【後編】CFOが実践したTPM上場の実務プロセス ~スケジュールから具体的ノウハウまで~
TPM上場準備の実務内容をお伝えするnoteの後編です。
前編では、上場準備スケジュールの全体像から、規程整備、会計・財務体制、内部統制の構築まで、上場準備の基礎となる「仕組みづくり」についてお話ししました。
後編では、労務管理・各種DD・システムやITなど実際の対応から、上場審査資料までより実務的な内容をお伝えします。
労務管理の落とし穴と対策
労務管理では、日々の労務管理が大きな焦点にはなります。特に未払い残業代に関して、細かく確認がありました。その洗い出しとその具体的な対応について、実際に行った実務上のポイントを詳しく解説します。
未払い残業代問題への対応
勤怠管理については、本当に慎重に取り組みました。まず最初に着手したのは、現在の勤怠管理ルールを徹底することでした。具体的には、早出や残業の申請ルールを明確にし、「申請のない残業は認めない」という方針を明確に打ち出しました。
残業申請は当日の16時までに行ってもらい、業務内容もあわせて記載してもらいました。また、管理職には毎日の退勤時間を必ずチェックすることを義務付け、申請外の残業を発見した場合には即座に本人へ指導を行う体制を整えました。
管理部門としても、毎日の残業申請状況と実際の残業時間を細かく確認し、申請がないまま残業をしていた場合は、たとえ期限を過ぎていたとしても未申請分として改めて申請をしてもらうように徹底しました。
こうした地道な取り組みを繰り返すことで、社員の意識も徐々に変化し、労務管理の透明性と適正化につながりました。
過去分の対応はさらに神経を使いました。過去2年分の勤怠データを全て洗い出し、一人一人のデータを精査。サービス残業の疑いがないかを徹底的に確認しました。疑義がある場合は、退職者含め本人に直接確認して適切に処理しました。
労務コンプライアンス体制の整備
TPM上場準備においては、労務管理でも最低限押さえるべきポイントがあります。
まず、必須となるのは36協定の適切な締結と管理です。協定で定めた時間を超える残業が常態化していないか、社員の残業時間をしっかり管理し、超過の兆候があれば早めに対応が必要です。
次に、就業規則の整備と周知です。作成した就業規則を単に保管するだけではなく、全従業員がいつでも内容を確認できるように、電子化や社内ポータルなどで常時閲覧可能な環境を整えることが重要です。
また、社会保険の加入漏れの確認と対応も基本的ですが重要なポイントです。特に雇用形態が多様な企業では、加入対象者を見逃さないよう定期的なチェックが必要です。
さらに、ハラスメント防止の取り組みも不可欠です。防止規程を整備し、相談窓口を設置して社員が安心して相談できる環境を整備します。また、管理職を中心に定期的な研修を行い、問題が発生した場合の対応手順を明確化しておくことで、社内の意識向上とトラブル防止につながります。
各種デューデリジェンス
デューデリジェンス(DD)は、細かい質問・指摘も多く、対応も大変でしたが、勉強になることも多く、様々な気付きがありました。
ビジネスDD
ビジネスDDでは、事業の持続性、収益性、そして内部管理体制を中心に、幅広く詳細なチェックが行われました。
まず、内部管理体制の整備状況の確認です。作成した50本以上の規程に関して、整備状況だけでなく実際の運用状況まで問われました。また、内部監査や監査役による監査の実施状況や、報告書の内容、改善措置の実効性なども細かく確認されました。現状をありのまま提示し、改善に向けた計画を明確に伝えることが重要でした。
次に、業務フロー・プロセスに関するヒアリングを受けました。営業から請求までのプロセスや、外注先管理など業務プロセスが具体的にどのように運用されているかを質問されました。実際の担当者が直接ヒアリングに対応し、業務記述書や業務フロー図と現場の実態に相違がないことを確認しました。
また、役員インタビューおよび宣誓書の提出も行われました。役員それぞれが、自社の経営状況やリスクをどのように認識しているか、また重要事項に虚偽や隠蔽がないことを確認するため、宣誓書の作成には細心の注意を払いました。
財務DD
財務数値の正確性が徹底的にチェックされます。勘定科目内訳の詳細作成、売掛金・在庫の実在性確認、引当金の十分性検証、オフバランス項目の洗い出しなど、一つ一つ丁寧に対応しました。
また、サービス別、顧客別などのセグメント別分析を実施しました。ナウビレッジは、特に人材業界への比率が高く、その可視化と対策検討を行いました。
前受金管理の適正性確認も求められました。大型案件では前受金をいただくことが多いので、その管理体制と会計処理の適正性を説明しました。プロジェクトの進捗に応じた売上計上基準を明確化し、監査法人にも確認を取りながら進めました。
法務DD(労務DD)
法務DDおよび労務DDでは、契約書の内容や締結状況、潜在的な法的リスクや労務リスクについて詳細な確認が行われました。
契約書については、適切に締結されていることはもちろん、その内容が最新の法令や規制に準拠しているかを徹底的に確認しました。ナウビレッジでは、フリーランスとの契約もあったため、フリーランス新法をはじめとする最新の法改正に適合しているか、契約書の定期的なアップデートが求められました。
また、業種特有の法規制がないかの確認も行い、ナウビレッジは直接的に特別な法規制を受けるビジネスモデルではないものの、個人情報保護法や不当表示防止法など一般的な法令への対応が必須であることを改めて確認しました。
労務面では、従業員との労働契約書の整備状況、就業規則や36協定の遵守状況、勤怠管理体制、有給休暇の適切な管理など、様々な労務管理項目が厳格にチェックされました。特に未払い残業代やハラスメント対策については、社内体制や実績が細かく確認されました。
また、法務・労務DDでは個人情報管理体制の整備状況も確認されました。ナウビレッジでは2024年11月にプライバシーマークを取得しており、このプロセスを通じて個人情報管理が体系的に整備され、顧客からの信頼向上にもつながっています。取得作業は非常に手間がかかりましたが、結果として会社全体の内部管理レベルを向上させる良い機会となりました。
DDを通じて感じたのは、問題があれば隠さずに開示し、改善計画を示すことの重要性です。完璧な会社など存在しないので、現状を正確に把握し、着実に改善していく姿勢を示すことが、良い評価につながりました。
システム・IT面の準備
意外と見落としがちなのがシステム・IT面の準備です。TPM上場審査では財務や法務と同様に、IT管理体制も重要なチェックポイントとなります。
情報セキュリティ体制の構築(技術的・物理的・人的対策)
情報セキュリティ対策は、「技術的」「物理的」「人的」の3つの側面から整備を進めました。
技術的対策としては、ファイアウォールやアンチウイルスソフトウェアを全端末に導入するとともに、重要なシステムのアクセスログの取得・保管体制を整え、不正アクセスや異常操作を迅速に検知できるようにしました。
物理的対策では、「クリアデスク」「クリアスクリーン」を徹底しました。離席時には机上に書類を放置せず、必ず画面ロックをかけるなど、物理的な情報漏洩リスクを軽減するためのルールを設定しました。
人的対策としては、年に一度の情報セキュリティ研修を実施しました。研修を通じて情報漏洩の事例や防止策を具体的に学び、全社員からセキュリティ誓約書を取得して、全社的なセキュリティ意識を高めました。
また、万が一のインシデント発生時の対応フローも明確化しました。情報漏洩が発生した際の初動対応チーム編成、報告ルートや外部へのエスカレーション基準など、具体的な対応手順書を策定しました。幸い、実際の発生はありませんでしたが、対応フローを整備すること自体がリスク軽減につながりました。
さらに、第三者機関による客観的な評価を得るために「プライバシーマーク(Pマーク)」も取得しました。Pマーク取得によって、情報管理体制が整備されていることを対外的に明確にアピールでき、顧客や取引先の信頼向上にもつながりました。
個人情報保護とIT統制
個人情報保護では、プライバシーポリシーの策定・公開に加え、個人情報管理台帳の作成を行いました。委託先管理も強化し、委託先への情報提供時のルールや漏洩時の対応手順を具体的に策定しました。
IT統制では、セキュリティツール導入による不正プログラムの実行防止と端末のアクセスログ自動取得体制を整備しました。また、ユーザーアカウント管理を厳密化し、入退社時のアカウント付与・削除手順を明確にしました。さらに定期的な棚卸しを行い、不要なアカウントが放置されることがないよう管理しました。
これらの取り組みによって、TPM上場審査に求められる情報セキュリティ水準を確実に満たすことができました。上場準備を効率化する実践的Tips
プロジェクト管理と外部専門家の活用
上場準備において最も効果的だったのは、J-Adviserと監査法人との定例ミーティングの実施でした。フィリップ証券さまとは毎月、監査法人コスモスさまとは必要に応じて参加いただく形で運営し、事前に整理した議題に沿って、上場準備の進捗確認、事業状況の共有、課題・リスクの洗い出しを1時間で効率的に進めました。この定期的な対話により、関係者間の認識のズレを防ぎ、円滑な準備が可能となりました。
外部専門家については、J-Adviserと監査法人という必須パートナーに加え、税理士、社労士、弁護士、司法書士、株主名簿管理人など各領域の専門家を活用しました。特にフィリップ証券さまと監査法人コスモスさまは東京プロマーケットに精通しており、的確なアドバイスが大きな支えとなりました。重要な判断場面では、同じ質問を複数の専門家に投げかけて多角的な視点を得た上で、自社に最適な方法を選択しました。また、専門家との信頼関係構築のため、自社の状況を正直に開示し、実態に即したアドバイスをいただくことを心掛けました。
社内の巻き込み方とコミュニケーション戦略
社員から必ず出る「なぜ上場するのか」という問いには、抽象的な説明ではなく、「会社の信頼性が向上する」「優秀な人材を採用しやすくなる」「事業拡大のチャンスが広がる」など、業務や将来にどう影響するかを具体的に伝えることで理解を得ました。
一方で、すべてをボトムアップで進めることには限界があるため、重要な局面では代表からの直接的なメッセージ発信も活用しました。その際は単なる指示ではなく、「なぜこれが重要なのか」という理由を明確に伝えることで、トップダウンでありながら現場の納得感を高める工夫をしました。このようなコミュニケーションの使い分けが、組織全体で上場準備を推進する原動力となりました。
上場申請書類作成の実務ノウハウ
発行者情報作成のスケジュール
発行者情報の作成は非常に細かな情報を整理しながら進める必要があり、実際のスケジュール感としてはかなりタイトでした。ナウビレッジでは約半年前から段階的に進めました。最初の段階では全体構成を固めるところから始め、約4ヶ月前には各部門から情報を収集し初稿を作成しました。その後、J-Adviserによる初回のレビューを経て、指摘された事項を反映させ修正版を完成させました。最終的な内容確認と整合性のチェックは約1ヶ月前に行い、最終版を申請時に提出しました。
監査法人やJ-Adviserからの指摘は多く、修正作業は申請直前まで続くため、計画には余裕を持つことを強くお勧めします。
各パートの作成ポイント
企業の概況
沿革は単に設立から現在までを並べるのではなく、会社の成長において重要となった出来事や経営判断の背景を詳細に記載しました。事業内容の記述では専門的な用語を避け、投資家が理解しやすいよう平易な言葉で、ナウビレッジの事業の独自性や競争優位性を明確にしました。特に「マーケティングコンサルティング事業」と簡潔に表現しつつも、「なぜ顧客がナウビレッジを選ぶのか」を具体的な実績や特徴を交えて説明しました。
事業の状況
経営方針を記載する際は、具体的な数値目標やそれを達成するための戦略を明記しました。リスク情報については、隠すことなく全て網羅的に開示し、それぞれのリスクに対して具体的な対処方法を記載しました。「このようなリスクが存在するが、当社では具体的にこう対応している」という透明な姿勢が投資家の信頼を得るポイントとなりました。
経理の状況
会計に関する注記を充実させ、特に会計方針を透明でわかりやすく明記することに注力しました。また、ナウビレッジの場合、事業が単一セグメントであるためセグメント情報は省略しましたが、その理由と判断基準を明確に示しました。
申請書類のチェックポイント
書類の最終確認では、形式面のチェック(誤字脱字、日付や用語の統一)と内容面の整合性(数値の整合性、参照ページの正確性)を徹底的に行いました。ミスを防ぐためには複数人でのクロスチェックを行うことが欠かせませんでした。
上場後を見据えた体制整備
適時開示体制の構築
適時開示体制については、上場準備段階では、段階的な整備を行いました。まず基本的な情報共有体制を取締役会ベースで構築し、J-Adviserとの相談体制を整えました。模擬開示訓練や緊急時対応シミュレーションなど、より詳細な対応については上場後に継続的に充実させていく計画です。
IR体制の準備
IR体制については、コーポレートサイトにIR情報ページを設置し、決算短信や適時開示情報を掲載できる基盤を整備しました。会社説明資料や投資家向けプレゼン資料などの本格的なIRツールについては、上場後に段階的に充実させていく方針です。
小規模で上場を目指す企業においても、完璧を求めすぎず、上場後に充実させていくという段階的なアプローチが現実的ですもちろん、余裕があれば事前に準備した方がいいですが、優先順位としては他の準備の方が重要だと思います。
まとめ:TPM上場準備を成功させるための心構え
ここまで、実務的なノウハウを詳細にお伝えしてきました。最後に、経験者として伝えたい「心構え」を。
5つの心構え
完璧を求めすぎない
上場準備は「100点満点」を目指す必要はありません。「合格ライン」を確実にクリアすることが重要です。僕らも当初は完璧を目指していましたが、限られた時間では現実的ではありませんでした。優先順位を付けて、重要なところから確実に進めることが大切です。
上場は「スタート」
上場準備の過程で整備する仕組みは、全て上場後の成長のためのインフラだと考えてください。規程も内部統制も、形だけ作るのではなく、本当に会社のためになるものを作る。そう考えると、やりがいも感じられます。
一人で抱え込まない
CFOとして、全てを一人で背負い込む必要はありません。チームで乗り越えていくことが成功への近道です。当初は一人で対応しようとしましたが、チームで協力することでより効率的に進めることができました。
小さな成功体験を積み重ねる
マイルストーンを細かく設定し、達成したら素直に喜ぶ。それが最後まで走り切る原動力になります。「規程を10本完成させた」「月次決算が15日で締められた」小さなことでも、チームで喜びを共有しました。
「なぜ上場するのか」を忘れない
準備が大変な時のために、「なぜ上場を目指すのか」という原点を、常に忘れないでください。僕らの場合は、「もっと多くの企業のマーケティング課題を解決したい」「そのために信頼と安定が必要」という想いが支えになりました。
最後に
上場準備は確かに大変でしたが、TPMは売上等の基準がないため、1つずつ確実に準備すれば上場は可能です。
僕自身、上場準備の経験もない中でCFOとして準備を進め、失敗もありましたが、その都度に学びながら取り組み、無事に上場の日を迎えることができました。
このnoteが、これからTPM上場を目指す皆様の参考になれば幸いです。
上場準備は会社を強くする最高の機会です。大変なことは多いですが、上場準備前と上場準備後では様々な面でポジティブな変化があります。
もし具体的な質問があれば、ご気軽にご連絡ください!
本noteは、ナウビレッジ株式会社のTPM上場(2025年4月)の実体験に基づいて作成されています。会社規模や業界により必要な対応は異なりますので、必ず専門家にご相談の上、自社に合った形で進めてください。
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