【ショートショート】家庭内選挙
我が家の食卓での出来事だ。
アメリカ大統領選挙のニュースを観て、五人兄弟の五男が、
「この家では誰が一番偉いのかな?」
とつぶやいた。
すると三男が、
「それは母ちゃんに決まっているだろ!飯作れるし!」
次に次男が、
「それは父ちゃんに決まっているだろ!働いてお金を稼がないと飯作れないし!」
次に四男が、
「いやいや母ちゃんに決まっているだろ!父ちゃんほとんど家にいないし!」
最後に長男が、
「いやいや父ちゃんに決まっているだろ!悪者入ってきたら母ちゃん勝てないし!」
意見が真っ二つになった。
そこで五男が、
「じゃあ、家族で選挙しようよ。父ちゃんと母ちゃんが立候補者ね。選挙で勝った方が一番偉いということにしようよ!」
そして、一週間後を投票日として、家庭内での選挙活動が始まった。
まず、父ちゃんが家族の前で以下のマニフェストを掲げて演説した。
・子どもたちのお小遣いを2倍にする
・週末は子どもたちにたくさん遊ばせ食べたい物をたらふく食べさせる
・家事分担を見直し、子どもたちの負担を軽減する
次に、母ちゃんが以下のマニフェストを掲げて演説した。
・父ちゃんのお小遣いを1/3にして、その分を子どもたちに分け与える
・週末は父ちゃん以外何をしても良いことにする
・家事は全て父ちゃんに担当させる
投票3日前。
お互いがいない間に、有権者に向けたネガキャン(陰口)合戦が始まった。
まず、父ちゃんが母ちゃんに対するネガキャンを行った。
・お前は働きもせず寝てばかり。少しは働け!
・毎日ママ友と高いランチで贅沢三昧。贅沢は止めろ!
・口だけ動かさず身体を動かせ。家事をやれ!
次に、母ちゃんが父ちゃんに対するネガキャンを行った。
・お前の出世が遅いから家計がキツい。どうにかしろ!
・お前の学歴が低すぎるから子どもたちの頭も悪いんだ。お前の遺伝だ!
・お前が不倫しているのは知っているんだよ。白状しろ!
投票日前日。
家庭内が異様な雰囲気となっていた。
父ちゃん、母ちゃんともに全く会話しなくなり、目も合わせない状況となった。
五男が今にも泣きそうな声で、
「どうしよう。なんか父ちゃんと母ちゃんの仲が悪くなっちゃった・・・」
と言うと、三男も不安な表情で、
「こんなことしなければ良かったのかな・・・」
と今にも泣きそうになっていた。
すると、長男が、
「選挙には「白紙投票」ってヤツがある。5人とも白紙投票すればだれも当選しない。この選挙はおあいこということにしよう!」
他の4人は大きく頷いた。
選挙当日。
ずっと不機嫌な顔をしている父ちゃん母ちゃんの前で投票が始まった。
父ちゃん母ちゃんがそれぞれ投票後に、子どもたちが順に投票した。
そしてすぐに投開票をした。
その結果、
「父ちゃん1票、母ちゃん2票、白紙4票・・・」
「えっ!?」
子どもたちは全員顔を見合わせた。
あれ、何で母ちゃんに2票入っているんだ?誰だ、裏切ったヤツは!
ただ、文字を見ても誰が母ちゃんに投票したのか分からなかった・・・。
その後、夫婦仲は最悪の状況になり、とうとう父ちゃんの堪忍袋の緒が切れて母ちゃんの頬を叩いたことから、母ちゃんが実家に帰り一気に離婚話に発展した。
家庭裁判所での調停の末、正式に離婚が成立。
子どもたち5人の親権は母ちゃん・・・と思いきや、母ちゃんは何故か次男だけ引き取り、後の4人は父ちゃんが親権を得ることに。
その後、母ちゃんは次男だけ連れてさっさと家を出て行った。
他の4人の兄弟はただ呆然と見送っただけだった。
母ちゃんに手を引かれながら、次男が話を切り出した。
「ああ、これでやっとお父さんと住めるんだね!!ずっと貧乏暮らしだったからつまんなかったなあ。たくさん遊んで、たくさん美味しいものを食べて、たくさん旅行したいな!」
次男の喜んでいる顔を見て、お母さんも一緒に微笑んだ。
「お母さん、僕はこれからもずーっとお母さんの味方だからね!ずーっと守ってあげるからね!」
一方、母と次男が出て行き、残された父と4人兄弟はその後どうなったのか、知るよしもなかった。
(1,631文字)
今回のショートショートは以下のマガジンに収めています😌
