【肩関節×推論】肩が上がらない本当の理由とは?〜痛みだけじゃなく後方組織・前方組織・肩甲骨アライメントから考える臨床推論 〜
肩関節周囲炎や拘縮肩の患者さんは多いと思います。
リハビリ中は
「後方が硬いですね」
「外旋が出ませんね」
「肩甲骨が動いていませんね」
といった評価を多くのセラピストが行うことが多いのではないでしょうか。
しかし実際の臨床では、
なぜ後方が硬くなるのか?
なぜ外旋制限があると屈曲が上がらないのか?
なぜ肩甲骨を先に整えないといけないのか?
なぜ前鋸筋から入る必要があるのか?
といったことを考える必要がありますよね。
本記事では、英語論文と肩関節周囲炎の方を例にしながら構造・運動学・神経制御を統合した臨床推論の組み立て方を整理していきます。
《参考にした論文はこちら!》
Ludewig, P. M., & Reynolds, J. F. (2009).
The association of scapular kinematics and glenohumeral joint pathologies.
Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 39(2), 90–104.
日本語訳タイトル
「肩甲骨運動学と肩甲上腕関節病態との関連」
なぜ肩の後方組織は硬くなりやすいのか?
私が担当した方はデスクワークの方で席から立つ事は少なく、気づいたら3時間は同じ姿勢でいる事もあると話していました。
そしてある時から肩が痛くなり、徐々に固まってきた感じがするとの事でした。
多くの場合、長時間の座位姿勢では、
胸郭は後弯
肩甲骨は外転・前傾・内旋
上腕骨は内旋・前方化
というアライメントになりやすくなります。
この姿勢では本来、肩甲骨を支えるはずの
前鋸筋
下部僧帽筋
の活動が低下し、肩甲骨は「宙ぶらりん」の不安定な状態になります。
すると身体は安定性を確保するために、
肩関節そのものを固めようとする戦略を取ります。
その結果、安定化役として過剰に働くのが
棘下筋
小円筋
三角筋後部
後方関節包
後方筋膜
といった肩後方組織です。
つまり後方組織の硬さは、
▶︎使いすぎによる防御性収縮
▶︎肩甲骨不安定性の代償戦略
として生じているケースが非常に多いといわれています。
肩屈曲で何が起きているのか?
患者さんに肩を屈曲してもらうと痛みが出ないようゆっくりと上げていくようでした。
また、途中で肩痛みと詰まるような止まる感じがするとの事でした。
ここで肩の屈曲について考えます。
肩関節の屈曲は単純に腕を上げているように見えますが、実際には以下の複合運動が起こっています。
上腕骨の屈曲+外旋
骨頭の後下方滑り
前方関節包の上後方への伸張
肩甲骨の上方回旋・後傾・外旋
特に90°以降では、
上腕骨の可動域は終了に近づく
肩甲骨運動が主役に代わっていく
になります。
このとき前方関節包は上後方へ伸張されながら、骨頭が前方へ飛び出さないよう制動する役割を担っています。
ここで、肩甲骨から上腕骨頭の前方に位置する肩甲下筋と前方関節包の関係をみると、前方関節包は解剖学的に
上・中・下関節上腕靭帯
烏口上腕靭帯
から構成され、その外側を肩甲下筋腱が被覆しています。
つまり前方関節包と肩甲下筋は
機能的に一体のユニットとして働いています。
屈曲時には本来、
肩甲下筋は遠心性に制動
前方関節包は上後方へ伸張
骨頭は後方へ滑走
という協調が起こります。
しかし肩甲下筋が短縮・過緊張していると、
外旋制限が生じ
骨頭後方滑りが阻害され
前方関節包の伸張が妨げられ
結果として90〜120°付近で詰まり感や屈曲制限が出現します。
つまり、
▶︎肩甲下筋短縮 = 前方関節包伸張阻害 = 屈曲制限
という連鎖が成立します。
なぜ前方組織も「ブレーキ」になるのか?
患者さんに屈曲してもらいましたが、さらに確認すると、詰まる感じというのは前にも後ろにも全体的にあるように感じるとの事でした。
後ろ側だけではなく前側にもあるようです。
先に述べたように屈曲時の制動は後方組織だけではありません。
前方組織である
肩甲下筋
上腕二頭筋長頭
前方関節包
もまた、骨頭の過剰な後方滑りや回旋を制動しています。
関節運動における「ブレーキ」とは
単に運動方向に逆らうことではなく、
「正しい関節運動をガイドする制動機構」
を意味します。
前方組織は屈曲時に伸張されながら、
骨頭の位置をコントロールしているのです。
治療戦略の立て方
肩関節周囲炎で詰まり感があったり、止まる感じ、突っ張る感じがするという方対しては、以下の流れが合理的です。
① 後方組織リリース
(棘下筋・小円筋・三角筋後部・後方関節包・後方筋膜)
→ 防御性安定化戦略を解除
→ 肩甲骨が動ける土台を作る
② 烏口突起周囲の前方組織リリース
(小胸筋・烏口腕筋・上腕二頭筋短頭)
→ 前傾アライメントを解除
→ 肩甲骨後傾を可能にする
③ 肩甲骨アライメント修正
(後傾・外旋・内転方向へ)
→ 肩関節中心化の前提条件を作る
④ 肩甲骨安定化
(前鋸筋・下部僧帽筋)
→ 本来の支持機構を再教育
→ 後方組織の過剰活動を減らす
⑤ ローテーターカフによる中心化
→ 関節制御の最終段階
この順番は、
▶︎後方組織が硬いままでは肩甲骨は内旋してしまい外旋できない
▶︎肩甲骨が不安定なままではローテーターカフは機能しない
という状態になる事を考えると合理的ではないかと考えられます。
肩甲骨の安定化には前鋸筋からアプローチすべきか?
前鋸筋は肩甲骨の
後傾
外旋
上方回旋
を同時に制御できる唯一の筋です。
また、前鋸筋は
肩甲胸郭関節の安定化
上肢運動の土台形成
を担う中枢的存在です。
前鋸筋が働かない状態でローテーターカフを鍛えても、不安定な土台の上に精密機械を置くようなものです。
そのため臨床では、
▶︎ 後方リリース後
▶︎ 胸郭モビライゼーションで可動性を確保
▶︎ 前鋸筋活性化(前方リーチなど)
という流れが有効ではないかと考えられます。
まとめ
いかがでしたか?
実際に先程まとめた流れで治療を行ったところ、詰まり感と疼痛が減り、可動域が20°以上変化しました。
アプローチすべき場所や治療順序が合っていたのではないかと考えられます。
肩関節周囲炎で肩関節に硬さを感じるようになるのは
姿勢による運動戦略の変化
肩甲骨不安定性への代償固定
関節包と筋の機能的連結
骨頭運動の制御破綻
といったこれらが複合的に絡み合って起きる可能性が考えられます。
だからこそ治療も
「とりあえず後ろを緩める」
「とりあえずインナーマッスル」
では不十分になってしまう可能性があります。
構造と運動学を理解し、なぜその順番で治療するのかを説明できることが臨床推論の本質になるのではないでしょうか。
以下に参考論文の内容をこのnote内容に合わせてまとめました。
+α 肩甲骨運動学と肩関節病態の関連について
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