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夜の声薬局 第八夜 気づきすぎてしまう夜

夜の声薬局は、
今日は「気づきすぎてしまった夜」に、
静かに現れた。

その人は、
椅子に浅く腰を下ろすと、
少し困ったように笑った。

気にしすぎなんだと思います。

そう言いながら、
その人は少しだけ、
疲れた顔をしていた。

そう言ってから、
すぐに付け足す。

最近は、
鈍感力って言うじゃないですか、と。

その人は、
今朝、テレビの中で
その言葉を軽やかに口にする人を見た。

笑顔で、
「私、鈍感なのかも」
と話す姿が、
とても可愛らしくて、
少し、救われた気もした。

鈍感でいられたら、
きっと、少しだけ楽なのだと思う。

余計なことを考えず、
空気を読みすぎず、
自分を守れる。

それでも、その人は、
その力を身につけようとは
思えなかった。

自分に鈍感になったら、
きっと、
人の気持ちにも
鈍感になってしまうから。

職場で、
誰かの声が少し違うとき。
動きが、ほんの少し重たいとき。

気づいてしまう。

声をかけると、
「内緒ね」と笑われることもある。
でも、その分、
そっと支えることはできる。

不機嫌そうな空気に気づいて、
場が壊れないように、
言葉を選ぶこともある。

その人は、
自分がきついときでも、
そちら側でいることを
選んできた。

誰にも気づかれないまま。

鈍感になれなかった、
とも言えるし、
敏感でいることを、
手放さなかった、
とも言える。

私は、
何も言わずに、
湯気の立つカップを
その人の前に置いた。

正解も、
訓練も、
この店には置いていない。

気づく力は、
弱さではない。

ただ、
少しだけ、
休む場所が必要なだけだ。

その人は、
カップを両手で包み、
しばらく、黙っていた。

夜の声薬局は、
気づきすぎてしまう人のためにも、
静かに灯っている。

絵:クオ•ジェントル


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