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夜の声薬局 第六夜|揺らせる世界

夜の声薬局は、
今日は「自由がない」と言葉にできた夜に、
静かに現れた。

彼女は、
椅子に腰を下ろすと、
少し間を置いて、こう言った。

「自由がないんです」

理由はいくつもあって、
どれも、簡単には動かせないものだった。
環境のこと。
立場のこと。
今すぐには変えられない事情。

私は、
カウンターの上に置いてあった
小さなスノードームを、
そっと彼女の前に寄せた。

中には、
小さな街があった。
誰もいない、
静かな景色。

絵:クオ.ジェントル


「閉じ込められているみたいですね」

彼女は、
そう言って、
ドームの中を覗き込んだ。

私は、
何も答えずに、
スノードームを軽く揺らす。

透明な球の中で、
白い粒が、
ゆっくりと舞い上がる。

中の世界は、
何も変わらない。
建物も、道も、
そこにある景色も。

けれど、
雪は、確かに動いていた。

その人は、
しばらくのあいだ、
何も言わずに、
その動きを見ていた。

自由がないことを、
否定する声は、
この店にはない。

出られないなら、
だめだ、
という言葉も、
ここには置いていない。

雪が落ちきるまで、
私たちは黙って、
同じ景色を眺めていた。

それで、十分な夜もある。

やがてその人は、
小さく会釈をして、
扉を開けた。

何かが解決したわけではない。
状況も、
まだ動かない。


ただ、
閉じた世界の中でも、
自分の手で、
揺らせるものがあると、
はじめて分かった夜だった。

夜の声薬局は、
動けない人のためにも、
静かに灯っている。

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