夜の声薬局 第二夜 名前のない疲れ
夜の声薬局は、
あなたが想えば、どこにでも現れる不思議なお店
そして、店主はというと
泣き虫で、
少しだけおっちょこちょいな、
変わり者
今夜も、
夜の声薬局が開店する

「名前のない疲れ」が残った夜に
その人は、
足取りが重く、
背中が少し丸くなっているように見えた
何に対してのため息なのかも分からないまま、
息をするみたいに、ため息をつく
何に疲れているのかも分からない
筋肉痛みたいに、
「ここが痛い」と言うことが出来ない疲れが、いちばん厄介だ
ただ、
頭が重く、
心がザワザワとして、
何も考えたくなくなる
私は、その人の隣に腰を下ろした
丸くなった背中に、
そっと手を置いた
心臓の鼓動のようにトントンと
優しくリズムをとる
昔、子供の頃、泣きじゃくる私に
おばあちゃんがトントンとしてくれたように
すると、その人は、
理由も分からないまま、涙をこぼした
何がつらかったのかも、
何に疲れていたのかも、
もはや、よく分からないようだ
涙が乾くころ
処方箋を渡す
「今夜は、
大好きな香りに包まれてみては
いかがですか」
その夜、
部屋に戻ってから、
その人は、
引き出しの奥にしまっていた瓶を開けた
オレンジのような柑橘のかおりだった
目を閉じてみる
呼吸が、
少しだけ、深くなる
子供の頃、
寒いねーと言いながら
こたつでミカンを食べ
テレビを観た
そんな記憶がよみがえる
もう一度、深く呼吸をする
気持ちが少しだけ
軽くなった
目を閉じたあと、
その人は、
何も考えなかった
