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その顔、お金になります。

整形したら、100万円差し上げます。
ぜひ、あなたのような方に、モニターになって欲しいのです。


銀座大通りから、数本先の路地にある、昔ながらの喫茶店に入った。

コーヒー1杯1000円、高いな。
ご馳走してくれるんだろうけど。

かれこれ、彼の話を10分は聞いている。
私の顔がモニター向きということを、長々と喋っている。

美容整形のことはよくわからないが、理想の顔らしい。
顔のシミやデキモノを取るそうだ。
回復までは1ヶ月ほど。

イケメンでもないし、ブサイクでもない。

普通の顔だから、最適。

そんなことを失礼がないように、遠回しに言っている。
わかったよ、もう。
だいたい、モニター向きの顔って、なんなんだよ。
それよりも、早く100万円のことを聞かせてほしい。

「私がモニターに相応しいことはわかりました」
「100万円をもらえる話、そろそろ聞きたいかなと…」

「あ、そうでしたね、失礼いたしました」
「そんな難しい話ではないです」
「宣材写真として、使わせてもらう謝礼になります」

「このレーザー照射って、普通に病院で受けたら、どのくらいかかるのですか?」

「相場は1cmで1万円くらいでしょうか」

「えっ、たった1cmで1万円、高いな」

「ある程度、年齢いって、一気に全部やると、それなりの金額にはなりますね」

「それをタダでやってもらえて、100万ももらえるんですね」

「はい」

モニターとして、顔を出すのは恥ずかしいが、100万は欲しい。
今の仕事を辞めるつもりだから、次の仕事が決まるまで、まとまった金も欲しいし。
新しい職場で、新しい顔で、再出発も悪くない。

「わかりました、モニターやってみます」


話はトントン拍子に進み、仕事を辞めた翌日に病院に行った。
レーザー照射の説明を受けた後、施術に臨んだ。

ドキドキは束の間だった。

痛くもない。

5分もかかっただろうか。

診療後、モニター用の撮影をして、診察室を後にした。


ー 1ヶ月後
レーザーの傷も完治し、肌が綺麗になった。
嬉しさを報告したい気持ちもあり、病院への足取りは軽かった。

術後の写真撮影が終わり、サインをし、謝礼の100万を現金で受けとった。
振込でもよかったが、せっかくだから、100万円の感触を知りたかった。
こんな大金、自分ではどうせ下ろさないし。

帰る準備をしようとしたら、話があると、呼び止められた。
親会社の美容整形を紹介され、そこでもモニターをやってもらえないかという打診だった。

謝礼は300万。

目頭切開、顔のたるみをとって、フェイスラインをよくするらしい。
ご丁寧にシミュレーションした、顔写真まで用意されていた。
300万もらって、この顔になれるなら、ありがたいが。

5歳は若返る感じ、10歳は言い過ぎか、7歳かな。

医者からは、施術から回復まで3ヶ月はかかること、失敗のリスクの説明も受けた。
施術への不安も少しあったが、丁寧な説明を受けて、納得した。

成功率はほぼ100%で、300万がもらえる。
まったく問題ない。

こんなモニター顔に産んでくれて、ありがとう。
母親に感謝だ。

数時間後、施術は行われ、無事成功した。


ー さらに3ヶ月後
腫れも引いて、ようやく回復した。
施術していない顔下半分とのバランスが、少し気にはなった。
それでも、目元がくっきりして、輪郭も少し締まった。ちょっと変わったぞという感じ。

一方、もっと劇的に変わるのかとも思ったが、そうでもない。

親は気づくだろうな。
でも、実家にはしばらく帰らないし。
昔からの友人にも、もう5年は会っていない。

病院に足を運び、写真撮影を終え、300万を受け取った。

謝礼の際、提携先のスーツ屋を紹介された。
私の身体にあったスーツを仕立ててもらった。
さらに、シャツ、ネクタイ、靴まで、総額30万いくのでは。
本当にこれが無償でよいのか。

ただ、ちょうど、転職活動もしていて、面接が数社決まっている。
この顔、この装いで、面接に行けるなと思った。

履歴書の写真は大丈夫か。
そこまで大きく違わないので、大丈夫だろう。


ー 転職して1ヶ月後
鏡に映る自分の顔にも慣れてきた。
相応の格好でオシャレもするようになった。
銀座の仕立てとまではいかないが、出費だけがかさむ。

新しい職場で、女性からアプローチされるなんてこともない。
女性慣れしていない自分では、結局、顔が変わっても、モテやしない。

「カッコいいですね」の一言を、誰かに言って欲しいのかも。
美容整形のスタッフさんに「ステキですよ」と言われたことが支えになっている。

実は自分が思うほど、変わっていないのか。何かが足りないのか。


病院から連絡があった。
いよいよ、私の写真が広告に使われるので、来て欲しいと。

広告バナーに、BeforeとAfter。
私の顔が映っている。
恥ずかしかったが、こんなもん、知り合いは誰も見ないだろうとも思った。

担当医の先生から、「その後、どうですか?」と問診があった。
周りが思ったよりも、反応が薄いことをそれとなく伝えた。

「そんなもんですよ」
「人って、そこまで、他人に興味がないというか」
「鼻や顎までやると、かなり変わった感じは出ますよ」

鼻から下が気になってきた。
残念な感じというか、釣り合っていないのかな。

医者は私の顔下半分をすっと見た後、こう言った。

「モニターになってくれるのなら、500万円謝礼が出ますよ」

「ご、500万!」

「回復までは半年かかりますが、日常生活に支障がないようでしたら、ぜひ」

転職先は正直、楽しくなかった。
500万あれば、しばらくは遊んで暮らせる。
試用期間で退職することを決めた。


ー それから半年後
病院に訪れて、500万円を受け取った。
前回と同じスーツ屋で、今度は髪型までセットしてもらい、腕時計もプレゼントされた。

この顔に、この装い。
自分で言うのもなんだが、カッコいい。
店を出て、銀座の歩行者天国を歩くことにした。

大人の街、銀座。
自分くらいの背格好の男性に、何度も目がいく。
負けていない、いや、むしろ勝っている。

今度は向こうから、自分と似ている格好の男性が女性を連れて歩いてくるのが見えた。

同じコーディネート?
顔では負けたくない。

彼は彼女と話しながら歩いている。
私には気づいていないようだ。

近づいてきた彼の顔を確認したとき、心臓が止まりそうになった。


私にそっくりだ!


一瞬、自分だと思った。

瞬きを繰り返しながら、通り過ぎていった彼の背中を追った。


もう一度、確認したい。


私は大通りを先回りすることにした。

1本ずれた路地に入り、銀座の視線も気にせず、走った。

息を切らしながら、大通りに戻ると、彼はいた。

気づかれないように、道路脇から観察した。
遠いから、よく見えない。
レーシック手術でもすれば、よかった。

自然を装い、早足で少しずつ近づく。

顔はまだはっきりとは見えないが、やっぱり、似ている。
そして、洋服も靴も腕時計も、私と同じブランドだとわかった。
銀座の男のたしなみ、行き着くところは似るのだな。

もっと、
近くで顔を見たい。

もっと、もっと、
近くで。

もっと、もっと、もっと、
顔を近くで。


私だ。


……違う、ちょっとだけ違う。

口元は彼の方がスマートだった。
私は元来、ほんのちょっとだけ唇が曲がっている。

負けた、と思った。

私は気づかれぬよう、足早にその場を去った。

悔しさを抱えながら、銀座の街を歩いた。
でも、大丈夫。
1年後、1000万もらって、この口元もなおしてもらう。

大通りを過ぎた先のビルには、美容整形の広告看板が光っている。

そこには、口元が歪んでいない男が映っていた。
 
 
 


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