【掌編小説】不在訓練
家を出て、公園までの道のりを歩く。少し前まで咲いていた花は散り、今は葉が生い茂っている。昨日まで道端に落ちていた花びらが、今日は綺麗に掃かれている。
公園に着き、いつものベンチに座る。私は今日もこの時間に同じベンチに腰をかけている。もう何回、この行動を繰り返しているだろうか。
ベンチに深く座り、目を瞑って風を感じる。誰かの足音が段々大きく聞こえてきた。ベンチが小さく揺れる。目を開けると、小さい子どもが隣に座っていた。子どもは黙ったまま座っている。
子どもは黄色い帽子を脱ぎ、膝の上に置いた。靴をぶらつかせながら、私に声をかけてきた。
「おじいさん」
横にいる子どもの顔を一瞬見て、すぐに視線を逸らす。
「おじいさんも一人なの?」
私は子どもの言葉を無視して、再び目を閉じた。唇に力が入り、眉間の皮膚が不自然に寄っていくのを感じる。
「なんでそんな苦しそうな顔をしているの?」
目を開けて、子どもを睨みつける。私はベンチから立ち上がり、その日は家に帰った。
次の日も、同じ時間に同じベンチに腰をかけた。目を瞑る。木々に風が触れる音、遠くから聞こえる誰かの笑い声。今日は、平穏に触れられている。でも、そろそろ飽きてきた。いや、昨日、小さな変化が起きたせいだ。私の退屈な日々が、少しだけ勝手に広がってしまった。
私は目を開けて隣を見た。あの子どもはいない。公園中を見渡す。いつもと何も変わらないはずなのに、ベンチが昨日より広く感じてしまう。
私はそれからもずっと、同じ時間に同じベンチに腰をかけ続けた。
あの子どもがいないという退屈な日々に慣れ、また平穏な日々を送れるように。
P.S
メンバーシップ開設させていただきました。
この投稿を気に入っていただけた場合は、ぜひ一度以下のページを覗いてみてください。
