積年の儀式|掌編小説 #シロクマ文芸部
夜に降るものって例えばなんだろうか。
「星が降る」、「雨が降る」、他には?
ワタシにとって夜に降るものは、「涙」。
「涙が降る」という言葉はきっと使わないけど、ワタシにはとても合っている表現だ。
冬に差しかかるこの季節はいつもそうだ。
あの時、曖昧な態度をせず想いのまま返事をしていたら。
きっと違った未来が描けただろうに。
どんなに過去を振り返っても過去は戻ってこない。
ーーそんなこと分かっているよ。分かっているけど先に進めないことってあるよね
自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、涙の数が増していく。
部屋の窓を開けた。
その瞬間、ひんやりとした晩秋の風がワタシの身体に染み込んできた。
今夜は雲ひとつない、煌びやかな夜空。
ワタシの心とは対照的な情景に思わずカーテンを閉めた。
ベッドに倒れ込み、枕に顔を埋める。
しばらくして、じんわりと枕が濡れてきた。
ーーだめだ、だめだだめだだめだ
自分の優柔不断さが招いた過去を思い出しては、その不甲斐なさにいつしか自分を責め出した。
顔を埋めた枕を両手でギュッと握る。
ーー単に過去を振り返って泣いてばかりでは何にも変わらない。もういい加減乗り越えて新たなステージに進もうよ
責めることを止めようと必死に宥めようとするもう一人のワタシ。
このような心の葛藤が永遠に続くかのように、何度も何度もぶり返してくる。
これは毎年この時期に繰り返す、いわば「儀式」のようなもの。
ーー今夜だけ。今夜だけは過去の悲しみを受け入れてひとしきり泣こう。無理しなくていいんだ。そんな自分も受け入れていいんだよ
ベッドから起き上がり、カーテンを開けた。
開けっ放しだった窓からは先ほどと変わらず穏やかな秋風が入ってきて、ワタシの濡れた頬を乾かした。
そして、長年使ってきて傷や汚れが目立ち始めた勉強机に座り、引き出しに閉まってあった文庫サイズのノートと想い人からプレゼントされたボールペンを手に取り、思い浮かんだ短歌を書き留めた。
涙降る 止められないよ どうしても
熱い想いが 私を焦がす
ーーあと何句書いたらこの儀式から解放されるんだろう
ワタシの瞳からは新たな滴が生まれ、そして新たに書き留めた短歌を優しく濡らした。

(900文字)
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この作品は、小牧幸助さん企画【シロクマ文芸部】参加作品です。
今回のお題は、【夜に降る】でした🌃
センチメンタルになる方が多いこの季節ですが、そんな気持ちを否定せずに受け入れることって、とても大切なのではないかなと思う今日この頃です🍁
ここまで読んでいただきありがとうございました🍀
