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【円は、閉じて始まる】京都・三月二日、大将軍八神社へ

三月の京都遠征は、最初から整っていたわけではない。

当初、休みは三月三日(火)のみ。

その一日を取るために、
二月二十一日(土)と三月一日(日)に出勤し、
締め承認業務を引き受けた。

周囲には、
「代替で仕方なく平日休みを取った」
そう見える形にしておくつもりだった。

表向きは、淡々と。

だが流れは、静かに動いていた。

取りに行ったわけではない。

空いた。

呼ばれる日は、
理屈よりも先に整う。

残業時間抑止施策として、
“平日に一日休む”方針が決まる。

三月二日はすでに予定が入っていたため、
十七日に休みを取ることにした。

十七日は、雷山観音の護摩焚きの日。

ご縁をいただいた、と喜んだ。

だが十七日は、他にも希望者がいた。

変更できないか、と依頼が入る。

流れは、そこで動いた。

三月二日の予定が組み替えられ、
結果、三月二日(月)も休みになった。

増えたのではない。

巡った。

取りに行ったわけではない。

空いた。

当初の計画では、
三月三日始発で京都へ向かうつもりだった。

だがそれでは、
圓徳院の三面大黒天御本尊ご開帳に並ぶ列の後方になる。

それなら前泊か。

博多発二十一時過ぎの新幹線に乗れば、
前夜に京都へ入れる。

流れは、前倒しへ傾く。

目的地は、圓徳院と大将軍八神社。

だがそこに、
タケさん。
アオタさん。
そしてフキコさんも加わる。

四人。

島原・猪原金物店で聞いた青龍の話。

八坂神社に奉納された青龍の絵。

ならば四人で八坂へも参拝しよう、となる。

すると、大将軍八神社での御祈祷は時間的に難しくなる。

また別の機会に。

そう思った、そのとき。

そのとき、あらためて気づく。

三月二日は、空いていた。

思い出す。

昨年、二〇二五年三月二日。

大将軍八神社で御祈祷を受けている。

同じ日。

円は、閉じた。

前泊は不要になった。

三月二日始発で向かえばいい。

五時三十六分、香椎。

六時、博多発。

理屈で整えた計画ではない。

組み替えられた流れ。

押し進めたのではなく、
呼応した。

呼ばれる日は、
理屈よりも静かに整う。

だから、三月二日。

始発。

京都へ向かった。

三月二日。

始発。

五時三十六分、香椎。

まだ空は群青のまま。

六時、博多発。

人もまばらなホームに立ちながら思う。

無理に押し通した休みではない。

空いた日。

整えられた日。

呼ばれる日は、騒がない。

新幹線は東へ走る。

窓の外に朝が広がる。

去年と同じ日。

同じ日付。

だが、同じ自分ではない。

京都。

新幹線を降り、在来線へ。

円町。

予定より一本早い電車。

九時十分、到着。

呼ばれるときは、
時間さえ前に出る。

九時三十分。

大将軍八神社の鳥居の前に立つ。

事前に電話で、十時前の御祈祷を予約していた。

余白がある。

焦らない。

整う者は、急がない。

石の鳥居をくぐる。

八方除。

方位を司り、星を鎮める神。

昨年と同じ三月二日。

受付で告げる。

「昨年もこの日に、御祈祷を受けました」

「福岡から来ました」

「直導くんのこともあって」

偶然ではない。

自分に言い聞かせるのではなく、
確信する。

宮司は福岡出身だった。

ここでも結ばれる。

土地は違えど、水は繋がる。

拝殿。

独特の祝詞。

低く、太く、芯を射抜く声。

響きは外へではなく、内へ落ちる。

八方を鎮める祈り。

方位とは、外の方角ではない。

迷いの向きを正すこと。

それが八方開運。

玉串を捧げる。

一礼。

昨年から今日までの一年。

変化は派手ではない。

だが、確かに積み重ねた。

外へ出る。

空は澄んでいる。

去年と同じ日。

だが、立っている位置は一段違う。

鈴虫寺へ向かう。

昨年と同じ流れ。

円町駅前からバス。

巡りとは、新しい場所を増やすことではない。

同じ場所を、違う自分で歩くこと。

門をくぐる。

鈴虫の声。

細く、澄んだ調べ。

重なり合う音色。

賑やかではない。

だが、満ちている。

鈴虫の声を背景に、説法。

欲張らず。

具体的に。

そして自分の足で動く。

鈴虫はただ鳴く。

命のままに。

格とは、大きさではない。

澄み方だ。

去年と同じ場所。

だが、内側は確かに違う。

円は、上に重なっている。

月読神社。

光ではなく、月。

照らすのではなく、映す。

去年は「求める」。

今年は「整える」。

鈴を鳴らす。

問いが降りる。

静かに在れるか。

内を澄ませているか。

格とは、目立つことではない。

静かに整っていること。

月のように。

松尾大社。

水の神。

そして亀。

目黒さんは言っていた。

「俺は亀ちゃんのファンなんだよ。」

本気だった。

対話形式の共著。

その一冊に、
目黒さんのサイン。

そして別の日に、亀谷さんのサイン。

時間をまたいで重なった筆跡。

縁は、消えない。

私も亀谷さんのファンです。

いつもよくしていただいている。

会えば言葉を交わす仲になれた。

それは目黒さんのおかげだ。

昨年、この亀の井の前で、

石川さん昇格の一報を受けた。

あれから一年。

また同じ日に立っている。

亀は急がない。

だが止まらない。

一年。

目立たなくても、積み重ねた。

縁も。

仕事も。

覚悟も。

亀の背が語る。

焦るな。

積み重ねろ。

巡りは偶然ではない。

積み重ねの結果だ。

三月二日。

無理はしない。

巡るときほど、引き際を知る。

ホテルにチェックイン。

ロビー奥でコーヒー。

「探しましたよ、ホテルを。」

フキコさん。

一瞬、嬉しくなる。

だが気づく。

私を探したのではない。

ホテルを、探していたのだ。

笑う。

巡りは、自分中心ではない。

流れの中にいるだけ。

それでいい。

大将軍で方位を正し、
鈴虫で澄ませ、
月で映し、
亀で積みを思う。

円は閉じた。

閉じた円は、そこで終わらない。

次の円を描くために、いったん収まる。

夜は静かだ。

明日は、三月三日。

問われる。

――三月三日へ。

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