曖昧さはどう成長につながるのか ― 好奇心と知恵を介した構造
論文の紹介
タイトル
The influence of ambiguity tolerance on psychological well-being: The roles of interest-type epistemic curiosity and wisdom
(曖昧さ耐性が心理的ウェルビーイングに与える影響:興味型認識的好奇心と知恵の役割)
著者・雑誌・発行年
Juan Shi, Yantong Liu, Wentao Xu, Yujun Tang
Acta Psychologica, 2025
論文の概要
本論文は、曖昧さ耐性(Ambiguity Tolerance: AT)が心理的ウェルビーイング(PWB)に与える影響と、その背後にある心理的メカニズムを検討した研究です。
特に、
・興味型認識的好奇心(I-type epistemic curiosity)
・知恵(wisdom)
という2つの要因に着目し、それぞれの媒介効果および連鎖的な影響を分析しています。
中国の大学生612名を対象に調査が行われ、複数の心理尺度と媒介分析を用いて検証されています。
主な結果
▶ 曖昧さ耐性とウェルビーイング
AT → PWB:β = 0.17(p < 0.001)
曖昧さに対する耐性が高いほど、心理的ウェルビーイングが高いことが示されました。
▶ 媒介効果
総間接効果:0.13(全体の76.47%)
内訳:
・好奇心のみ:11.76%
・知恵のみ:47.06%
・連鎖(好奇心→知恵):17.65%
ウェルビーイングへの影響の多くが、直接ではなく心理的プロセスを通じて生じていることが明らかになりました。
▶ 各変数間の関係
・AT → 好奇心:β = 0.13
・AT → 知恵:β = 0.10
・好奇心 → 知恵:β = 0.28
・知恵 → PWB:β = 0.82
特に、知恵がウェルビーイングに与える影響が非常に大きい点が特徴的です。

全体像として重要なポイント
・曖昧さ耐性は心理的ウェルビーイングを高める
・その影響は主に好奇心と知恵を通じて発揮される
・知恵が最も強い媒介要因である
・好奇心は直接効果と間接効果の両方を持つ
曖昧さへの適応が、探索行動と内省を経て心理的成熟につながる構造が示されています。
結論
本研究は、曖昧さ耐性が心理的ウェルビーイングを高める重要な要因であり、その効果が好奇心と知恵を介して発現することを示しました。
単なるストレス耐性ではなく、曖昧さを受け入れることが個人の成長や意味づけを促し、より良い心理状態につながることが示唆されています。
面白かった点
本研究の対象は大学生ですが、曖昧さにどう向き合うかが心理的ウェルビーイングに関わるという結果は、臨床や管理の現場にも通じるものがあると感じました。
臨床や管理の現場では、予定通りに進まないことや、正解が一つに定まらない判断が日常的にあります。そのため、曖昧さにどう向き合うかがスタッフの心理状態に影響するという点は、現場感覚として納得できる結果でした。
印象的だったのは、曖昧さ耐性が直接ウェルビーイングを高めるだけでなく、好奇心や知恵を通じて影響しているという点です。
現場でも、変化や不確実性を「負担」としてだけ捉える人と、「学びの機会」として捉えられる人では、同じ状況でも疲弊の仕方が異なるように感じます。
本研究は、その違いを個人の性格だけでなく、問いを持ち、経験を意味づけるプロセスとして説明している点が面白いと感じました。
マネジメントへの示唆
本研究からは、興味型認識的好奇心を引き出す環境設計の重要性が示されます。
興味型認識的好奇心は、「不足を埋めるための情報収集」ではなく、知りたい・理解したいという内発的な探索意欲です。
医療現場では、標準化や効率化が重要である一方で、「なぜだろう」「他に方法はないか」と考える余白も必要です。
具体的には、以下のような設計が考えられます。
・問いを歓迎するカンファレンス
・仮説を言語化するOJT
興味型認識的好奇心を育てることは、知恵の形成を通じてウェルビーイングにもつながる可能性があります。
組織としては、正解を早く出す文化だけでなく、問いを持ち続けられる文化をどう設計するかが重要になると感じました。
