【掌握小説】社宅のひまわり#ひと色展
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地方の小さな町に、工場の社宅がありました。
社宅は、コンクリートでできた3階建ての建物で、A棟とB棟がなかよく並んで建っていて、間にはアスファルトで舗装された駐車場がありました。
コンクリートとアスファルトで覆われた敷地には、雑草が生えるすき間もありません。社宅の人たちは、草むしりがきらいなので、草が生えないようにしていたからです。
でも、りくくんは違いました。
駐車場の角っこのほんの少しだけ土が見えているところにひまわりを植えようとしています。
そこに、ひいちゃんが近づいてきました。
「何してるの。」
「ひまわりの種を植えてるんだ。ほら、さわってごらん。」
ひいちゃんは、土をさわってみました。
「ほくほくする。中で、種が動き回ってるのかしら。」

「夏になったら、ひまわりは、こんなに大きくなるんだよ。」
りくくんは、両手をYの字にあげました。ひいちゃんも、まねしますが、りくくんの顔に届きません。
ひまわりが双葉からどんどん大きくなって支え棒が必要になってくると、りくくんの挿した棒に、ひいちゃんが茎を結び付けました。
夏になり、ひまわりの花が大きく咲きました。ひまわりは、A棟の人たちにも、B棟のみんなにも、こんにちはと笑顔をふりまいています。みんなは、窓から笑顔で応えました。
秋、ひまわりの花が終わり、種が採れる季節になると、りくくんは、ひまわりの種をひいちゃんにあげました。
りくくんの一家は、転勤で遠くの町に行くことになったのです。
次の春がやって来ました。
今度は、ひいちゃんが、ひまわりの種を植えています。
そこに、めいちゃんが近づいて来ました。めいちゃんは、去年ひまわりが咲いていたのを窓から見ていてやって来たのです。ひいちゃんとめいちゃんは、なかよく種を植えました。
夏になり、大きくなったひまわりが笑顔をふりまきました。
でも、そこに、ひいちゃんの姿はありません。めいちゃん一家のほかには窓から見てくれる人もいません。工場が閉鎖になって、みんな違う町に引っ越したからです。
秋が来ると、めいちゃんは、ひいちゃんに手紙を出しました。手紙には、小さな紙に包んだひまわりの種が入っています。
ひいちゃんが手紙を開けると、種を包んだ紙のすき間から、種といっしょにあの土がひと粒、テーブルの上に落ちました。
(おわり)
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