中田敦彦さん(あっちゃん)のシンガポールからの帰国について。同じ移住者が推察する本当の理由。
まず大前提として、私自身がシンガポールに来た理由の中に、少なからず中田さん(親しみを込めて、以後あっちゃん)の影響もゼロではありませんでした。こちらに来れば、いずれ会えるかもと思っていたこともあり、シンプルに彼が帰国されたことに対しては寂しさを感じています。
ただ同時に、シンガポールに移住した一人の先輩として、あっちゃんの考え方や細かい心境の変化にはずっと興味を持ってきた側の人間でもあります。世間で彼を批判している方々とは少し違った目線から今回の決断を捉えているため、同じ移住者の当事者として思うところをまとめてみました。
ネットに渦巻く批判や推察はたぶん的外れだと思う
あっちゃんの帰国が報じられて以降、ネット上ではさまざまな噂や批判が飛び交っています。しかし、実際にシンガポールで生活し、ビザや税務の手続きを行っている当事者の目線から見ると、それらの多くには違和感を覚えます。
1. 「出国税の5年猶予が切れたから」説はたぶん違う
「国外転出時課税(出国税)の猶予期間である5年が経過したから、納税を避けるために帰国した」という説があります。
有価証券が1億円以上ある人は、例えそれが含み益の状態であろうと、一度利益確定させたと仮定して納税してから出国しないといけないルールが、いわゆる出国税です。
この制度は適切な手続きを行えば、5年間納税の猶予を作り出すことができ、その間に帰国すれば課税させないでよいというルールになります。
しかし実務上、適切な手続き(届出や担保の提供)を行えば、この納税猶予期間は最長10年まで容易に延長可能です。延長すればいいだけの話の中、5年という期間制限だけを理由に帰国を余儀なくされるということは、構造的にまずあり得ないと思います。
ですし、おそらくあっちゃんはシンガポールで資産運用をしていたはずです。シンガポールにいればその利益については完全無税ですが、帰国するということは、その資産も帰国後は課税対象になるので、税金だけを考えて帰国するということは合理的な彼からしたらあまりメリットがないと思います。
2. 「子どもに兵役の義務が発生するから」説もたぶん違う
「滞在し続けると子どもに兵役(National Service)の義務が生じるため、逃げるように帰国した」という噂もあります。
ですが、シンガポールで兵役義務が生じるのは、永住権(PR)を取得している場合、あるいは市民権を持つ場合のみです。PRを取得せずとも、EP(就労ビザ)やDP(帯同ビザ)などを更新・維持しながら長期滞在を続ける選択肢はいくらでも存在します。youtube収入がしっかりある彼が、ビザ更新をあきらめ、PR取得しか道がなかった可能性はほとんと考えられません。
兵役問題も今回の帰国とは無関係だと思います。
3. 「YouTubeの再生数が落ちて節税メリットが消えたから」説もたぶん違う
「YouTubeの更新頻度や再生数が落ち、収益が下がったことで節税目的の滞在意味が薄れた」という意見もあります。
しかし、YouTube大学の再生数の波があったとしても、オンラインサロンやその他事業、これまでの蓄積を含めれば、彼の収入規模は一般の想像をはるかに超えているはずです。おそらく就労収入だけでなく、配当などの資産収入も十分あるはずです。
「目先の再生数が落ちたから節税のメリットがなくなった」という程度の理由で、家族を巻き込んで拠点を動かすとは考えにくいでしょう。
税金的な目線でいうなら、日本に帰国する方が就労収入も資産収入も
どう考えても重たくなるので、税メリットの薄さからの帰国もあまり当てはまってないと思います。
「日本を批判していたのに戻るのか」という違和感
もう一つ、ネット上で散見されるのが「あれだけ日本批判をしておいて結局戻るのか」「日本を捨てたのではなかったのか」という批判です。
私自身、彼のYouTube動画をよく見ていましたが、一貫して感じていたのは「本気で日本の歴史や政治、経済に向き合い、憂いている姿」でした。本当に日本に興味がない人であれば、あそこまで熱量を持って日本のことを語り続けることはできません。
彼は日本を嫌って逃げたのではなく、本気で日本を良くしたい、変えたいという思いから、外からみて気づいた日本の問題点と改善案を発信していたはずです。その根底には強い「日本愛」があり、だからこそライフステージの変化に伴って日本に拠点を戻すこと自体、何も矛盾はないと感じます。
移住経験者が考える「帰国の2つの本質的理由」
では、なぜ彼はこのタイミングで日本帰国を選んだのか。実際に海外で暮らし、家族を持つ立場として考察すると、本質的な理由は以下の2点に行き着くのではないかと推察しています。
理由①:子どもの教育方針(最も合理的で自然な選択)
移住ファミリーの間で最も重要視されるのが「教育のフェーズ」です。
小さいうちに海外のインターナショナルスクールに通わせ、グローバルな感覚や英語力を身につけさせた上で、中学生前後のタイミングで日本に戻すという選択は、海外移住者の間で非常によくある、極めて合理的かつメジャーな戦略です。
子どもの日本語のアイデンティティ形成や、将来的な日本でのキャリア・人間関係のベース構築を考えた際、「中学・高校からは日本の教育環境に戻す」というのは、親としてごく自然で戦略的な判断だと言えます。
というか、普通に考えてシンガポールに残るか、他の国に行くか、日本に帰るか、というテーマで家族会議するとしたら、おそらく子供の教育方針が家族としては最重要だったと思います。
理由②:シンプルに「次のフェーズへ移る(飽きた)」直感
これまでの彼のキャリアを振り返っても、吉本興業からの独立、YouTube大学の開設、そしてシンガポール移住と、常に自分の直感に従って大胆に舵を切ってきました。
5年前に「海外移住という挑戦が面白そうだからやる」と決めて渡航し、この5年間で海外生活の魅力を十分にやり切った。最初から「一生シンガポールに骨を埋める」つもりで渡航したわけではなく、次の興味や関心が別の場所に移ったから直感に従って動いただけ、という非常に彼らしいシンプルな理由なのではないでしょうか。
特に、おそらくですが彼がシンガポールに興味を持ったのは、リークアンユーから始まるその歴史と、途上国から先進国に押し上げた教育への圧倒的な国としての優先順位だったのではないかなと思っています。
ニュースになっていた、「大体わかったから」、というのはおそらくシンガポールの歴史や教育が大体わかったので、という意味かなと。
国が狭いから飽きる、とかはおそらく最初からわかってたはずです。
その大体分かったうえで次の興味がわく分野、もしくは自分の直観が向く方向へ舵を切られただけで、周りが考える税金や兵役などは正直二の次三の次で本質ではないと思います。
彼の直観がシンガポールから変わったタイミングと子供の教育方針のタイミングがどちらが先だったかはわかりませんが、重なった今が帰国のタイミングだったのではないでしょうか。
おわりに:拠点を変えることは「失敗」ではない
外から見ていると「節税が終わった」「落ち目になって戻ってきた」とネガティブな解釈をされがちですが、実際に海外に住んでみると、ライフステージや家族の優先順位に合わせて拠点を柔軟に最適化していくことは、ごく当たり前の日常的な選択肢だと思います。
その選択肢は、間違いなくシンガポールでの5年間の経験値があったからこそできた決断だったのではないかと思います。
一人の移住者、そして彼に少なからず影響を受けた人間として、シンガポールからいなくなる寂しさは間違いなくありますが、自分の直感と合理的な思考で人生のフェーズを軽やかに変えていくそのスタイルは、やはり当事者の目から見ても非常に彼らしく、格好良い決断だったと感じています。
あっちゃん先輩の次の決断や行動に、また注目していこうと思います(^^)/
