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『使命と魂のリミット』東野圭吾【先生のための本棚-オススメ医療作品】

こんにちは!代ゼミ教育総研note、編集チームです。

代ゼミきっての読書家、Hさんの初回記事を覚えていらっしゃいますか?彼の文章が非常に気に入った編集チームは、初回記事の公開を待たずにHさんに次の執筆依頼をしました。

編集チームの(ある意味)無茶ぶりにも関わらず、「仕事の報酬は仕事ですね」と穏やかにお返事をしてくださったHさん、今回はどんな内容でしょうか、楽しみです😊


こんにちは。再登場となり、一発屋は免れたようです。
今回は学校の先生にご紹介したい本として、医療に関する小説はありますか? とお声がけいただきました。

【代ゼミと考える読解力#1】のエッセイでも述べたように、私の好みは推理小説(ミステリー)です。あらためて書店の棚を眺めると、医療系ミステリーって、結構あるものですね。医療とミステリーは親和性が高いということでしょうか。他にはハートウォーミングなお話も多いようです。

生徒さんと話題を共有できる本、医療系に進路を考えている生徒さんに先生からお薦めできる本としていかが? という観点から3作品選んでみました。

『使命と魂のリミット』東野圭吾(角川文庫)

サスペンス、ミステリーといえども、医療がテーマの小説である以上、多かれ少なかれ倫理観のエッセンスはちりばめられているはずです。本書もその例に漏れません。

作者は当代切っての売れっ子、東野圭吾先生です。なので既に読んだことあります! という方も多いかもしれませんね。それでもあえて取り上げたのは、10年以上前に読んだ時、数多い氏の作品群の中に埋もれていますが、これは隠れた傑作ではと心を震わせた記憶があったからです。
 
主人公は帝都大学病院に勤務する研修医の氷室夕紀。現在は心臓血管外科に籍を置きます。夕紀が中学生の時、最愛の父は大動脈瘤切除手術がうまくいかず他界していました。父のような人を助ける。そんな志を抱いて医師を目指した夕紀ですが、実はもう一つ、別の大きな動機を隠していました。父の手術の失敗は作為的なものだったのではないかと疑惑を抱いていたのです。

その真相を知りたい――。

そのような折、警告者を名乗る者から三度にわたって帝都大学病院に脅迫状が届きます。度重なる医療ミスが起きたにもかかわらず、それらを全く公表していない。即刻、過ちを公表し、謝罪しなければ病院を破壊する、というのです。医療ミスという言葉が、彼女の胸中をざわつかせます。

息をもつかせぬストーリー展開があるのですが、ネタバレになるので詳しくは書けません(ミステリーを紹介する際の避けられないジレンマです)。その奔流のまにまに夕紀の疑心は漂います。「なぜ彼は憎むべき男の手術をすることにしたのか」。

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中盤には夕紀と刑事の間で次のような会話が交わされます。
(夕紀)「(前略)自分の息子を死に追いやった人間が患者としてやってきた時、医師はどう対応すると思いますか」
(刑事)「(前略)どんな場合でも、いつもと同じように対応するんじゃないでしょうか。それがプロというものでしょう」
(夕紀)「あたしには出来ません。あたしなら、きっと心が乱されると思います」

夕紀の父は、生前こんなことを彼女に言います。「人間というのは、その人にしか果たせない使命というものを持っているものなんだ」。また後輩にも「使命を放棄するというのは、今まで生きてきた意味も失うことだ」と語っています。

この物語では、全編を通して「使命」が問われています。私が秀逸だと膝を打ったのは、人物関係の構図にこのエッセンスが巧妙に絡められているという点です。

クライマックスのある人物の手術シーンは、ジェットコースターに乗ったようなスピード感で読み進められます。そして様々な「使命」が描かれる重要な場面です。

“犯人”によって受電施設が爆破され、さらに遠隔操作で自家発電システムまで停止させられてしまい、無停電電源だけを頼りに手術は続けられます。しかしバッテリーでしかない無停電電源の寿命はたかがしれています。機器が停止する中、執刀医は手術の続行を決断します。そして言います。「自分のすべきことに集中するんだ」。
無影灯が消え、空調も止まり、闇に閉ざされた手術室の室温が上昇し続けます。一刻の猶予も許されません。持ち込まれた懐中電灯の光の下、執刀医が、麻酔科医が、臨床工学技士が、看護師たちが、それぞれの役割を全うしようと奮闘します。外では刑事たちも奔走します。そして“犯人”に騙されていた看護師も自分にしかできない「使命」に直面します。

作者は端役である他の患者の家族にもこんなセリフを与えています。「我々だって自分たちの出来ることをしなきゃいけないなあ」

読後感の爽やかな逸品です。



次回は、最近ドラマ化もされたあの医療作品をHさんがご紹介します。
お楽しみに!

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