【豊臣兄弟!】第15回の語り|名もなき間者に「天晴れ」
浅井が織田を裏切る――その動きを市へ伝えていた者がいた。
市がノブに小豆袋を送り、裏切りを知らせたという有名な逸話。
それをリアルな出来事として成立させるために、この作品では一人の“間者”が置かれている。
織田との繋がりを疑われ、自由に動けない市の側で、浅井の動向を探る役目を担っていた名もなき存在。
いわばモブの織田の間者だ。
……とはいえ、評議の最中に持ち場を離れて報告に行っていたら、そりゃ怪しまれるだろ、というのはさておき。
案の定、内通が露見し、捕らえられる。
久政や長政の前に、“織田に情報を流した張本人”として引き立てられた間者は、市に向かって言い放つ。
「身も心も浅井に囚われた、哀れな女子よ」
――すべての責を、自分ひとりに引き受けるために。
思わず駆け寄ろうとした市の手を、長政が火傷を負った右手で掴む。
「無駄にしてはならん」と。
その直後、間者は刀で刺され、絶命する。
小さく「後戻りはできぬ」と漏らす長政。
その右手を、市はそっと包んだ。
改めて書き出してみても、この一連の流れのドラマチックさは尋常じゃない。
雷鳴が響く雨の中、暗いトーンで描かれるこのシーン。
それでも、いや――だからこそ思わずつぶやいた。
「天晴れ」と。
浅井の裏切りという、誰もが知る史実を丁寧に描いているのもそうだが、
それ以上に、この“名もなき一人”にここまでのドラマを与えている手の込みようがすごい。
この積み重ねが、きっと後の展開に深みを与えていく。
『豊臣兄弟!』、やっぱり面白すぎる。
