返礼品|掌編小説 #さぶいぼ選手権
一ヶ月前に引っ越しの手伝いをしてくれた親友の陽菜にそろそろお礼がしたくて部屋に呼ぶことにした。
築五十年以上経過した古くてかび臭いアパートへ引っ越したけど、立地が悪いのも相まって、六つある部屋のうち、ワタシが引っ越してきた二階の東端の角部屋と、一階の西端にある角部屋以外は空室だった。
不動産屋に「とにかく安いアパート」とオーダーしたらここを紹介されて即入居したが、このアパートを見た陽菜が眉間に皺を寄せながら「何だか居心地が悪い……」と、ワタシにも聞こえるようにぼそりと呟いていた。
一階の角部屋の住人はどんな人が住んでいるのか、ベランダのカーテンはいつも締め切ったままで中の様子がまるで分からないけど、深夜に奇声とか何か聞こえてくるわけでもないし、あまり気にしないようにしている。
ここに引っ越してきた理由は、五年付き合って結婚を考え始めていた彼氏の斗真から突然別れを告げられ、これまで半同棲生活を送っていたマンションに住み続けるのが嫌になったからだ。
それともう一つ理由があるんだけど。
今夜は妙に蒸し暑く、エアコンがないこの部屋でじっとしているとじんわりと汗が湧いてくる。
陽菜が来るまでの暇つぶしにスマホをいじっていたその時、
ピンポン
ーーお、来た来た
昭和を思わせる古めかしいチャイムが鳴り、ワタシは覗き穴を確認もせずにガチャリと鍵を開け、ドアノブを回した。
「ヤッホー!!遊びに来たよ~!!」
陽気な声とともに、陽菜がドアからひょっこり顔を出した。
「ここまで来てくれてありがとうね。中に入ってお酒でも飲もうよ」
ワタシは陽菜を部屋に招き入れると、早速冷蔵庫から缶チューハイを何本か出してテーブルに乗せた。
それから昔の大学生時代のことや勤めている会社のことを話していたらあっという間に缶チューハイが切れていた。
「あ、この前の引っ越しのお礼をしたくって。ちょっと待っててね」
「えーーそんなのいいのにーー」
陽菜は言葉では遠慮していたけど、顔は喜んでいるようだ。
ワタシはクローゼットから用意していたプレゼントを入れた箱を抱えてきて、テーブルの上に置いた。
「これ、絶対に喜ぶと思うよ。ヒントは……陽菜の大好きなモノ!!」
「えーーなになにーー」
親友からのプレゼントにワクワクしながら、陽菜が身体を乗り出して箱の上蓋を開いて中身を覗き込んだ。
するとほどなくして、陽菜の顔がみるみるうちに青ざめていき、ついに尻もちをついてしまった。
なるほど、腰を抜かすとはこういったことを言うんだな。
仕方ないなーと思いつつ、陽菜によく見せてあげようと、箱の中に入っていた大型の金魚鉢を持ち上げて、テーブルの上に置いてあげた。
「これ、陽菜が大好きなモノだよね?おうちで飾ってあげてね」
陽菜が痙攣でも起こしたかのように小刻みに震えている。
両目は今にも光を失いそうになっているようで焦点が定まっていない。
「ホルマリンってとても強い匂いがするからさ、どうしようかと思っていたけど、たまたま人気のないアパートが見つかったから、隣人に気兼ねなく作業ができたよ。ここまで結構大変だったんだ。まずはね、このアパートに呼んでからねえ……」
今にも失神しようとしている陽菜に向かって、このプレゼントのいきさつを一つ一つ丁寧に説明する。プレゼントにするまでの過程も漏れなく伝えた。
ワタシから勝ち取ったモノだったのなら、もっと喜んでくれたらいいのに。
ホルマリン漬けした元カレの頭部が入った金魚鉢を優しく撫でながら、目の前の相手に対して分かるようにがっかりした表情を向けた。
自分が主催した企画で書いてみました。
少しでもさぶいぼになっていただけたでしょうか🙄
自分で決めておきながら、普通に1,000文字オーバーしてしまいました…ので、「1,500文字程度まで」に伸ばします(自分都合でスミマセン(笑))。
企画は8/31(月)までですのでまだまだ日数があります。
気軽にご応募ください🎵お待ちしています😌
