立ち止まらないと、夢は見えない
■ はじめに
夜、仕事を終えてソファに沈む。体は鉛のように重い。スマホを眺めながら、頭の中には明日の締め切りと、まだ返していないメールがある。
その夜、あなたはふと気づく。「そういえば、あれをやりたかったんだった」と。でもその思いは、翌朝のアラームとともにかき消される。
記憶が薄れたのではない。思い出す余裕が、なかっただけだ。
■ 忙しいと、夢が消えるのはなぜか
私にも、似た時期があった。
漠然とやりたいことが、頭にあった。具体的な計画じゃなくていい。なんとなく「こういう方向に進みたい」という感覚が、確かにあった。でも、仕事が忙しくなるにつれ、その感覚が遠ざかっていった。
ある朝、締め切りと会議の通知を見た瞬間、「自分が何をしたいのか」を考えることが、完全に消えた。
これは、意志が弱いからではない。
行動経済学では、この状態をトンネリング(=トンネルの中にいると外が見えなくなるように、目の前のことだけに意識が狭まる現象)と呼ぶ。ハーバード大学のセンディル・ムッライナタンと、プリンストン大学のエルダー・シャフィールが、2013年の著書『いつも「時間がない」あなたに: 欠乏の行動経済学』で示した概念だ。
時間やタスクが「足りない」という欠乏(=必要なものが不足していると脳が感じている状態)に陥ると、人は目の前の問題に全集中する。それ以外のことへ、意識が向かなくなる。
締め切りが迫った仕事のパフォーマンスは、上がる。でも、それ以外のことを考える処理能力は、著しく落ちる。「大事だと分かっているのにできない」のは、このためだ。
■ 脳は、追い詰められると外を見られなくなる
なぜ、こんなことが起きるのか。
脳はストレスを感じると、生存のために「今すぐ目の前の危機を解決せよ」というモードに入る。これは、かつて猛獣から逃げるために必要だった仕組みだ。逃げるとき、人は5年後の夢など考えない。生き延びることだけを考える。
その本能が、現代の「締め切り」や「タスク」に対しても、同じように発動する。
ここで「じゃあ、休めばいいんでしょう」と思うかもしれない。でも、それだけでは、また同じ場所に戻る。視野狭窄(=視野が極端に狭くなり、大切なものが視界から消える状態)は、一時的に休んでも、また忙しさが戻れば、再び始まるからだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
この一文だけ覚えておけ
「忙しいから夢を忘れるのではない。脳が忙しさを、サバンナの猛獣だと勘違いしているだけだ」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 我に返っても、また飲み込まれる理由
疲れ果てたある日、ふと我に返る瞬間がある。「本当はこんなはずじゃなかった」という声が、静かに浮かぶ。その瞬間こそが、正直な自分に触れている時間だ。
でも多くの人は、その声に耳を傾けないまま、翌朝の仕事に戻っていく。
問題は、「気づいた」だけでは、何も変わらないことだ。意識を向け続けない限り、自分が本当にやりたいことは、また忙しさのトンネルの奥に消えていく。
だから私は今も、週に一度、「自分は何をしたいのか」を書き出す時間を、意図的に確保している。特別なことはしない。ノートを開いて、5分だけ書く。それだけだ。
計画を立てるためではない。「自分が何を大切にしているか」を、忘れないためだ。忙しさの中にいると、それさえ見えなくなる。だから、意図的に立ち止まるしかない。仕組みとして作らない限り、脳はまた、トンネルの中に入っていく。
■ まとめ
夢や目標を忘れてしまうのは、意志の問題ではない。欠乏状態に陥った脳が、生き残るために視野を狭めているだけだ。これは誰にでも起きる、脳の仕組みだ。
我に返る瞬間は、必ずくる。その瞬間に、少しだけ立ち止まること。「自分は本当は何がしたいのか」を問う時間を、意図的に作ること。気づき続けることが、やがて行動になる。
あなたが最後に「本当は何がしたいのか」を考えたのは、いつだろうか。
ここまで読んでくれて、ありがとう。また次の記事で会いましょう。あなたの幸福を願う。
起こせ、パラダイムシフト。
いいなと思ったら応援しよう!
応援ありがとうございます。いただいたチップは全て日々の活動の向上の為に使わせていただいております。(書籍の購入も含め)
出来るだけ具体的に皆様の思考や行動が変わるような内容を目指していきます。
感謝いたします。