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ゲームを使って合意形成を理解「海外の観光地域づくり」第25回 Travel Journal 2022.4.11

百聞は一見に如かず。何かを理解する時は、言葉より体験が効果的なことはよくあります。
観光地域の合意形成の難しさや必要性について、欧州ではゲームを活用した手法が試されています。
他者の立場を理解して合意形成に役立てる取り組みを紹介します。

観光地域のステークホルダーとの合意形成を何から始めればよいかという質問を最近多く受けます。DMO の役割は、観光地域の司令塔として異なる立場のステークホルダーの取りまとめだということが少しずつ浸透してきていると実感します。しかし、質問者がお困りのように、どう取りかかればよいかはわかりにくいかもしれません。

答えの1つはステークホルダーリストを作ることです。なんだ、それぐらい容易だと思われるかもしれません。しかし、観光地域の中でステークホルダーの範囲を考えたことはありますか。また網羅できるでしょうか。北米DMO のステークホルダーリストを作成した事例では、1年以上かけたという話もありました。そのDMO ももっと早くできると思っていたところ、検討を重ねると意外に時間がかかったということです。

つまり、私たちは地域のことをわかったつもりになっていても、案外理解していないのかもしれません。DMO は合意形成だと思って話をしていても、相手は一方的な説得だと受け取っている可能性さえあります。

ボードゲーム形式でわかりやすく


欧州では合意形成のコツをゲーム形式で体験できるシリアスプレイが紹介されています。シリアスプレイ、あるいはシリアスゲームとは、ゲームなどの手法を通して、社会のさまざまな分野における問題対応や解決に役立てることを目指すコンテンツ、ゲームのことです。

私はDMO 団体であるシティ・ディスティネーション・アライアンス(City DNA。掲載当時はヨーロピアン・シティズ・マーケティング)の2019年夏の年次大会のワークショップで体験しました。

このシリアスプレイは、一見するとモノポリーのようなボードゲームに似ています。テーブルに広げられたボードは1つの都市を表します。ゲームのゴールは、ステークホルダーみんなが納得できる合意形成です。

プレイヤーは5つの組織のグループに分かれます。それはDMO、宿泊事業者、交通事業者、観光施設、環境団体です。プレイヤーは1組織に3~ 5人程度が進めやすく、ゲーム全体では15 ~ 20人ほどが参加することになります。

ゲームは各組織が手持ちの施策カードから1枚選び、順番に出して進められます。5つの組織が1枚ずつ出して終わり一巡すると1年がたったと見立てます。 

施策カードは10枚ほど配られ、1枚ごとに組織の特性に沿った施策内容が書かれています。例えば交通事業者は「橋を架ける」、DMO は「誘客のためのマーケティングを行う」などとなっています。
さらに記述も具体的で、「ターゲットの絞り込みを行う」とか、「プロモーションを増やす」など詳しく記載されています。

当然、施策を実行するには費用や対応する人材も必要で、場合によっては環境負荷のリスクもあります。このあたりはカードゲームの要素もあり、投資をして儲けるのか、費用を節約するのか、施策カードと手持ちの現金や人材を見ながら、今年実施する施策を選択していくのです。

都市の設定についてもゲームとはいえ、なかなかリアルです。あらかじめ住民の数、年齢構成、税収、旅行者の数や消費額、住民満足度の設定を壁に映し出しています。1年の施策が出そろうと、施策の効果として壁に映し出された数値も増減していくのです。

また、ボード上の都市の構造もよくできていて、宿泊施設、観光スポットが集中する中心市街地、住宅地、郊外の空港など、実際の都市の地理的状況を示しているようです。旅行者や住民が増えると混雑する地域が増えるため、橋や道路などのインフラが必要になることが一目瞭然です。

都市の地理を表すボードは位置を自由に組み合わせられる。体験する都市に似せた配置にすることでリアリティが高い体験ができる。

合意形成のために他者を理解するという観点から、参加者はなるべく自分の組織とは違った役割を選択することが推奨されます。例えば、DMO 職員はなるべくそれ以外の組織を担当します。これにより、普段とは異なる視点で都市を理解することができるのです。

さて、このシリアスプレイですが、実は普通のゲームのような「上がり」はありません。手持ち資金の量や、ゴールに着いた順番で優劣をつけるものではないのです。では、このゲームはいつ終わるのでしょうか。それはすべての参加者が「合意形成とはこういうことだ」と気が付いた時です。

契機はオーバーツーリズム

このシリアスプレイは、オーストリアのモジュール大学とオランダのブレダ大学が、欧州連合(EU)等の資金援助により、共同で開発しました。欧州ではオーバーツーリズムが大きな問題になりました。観光業界は旅行者誘致は良いことだと考えてマーケティングを増やしました。結果として多くの旅行者が街を訪れた一方、住民の生活が犠牲になりました。

旅行者の増加は、混雑や騒音を発生させるだけではなく、廃棄物や水道などの都市インフラも強化させなければなりません。宿泊施設などの需要が高まると、土地価格が上昇して家賃も高くなります。暮らしに影響が出てくると、土地に愛着があって長く住んでいる住民も都市を離れなければならないかもしれません。そうなったら、住民によって受け継がれてきた祭りや風習は途絶えてしまいます。都市の個性を失い、観光の魅力もなくなります。

こういった影響は理屈ではわかります。しかし、実際の施策の意思決定において適切な判断ができるかとなると話は別です。これがゲームが開発された背景です。開発者が実際にいくつかの都市で試したところ、早い場合には30分ほどで終わったことも、何時間もかかった場合もあったそうです。この違いはどこからくるのでしょうか。

実はゲームの仕掛けの種明かしですが、自分の施策カードを出す前に、他のステークホルダーと話し合いをすることが鍵になります。事前に他の組織の考えがわかれば、自分たちだけで考えていた時とは別の施策の選択肢が見えてきます。そしてその方が観光地域全体にとってメリットが大きいことが多いのです。

ゲームを30分で終えた都市は、普段から合意形成をよくしていたそうです。ゲーム開始後すぐに仕掛けに気づき、全員が車座になって、ゲームではなく、実際の自らの都市のあり方について話し合いを始めたということでした。

私自身も合意形成の大切さをわかっているつもりでしたが、施策カードだけ見ているとつい自分の組織が有利になる、独善的な選択をしてしまいました。たとえゲームでも他者の立場を考えるのは難しいと実感できた体験でした。

(内容は、Travel Journalに掲載当時のものです。)

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