法務局のWordがなくなった日、AIが私の事務員になった
法務局のホームページから役員変更登記の書式をダウンロードしようとした。
ところが、目的の書式はPDFしか見当たらなかった。
以前なら、PDFを横に置き、一つひとつWordで打ち直していた。士業なら誰もが経験したことのある作業だろう。
そこで私は、ある実験をしてみた。
会社の登記事項証明書と、新任役員の住民票をAIに渡し、
「役員変更登記の書類一式をWordで作ってください。」
と依頼したのである。
数分後、返ってきたのは想像以上だった。
登記申請書だけではない。
株主総会議事録、辞任届、就任承諾書、株主リスト、委任状まで、一式がWordで完成していた。
もちろん、そのまま提出したわけではない。
私は司法書士ではないため、代理人の委任状を作成し直した。また、日本の戸籍や登記では避けて通れない「高」と「髙」の違いなども自分で確認し、細かな修正を加えた。
しかし、その作業は数分で終わった。
以前なら一時間近くかかっていた仕事である。
AIは専門家を置き換えたのか
答えは「違う」。
AIは書類を作成した。
私は、その内容を確認した。
責任を負うのは、あくまでも人間である。
ここを勘違いしてはいけない。
税理士や司法書士の本当の価値は、Wordを入力することではない。
この登記が本当に適切なのか。
添付書類は十分か。
別の方法が依頼者にとって有利ではないのか。
その判断こそが専門家の仕事なのである。
「作る仕事」から「確認する仕事」へ
今回の経験で強く感じた。
これからの士業は、仕事がなくなるのではない。
仕事の重心が変わる。
これまでは、
「一から書類を作る。」
ことに時間を使っていた。
これからは、
「AIが作ったものを確認し、責任を持って提出する。」
ことに時間を使う。
たとえば、
「高」と「髙」。
住所の表記。
定款との整合性。
代表権の有無。
こうした最後の数%を確認することが、専門家の価値になっていく。
一番驚いたこと
私が驚いたのは、AIの性能そのものではない。
仕事の流れが変わったことである。
法務局にWord様式がなくても困らない。
必要なのは、
登記事項証明書。
住民票。
そして、
「この内容で作成してください。」
という一文だけだった。
数分後には、編集可能なWordファイルが完成している。
ほんの数年前には考えられなかった世界である。
AIは最高の事務員になる
私は以前から、「AIは専門家を置き換えるのではなく、優秀な事務員になる」と考えてきた。
今回、それが実務で証明された。
AIは疲れない。
文句も言わない。
しかも、数分でたたき台を作る。
人間は、その内容を確認し、責任を持つ。
私は、この役割分担がこれからの士業の標準になると考えている。
そして今回、一番印象に残ったのは、AIが優秀だったことではない。
「法務局のWordが見つからないからAIに頼んでみよう。」
そう自然に発想した自分自身だった。
気づけば、AIは検索エンジンの代わりではなく、仕事を一緒に進める相棒になっていたのである。
