皆がたどり着く場所に、先に目印を立てた――花田モデルとTKCのAI構想
私は、AIを使って税理士事務所の顧客を大量に増やしたいわけではない。
むしろ、顧客数は今の規模で十分である。私がやりたいのは、AI時代に人間の専門家は何をするのか、その思想をネット上にばら撒くことだ。
そのために、私は「花田モデル」という考え方を公開してきた。
花田モデルは、税理士業務を三つの層に分ける。
第一層は、AI会計や自動化である。
領収書や請求書を読み込み、仕訳を作り、数字を整理する。
第二層は、かつて事務所にいた「番頭」の役割である。
顧客の話を聞き、事情を整理し、足りない資料を確認し、問題点を税理士に渡す。私は、この失われつつある中間層を、AIアバターやAIエージェントで再構築できると考えた。
第三層は、税理士本人である。
最終的に判断し、説明し、署名し、責任を負う。
つまり、AIに税理士を置き換えさせるのではない。
AIに大量の情報を整理させ、人間が判断できる状態をつくらせる。判断と責任は、最後まで人間に残す。
私はこの構造を、2025年に「花田モデル」として公開した。AIあきなというアバターを実際に動かし、ホームページやNoteにも記録を残した。
そして2026年、TKCがAIをどのように税理士業務へ組み込むのかを発表した。
企業側ではAIが会計情報を整理し、会計事務所側ではAIが資料や論点を抽出する。最終的な専門判断は税理士が行う。人間を判断の輪の中に残す、いわゆるHuman in the Loopの考え方である。
細部や製品構成は違う。しかし、基本構造は花田モデルと非常によく似ていた。
私は、TKCが私の考えを真似したと言いたいわけではない。おそらく参照もしていないだろう。
重要なのは、別々の場所から考えても、結局は同じ場所にたどり着くということである。
AIにすべてを任せれば、責任の所在が消える。
人間がすべてを確認していては、AIを導入する意味がない。
そう考えれば、
AIが整理し、人間が判断する
という構造に帰結するのは、ある意味で当然である。
では、誰でも到達する結論なら、先に考えたことに価値はないのか。
私は、そうは思わない。
先行者の価値は、誰にも思いつけない奇抜な発明だけにあるのではない。
多くの人が数年後に到着する場所へ先に行き、そこに言葉を与え、名前を付け、日付の残る形で目印を立てることにも価値がある。
「世界で最初に考えた」と証明することは難しい。世界のどこかで、同じことを考えていた人はいるかもしれない。
しかし私は、少なくとも「花田モデル」という名称で、AI会計、AI番頭、税理士判断という三層構造を公開した。TKCが近い構造を発表する前に、実験し、文章にし、世界中から読める場所に置いた。
それは後から消せない記録である。
私はTKCと製品開発で競争するつもりはない。資金力も組織力も比較にならない。
だが、一人の現場の税理士が、大組織より先に構造を言語化することはできる。
そして大組織が後から同じ方向へ進んだとき、その個人の発想が単なる思いつきではなかったことが証明される。
花田モデルの価値は、私だけが正しかったことではない。
業界がいずれ到着する場所を、少し早く見つけていたことにある。
私はこれからも、完成品を売るためではなく、AI時代の専門家がどうあるべきかという思想を公開していく。
誰かが読むかもしれない。
誰にも読まれないかもしれない。
それでも、日付の付いた記録は残る。
皆が到着する前に、そこに目印を立てておく。
今の私にとって、それがネット上で発信を続ける意味なのである。
