AIペットに「生命の匂い」を
赤ちゃんの首筋には、なんとも言えない香りがある。
香水のように強くない。
石けんの匂いとも、ミルクの匂いとも少し違う。
抱き上げて、顔を近づけた人だけが気づく、温かくて、柔らかい香りだ。
あの香りは何の成分なのだろう。
調べてみると、赤ちゃん特有の匂いは、皮脂や汗、脂肪酸、アルデヒド、ミルクや唾液など、いくつもの成分がごく薄く混ざって生まれるらしい。
特定の一成分が「かわいい匂い」を作っているわけではない。
ごく弱い匂いが複雑に混ざり、結果として私たちは、そこに「守りたい」「抱きしめたい」という感覚を覚える。
そこで、ふと思った。
最近、AIペットが増えている。
目が動く。
声を出す。
触ると反応する。
飼い主を覚え、性格まで少しずつ変わっていく。
ずいぶん生き物に近づいた。
しかし、まだ匂いがない。
AIペットを抱き上げたとき、首元から赤ちゃんの首筋のような、ごく淡い香りがしたらどうだろう。
香水のように部屋中へ広がる匂いではない。
抱き寄せて、顔を近づけた人だけが気づく程度の、かすかな香り。
ミルクそのものでも、石けんそのものでもない。
温かい皮膚や柔らかな毛布を思わせる、人工的な「生命の匂い」だ。
視覚、聴覚、触覚に、嗅覚が加わる。
それだけでAIペットは、単なる動く機械から、もう少し「この子」と呼びたくなる存在に近づくのではないか。
もちろん、匂いには好みがある。
強すぎれば不快になるし、アレルギーや安全性への配慮も必要だ。
本体へ直接吹きかけるのではなく、首輪や交換式の小さな香りタグにすればよいのかもしれない。
無香料を基本にして、希望する人だけが選べるようにする。
私は、このアイデアを独占したいわけでも、特許を取って金儲けをしたいわけでもない。
ただ、どこかのメーカーが作ってくれたら面白いな、と思っただけだ。
AIペットの進化というと、私たちはつい、もっと賢く話すことや、もっと正確に人間を理解することを考える。
しかし、人が生き物に愛着を持つ理由は、知能だけではない。
抱いたときの重さ。
毛の柔らかさ。
体温。
わずかな鳴き声。
そして、名前のつけられない匂い。
AIペットの次の進化は、さらに賢くなることではなく、
抱いた瞬間に、生き物だと錯覚させること
なのかもしれない。
目と声と手触りは、もうある。
最後に残っているのは、「生命の匂い」ではないだろうか。

