民法(担保物権)(20)根抵当権者又は債務者の相続
第398条の8【根抵当権者又は債務者の相続】
① 元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債権のほか、相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保する。
② 元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する。
③ 第398条の4第2項の規定は、前2項の合意をする場合について準用する。④ 第1項及び第2項の合意について相続の開始後6箇月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなす。
元本確定後に根抵当権者又は債務者に相続が生じた場合、被担保債権は確定しているのだから、あまり問題はなさそうですね。しかし、確定前の場合はどうでしょうか。根抵当権は被担保債権から切り離された極度額という箱、つまり極度額を限度とする担保価値を把握しているわけですよね。当事者の死亡時に残っていた債権債務や相続人が生じた場合の債権債務の関係、複雑な関係になると思います。
【根抵当権者が死亡した場合】
例えば、Aが事業をなしており、製品を継続的に甲に売っていたとします。Aを根抵当権者、甲を根抵当権設定者とする根抵当権設定契約をしたが、その後、Aが死亡して、BCDの3人が相続人だったと想定します。BCDがAの事業を引き継がず、従って、甲との売買取引が終了するとした場合、根抵当権の箱の入り口はピタリと閉まります。つまり、元本は確定するということです。根抵当権も財産権であることには変わりないので、この場合は、BCDがぞれぞれ確定した債権を共同して相続するということになります。
しかし、A死亡後Bのみが事業を引き継ぎ、甲との売買取引を続けるということになったらどうなるか。新たに相続人Bと甲との間で根抵当権設定契約をすれば登記の順位番号が落ちてしまう。BとしてはAの根抵当権を引き継ぐ、つまり流用することを望むはずです。しかし、甲はどうか。Aだから信頼していたのであり、Bでは危ないと思うかもしれません。だから、根抵当権者に相続が生じた場合、自動的にA甲間の根抵当権がB甲間に流用されるということにはなりません。つまり、Bと甲との間に合意があって初めて根抵当権が引き継がれるということになるのです。
ここで、私が混乱したのは、この場合、Aの根抵当権を相続するのは、BCDではなく、Bのみであり、その相続根抵当権者Bと甲の合意によって根抵当権が引き継がれると思っていたことです。
そうではないんですよね、この場合であっても、根抵当権自体の相続人はBCD3人であって、甲と取引する人がBになったというだけなのです。だから、Bは根抵当権者の中にあって指定根抵当権者という肩書を付されることになるのです(ちなみに指定根抵当権者を複数にすることも可能です。BCD全員とすることも勿論可能です。)。このようにBを指定根抵当権者として登記し、Bと甲との合意があって初めてA甲間の根抵当権は引き継がれるということです。
Bと甲の合意についてですが、法律関係の安定化から、いつまで経っても合意できるというわけではありません。6か月以内に合意し登記しなければならない。そして、6か月以内に合意、登記がなければ6か月経ったところで、相続開始時に遡って箱の入り口はピタリと閉まって根抵当権は確定します。
では、新しい根抵当権者Bと甲との間で合意がなされた場合、その根抵当権はどのような内容、つまり箱になるのか。結局、Aが死亡するまでに生じた債権、Aの死後Bに生じた債権ということになります。Aの債権が残っていれば、その死後も箱の中に残り、新たなるBの債権もその箱の中で流動生成するということです。
なお、これは不動産登記上の注意点ですが、根抵当権者A死亡後相続が生じたら、根抵当権者自身はBCDの3人だということで付記登記(付記1号)されるということです。そのうえで、根抵当権者BCDの内更に取引をする者を誰か指定して、Bが指定されたとしたら、更にその旨を付記登記(付記2号)するということです。
【債務者が死亡した場合】
債務者の場合も論理的構造は根抵当権者が死亡した場合と同じです。指定根抵当権者ではなく指定債務者という言葉になります。
注意すべきは、債務者と根抵当権設定者が別人である場合です。つまり、物上保証人が死亡した場合は、今まで話したところとは違うということです。どういうことかというと、物上保証人が死亡した場合、その地位は相続人に相続されます。 厳密にいうと、地位が相続されるというのではなく、「担保権付きの財産」が相続されるというだけです。
