感情は、行動の動力源である
Your Best Solution代表、五木田穣です。
このnoteでは、心と体の健康に携わる
運動指導者や治療家などの
専門家・支援者に向けて、
健康、身体、支援、関係性、臨床思考、在り方などについて
多角的、包括的な視点で書いています。
※運動指導者や治療家などの専門職をまとめて、
“支援者”と表現しています。
※また、我々専門職が行うサポートすべてを
“支援”と表現しています。
今日は、
「感情」と「行動」について、書いてみたいと思います。
クライアントが行動できない時、
私たちはつい、こう考えてしまうことがあります。
やる気がないのではないか。
本気度が足りないのではないか。
必要性を理解していないのではないか。
習慣化ができていないのではないか。
意志が弱いのではないか。
もちろん、
そう見える場面もあります。
伝えたことを理解しない。
課題を出してもやらない。
セルフケアをしない。
運動習慣が続かない。
ダメと言った食事を繰り返す。
そういう場面に出会うと、
支援者側も、イライラするかもしれませんし、
どう関わればいいのか迷うでしょう。
もっと強く言った方がいいのか。
もっとわかりやすく説明した方がいいのか。
もっと簡単な内容にした方がいいのか。
もっと仕組みを作った方がいいのか。
そういうことも、大切です。
しかし、
行動を考える時に、
もう一つ見落としたくない視点があります。
それが、感情です。
行動は、
知識だけでは動きません。
正論だけでも動きません。
必要性を理解しただけでも、
人は必ずしも動きません。
人が動く時、
そこには必ず何らかの感情があります。
不安。
期待。
安心。
悔しさ。
楽しさ。
恥ずかしさ。
怒り。
喜び。
焦り。
納得感。
希望。
「このままでは嫌だ」という感情。
「少し変われるかもしれない」という感情。
「この人とならやってみよう」と思える感情。
感情は、
行動の邪魔になるものではありません。
感情は、
行動の動力源です。
行動できない理由を、意志だけで見ない
私たちは、
行動できない理由を
「意志」の問題として捉えてしまいがちです。
続けられない。
やらない。
忘れる。
先延ばしにする。
途中でやめる。
その表面だけを見ると、
意志が弱いように見えるかもしれません。
でも、
人が行動しない時、
には行動できない理由があります。
やり方が難しい。
時間がない。
生活リズムに合っていない。
環境が整っていない。
体力が足りない。
痛みや不安がある。
家族の理解がない。
過去に失敗した経験がある。
変わること自体が怖い。
今の状態から動くことに、
何らかの心理的抵抗がある。
そういう背景を見ずに、
「やる気がない」
「意志が弱い」
と見てしまうと、
支援は、表面的になります。
本人は、
変わりたくないわけではないかもしれません。
やった方がいいことも、
わかっているかもしれません。
でも、
頭ではわかっているのに、
心と体がついてこない。
行動しようとすると、
不安が出る。
またできなかったらどうしようと思う。
続かなかった自分を責めたくない。
変わることで、
周囲との関係が変わるのが怖い。
今までの自分を否定するようで苦しくなる。
そういう感情があると、
人は行動を止めます。
これは、
本人の弱さではありません。
行動の背景にある感情を、
まだ十分に扱えていないだけかもしれません。
正しさだけでは、人は動かない
支援者は、
正しい情報を伝えることに慣れています。
この運動が必要です。
この姿勢が大切です。
この食事を見直した方がいいです。
睡眠を整えましょう。
ストレッチを続けましょう。
この動作は控えましょう。
こうすると再発予防になります。
こうするとパフォーマンスが上がります。
正しい情報を伝えることは、
もちろん大切です。
しかし、
正しさだけでは、人は動きません。
正しいとわかっていても、
動けないことがあります。
必要だと理解していても、
続かないことがあります。
頭では納得していても、
暮らしの中に入っていかないことがあります。
なぜなら、
行動は、
正しさだけで起こるものではないからです。
その行動をした時に、
自分はどう感じるのか。
その行動を続けた先に、
どんな自分が待っているのか。
その行動は、
自分の生活に馴染むのか。
その行動に、
少しでも希望を感じられるのか。
その行動をすることで、
安心が増えるのか。
それとも、
評価される感じが強くなるのか。
支援者が伝えている内容が正しくても、
本人の内側に
「やってみよう」という感情が生まれなければ、
行動にはつながりません。
正しさは、
行動の条件にはなります。
でも、
行動の動力源になるとは限りません。
感情は、行動の入口である
行動を促す時、
私たちは方法を考えます。
何をするか。
何回するか。
どのくらいの頻度でやるか。
いつやるか。
どの順番でやるか。
どう記録するか。
それらは、もちろん大切です。
しかし、
その前に見たいことがあります。
本人は、
その行動に対して何を感じているのか。
これを見ないまま、
方法だけを整えても、
行動は続かないことがあります。
たとえば、
運動を勧める時。
本人が運動に対して、
「気持ちいい」
「できそう」
「少し楽しみ」
と感じているのか。
それとも、
「またできなかったら嫌だ」
「しんどそう」
「怒られそう」
「ちゃんとやらなきゃ」
と感じているのか。
同じ運動でも、
感情が違えば、
行動への入り方はまったく変わります。
食事指導でも同じです。
「整えると体が軽くなるかもしれない」
と思っているのか。
「また制限される」
「好きなものを奪われる」
「自分の生活を否定される」
と感じているのか。
ここを見ないまま、
正しい方法だけを伝えると、
本人の中では抵抗が生まれることがあります。
行動の入口には、
感情があります。
その感情を見ずに、
行動だけを変えようとすると、
支援はどこかで詰まります。
不安も、行動の動力になる
感情というと、
ポジティブなものだけを扱いたくなるかもしれません。
楽しい。
嬉しい。
希望がある。
ワクワクする。
安心する。
もちろん、
そうした感情は、行動の力になります。
でも、
不安や悔しさや焦りも、
行動の動力になることがあります。
このままではまずい。
今の状態を変えたい。
同じことを繰り返したくない。
もう痛みで生活を制限されたくない。
もう自分を責め続けたくない。
この先の人生を、
少し変えていきたい。
そうした感情が、
行動のきっかけになることもあります。
大切なのは、
その感情を煽ることではありません。
不安を使って追い込むことではありません。
焦りを利用して動かすことでもありません。
そうではなく、
その感情が何を知らせているのかを一緒に見ることです。
不安があるということは、
大切にしたいものがあるということかもしれません。
悔しさがあるということは、
本当は諦めたくないものがあるということかもしれません。
焦りがあるということは、
自分の中に「変わりたい」という願いがあるのかもしれません。
感情を否定せず、
煽らず、
丁寧に扱う。
すると、
その感情は行動を乱すものではなく、
行動へ向かう手がかりになります。
「やりたい」と「やらなきゃ」は違う
行動を続ける上で、
大きな違いになるのが、
「やりたい」と「やらなきゃ」の違いです。
やらなきゃ。
続けなきゃ。
痩せなきゃ。
鍛えなきゃ。
治さなきゃ。
ちゃんとしなきゃ。
この感情だけで行動しようとすると、
人は疲れていきます。
一時的には動けるかもしれません。
でも、
長く続けるには負荷が大きい。
なぜなら、
「やらなきゃ」の背景には、
不安や自己否定が隠れていることがあるからです。
このままではダメ。
今の自分では足りない。
また怒られる。
また失敗する。
ちゃんとしていない自分は価値がない。
そういう感覚が強いと、
行動は自分を責める方向へ向かいやすくなります。
一方で、
「やってみたい」
「少し試してみたい」
「これならできそう」
「やると少し楽になる」
「続けた先に安心がありそう」
という感情があると、
行動は少しやわらかくなります。
支援者が見るべきなのは、
本人が何をやるかだけではありません。
どんな感情でそれをやろうとしているのか。
そこを見ることが大切です。
同じ行動でも、
「やらなきゃ」でやるのか、
「やってみたい」でやるのか。
その違いは、
継続にも、
自己理解にも、
回復にも、
大きく影響します。
感情を無視した支援は、続かない
支援者は、
つい行動計画を立てたくなります。
週に何回。
一日何分。
このメニューを何セット。
この記録を毎日。
この食事を意識する。
この姿勢を保つ。
この習慣を続ける。
もちろん、
行動計画は必要です。
しかし、
感情を無視した行動計画は、
続きにくい。
本人の不安を見ないまま、
量を増やす。
本人の抵抗を見ないまま、
習慣化しようとする。
本人の恥ずかしさを見ないまま、
記録を求める。
本人の失敗体験を見ないまま、
「簡単だからやってください」と言う。
本人の暮らしの重さを見ないまま、
「これくらいならできますよね」と言う。
そうすると、
支援者にとっては小さな行動でも、
本人にとっては大きな負担になることがあります。
行動できないのではなく、
その行動をする時に生まれる感情が重すぎる。
そういうことがあります。
だから、
行動計画を立てる前に、
感情を聞くことが必要です。
これをやるとしたら、
どんな感じがしますか。
負担はどのくらいですか。
抵抗感はありますか。
できそうな感じはありますか。
やるなら、どのタイミングが一番楽ですか。
これを続ける上で、
不安なことはありますか。
こうした問いは、
行動の前提を整える問いです。
感情を聴くことは、甘やかすことではない
感情を大切にするというと、
甘やかしているように聞こえるかもしれません。
本人の気分に合わせすぎる。
やりたくないと言われたらやらせない。
厳しさが足りない。
専門家として導いていない。
そう感じる人もいるかもしれません。
でも、
感情を聴くことは、
甘やかすことではありません。
感情を聴くことは、
行動の条件を正確に見ることです。
痛みがあるなら、
動作を調整する。
可動域が足りないなら、
種目を変える。
疲労が強いなら、
強度を下げる。
それと同じように、
不安が強いなら、
行動の入り口を変える必要があります。
抵抗感があるなら、
その背景を確認する必要があります。
過去の失敗体験があるなら、
同じ形で始めない工夫が必要です。
感情は、
曖昧なものではあります。
でも、
支援の現場においては、
とても重要な情報です。
感情を聴くことは、
本人任せにすることではありません。
本人の状態をより正確に見て、
適切な支援を組み立てるためのプロセスです。
支援者自身の感情も、行動を動かしている
ここで見落としたくないのは、
感情が動かしているのは、
クライアントの行動だけではないということです。
支援者自身の行動もまた、
感情に動かされています。
早く結果を出したい。
良くしてあげたい。
失敗したくない。
信頼されたい。
期待に応えたい。
専門家として認められたい。
ちゃんと導かなければいけない。
相手を変えなければいけない。
そういう感情が、
支援者の中にもあります。
それ自体は悪いことではありません。
むしろ、
支援者として真剣に関わっているからこそ、
そうした感情が生まれるのだと思います。
しかし、
その感情に気づかないまま支援すると、
支援者側の焦りが、
相手への圧になることがあります。
早く変わってほしい。
ちゃんと続けてほしい。
言ったことをやってほしい。
結果を出してほしい。
その思いが強くなると、
相手の状態を見るよりも、
こちらの計画を進めることが優先されてしまう。
支援者自身の感情も、
支援の質に影響します。
だからこそ、
支援者は自分の感情も見る必要があります。
今、自分は何に焦っているのか。
なぜ、相手に行動してほしいと思っているのか。
相手のためと言いながら、
自分の不安を解消しようとしていないか。
行動を促す言葉の中に、
支援者自身の焦りが混ざっていないか。
ここを見ることも、
専門性の一部だと思います。
行動変容は、感情変容でもある
行動変容という言葉があります。
健康行動を変える。
生活習慣を変える。
運動習慣を作る。
食習慣を見直す。
姿勢や動作を変える。
支援の現場では、
行動変容はとても重要なテーマです。
しかし、
行動変容は、
行動だけを変えることではありません。
行動に伴う感情も変わっていく必要があります。
運動が、苦痛や義務だけではなく、
少し気持ちいいものになる。
食事を整えることが、制限ではなく、
自分を大切にする感覚になる。
休むことが、サボることではなく、
回復のための選択になる。
体を観察することが、
悪いところ探しではなく、
自分を知る時間になる。
続けることが、
自分を追い込むものではなく、
自分に戻るための道になる。
こうして、
行動に結びついている感情が変わると、
行動は続きやすくなります。
行動を変えるとは、
感情との関係を変えることでもあるのです。
感情を扱う支援者であるために
では、
支援者は感情をどう扱えばいいのでしょうか。
感情を分析しすぎる必要はありません。
カウンセラーのように深く掘り下げる必要がある場面ばかりでもありません。
大切なのは、
行動の背景に感情があることを忘れないことです。
なぜ、やらないのか。
なぜ、続かないのか。
なぜ、避けているのか。
なぜ、急いでいるのか。
なぜ、不安そうなのか。
なぜ、納得しているのに動けないのか。
その問いを持つだけで、
支援の見え方は変わります。
そして、
本人の感情を否定しないこと。
不安なんですね。
少し抵抗があるんですね。
やった方がいいとわかっていても、
動き出すのは重いんですね。
また失敗する感じがあるんですね。
できそうな感覚がまだ薄いんですね。
そうやって言葉にするだけで、
本人は自分の状態を少し見やすくなります。
感情を扱うとは、
感情を消すことではありません。
感情を支援の材料として、
丁寧に見ることです。
行動の前に、感情を確認する
支援の中で、
行動を提案する前に、
少しだけ感情を確認してみる。
それだけでも、
支援の質は変わります。
たとえば、
こんな問いです。
これをやってみるとしたら、
どんな感じがしますか。
できそうな感じはありますか。
少し重く感じますか。
楽しみな感じはありますか。
不安なことはありますか。
以前やった時、
どんな気持ちになりましたか。
続かなかった時、
何が一番つらかったですか。
これならやれそう、
と思える形はありますか。
この行動ができたら、
どんな自分に近づけそうですか。
こうした問いは、
単に気持ちを聴いているだけではありません。
行動の動力源を確認しているのです。
そこに少しでも、
安心や納得や希望があるか。
それとも、
不安や抵抗や義務感が強すぎるのか。
それによって、
支援の組み立ては変わります。
感情は、行動の動力源である
感情は、
行動の邪魔になるものではありません。
感情は、
行動を動かす力です。
人は、
正しいから動くのではありません。
必要だから動くのでもありません。
頭で理解したから動くのでもありません。
その行動に、
何かしらの感情が結びついた時、
人は動き始めます。
少し安心できる。
少し希望が持てる。
少し楽しそう。
少しできそう。
このままでは嫌だ。
本当は変わりたい。
もう一度、自分の体を信じたい。
自分の暮らしを取り戻したい。
そういう感情が、
行動の奥にあります。
支援者が行動を支えるということは、
単にやることを決めることではありません。
本人の中にある感情を読み、
その感情が行動につながる形を一緒に探すことです。
そして、
支援者自身もまた、
自分の感情に気づきながら関わることです。
焦りで急がせていないか。
不安で管理しすぎていないか。
期待で押しつけていないか。
良くしてあげたい気持ちが、
相手の速度を奪っていないか。
感情は、
クライアントにも、
支援者にもあります。
だからこそ、
感情を無視しない支援が必要です。
感情を扱うことは、
専門性を曖昧にすることではありません。
むしろ、
人を人として観るために、
欠かせない視点です。
行動の背景には、感情がある。
感情は、行動の動力源である。
その視点を持つことで、
支援は少し深く、
そして少しやさしくなっていきます。
Your Best Solution
五木田穣
関連記事
・専門家は、環境まで含めて人を観ているか
気圧・湿度・季節の変化を、支援の前提として考えた記事です。
・研究所限定|季節や気圧の変化を、現場でどう読むか
環境変化を現場でどう観察し、支援の組み立てに反映するかを深めた研究所限定記事です。
・続かない理由を、意志の弱さにしない
クライアントの行動が続かない時に、意志や根性ではなく、構造として見るための記事です。
※6月18日公開予定
・AI時代の専門職に必要な「問いを立てる力」
知識や情報が増える時代に、専門職がどのように問いを持つかを考えた記事です。
