会社でほぼ毎日50人分のおやつを配っていたことがある
会社には、毎日おやつの時間があった。
かといって、午後3時にみんなで一斉におやつを食べ始めるわけではない。
午後3時におやつを配るのだ。
おやつルール
出張でもらうお土産や取引先からもらう手土産はいつもかなりの量で、ほぼ毎日配らないといけないほど。
ここにプライベートの旅行で買ったお土産も加わると、学生のときによくやったお菓子パーティーさながらの勢いになる。
新卒だった私は、「オフィスの真ん中にあるデスクに並べておいて、ビュッフェ形式で自由に取っていった方が良くないか?」と思っていた。
なんせオフィスには50人前後くらいの社員がいて、配るお菓子が毎日スタンバっているとすると、配るだけで1時間近くかかってしまうのである。
加えて日本のお土産はレベルが高い。
箱を開けるとパッケージの見た目から味、種類まで幅広くラインナップが揃っている。
どれから食べようか、普段ならその迷いもワクワクするだろう。
しかしここは会社。
他の業務が待機しているなか、50人分を素早くさばくスピード勝負の世界なのに、ラインナップが揃っていると時間をかけて選びたがる社員もいる。
日本のお菓子業界のレベルの高さが、おやつの時間がある会社では仇になってしまっているような気がした。
「おやつの時間に配ってほしい」
さすがに配るのに時間がかかりそうと判断したお菓子は、時間を見つけて午前にさばいたり、お昼休憩が終わってからすぐ配り始めたり、わりと自己判断で臨機応変にやっていた。
その日の配布必須お菓子は、個包装ではない缶に入った大量のクッキー。
「これは時間がかかりそうだ・・・。あとで会議もあるから今配っちゃおう。」
と、多種多様のクッキーを配る(一応クッキーの種類は選択制)。
「今日もお菓子配り時間かかっちゃったなあ。」と小休憩を挟もうとしたところ、先輩社員からひとこと。
「おやつの時間に配ってほしい。」
一瞬戸惑うも、「この会社は思っている以上におやつの時間を大切にしているんだな」と、その想いを飲み込む。
飲み込まざるを得なかった。
50人分のショートケーキ
お土産は個包装のお菓子だけだと思ったら大間違いだ。
「今日もお菓子さばかないといけなさそうだな」と思いつつ、おやつの時間をめがけていつも通り仕事をこなしていた。
午後になって目に飛び込んだのは、何箱も山積みになったケーキの箱。
そう。綺麗に50人分用意されたショートケーキだ。
ホールではなく、すでに1人分にカットされた状態だった。
ありがたい。
どうやら会社のOBの人がお土産に持ってきてくれたようだ。
「これはどうやってここまで運んできたんだ?」と思いつつも、配るしかない。
配らないと今日1日は終わらないのだ。
さて、どうやって配ろうか。
給湯室の棚を開けると、大量の紙皿とプラスチックのフォークがある。
おやつのための道具が見事に揃っていた。
まずケーキを紙皿に乗せ、フォークを添える。
これで1人分が完成。
所要時間1人につき30秒ほど。
この作業を50回ほどこなし、オフィスにいる50人の社員のデスクにケーキが出揃う。
おそらく二度と見られない光景だろう。
その日、人生で1番シュールな光景を見た。
ここで催事が始まるのか?という盛り上がりを見せるのかと思いきや、みんな黙々とケーキを食べながら業務を進める。
思っていたより反応はなかったが、ある意味いつも通りの「おやつの時間」だった。
私から1つ提案があります
もう仕事のメインがお菓子配りになりそうだったある日、社会人2年目で余裕が出てきたのもあり、
「お菓子は机に置いておいて、勝手に取っていく形にしたらどうですか?」と先輩社員に提案してみた。
すぐに却下された。
理由は、「人の分も食べちゃう人がいるから」だった。
私としては、「お菓子はいっぱいあるし、ちょっとくらい多く食べすぎても良いのでは?」と思っていた。
何よりも、社会人がおやつを食べた食べてない論争をしていることに、会社と外の世界との乖離を感じてしまったのである。
少し日をおいて、もう1回提案してみた。
2回目の提案をしたのには理由がある。
配るお菓子の量が多すぎて、社員が「いらない」と受け取らなくなってきたから。
「いらないとはなんなんだ!!!」と言える立場でもないので、お菓子を持ってそっと引き下がる。
配りに行って「いらない」とスルーされるのは、なかなか悲しいもの。
そんなこんなで、「やっぱりどこかにお土産スペースなるものを設けて置いておいた方が、好きなときに好きなお菓子を取れていいよな」とあらためて実感。
そして2回目の提案をしたが、秒で却下された。
提案は却下されたものの、「自分の意見を言った」という1つのアクションで、自己効力感のようなものが芽生えた気がする。
結局、「なぜそこまで1人1人への手渡しにこだわるのか」
わからないまま会社を退職した。
どこにでも不思議なルールはあるものだが、中にいると意外と馴染んでしまうものだ。
外に出てからあらためて眺めてみると、結構シュールな光景だと気づく。
今となってはいい思い出だ。
