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「発行者情報」作成実務マニュアル~TOKYO PRO Market上場準備編~(非連結・中小企業向け)

「発行者情報って、何から書けばいいの?」
TOKYO PRO Market(以下、TPM)での上場準備を進める中で、最も大変だった作業のひとつが「発行者情報」の作成でした。

一般市場の有価証券報告書とは異なり、TPMの発行者情報には形式面の柔軟さがある反面、作成ノウハウが世の中にまだ十分に蓄積されていないのが現状です。私自身も、はじめは「発行者って何?」というレベルからのスタートでした。

ナウビレッジは、マーケティング支援という比較的新しいビジネスモデルであるため、業界特有の表現や開示内容も一から試行錯誤の連続でした。社内で原稿をつくっては、J-Adviser(フィリップ証券様)や監査法人(監査法人コスモス様)と何度も調整を重ね、最終的には十数回以上の修正を経て、ようやく完成しました。両社とも、毎回非常に丁寧かつ真摯に向き合ってくださり、細かな表現の修正に至るまで、真剣にご対応いただいたことに心から感謝しています。

このnoteでは、その作成プロセスで得た実践的なノウハウと、作成ポイント、押さえておくべき注意点を整理してご紹介します。

1. 発行者情報とは?

発行者情報は、TPMに上場する企業が作成・公開する資料であり、プロ投資家が企業の状況を深く理解できるようにまとめられた「会社の取扱説明書」のような資料です。

有価証券報告書との違い

発行者情報は、一般市場に上場している企業が作成する有価証券報告書に似ていますが、その内容や目的には大きな違いがあります。

  • 発行者情報
    TPMでは、プロ投資家向けという特性上、比較的柔軟性が高く、自社の特性や事業戦略などをより積極的にアピールする「投資家とのコミュニケーションツール」に近い役割があります。

  • 有価証券報告書(一般市場)
    厳格に法令に則って企業の経営や財務状況を詳細かつ客観的に開示するものであり、「投資家保護を目的とした厳密な法定情報」という性質が強いです。

TPMの特徴「プリンシプルベース」

TPMでは「プリンシプルベース(原則主義)」という考え方が採用されています。これは、形式的な書類作成よりも、企業の実情に応じた実質的で意味のある情報開示を重視する考え方です。

そのため、単に競争が激しいと伝えるのではなく、「自社は具体的にどのような対応策を講じているか」といった具体性が求められます。業界や事業環境に応じて適切な情報を選択して開示する必要があります。


2. 発行者情報の構成一覧(全体像)

発行者情報には決められたフォーマットがあり、すべての企業がこれに沿って作成します。基本情報、事業内容、財務状況、ガバナンス、株主構成まで網羅的に記載する必要があります。

項目は多く感じられますが、企業によっては「該当なし」となる項目もあります。ナウビレッジも社歴が浅く、事業内容が単一だったため、「該当なし」となった項目が多くありました。

【表紙】

・公表日、会社名、代表者名、所在地、担当J-Adviser情報
・投資者に対する重要な注意事項(リスク説明等)

第一部【企業情報】

第1【本国における法制等の概要】
通常、日本企業は記載不要です。(記載対象となりにくい)

第2【企業の概況】
1【主要な経営指標等の推移】
└直近数年間の売上・利益・資産などの主要財務指標を掲載します。
2【沿革】
└創業から現在までの主要な出来事や事業上の転機を簡潔に記載します。
3【事業の内容】
└どのような事業をどのように展開しているかを具体的に説明します。
4【関係会社の状況】
└親会社、子会社、関連会社の概要や関係性を記載します。
5【従業員の状況】
└従業員数、雇用状況、労働組合の有無や体制を記載します。

第3【事業の状況】
1【業績等の概要】
└最新の業績について、その変動理由を分析的に説明します。
2【生産、受注及び販売の状況】
└事業の現状を生産量や受注状況など具体的な数値で記載します。
3【対処すべき課題】
└経営陣が認識している企業成長のための重要課題を明確にします。
4【事業等のリスク】
└投資判断に影響する具体的なリスクを網羅的に記載します。
5【経営上の重要な契約等】
└業績に大きく影響する重要な契約(ライセンス契約・提携契約等)を記載します。
6【研究開発活動】
└研究開発の取り組み内容、成果、投資額を記載します。
7【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
└経営者の視点から財務状況やキャッシュ・フローの分析を説明します。

第4【設備の状況】
1【設備投資等の概要】
└設備投資の内容、目的、投資額を記載します。
2【主要な設備の状況】
└工場や営業所など主要設備の一覧を記載します。
3【設備の新設、除却等の計画】
└今後予定している設備の新設や除却計画を明確にします。

第5【発行者の状況】
1【株式等の状況】
└発行済株式数や種類などの情報を記載します。
2【自己株式の取得等の状況】
└自己株式取得の状況や新株予約権について記載します。
3【配当政策】
└配当方針やこれまでの配当実績を説明します。
4【株価の推移】
└上場後の株価推移を記載します。(上場前はなし)
5【役員の状況】
└役員の氏名・経歴・報酬・所有株数を掲載します。
6【コーポレート・ガバナンスの状況等】
└ガバナンス体制や監査法人への報酬、監査内容を説明します。

第6【経理の状況】
財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)や会計方針、重要な注記事項を掲載します。

第7【外国為替相場の推移】
通常、日本企業は記載不要です。

第8【発行者の株式事務の概要】
株主名簿の管理方法や株式関連事務の概要を説明します。

第二部【特別情報】

第1【外部専門家の同意】
監査法人や弁護士など、外部専門家による同意書を掲載します。

第三部【当該有価証券以外の有価証券に関する事項】

社債やストックオプションなどを記載しますが、多くの場合は該当なしです。

第四部【株式公開情報】

第1【特別利害関係者等の株式等の移動状況】
└特別利害関係者の株式移動の状況を記載します。
第2【第三者割当等の概況】
└第三者割当の状況を記載します。
第3【株主の状況】
└現在の株主一覧を記載します。

発行者情報作成のスケジュールと事前準備のポイント

作業開始のタイミング(スケジュールの目安)

理想的には、上場申請の4~6か月前から発行者情報の作成に着手することをお勧めします。これは単に文書作成に時間がかかるためだけではなく、財務監査、事業計画策定、ガバナンス整備など、他の重要な作業と並行して進める必要があるためです。

また、発行者情報作成の過程では予期しなかった課題が頻繁に発生します。例えば、リスク情報を整理する中で新たなガバナンス体制の構築が必要になったり、事業説明の検討中に組織再編の必要性が浮上したりすることもあります。このような課題が他の上場準備作業に連鎖的に影響するため、十分な時間的余裕を確保することが重要です。

比較的シンプルな内容だったナウビレッジでも最後まで細かい修正や確認があり、公開ギリギリのタイミングでの完成でした。

他社事例の徹底研究

発行者情報作成の準備段階では、他社事例の確認・分析が重要です。類似業界や規模が近い企業の発行者情報を最低でも10~20社程度分析し、記載方法や表現を学ぶことが効果的です。

効果的な事例研究の進め方

類似事業モデル企業の研究
事業説明の表現方法、リスク情報の記載内容、競合分析の視点などを重点的に確認します。自社の事業特性をどのように分かりやすく説明するか、業界特有のリスクをどう表現するかなど、具体的な参考情報を得ることができます。

最近上場した企業の事例
最新の開示トレンドや表現方法を把握するために特に重要です。規制の変更や投資家の関心事項の変化を反映した記載内容を確認できます。

事例研究では、優れた表現だけでなく、分かりにくい記載や改善の余地がある表現についても分析し、自社の作成において参考とすることが重要です。

必要資料の体系的な洗い出しと準備

発行者情報の作成には、社内各部門から多岐にわたる資料の収集が必要です。資料収集リストを事前に作成し、部門別・優先度別に整理することで、効率的な準備が可能になります。

財務関連資料
決算書3期分を基本として、月次試算表、資金繰り計画、予算実績対比表、セグメント別収益データなど、財務状況の詳細を示す資料が必要です。これらは単なる数値の記載ではなく、変動要因の分析や将来見通しの根拠として活用されます。また、会計方針の変更履歴や会計処理の詳細説明資料も準備しておく必要があります。

法務関連資料
登記簿謄本、定款、重要契約書、株主総会議事録、取締役会議事録など、企業の法的基盤を示す包括的な資料が求められます。特に過去の重要な意思決定プロセスや契約内容は、事業内容の説明やリスク情報の記載において重要な要素となるため、網羅的な収集が必要です。

事業関連資料
組織図、サービス説明資料、市場分析データ、競合分析資料、顧客動向分析など、事業の実態と競争優位性を具体的に示す資料が必要です。【事業の内容】では、会社紹介資料や営業資料から利用した項目も多く、それらを開示書類用として修正しながら文章を作成しました。

経営陣のコミットメント確保

発行者情報には経営方針、戦略方向性、将来見通しなど、経営陣の判断と責任に基づく内容が多いです。そのため、経営陣が積極的に関与し、定期的なレビューと意思決定を行える体制の整備が不可欠です。月次での経営陣レビュー会議を設定し、重要な記載内容について十分な議論と承認プロセスを確保します。

外部専門家との戦略的連携

発行者情報の品質向上において、外部専門家との密接な連携がポイントでした。各専門家の役割を明確にし、効果的な協働体制を構築することが重要です。

J-Adviserとの協働
J-Adviserは表現指導と構成確認において中心的役割を担います。投資家目線での適切な表現方法や読み手にとって理解しやすい構成について、豊富な経験に基づく具体的なアドバイスを提供してもらいます。早期段階からの継続的な相談により、大幅な修正を避けることができます。

監査法人との連携
監査法人は財務情報の正確性確認において重要な役割を果たします。決算数値の整合性や財務関連記載の適切性について専門的な確認を受けることで、投資家に対する信頼性を大幅に向上させることができます。

弁護士事務所との協力
法務専門家は契約関係、法的リスク、コンプライアンス体制など、法的観点からの記載内容の妥当性確認において不可欠です。適切な法的開示により、上場後のリスクを最小化することができます。

3.主要ポイントの記載内容と注意点

上場準備における発行者情報作成では、各項目を単に記載するだけでなく、有用な情報として構成することが重要です。ナウビレッジの実際の発行者情報を参考に、主要ポイントの具体的な記載方法と注意点を説明します。

沿革:企業の成長ストーリーを魅力的に伝える

沿革は単なる年表ではなく、企業がどのような想いや戦略を持って成長してきたのかを伝える重要な項目です。ナウビレッジの場合、創業からの期間が短かったため、多くの出来事は記載できませんでしたが、「HubSpot Solutions Partner認定」や「プライバシーマーク取得」といった信頼性を高める取り組みを、戦略的成長を示す要素として記載しました。

比較的自由度が高い項目であるため、重要な事実を押さえつつ、自社が強調したいポイントをストーリー性を持たせて伝えることが可能です。

事業内容:複雑なビジネスモデルを図表で分かりやすく整理

事業内容を説明する際には、単なるサービス紹介に終わらず、顧客が得られる具体的な価値や解決する課題を明確にすることが重要です。ナウビレッジでは、「コンサルティング」「広告運用代行」「Web関連制作」といった主要なサービスを整理しました。コーポレートサイト、会社紹介資料、営業資料、採用資料など様々な資料を確認し、それらの内容を調整・整理した上で、図表や事業系統図を活用して分かりやすく視覚的に説明しました。

図表を効果的に使うことで、複雑なビジネスモデルでも直感的に理解できるようになります。また、専門用語を控え、業界知識がない人にも伝わる表現を心がけることが重要です。

対処すべき課題:具体的な成長戦略として提示

上場に向けて経営陣との議論を重ね、企業として解決すべき課題を明確に整理しました。ナウビレッジでは、「顧客開拓の強化」「顧客支援内容の拡充」「業務生産性の向上」「優秀な人材の採用・育成」「内部管理体制およびコーポレート・ガバナンスの強化」の5つを成長戦略として設定しました。

各課題に対して具体的な施策を決定し、例えば「顧客開拓の強化」については、「マーケティング専任担当者の設置」「営業チームの組織化」「営業研修実施」などの明確な施策を掲げています。

課題を明確に認識するだけでなく、それをどのように解決し成長につなげるかという道筋を示すことで、自社の将来性を具体的に伝えることができます。

事業等のリスク:誠実性と対策を両立した充実した開示

ナウビレッジでは、企業として考え得るリスクを経営陣と現場で慎重に議論し、14のリスク項目を設定しました。「景気動向」「競合増加」「人材採用・育成」「特定人物への依存」「システムトラブル」「業績の季節変動」など、さまざまな視点からリスクを抽出しています。

リスクの記載において大切なのは、単にリスクを並べるだけではなく、各リスクに対する具体的な軽減策や対応策をセットで示すことです。

例えば、「景気悪化により顧客の広告費が削減される可能性がある」というリスクに対し、「顧客にとって必要性が高く、景気の影響を受けにくいサービスの拡充や競争優位性の維持」などの具体的な施策を併記しています。

リスクを明確に認識し、誠実かつ具体的に伝えることで、企業としての信頼性を高めることができます。さらに、一時的なリスクと長期的・構造的なリスクを明確に区別して開示することで、読み手がより正確に状況を把握できるように配慮することも重要です。

財務情報:変動要因の詳細な説明で透明性を確保

財務情報の開示では、数値をただ記載するだけでなく、その変動要因や背景を明確に示すことが重要です。

ナウビレッジでは、売上高や利益の増減に対して、その原因や状況を経営陣と丁寧に確認し、一時的なものなのか恒常的なものなのかを区別して記載しました。これにより、業績変動の理由が明確になり、企業の実際の収益力を適切に評価できるようになります。

また、キャッシュフローに関しても、営業活動、投資活動、財務活動の各項目について、主な変動要因を明示しています。それぞれの項目がなぜ変動したのか、そしてその変動が将来的に企業の資金繰りや財務の健全性にどう影響するかを説明することで、企業としての透明性を高め、理解や信頼を得ることにつながります。

ガバナンス:小規模企業ならではの創意工夫を示す

発行者情報における「コーポレート・ガバナンスの状況等」の項目では、自社の実態を踏まえた現実的で実効性のあるガバナンス体制を記載することが重要です。

ナウビレッジでは、上場企業として求められる牽制機能や内部統制の仕組みを構築するために、まず現状の組織体制や規模に応じた取り組みを整理しました。例えば、人員が限られる中でも、事業部門と管理部門が相互にチェックを行うことで監視機能を高める「クロス監査方式」を採用しています。

また、記載にあたっては監査法人や顧問弁護士といった外部専門家との協働体制も明記し、内部の体制だけでなく外部の専門性を活用していることをアピールすることも有効です。

注意点として、現在のガバナンス体制が必ずしも完璧である必要はありませんが、成長に応じてどのように改善・強化していくかという継続的な姿勢を示すことが大切です。さらに、情報開示の積極性や株主とのコミュニケーション充実を記載することで、透明性の高い企業経営を目指している姿勢を伝えることが大切です。

4. 発行者情報作成時のポイント

一旦すべての項目を網羅的に作成する

最初から項目を削らず、一旦すべての項目を網羅的に記載してみるのがおすすめです。「該当なし」や「記載不要」と思われる項目も、全体像を把握するために一度作成することが大切です。ナウビレッジでも最初は全項目を一通り作成し、全体像を把握した後で精査・修正しました。

財務情報の整合性を徹底チェック

財務状況に関する記載項目は非常に多岐にわたります。決算書や財務計画、営業計画など様々な資料との整合性をくまなくチェックする必要があります。ナウビレッジでも小さな整合性のズレから大きな修正作業が発生した経験があるため、定期的な細かなチェックを実施しました。

リスクの洗い出しは現場ヒアリングを活用

リスク情報は現場からのヒアリングが欠かせません。経営層だけでなく、現場スタッフから具体的な事例や潜在的な課題を収集することで、より実質的なリスク項目を洗い出すことが可能です。ナウビレッジでは各部署からリアルなリスク事例を収集し、最終的に14の具体的なリスクを設定しました。

ドキュメントのバージョン管理を厳密に行う

ドキュメントの修正履歴管理は極めて重要です。ファイル名には作成した日付だけでなく、具体的な時間まで記載しました。これにより常に最新バージョンを即座に把握でき、過去の修正理由や経緯を明確に残すことができます。ナウビレッジでもクラウドベースのドキュメント管理を行い、バージョン管理を徹底しました。

AIを活用しつつ、必ず人間の目で最終確認を

AIを活用した初稿作成は効率化に有効ですが、AIの生成内容は必ず人間の目で細かくチェックし修正する必要があります。ナウビレッジでもAIを活用し、文章のブラッシュアップや整合性確認などを実施し、出来る限りの効率化を図りました。

レビューのスケジュールを事前に徹底管理

経営陣のレビュー遅延は全体のスケジュールに影響を及ぼします。レビューすべき項目を明確に整理し、経営陣とのレビュー日時を余裕をもって早期に確保しておきましょう。ナウビレッジでは具体的なドラフトを事前に提示し、経営陣がポイントを明確に理解した上でレビューを進められるよう工夫しました。

5. 最後に

発行者情報の作成は、単なる書類作業ではなく「会社を言語化する」作業だと思います。

そのためには、何よりも自社への深い理解が必要です。多くの社員や関係者から話を聞き、会社の強みや課題をあらためて整理するプロセスが求められます。実際、私自身も作成を進める中で、自社への理解が大きく深まりました。

発行者情報には一定の作成基準がありますが、実務においては解釈が分かれるケースも少なくありません。そうした場面では自己判断に頼らず、J-Adviserや監査法人など、頼れる専門家に必ず相談することが重要です。ナウビレッジにおいても、本当に多くの方に相談し、発行者情報の作成を進めました。

このnoteが、発行者情報の作成に取り組む皆さまの支えになれば嬉しいです。

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今後もTPMに関する上場を随時発信していきます。
また、TPM上場に関する実務相談や壁打ちも歓迎していますので、お気軽にご連絡ください!


本noteは、ナウビレッジ株式会社のTPM上場(2025年4月上場)の実体験に基づいて作成されています。(作成内容は2025年4月時点の情報です。)また、会社規模や業界により必要な対応は異なりますので、必ず専門家にご相談の上、自社に合った形で進めてください。

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