小説 リサイクルショップの神様 第6話
都合のいい女、卒業します
一、笑い顔の布袋様と、中野かなえ
中野かなえ、二十九歳。会社員。
「今、大丈夫?」と聞かれたら、大丈夫じゃなくても「大丈夫」と答える。
「今度うちおいでよ」と誘われたら、都合が悪くても「行く」と答える。
好きな人には、なおさらそうだった。彼が「今日は疲れたから会えない」と言えば、「気にしないで、また今度でいいよ」と、いつも笑って引き下がる。
本当は、会いたかった。本当は、たまには彼の方から誘ってほしかった。でも、それを言葉にしたことは、一度もない。
その日も、彼からの「ごめん、今週忙しいから」というメッセージに、「全然オッケー、無理しないでね」と返した後、なんとなく気が晴れず、リサイクルショップに寄った。
棚の隅、丸くてふくよかな布袋様のぬいぐるみが目に入った。古びていて、縫い目でできた顔は、にこにこ笑っているように見える。
「……こんな福々しい顔した置物、久しぶりに見た」
「そりゃそうだ、なんせ福の神だからな」
ぬいぐるみが喋った。
かなえは、まゆみたちと同じように、3秒間フリーズした。
「喋った……」
「おう。俺は布袋の姿をした福の神だ。招き猫やダルマの同業者みたいなもんだな」
「同業者、いるんですね」
「まあな。福の神業界も、なんだかんだ広いんだ」
二、都合のいい女、という役
「あんた、さっきスマホ見て、無理して笑ってただろう」
「……見てたんですか」
「見てたっつうか、ため息の音がでかくてさすがに気になるわ」
かなえは、少し恥ずかしくなった。
「彼氏に、会えないって言われて。全然大丈夫、って返しました」
「本当に大丈夫だったのか」
「……大丈夫じゃなかったです。本当は、会いたかったし、寂しかったです」
「だろうな」
布袋は、縫い目の顔を、少しだけ渋くさせながら言った(表情自体は変わらないはずなのに、なぜか渋く見えた)。
「あんた、都合のいい女、やってるだろう」
かなえは、ぐっと言葉に詰まった。
「そんなつもりじゃ……」
「つもりがなくても、結果的にそうなってるってことは、よくあるんだよ」
「都合のいい女って、どういうことですか」
「自分の本音より、相手の機嫌を優先し続けてる状態のことだ。相手が『会えない』と言えば、寂しくても『大丈夫』。相手が素っ気なくても、『きっと忙しいだけ』。ぜんぶ、相手の都合に合わせて、自分の気持ちを消してる」
かなえは、心当たりがありすぎて、何も言えなかった。
三、なんで、本音を消してしまうんか
「先生、なんで私、本音を言えなくなっちゃうんですか」
布袋は、丸い体を少し揺らしながら言った。
「それには、ちゃんと理由がある」
「教えてください」
「まあ聞け。……と言いたいところだが、その理由と、そこから抜け出す方法は、続きで話すぞ」
「なんだか、有料になる流れですね」
「察しがいいな、あんた」
「先生方、みんなそのパターンなんですか」
「福の神の伝統みたいなもんだ」
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かなえが布袋先生から学んだ「都合のいい女」から抜け出すための考え方と、彼女がその後、少しずつ「本音を言える自分」を取り戻していく後半のストーリーを、続けてお届けします。
こんな内容を書いています。
「本音を言えない人」ほど、なぜ都合のいい女になりやすいのか
相手に嫌われることを恐れる気持ちの、本当の正体
かなえが実践した、たった一つの「小さな本音」を伝える練習
都合のいい女をやめても、ちゃんと愛される理由
読み終わった頃には、「本音を言ったら嫌われる」という思い込みが、少しだけ軽くなっているはずです。
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