの中央に立って、思い切り駄々を捏ねながら叫ぶのは本当に反則級で面白いし美味しい役だなと思って見ていた。
どんどん役者としてのキャリアを積んでいて、今後もますます活躍が楽しみな役者さんである。

個人的には、「花組芝居」の桂憲一さんが演じる金原賢三も良かった。桂さんの演技も初めて拝見するが、あの落ち着いた感じとゆっくりと語る感じがとても印象に残っていて良かった。
あとは、金原の子供時代のエピソードが凄く良くて9月に上演の『草創記 金鶏 一番花』は金原を中心とした物語なので楽しみである。

写真引用元:ステージナタリー あやめ十八番 第17回公演 夏の劇場09 日本劇作家協会プログラム 音楽劇「金鶏 二番花」より。(撮影:富田一也)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、今作に登場する日本で初めてテレビジョンの開発に成功した歴史と、NHKが日本で初めてテレビ放送を開始した1951年のこと、そして『紅白歌合戦』について触れていきたいと思う。

まず、今作では金原賢三というテレビジョンの開発者が登場する。1950年代のNHKの番組で、そのテレビジョンの開発と金原のエピソードを人形劇で再現するというシーンがある。この金原のモデルとなった人物は、おそらく高柳健次郎という人物であると思われる。
金原のエピソードは、かなり高柳健次郎の史実のエピソードと似ていて、高柳のエピソードを元に作られたと思われる。高柳は静岡県浜松市の生まれで、当時母は歌舞伎を観ることが好きだったが、東京まで遠くて観ることが叶わなかった。母に浜松にいながら歌舞伎を見せられるようなものを作りたいという高柳の思いが、テレビジョン開発に繋がったということは、金原のエピソードにも登場するが、実は高柳の史実が元になっているようである。
高柳は、今の東京工業大学を卒業すると、静岡大学の教授をやりつつテレビジョンの研究に没頭した。ここで「無線遠視法(テレビジョン)」研究がスタートした。そして1926年12月25日の夜、この年は大正15年、そして昭和元年の年であり、大正天皇が崩御して昭和天皇が即位した直後のことだった。世界ではじめてブラウン管に「イ」の文字を映し出すことに成功した。
劇中でも、金原が同じエピソードを繰り広げていた。これが「金鶏伝説」に基づくテレビジョンの歴史の金鶏が鳴いた瞬間だと。

しかし、その後は太平洋戦争などがあってテレビジョンの研究は一時中断していた。だが終戦後は、NHK、シャープ、東芝と共同でテレビ放送技術の研究を行い、1953年2月1日にNHKが日本で初めて民間放送をスタートさせた。
高柳は戦後もずっとNHK技術研究所で研究を行っていたので、NHKともゆかりがあり、今作で登場する金原とも近しいモデルになっている。
ちなみに、NHKで1953年2月1日に初めて放送されたのは尾上梅幸、尾上松緑らの菊五郎劇団による舞台劇「 道行初音旅 みちゆきはつねのたび 」、高柳の願い通り歌舞伎がテレビで放送されたのだった。

黒柏繭のモデルは、黒柳徹子さんであるだろう。黒柳さんは生まれは群馬ではなく東京であるが、NHK放送劇団の公募に応募して選ばれてから女優としての道を歩んでいて、劇中で登場する黒柏繭と重なる部分がある。
黒柳さんは、NHK放送劇団に応募するとき、wikipediaによると、履歴書を持参すべきなのに郵送してNHKから注意されたり、筆記試験の会場を間違えて遅刻した上で、問題が分からず答案用紙の裏まで長所を書き連ねた上で、消しゴムで答案用紙を汚損するなどのトラブルに見舞われたらしく、劇中のおっちょこちょいの黒柏とも通じている。

今作では『お歌自慢素人音楽会』として登場するのは、紛れもなく今の『NHKのど自慢』である。この番組は、1947年にラジオ番組として始まった。この番組を企画したのは、NHKの音楽プロデューサーである三枝嘉雄である。三枝嘉雄は、のちに『紅白歌合戦』の企画もしていることから、おそらく今作に登場する徳地達平のモデルであろう。
『NHKのど自慢』は、1947年から1970年3月までの番組名は「のど自慢素人演芸会」でやっていて、アマチュアの出演者が持ち歌で競い合うという番組であった。
そして『紅白歌合戦』は、1951年1月3日に第一回がラジオ放送でスタートし、初めてのテレビ放送は1953年12月31日に放送された第4回からである。この時に司会を務めた高橋圭三が、今作に登場する宮義勝のモデルではないかと思う。高橋は、1954年まで慶應義塾病院で療養しており、由比ヶ浜ではないがそういう期間がある点は共通する。
また、高橋圭三と同期のNHKアナウンサーであり、紅白歌合戦の司会も務めている宮田輝が、出雲幹のモデルではないかと思われる。出雲幹は、NHK放送劇団の川口恵美子と結婚している。川口恵美子が出雲喜代子のモデルではないかと思われる。

このようにテレビ放送の歴史を振り返ってみると面白いものである。今でこそテレビからネットの時代に移ってしまったが、こうやってテレビに全力を注いだ人たちがいることを忘れてはいけないなと思う。


↓あやめ十八番過去作品


↓堀越涼さん作演出作品


↓田久保柚香さん過去出演作品


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