1on1をしているのに、部下が何も話してくれない。
1on1を始めた頃、
わたしは、
部下の話を聞いているつもりだった。
「最近、どう?」
「困っていることはない?」
そう聞いても、返事はない。
沈黙が流れる。
耐えきれなくなって、
「こういうことに挑戦してほしい。」
「今のうちに、これを覚えた方がいい。」
気づけば、
わたしが話し続けていた。
部下の悩みから始まったはずなのに、
最後は、
わたしの体験談になっている。
「わかる。わたしも昔……」
その言葉で、
何度も話を奪っていた。
1on1を終えるタイマーが鳴る。
「ありがとうございました。」
部下は席を立つ。
ノートには、
わたしの言葉しか残っていなかった。
部下の時間だったはずなのに、
一番話していたのは、
わたしだった。
何かが違う。
そう思った。
わたしが知りたかったのは、
部下が何を考え、
何に悩み、
どうしたいと思っているのか。
答えを伝えたかったわけじゃない。
そこから、
1on1を少し変えてみた。
次の1on1。
「最近、仕事は楽しめていますか?」
そう聞くと、
また沈黙が流れた。
前なら、
ここで話し始めていた。
その日は、
待ってみた。
長かった。
何分にも感じた。
「……実は。」
部下が、
ぽつりと話し始めた。
「最近、あまり仕事が楽しくないです。」
「最近、あまり仕事が楽しくないんですね。」
そう返して、
紙に、
「あまり仕事が楽しくない」
と書く。
「ほかには?」
「期待に応えられているか、不安です。」
その横に、
また書く。
紙の上に、
少しずつ言葉が並んでいく。
「この中で、
少し気になる言葉はどれですか。」
相手の言葉を、
並べる。
つなげる。
確認する。
「ここは、
こういう認識で合っていますか。」
頭の中にある思いを、
言葉にして、
目の前へ並べていく。
そこから、
何に気づくのか。
何を選ぶのか。
それは、
部下自身に任せる。
不思議だった。
わたしが答えを話すより、
自分で選んだ答えの方が、
部下は動いていた。
気づけば、
沈黙は怖い時間ではなく、
相手が考えている時間になっていた。
このやり方に変えて、
半年ほど経った。
先日、
1on1を終えようとした時だった。
部下が、
少し言いにくそうに口を開いた。
「この1on1って、
いつまで続けてもらえますか。」
一瞬、
否定されるのかと、
胸がひやっとした。
「あなたが嫌じゃなければ、
続けるつもりですよ。」
そう答えると、
少し間を置いて、
部下がホッとしたように笑った。
「来年も、
続けてほしいです。」
一瞬、
意味がわからなかった。
来年には、
新しい社員が入ってくる。
新人向けの取り組みだから、
自分は今年までだと思っていたらしい。
その一言が、
本当にうれしかった。
このやり方でいいのか。
何度も迷った。
会社から言われて始めた1on1ではない。
人との関わりに失敗し、
本を読み、
職場で試し、
失敗し、
また試す。
その繰り返しだった。
「来年も、
続けてほしいです。」
あの一言を思い返すたびに、
あの日、
待ってよかったと思う。
1on1で、
一番大切だったのは、
話すことではなく、
待つことだった。
