正しさを返す前に、相手の見方を変えてみたら景色が変わった。
午後、現場を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「keiさん、少し話したいことがあるのですが、今いいですか?」
振り返ると、年上の作業者が、少しこわばった表情で立っていた。
その場で話を聞こうとすると、その人の視線が周囲を行き来する。
「ここでは、ちょっと……」
近くの、人の出入りが少ない場所へ2人で入った。
人目がなくなると、それを待っていたように言葉が続いた。
「また、あの人がルール通りに作業していなかったんです」
「あれ、いいんですか?」
こちらが言葉を挟む間もないほど、早口だった。
話の矛先は、同じ職場で働く作業者へ向いていた。
本人へ伝えるより、わたしに何とかしてほしいようだった。
でも、その方とわたしは部署が違う。
正直に言えば、心のなかで、
「また、細かいことを言っているな」
と思った。
同じ部署の人や現場リーダーに伝えて、そこで話し合えばよい。
相談する相手が違う。
そんな言葉を返しそうになった。
けれど、ふと、
「見方を変えたら?」
という言葉が頭に浮かび、出かかった言葉を飲み込んだ。
さっきまで、目の前にいるのは「相談する相手を間違えている人」だった
けれど、少し見方を変えると、「部署を越えて、わたしを頼ってくれた人」に見えた。
起きていることは、何も変わっていない。
それでも、目の前の景色は少し変わった。
もしかすると、ただ話を聞いてほしかっただけかもしれない。
それでも、わざわざわたしを選んでくれたことが、少しありがたく思えた
話の内容に同意できるかどうかは、まだ分からない。
それでも、言いづらそうにしながら、ここまで話してくれたことは事実だった。
「言いづらいことを伝えてくれて、ありがとうございます。
ルール通りにやっていなかったというのは、具体的にはどんなことですか?」
一瞬、会話に間があった。
わたしは急かさず、そのまま待った。
相手は少し息をつき、
「いつ、どこで、何があったのか」
を1つずつ言葉にしていく。
先ほどの早さはなくなっていた。
わたしは途中で判断を挟まず、分からないところだけを聞いた。
誰が悪いのかを決めようとせず、まず、その人から見えていたことを受け取った。
ひと通り聞いたところで、確認しながら話を進めていった。
「今、そのことで困っているんですね。それで、どうしたいと思っていますか?」
「決められたルールなので、守るべきだと思います」
「分かりました。ルールを外れていた点は、本人にも確認します。ただ、その人なりの事情もありそうですね。せっかくなので、そもそも何のためのルールなのか、今度一緒に整理してみるのはいかがですか?」
相手は少し考えてから、うなずいた。
「話してくれて、ありがとうございます」
もう一度そう伝えると、こわばっていた表情がふっとやわらいだ。
相談への答えは出ていない。
ルールをどうするかも、決まっていない。
それでも、どこか納得したような相手の表情が、印象に残った。
相手は小さく頭を下げ、扉を開ける。
現場の音が、一気に戻ってくる。
作業場へ戻っていく背中を見送りながら、人との関わり方は、こちらの見方ひとつで変わるのかもしれないと思った。

